無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 みふゆ「前回までの『無少魔少』。結翔くんとウワサを纏ったまさらさんが戦って、負けた結翔くんをまさらさんが介抱って話ですね」

 結翔「本編で言い切ってないのにあらすじて言っていいんだろうか?」

 まさら「良いんじゃない?ここって基本メタネタのオンパレードだし」

 メル「そうですそうです!退場したボクが出てくるくらいですから!」

 こころ「それはそれでどうなんでしょう…」

 かなえ「…六十六話…楽しんで」


六十六話「倒すと助ける」

 ──みふゆ──

 

「みふゆさん、大丈夫ですか?」

 

「あまり、体調が良くなさそうでございます……」

 

「…いえ、気にしないでください。大丈夫ですから」

 

 

 昔、彼が誤魔化す時に良く使っていた常套句を、ワタシは苦笑気味に言った。

 口を酸っぱくして使うなと言っていた懐かしい思い出が、少しだけ蘇る。

 その所為か、憂鬱な気分が抜けなかった。

 月咲さんと月夜さんの心配は嬉しかったが、しっかりと相手が出来るほど、今のワタシは強くあれない。

 

 

 今まで、色々な事をしてきた。

 事情を知らない人から見たら、悪逆非道な事も多かっただろう。

 ……いや、例え事情を知っていたとしても、糾弾する者は少なくない。

 もしかしたら、知らぬ所で人の命を奪っていたかもしれないし、大切なものを壊していたかもしれない。

 

 

 後悔したって今更だと分かっている、ちゃんと割り切ってやっていた筈なのに──自分が卑しい最低な女だと、今回の件で改めて自覚した。

 だって、そうじゃないか。

 他人の時は見て見ぬフリが出来るのに、割り切ることだって出来るのに、大切な人の事となったら、このザマだ。

 

 

 果てしない後悔が、ワタシの心にのしかかる。

 取り返しのつかない事をしてしまった…と。

 人殺しに加えて、洗脳と精神の陵辱。

 体を、精神を、ウワサに徐々に犯されていくのは、一体どんな感覚なのだろう? 

 

 

 正直、想像もつかないし、したくもない。

 加賀見まさらさんに粟根こころさん、結翔くんにとっての大切をワタシは傷つけた……いや、現在進行形で傷付けている。

 何度謝っても謝り足りないけど、謝りたい。

 

 

 けど、ダメだ。

 彼は、結翔くんはきっと許してしまうから。

 ワタシの辛さや苦しさを理解しようとしてしまうから、ダメだ。

 謝ってはいけない、謝りたくても出来ない。

 

 

「……そろそろ行きますね、会議に参加しなければいけませんから」

 

 

 丁寧に微笑んで、ワタシは二人から離れて、マギウスの三人が集まる場所に向かう。

 ここはホテル『フェントホープ』。

 マギウスの翼の本拠地(アジト)である。

 

 

 少々入り組んだ構造をしており、新人の羽根は迷うことさえある場所だ。

 そんか場所を、ワタシはトボトボと歩いていく。

 心が重いからなのか、足取りも悪い。

 いつもならすぐ着く筈の会議場所にも、時間をかけて歩いた。

 

 

 会議場所、そこは庭園のような所だ。

 中心では、丸いテーブルにティーパーティーのセットが置かれており、三つのイスに三人のマギウスが座っている。

 

 

「すいません、遅れました」

 

「いいよいいよ、アサシンさんも来てないしねぇ〜」

 

「そうだね、来た時間だって集合時刻の五分前だ。僕から小言を言うなんて事はないよ。…強いて言うことがあるなら、顔色の悪さかな? どうしたんだい、あまり体調が優れていないように見えるけど?」

 

「…気にする事ではありません、少々寝不足なだけですよ、ねむ」

 

 

 訝しむような視線を送ってくるアリナを避けるように、ワタシはねむにそう返した。

 少しの間、静寂が流れる。

 会議に現れる人物は残り一人。

 勿論、その残り一人と言うのは──

 

 

「時間ピッタリだね」

 

「失敗したのかと思ったよ〜」

 

「取り敢えずはサクセスってワケ?」

 

「…三人一斉にに喋らないでちょうだい、あと早くこの目隠しを外して」

 

