まさら「結翔に後で話されて知ったのだけど、やちよが結翔の師匠だったのよね」
こころ「何だか、結翔さんが誰かの事を『師匠』っね呼んでる感覚が上手く湧かないなぁ」
結翔「そりゃあ、俺はそんな呼び方でやちよさんの事読んでなかったからね」
こころ「えっ?そうなんですか?鶴乃さんが呼んでたからテッキリ……」
まさら「二人の話が脱線してるけど、今回は結翔の過去ではなく結翔自身について語ってるは。それでは七話をどうぞ」
──こころ──
結翔さんとまさらとの同居生活が始まって一月と一週間。
いつも通り学校に行った日に、悲しそうな顔で学友に渡されたのだ。
「こころ〜、これあげる」
「これって……あ、新しく近くに出来た。ど、ドリームカントリーのチケット!? それも、六枚……。いきなりどうしたの?」
「実はさぁ〜、家族で行く予定でずっーと前から予約してたの。…でも!! 家族が私以外全員、風邪になっちゃってぇ……」
今にも泣き出しそうだったので、あたふたしながら彼女をあやした。
私も感情豊かな方だと自負しているが、彼女はもっと凄い。
…まぁ、豊か過ぎてそれがネタにされてしまっているのが可哀想だが……
「本当に貰っていいの? 他の子には聞いた?」
「それがさぁ、みんな無理だぁーって言って逃げちゃうんだよ……」
「そりゃあそうだよ。事前予約に外れた人が一杯居て、更にはその所為でチケット泥棒が発生してるくらいなんだから」
結翔さんに曰く、一週間前にチケットが送付され、翌日から遊園地──ドリームカントリーが遊園開始。
…最悪なことに、翌日の朝から泥棒が始まった。
何でも、六日間で二十人以上が捕まったらしい。
昨日の帰り道で、結翔さんが泥棒を捕まえたのを見ていたので、その数も頷けた。
危険な代物とは言わないが、厄物の可能性は高いだろう。
(……でも、仲を深める良い機会だよね)
遊園地で遊べば、少しは仲を深められる。
そうすれば、藍川結翔と言う人間を知るチャンスが生まれるかもしれない。
…私は自分の心を落ち着けて、出来るだけ柔らかい笑顔で彼女にこう言った。
「ありがとう!! 私、行きたかったんだ!」
「うぅぅう〜〜〜!!! そんなに良い笑顔で貰ってくれるなんて…こころぉ〜!!!」
涙が溢れた顔を、制服に押し付けながら私の名前を呼ぶ学友。
ズビーズビーと、鼻水を啜る音も聞こえてくる。
……今後、彼女に対しての態度を考えようと思った瞬間だった。
──結翔──
こころちゃんが貰ったチケットで来た遊園地──ドリームカントリー。
子供から大人、多くの層の人間を虜にするネズミがモデルのキャラが主役の遊園地。
上下左右、どこを見渡しても、丸が三つ合わせて出来たネズミのマークが描かれている。
俺の目の前で、まさらがモキュモキュと頬を少し膨らませて。可愛い擬音語が出てくる感じで食べているハンバーガーも、ネズミマークをイメージされてパンズが作られていた。
…ネズミマークのイメージで作られたパンズを、リスのように食べるまさらは、愛くるしさに溢れている。
表情筋が仕事をしていれば……の話だが。
「食べ方、ちょっとリスみたいだな。そんな美味いのか?」
「…………ん」
口に詰まっている為、返事が出来ないからか普通に首を縦に振るだけだが、どことなく何時もより柔らかい……感じがする。
相当美味いのだろう。
(ももこたちが来たら、俺も買いに行くか……)
今日、ドリームカントリーに来たメンバーは、俺・まさら・こころちゃん・ももこ・レナ・かえでの六人だ。
今、この場にいるのはまさらと俺だけ。
他四人はジェットコースターに乗っている。
そろそろ乗る頃なので、あと数分もすれば気持ちい悲鳴が聞こえる筈だ。
「まさら? ポテト貰っていいか?」
「…ん」
サッと、俺の方にフライドポテトが入った紙袋を向ける。
フライドポテト自体は細く、よく食べに行くマックのポテトに近い。
早速頂こうと手を伸ばした時、勢い良く後ろから叩かれた。
「結翔!! たっだいまー!」
「遅くなってすいません。結構混んでて…。でも、凄く楽しかったです」
「ももこの調子で、何となく分かったよ。楽しかったならなにより……でもないか」
ももことこころちゃんだけ見れば、素直に楽しかったみたいで良かったと言えるのだが、ももこの両脇にしがみついているレナとかえでを見たら、そうは言えない。
ブルブルとチワワのように震える二人。
庇護欲をそそられるが、今は二人が大丈夫が確かめる方が先だ。
