私から言えることは一つ、みんなー!
オラにここ好きって所を教えてくれーー!!!
※強制ではないです、ただやってくれると私が嬉しいだけ。
──みふゆ──
どうしようもない、やるせない程の後悔で枕を濡らした翌日。
ワタシは今、一番会いたくない人に、偶然……会ってしまった。
彼に──結翔くんに。
「昨日ぶり…ですね」
「どうも。……まさらから色々聞きましたけど、その後はどうでしたか?」
「お陰様で、灯花も少しは頭が冷えたみたいです」
苦笑気味に返すワタシに、彼は「そうですか」と一言言ったきり、言葉を詰まらせてしまう。
それもそうだ。
敵だ、ワタシは彼にとって敵なのだ。
本来は、こんな世間話するような事、ある筈がない。
だけど、ただただ優しい彼は、ワタシを心配してこうやって話してくれる。
ワタシの方が、心配しているのに、彼は偶に見て見ぬフリをする。
健康的には見えない青白い肌、瞳の下には、ろくに寝れていない証拠である酷い隈も出来ていた。
声のトーンも少し控え目で、いつもの快活な様子は隠れている。
……良く見ないと分からないかもしれないが、体の重心も傾いていた。
もし、昔と変わらず、ワタシが彼の傍に居たなら迷わず言っていただろう。
「早く休んでください」と。
でも、違う。
今のワタシと彼の距離は遠いし、そんなこと言えるような立場でもない。
次々に浮かぶマイナスな考えを振り切るようにかぶりを振って、ワタシの方からもう一度話しかける。
「…結翔くんは、お買い物ですか?」
「あぁー、違いますね。病院帰りです、ちょっとした検査に行ってきました。……悪いんですけど。みふゆさん、この後って時間あります」
「──は、はい、問題ないです」
病院に検査、その二つの単語から導き出される答えは酷く単純で、自分自身を殴りたくなるような、そんな後悔が襲う。
結局、連れてこられるままにファミレスに移動し、中に入ったら入ったで店員に案内され、空いているテーブルに腰を下ろした。
ざっとメニューを流しみした後、テキトーな軽食とドリンクバーを頼み、注文を済ませる。
話は、ここからだった。
「色々と話したい事はあるんですけど、これ見てもらっても良いですか? ……戒めだって言って貰ったレントゲン写真です」
そう言って、結翔くんは二桁には届かない程度のレントゲン写真を、ワタシに渡してくれた。
薬学部ではあれど、医大志望をしている身。
参考書や学術書等で、少しだけ見慣れたそれには……絶望が詰まっていた。
この写真が冗談や嘘の類でないなら、自分の錯覚を疑いたくなる。
見た所、内臓器官はボロボロだし、骨だって非健常者のそれ。
脳に至っては、健常者にも非健常者にも見られない異常がある。
中途半端にしかない医学の知識が、曖昧な所までしか教えてくれないが、確信した事がある。
魔法少女じゃなかったら、魔眼がなかったら、彼はもうこの世に居ないと言う事。
「……結翔くん。これを見たお医者様はなんて?」
「なんで生きてるの? って聞かれましたよ。…超人とか魔法少女とか、裏の方にも顔が利いて知識もある。付き合いの長い人だったんですけどね」
「そうです…か」
言葉が出てこなかった。
さっきとは逆に、ワタシが押し黙ってしまう。
だって…だって、しょうがないじゃないか!!
明らかに、原因はワタシたちにあるんだから!
謝りたい……謝りたいけど、出来ない。
結翔くんは許してしまうから──ワタシが許されてしまうから。
だけど、謝りたい。
押し潰されるような後悔を吐き出したい。
「……結翔く──」
「謝らなくて、良いですよ。…怒ってない訳じゃないけど、あなたが謝る必要はないから。まぁ、代わりって言っちゃなんですけど、俺の重荷を少し背負って下さい」
「……へっ?」
重荷を背負って欲しい。
彼の口から、終ぞ聞くことはないと思っていた言葉が放たれた。
そして、それと同時に、彼はソウルジェムをワタシの前に置く。
希望が詰まったかのような黄色の光を放つそれには──あって良い訳のない陰りが見えた。
……穢れが、少しだけ溜まっていた。
普通の魔法少女だったら驚きはしない。
少しの穢れが溜まるなんて、日常茶飯事だ。
しかし、結翔くんは違う。
特別だ、彼は特別なのだ。
生かすための魔眼が、死なせないための魔眼が、穢れを浄化している──いいや、消している筈。
じゃあ、これはなんだ?