 

 黒い布で視界を覆われた状態のまさらさんが、黒羽根の案内の元現れる。

 マギウス三人の言葉を鬱陶しいと言わんばかりに一蹴し、布を取るように言ってくる所を見ると、まだ完全にはウワサに操られてないらしい。

 アイコンタクトで案内役の黒羽根を下がらせて、ワタシが彼女の目隠しを外していく。

 

 

 反抗的な態度に見えたが、どうやら攻撃を仕掛けてくる程ではないらしい。

 目隠しを外し終えたまさらさんは、感情の伺えない冷たい瞳をワタシに向けながら、静かにお礼を言って報告をし始めた。

 

 

「ウワサとしての報告よ。依頼書を貰った中から、試験的に十人消したわ。嘘かどうかは勝手に確かめなさい」

 

「……灯花、彼女の言葉に嘘はないよ。後でイブの様子を見に行こう、エネルギーがしっかり貯まっている筈だ」

 

「そっかそっか、なら第一段階はよゆーでクリアだね! …それでー、もう一つの目的は?」

 

「…結翔とは交戦して勝利──いえ、相手が勝手に負けたわ。多分、普通にやっていても、私は勝っていただろうけど」

 

「なっ!? そ、それは本当ですか?!」

 

 

 驚きのあまり、ワタシは思った事が口から漏れる。

 三人が動揺していない所を見ると、ここまでは想定内だったらしい。

 

 

 だ、だけど、そんなこと有り得るのか? 

 勝手に負けたと言う言葉はよく分からないが、普通にやっていても勝っていた…なんて。

 相手はあの結翔くんだ。

 幾ら身内との戦闘だろうと、簡単に手は抜いたりしない。

 

 

 寧ろ、何かが起こる前に全力で止めようとした筈だ。

 どうしようもない恐怖と、先程より重い後悔が合わさるようにのしかかる。

 ねむに目線を送ると、彼女はゆっくりとかぶりを振った。

 

 

 嘘や冗談じゃ…ない。

 

 

「一応、消してはないみたいだね?」

 

「ええ」

 

「ウェイト! ちょっと聞いてないんですケド? アリナに言わないで、勝手にユウトのボディとアイをデリートしようとしてたワケ? ふざけないで!! ボディはまだしも、ユウトのアイはみふゆのパーフェクトボディに並ぶプレシャス! あれをデリートするなんて美への冒涜なんですケド!!」

 

 

 叫ぶように捲し立てるアリナを、灯花がギリギリのラインで宥める。

 そんな珍しい光景も目に入らないくらい、ワタシの頭はいっぱいいっぱいだった。

 

 

「貴女たちに何を言われようと、私は結翔を消さない。今はまだ、その時じゃない」

 

「えぇ〜、逆らっちゃうの?」

 

「私は気まぐれアサシンのうわさ。うわさとしての責務は果たすけど、誰の指図も受けない。依頼書を書かれても、消すとは限らない」

 

 

 まさらさんはそう言うと、口を閉じた。

 聞きたいことは色々とあるが、今は止めておこう。

 可能性程度の話だったが、結翔くんが魔眼を使えない、と言ううわさは現実かもしれない。

 

 

 ……責任感と罪悪感に板挟みにされたワタシは、結局なにも出来なかった。

 

 

 ──結翔──

 

 意識が覚醒し、一番最初に感じたものは痛みだった。

 ガンガンと脳に響く痛みが、二度寝に入りたい俺の体を無理矢理起こす。

 

 

「……んん、あぁ」

 

「おはよう……いいえ、もうこんにちはの時間ね」

 

「…!? ま、まさら! あれ…? てか、なんで俺リビングのソファに…?」

 

「さぁ、私が起きた時にはここに居たわ。それより良いの?」

 

「何がだよ?」

 

「ん」

 

 

 まさらが指を指した方向にあったのは掛け時計。

 右眼の視界は、今日になって殆ど使い物にならなくなったので少し見辛い。

 …針が刺している時間は……丁度お昼頃だった。

 のんびりしてる場合じゃねぇ! って、思うけど。

 ここまで盛大に遅刻してると、五限目に間に合えばそれで良いかなって思えるな。

 

 