「…大丈夫か? メッチャクチャ震えてるけど…」
「べ、別に!! レナは大丈夫よ! か、かえで一人で怖がってるのも可哀想かと思ったから! こ、こうやってるだけなんだから!!」
「あー、はいはい。かえでの方は?」
「ふゆぅ。も、もうジェットコースターに乗るのは良いかな…」
聞く必要なかったな。
…次回からは、ジェットコースターに乗るのを二人共禁止にしよう。
言っておくが、ここは子供から大人まで楽しめる遊園地。
設計自体、大人でも楽しめるようスリルはあるが、それでも子供が乗る事の出来るレベルだ。
それでこれなら、今後は乗るべきではないだろう。
幸い、ここにはそれ以外にも楽しい遊具が腐るほどある。
遊園地とは、そう言うものだ。
加えて、ここは
夢から覚めるのはまだ早い。
「テキトーに買ってくるから座ってろ。…こころちゃん、付いてきてくれる?」
「分かりました。ちょっと待って下さい…」
バックをまさらに預け、手ぶらの状態で俺の方に小走りでやってくる。
さっきまさらのハーバーガーを買った店に行き、本当にテキトーな品を頼む。
パンケーキ(これもネズミマーク仕様)×2、ハンバーガー、サンドイッチセット×2の五つ。
誰が何を食うのかは、戻ってから決めれば良い。
こころちゃんにサンドイッチセットのトレーを持ってもらい、俺はハンバーガーとパンケーキの乗ったトレーを持つ。
バランス的に絶妙な持ち辛さがあるが、堪えるしかない。
テーブルに帰ると、レナとかえでは落ち着きを取り戻しており、俺とこころちゃんが持っていたトレーを受け取った。
「このパンケーキ…カワイイ! レナがもーらい!」
「ズルいよ、レナちゃん! 私も欲しい!」
「ここまで来てケンカするなよ。…ほら、二人で食べていいから」
「…はぁ、アタシとこころちゃんはサンドイッチセットにしよっか?」
「ですね」
呆れた様子のももこと、苦笑い気味なこころちゃん。
出来るなら公平に分けたかったが……ケンカされるよりはマシだ。
レナとかえでは、揃って食べ始めており。
とても良い笑顔をしている。
「俺もハンバーガー食うか…」
二人を宥めた俺は、まさらが現在進行形で食しているものと同じハンバーガーを食べ始めた。
シャキシャキのレタスに、少し酸味のある甘いトマト。
その下にあるハンバーグは、恐らくケチャップと塩コショウで味付けされただけなのに、今まで食べたハンバーガーの中でもトップレベルの美味さを感じた。
「美味っ! 何だこれ…メチャクチャ美味い!」
引き込まれるような美味さに食欲が沸き起こり、バクバクと食べ進めていく。
だが、俺の至福の時間は一本の電話によって遮られた。
「……咲良さんから…か」
とてつもなく嫌な予感がした。
電話に出ない方が絶対に良いと、過去の経験が囁いている。
碌な目に合わない、と直感が警鐘を鳴らす。
けれど、俺に出ないなんて選択肢は初めから存在せず、ため息を吐きながら電話に出た。
『もしもし、藍川です』
『結翔君? 今日、ドリームカントリーに居るって言ってたよね?』
『…そうですけど。それが?』
『実はさ…あるテロリスト達がそこに来てるらしいんだ。…目的は勿論──』
『俺の魔眼…ですか』
テロリストとと言う言葉に驚きはしない。
もう慣れてしまったからだ。
何せ、魔眼が目覚めてからは、世界中のテロリストや超人と呼ばれる異能力使いが襲いに来てる。
何度も追い払ったし、捕まえた事もある。
死にかけるのは日常茶飯事で、酷い時はテキトーな場所でワザとテロを起こして俺を誘き寄せた事もあった。
まぁ、その誘いに安く乗ってしまうのが俺なのだが……
『相手の情報は? 何かないんですか?』
『ロストソルジャーズ。聞いたことあるでしょ?』
『…確か、各国の元エリート軍人の集まりでしたっけ。専らの活動内容は紛争地域での社会的弱者の救出、及び社会的強者の排除。世間から二分の意見をされている集団ですね』
やっている事は、間違いのない人殺しと人命救助。
二律背反の行動であり、彼らの誓いである『弱きを助け強きをくじく』の実行。
犯罪者であることに変わりはないが、それでもある一方から見れば正義の味方にも見える。
世間の評価は半々…どころか、彼らを正義の味方──ヒーローだと主張する人間の方が多い。
誰かを犠牲にして、犠牲になった人の遺族を苦しめた果てに救われる生命。
本当にそれがヒーローとでも言えるのか?