重荷とはなんだ?
一体、これは──
「限界が来てるんです。体にも、魂にも。……生と死の魔眼も、これ以上生かすことは出来ないって感じですかね」
「そんな……。結翔くん!! 今すぐ契約をして下さい!! 確か、契約をすれば不死に──」
「嫌ですよ。死にたくはないですけど、生き足掻きたくもないですし」
「…どうしてですか?」
死ぬかもしれない、その報告が重荷だとでも言うのか?
確かに、彼はこの事を仲間内に伝えるのを渋るだろう。
性格が性格なのだから仕方ないが……なんでワタシなんだ?
他にも良い人はいた筈だ。
ワタシと結翔くんは敵同士なのに、自分が不利になる情報を流すのは……何故なんだ?
分からない、分からない、分からない。
……けど、怖いのは分かった。
自分が、彼の死を恐れている事は分かる。
とても、嫌な自覚だつた。
「どうしてって言われてもなぁ…。強いて言うなら疲れたからですかね? …だって、死んだら誰も守れないって思ったから頑張ってた生きてきたのに、生きてても大切な人を守れなかったんですよ? 死にたくなるじゃないですか? …まさらに後の事は託したし、俺が居なくなっても大丈夫」
カラカラと誤魔化すように彼は笑った。
それは、とても自嘲的な笑いで、悲しそうに感じる。
知っているからだ、自分が死んで悲しむ人が居ることを。
少しだけ間を空けて、ワタシは確認するように言った。
まだ、ワタシが彼の大切から外れていない事を、利用するように。
「…本気で、言ってるんですか?」
「…………な訳ないでしょ。自分が死んだら、傷付いて悲しむ人が居ることくらい分かってますよ。でも、どうにも出来ないんです。だから──これでいい。この事は、誰にも伝えない。みふゆさんに言ったのは、嫌がらせってことで」
昔みたいにあどけない笑顔でそう言った後、結翔くんは去っていった。
止めるのは簡単だけど、ワタシにはそれをする資格なんてない。
……あぁ、みんなが笑っていたあの頃に戻りたいなぁ。
叶えられる筈のない夢が、ワタシの中で少しづつ増えていく。
底のない欲望なんて、持たなければ良かった。
──結翔──
ファミレスから出た後、人混みを避けるように俺は路地裏に入り込んだ。
鉛のように重い体は、上手く動いてくれなくてイライラする。
でも、自業自得……か。
呆れて笑いも出てこないが、何を言っても今更遅い。
俺はスマホのカメラで自分の顔を確認する。
「……こりゃ、酷いな」
暗示の魔眼を使っておいて正解だった。
下手したら死体にしか見えない土気色の肌を見て、俺は確信する。
さっきまで会っていたみふゆさんには、外見だけだと体調が悪い程度にしか見えなかっただろう。
見破られる可能性もあったが、上手く事が運んで良かった。
みふゆさんに会ったのも、体のことを正直に話したのも、もしかしたら寝返ってくれるかも……って言う打算の元だ。
「性格悪いわね〜マスター?」
「黙れ。あと、俺はお前のマスターじゃない。契約してないからな」
「良いじゃない、そう遠くない内に契約するんだから。……にしても、それ、燃やしていいの?」
「あっ? ……あぁ、これの事か、別に良いんだよ。まさらにこれ以上背負わせるのは酷だし、なにより俺がやりたくない。どうせ、言わなくてもすぐにバレるしな。魔眼は無限に使える訳じゃないんだ」
突然に現れたラプラスの悪魔に俺はそう返した。
右手でレントゲン写真を燃やし、左手で──半分が穢れに染ったソウルジェムを眺めながら。
「持って……一週間ってところか?」
「さぁ、どうだろうね? 私には分からないよ。…まぁ、マスターが契約してくれないと困るからね。パッパと契約して欲しいものだ。イレギュラーを見てるのは楽しいしね」
「そうかよ」
時間がない、余裕もない。
右眼に映る地獄の光景も、到底無視できる域を逸脱している。
幻覚、幻聴、吐血、味覚障害。
封印中もあった吐血は続投、他にも三つの症状が戻ってきたり、復活したりした。
最悪な事に、タイマーが音を立てて鳴っていた。
残り少ない、俺の寿命と言うタイマーが。
次回もお楽しみに!
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