「はぁ……こころちゃん、起こしてくれなかったのか?」

 

「置き手紙」

 

「……なるほど、そういう事か」

 

 

 手紙には短く、『疲れているようだったので起こしませんでした』と書かれていた。

 分かりやすくて助かる。

 心配してくれてたんだろう、だから起こさなかった。

 ホッコリと和もうとしたその時、体が燃えるように熱くなり、頭痛と同等かそれ以上の痛みが内臓を襲う。

 

 

「ゴホッ! ゴホッゴホッ!!」

 

「……………………」

 

 

 咳き込む俺の背中を、まさらは優しく撫でた。

 きっとこれは、見逃してはいけないサイン。

 自我が完全には無くなっていない証拠。

 辛いだろうに、苦しいだろうに、それでもコイツは俺の背中を摩ってくれる。

 

 

 取り戻さなきゃ、ウワサを倒して、全部取り戻さなきゃ。

 口を抑えた手に着いた血、それを見ないようにして、俺は立ち上がり歩き出す。

 

 

「学校、行ってくる。お前も、早く行けよ」

 

「分かってる」

 

 

 一度二階にあがりパッパと着替え、バックを持って家を出る。

 学校には行くが、最初は事務所だ。

 被害者の数を確認する必要があるから…な。

 重い体を引き摺って、ノロノロと歩いて行く。

 

 

 今、バイクや自転車に乗ったら絶対事故るだろうなぁ、と自嘲気味に笑いながら道を進む。

 何年も通ってきた道が遠く感じるのは、きっと気の所為だ。

 自分にそう言い聞かせて、体にムチを打つ。

 

 

 ようやく辿り着いた事務所の玄関を潜り、作業室に顔を出す。

 

 

「結翔くん!? だ、大丈夫? すっごく顔色悪そうだよ?」

 

「大丈夫じゃないけど、大丈夫です。…昨日の監視カメラの映像って見れますか?」

 

「う、うん。共有フォルダに、もう入れてあるけど……」

 

「ありがとうございます。見せてもらいますね」

 

 

 一言断りを入れて、俺は自分のデスクのイスに座り、パソコンを立ち上げる。

 数十秒もしない内にスタート画面に入り、パスワードとIDを入力して、デスクトップに移動する。

 ファイルのアイコンがズラリと並ぶ中から、左下のタスクバーにあるやつを開く。

 

 

 その後は、共有フォルダに入り、名前代わりに日付と地区名が書かれた動画を見ていく。

 一つ一つを、右半分が使い物にならなくなった視界へ通す。

 見辛いなんて文句、言っている余裕はない。

 

 

 神浜市にある地区は全部で九つ。

 同時に見れたら楽だったんだけどなぁ…なんて、ないものねだりが生まれるのはしょうがない事だと思う。

 

 

「……やっぱり…一人じゃないよな」

 

 

 一つの地区で一軒、新西区では二軒が、ウワサを纏ったまさらに侵入された。

 まぁ、ウワサを纏ったまさらだと断定は出来ないが十中八九そうだろう。

 モザイクみたいなやつが外れてくれれば楽なんだが、そうもいかないよな……

 

 

 少なくとも、十人は消された。

 従来通りのうわさなら、まだ被害者は生きてるし、十分助かる。

 今日の夜、もう一度仕掛けるっきゃない。

 

 

 そうと決まれば……こころちゃんに連絡するか。

 俺は一通のメールを、こころちゃんと──みたま先輩に送った。

 

 

 ──こころ──

 

 お昼休みも終わる頃、結翔さんから一通のメールが着た。

 放課後、調整屋に直行して欲しいと書いてあった事から察するに、昨日の話だろう。

 何があったのかちゃんと説明してくれる筈だ。

 

 

 疑いたくない、疑いたくないけど、結翔さんを倒したのは…ウワサを纏ったまさらに違いない。

 だって、それ以外の犯人が思い浮かばないし、結翔さんを倒せる人なんて相当限られてくる。

 

 

 元々が強いまさらが、ウワサを纏って更に強くなったなら、その次元まで行ってても可笑しくない。

 実際、それ程強くない私でも、ウワサを纏えばまさらより強くなれたし、結翔さんとだって良い所まで行けるだろう。

 

 