犠牲なくして、得られる物はない。
だが…それでも、悪人であれ人の生命を犠牲にしていい訳が無い。
許されていい筈がない。
俺自身が一番嫌い、超えてはならない一線。
それは、殺人だ。
どんな悪事も理由によっては同情できなくはない……が、殺人と言う悪事──罪だけは絶対に同情出来ない。
スマホを握る手に力が入り、ミシリと嫌な音が鳴った。
『…結翔君』
『終わったら電話します。何時でも来られるように準備だけはお願いします』
『了解。気を付けて』
『…………はい』
全員が居る前で話した所為で、約二名は震え出している。
他約二名は首を傾げていて、最後の一人は先程の俺と同じくため息を吐いていた。
「悪いけど、少し仕事が入っちゃったみたいでさ。ちょっとの間抜けるけど、安心して楽しんでて」
「安心出来る訳無いでしょ!!! レナなんてこの前、死ぬ所だったんだからね!?」
「わ、私だって! ナイフ突き付けられるのはもう嫌だよ!!」
「…えっとぉ……」
「何の仕事なの?」
「…面倒臭い事になったなぁ」
怒るレナとかえで、疑問を口にするまさら、頭に大量の疑問符を浮かべるこころちゃん、最後に吐き尽くしたため息の代わりに表情筋が死んだももこ。
…何だろう、凄い地獄絵図が広がってる。
「ロストソルジャーズ。聞いたことくらいあるでしょ?」
「各国の元エリート軍人の集まりよね? 『弱きを助け強きをくじく』を誓いとして実行している」
「…そ、そんな人たちがここに?」
「まぁね。大体、俺の所為だけど」
「…魔眼欲しさって所かしら?」
流石はまさら。
察しが良いのは、こう言う時に助かる。
…何時もは察しの良さに困り果てているが……
「そんなとこだ。巻き込むつもりはないから、追ってこようとか考えるなよ? …一応、ももことこころちゃんは監視しといてくれ」
「あいよ。…無理し過ぎるなよ?」
「無事に帰って来てくださいね?」
「最善を尽くすよ」
俺はそう言い残すと、千里眼を発動し周囲の確認をした。
魔法少女ではない時の千里眼で見られる範囲は精々半径五百メートル。
変身して範囲が半径約一キロ程になる。
怪しい動きをしている奴が居ないか見て、ある程度見たら一旦魔眼を閉じる。
使い過ぎは脳に負担が掛かる為、適度な休憩が必要だ。
大抵の魔眼にはそれが言える。
特に、未来視や千里眼の場合は、景色を映像として脳で処理するのが主な負担になっているのだ。
「遊園地にゴルフケースは、案外目立つよ。お兄さん方…」
相対する事になるだろう敵に、俺は一人呟いた。
──ももこ──
結翔が居なくなってから数分。
多分今頃、ドンパチ始めてるだろう。
…あれ以上怪我が増える事はないが、心配なものは心配だ。
何せ、生と死の魔眼が治せるのは致死一歩手前までの傷や怪我。
即死したら治せない。
アイツに限ってそれはないが、少し──いやかなり落ち着かない。
「…ももこさん。気を紛らわすついでに、少し話を聞かせてもらっていいですか?」
「へっ? …ああ、別にいいよ? 何が聞きたいんだ?」
「結翔さんについてです。一緒に暮らしてても、知らない事って沢山ありますから。だから、幼馴染として近くに居たももこさんなら、色々と知ってるかなぁ〜と」
今に限って、結翔の話か……
多分、結翔が話してない事は沢山ある。
約一年前の事件然り、仕事の事然り。
話したくないことが色々とある筈だ。
それを勝手に喋るのは、気分が乗らない……が。
今後、この子たちが結翔と上手くやっていく為に、ある程度の事は話さないといけないだろう。
「アイツが話したくないと思ってる事は話さないけど…それでもいい?」
「構いません。…まさらもそれでいいよね?」
「ええ。構わないわ」
アタシは、少し順序だてて説明するために、頭をフル回転させる。
…過去の話から順番に辿るのが確実だろう。
考えをしっかりと纏めて、アタシは話し出した。
「昔のアイツは、死ぬほど純粋な奴でさ…。本気でヒーローになれるって信じてた。でも、警察官である親父さんが殉職して、おばさんは心を病んでどっかに行っちゃってさ。…それが中学生に上がる前、小学六年生の時だ。それからは、アタシの母さんが結翔の母親代わりに色々やってた」
「…結翔に妹や弟は? 祖父母でもいいは」
「居なかったよ。…頼れる親類は誰も。中学に上がってすぐ、私が誘拐されてさ。それを結翔が死に物狂いで助けてくれたんだ。その時、魔眼が目覚めた。事件を解決したあと、結翔は親父さんの友人だって言う人の伝で今の組織に入った」
「……あれ? 今、サラッと誘拐されたって言いませんでした?」
「言ったけど…。別に大した事ないって。結翔がすぐ助けてくれたし」
笑い事のように言うアタシに、こころちゃんは頭が痛くなったのか、手で頭を抑えていた。
…まだ、話はここからなんだ。
出来る限り、よく聞いて欲しい。
「組織に入ってからかな。アイツが、歪み始めたのは…。アタシが何言ってもダメでさ。変わった訳を聞いたら一言『世界の裏側を見た』って。当時は全然意味分かんなかったけど、今なら少し分かる。アイツは──結翔は知らない内に見て気付いたんだ。この世にヒーローなんて存在しないって」
「創作物とは違う。…その現実に気が付いたと?」
「まっ、そう言う事だな。その後は、少しくらい聞いただろ? アタシが魔法少女になって、アイツも後を追って魔法少女になった。何でなれたかは知らないけど…。最後に。今のアイツになるのに外せない事件がある」
「…どんなもの何ですか?」
「詳細は言えないけど、結翔はその時に大切なものをポロポロと落としたんだ。絶対に、落としちゃいけないものまでも…な」
その手に掴んで、離さないと思っていたものを……アイツは落とした。
絶対に、絶対に落としちゃいけないものと分かっていながら……
「事件が起きたのは約一年前。アタシ以外にも、色々な人の支えがあって、何とか立ち直ったのが今の結翔だ。……今のアイツは、危険──と言うか危うい。表と裏の境界線が曖昧過ぎるだよ。……根はどこまでも善い奴だけど、一線を踏み越えた奴には容赦が無い。残虐性…とはいかないけど、冷酷な部分もある」
「……冷酷ね。普段の実生活からは、欠片も見えないけれど……本当なの?」
「勿論。アタシは、この話題で一言も嘘はついてないつもりだ。間違った知識はあるかもしれないけどな」
話せるのはここまで。
この子たちがこれから先の話題に入るのに、どれくらい時間がかかるのか?