 最悪が形にならなければいいな……

 そんな淡い期待を抱いて、私は学校終わりに調整屋に向かう。

 …まさらが遅刻して学校に来ることは──なかった。

 

 

 来慣れた廃墟に足を踏み入れ、中に進んで行くと、見慣れた風景にこれまた見慣れた二人が居る。

 結翔さんとみたまさん、二人とも真剣な表情で座っていた。

 待たせていたかもしれない、そんな罪悪感が足をさっきより早く動かす。

 

 

 ようやく二人が居る場所に辿り着いた私は、少し息を整えてから声を掛けた。

 

 

「すいません、遅れちゃいましたかね?」

 

「いいや、そんなに」

 

「えぇ、暇だっただけよぉ」

 

「なら、良かったです」

 

 

 バックをイスの脇に置き、習うように座る。

 私が座ったのを見て、結翔さんがゆっくりと話し始めた。

 昨日の夜に起こった事と、そして、まさらが纏っているウワサの事を。

 期待なんてしても意味ないって……分かってた筈なんだけどなぁ。

 

 

 十中八九当たりだと、結翔さんが言ったと言う事は、そうなんだろう。

 

 

「まさらが纏っているのは『気まぐれアサシンのうわさ』だ。…正直、アイツの能力は厄介が過ぎる。その能力は──」

 

「能力は?」

 

「自分が敵だと認識した者以外からの攻撃を通さない。…要は、自分と同等か、自分より強い奴の攻撃じゃないと、アイツはダメージを受けないって事。これの時点で、割と詰んでる」

 

「……結翔くんでも負けたのよねぇ。どうするの? 囲んで叩く?」

 

「焼け石に水ですよ。アリが幾ら集まってもゾウには勝てない。そもそも、この街で俺より強い魔法少女なんて、片手で数えられるくらいですからね」

 

 

 驕りなんかじゃない、紛れもない事実だ。

 魔眼がなくても、結翔さんはこの街で一二を争う強さを誇っている。

 その結翔さんが言い切った…言い切ったんだ。

 人数差があってもどうにもならないと。

 

 

「そんな……。それじゃあ、勝ち目はないんですか? まさらは、()()()()()()()()()()!!」

 

「キツイだろうね、あのうわさを()()のは。確率で言ったら良くて1%あるかないかだ。……0じゃないだけマシさ」

 

「ほ、本当ですか!? …策が、あるって事ですよね?」

 

「うん。その名も、『当たって砕けろ作戦』。命を懸けてでも、うわさを()()

 

 

 飄々とした態度で彼が言い放った策は、およそ策とは言えない代物だった。

 どこまでも自己犠牲的な結翔さんが選びそうな手だけど、今回は違う。

 私は話し合いのつもりだった、それなのに今の結翔さんの言い方はまるで、一方的な報告だ。

 

 

 この人は、この人は!! 

 最初から決めてたんだ、最初からそのつもりだったんだ。

 その身を懸けてでも、まさらを助けるつもりだったんだ。

 

 

 なんで、どうしてなの? 

 仲間じゃ──家族じゃなかったの? 

 私たちって……なんだったの? 

 

 

 爆発するように溢れてくる疑問を、彼にぶつけた。

 

 

「…こんなの、こんなのってないです!! わたし…私、話し合おうと思ってたのに、結翔さんは最初から決めてたんですね?! 自分一人でやろうって、最初から決めてたんですよね?! あんまりです、こんなの…こんなのただの報告じゃないですか!!!」

 

「そうだね。でも、決めたんだ。だから、やる。今日の夜、俺が帰ってこなかったら、後はお願いね?」

 

 

 そう言うと、結翔さんは一人消えていく。

 ……私にはそれが、彼の未来の結末に見えた。

 

 

 ──みたま──

 

 全く、面倒臭い仕事押し付けられちゃったわねぇ。

 一人、わたしはそう声を漏らす。

 こころちゃんもトボトボ帰っちゃったし……

 さぁて、お仕事しようかしらぁ! 

 

 

『やちよさん、ももこ、十七夜さんに、さっきまでの話の全てを、メールで伝えといて下さい』

 

 

 賑やかな夜に、なりそうね。

 

 

 




 次回もお楽しみに!

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