まさらちゃんもこころちゃんも、きっと良い子だ。
あの結翔が、大切な思い出の詰まった家に住まわせている(条件の所為でもある)のだから。
…だけど、もし、結翔を傷付けたならアタシだって容赦はしない。
長年連れ添って来た大切な幼馴染だ。
家族以上の存在で、アタシの……
「結翔はきっと、二人と家族みたいな近い関係になりたいって思ってる。だから、二人もそうしてやってくれ」
「……善処するわ」
「はい! 頑張ります」
二人の言葉に、久しぶりの安堵の笑みが零れる。
良かった……これなら安心出来る。
ドリームカントリー……来た人に幸せな夢を見せる遊園地。
今日は幸せな夢を見れる、そんな気がした。
──結翔──
目の前に居る十人の屈強な男たち。
分かる、肌で感じ取れる。
ここに居る人間は、修羅場を幾つも潜ってきた奴らだ。
気を抜いた瞬間に、蜂の巣にされるだろう。
男たちの腰にある、それぞれ違う銃が何時でも俺の事を殺せると語っている。
「大人しく。こちらに来てくれるか? 手荒な真似はしたくない」
「……驚いた。態々日本語で話してくれるんだな」
「私たちは無益な殺しはしない。紛争などで社会的弱者を痛ぶる、社会的強者を排除するだけだ」
「元々、アンタたちもそっち側だったんじゃないのか?」
俺の核心につく質問は、リーダー格の男の言葉を止めさせた。
金髪碧眼に加えて彫りの深い顔は、外国人感を醸し出している。
如何にも、私外人ですって外見だ。
見た目で判断するのは良くないと誰かが言っていたが、犯罪者は悪事を起こした時点で悪人だ。
正当な理由がなければ、同情の余地すらない。
黙った男の隙を使い、破壊の魔眼を起動する。
起動しただけでは右の瞳は水色に輝かない、発動する瞬間に輝くのだ。
だから、じっくりと破壊する場所を選ぶ。
破壊の魔眼は、一度に破壊出来る量が定まっている。
銃を一丁一丁全て破壊するとなると、十丁同時が関の山だ。
だが、一部分だけなら何十丁あってもギリギリで大丈夫な筈だ……多分。
定まっているとは言え、完璧に測るのは不可能。
破壊に限った話ではないが、静止の魔眼も基本的には質量で止められる時間と人数が決まる。
割りとシビアなのが、攻撃面で活躍するこの二つの魔眼だ。
「……やっぱり、話すのは苦手だ。お互い
「…好きにしたら?」
そう言うと、全員が銃を構えた。
刹那、全員の銃のトリガーが砕け散る。
驚いた瞬間を狙って、近くに居た二人を蹴りで沈める。
一人は前蹴りを男の急所に、一人は前蹴りをした足とは逆の足で回し蹴りを首に。
二人落とされた事で完全に調子を取り戻した八人は、全員が少しづつタイミングをズラして襲い掛かる。
だが、未来視の魔眼で未来を見ている俺に攻撃はカスリもしない。
確定した未来を瞳に映し、行動によって未来を変えられる魔眼。
未来視の魔眼を持った本人は特異点の様な存在なるので、未来を変えても自身に影響はない。
その後も、三分程敵の攻撃を受け流し続け、ようやく反撃に出る。
受け流した瞬間に、相手の足の骨や腕の骨、或いは神経を破壊の魔眼で破壊する。
元エリート軍人とは言え、複数箇所同時に神経や骨を破壊されては痛みで気絶しないなんて有り得ない。
一人、また一人と倒れていき。
リーダー格の男が最後の一人になった。
「…何故、私たちを殺さない」
「アンタたちが、本気で無関係の人を巻き込まない為に。場所を確保したり色々してたからな。悪人じゃないってのは会って、戦って大体分かった。俺の事も、異能力欲しさとは言え殺そうとしなかったしな」
「…どう思う? 私たちの事を…私たちのやってきた事を」
「凄いと思うよ。口で言うだけじゃなくて、ちゃんと行動を起こせるって。元エリート軍人として、世界中の紛争地域に出向いてたから出来るのかもしれないけど…。でも、人殺しは人殺しだ。正義の味方として正しい事をしたかもしれない……だけど、殺された人の家族はアンタたちを恨むだろうな」
「…誰かの犠牲があった平和に意味はないと?」
彼の言葉に、俺は口を噤んだ。
平和に意味が無い訳ない。
ある仮面ライダーを見て俺は感じた、世界に
愛と平和はどちらか片方があるだけでも違うが、両方揃うことで相乗効果にも似た現象を起こす。
紛争地域に愛はあるかもしれないが、平和はない。
誰かの犠牲の上に平和が生まれるなら……それは良い事──な訳ないのだ。
「アンタのやり方は間違ってる。それだけは確実に言えるよ」
「……………………」
「今、投降すれば、俺が何とか上司に口添え出来る。俺が居る組織の関連部署に、アンタたちのやりたい事をやらせてくれる場所がある。……平和は戦う事をしなくても作れるってのが、そこで分かるよ」
最後のトドメ、と言わんばかりの言葉は男のナニカを突き動かしたのか、ゆっくりと両手を上げて膝を着いた。
その後は、咲良さんの救援もありスムーズに後処理が済んだ。
護送車に乗る前に見た顔が、少し笑っているように見えたのはきっと間違いじゃない。
「……人殺しは嫌いだ。だけど、アンタたちの事は嫌いになれそうにないよ」
夕暮れの遊園地。
沈んでゆく太陽を見送りながら、一人仲間の下を目指した。
善い人になれてるだろうか?
それだけが、唯一の心配だった。
次回もお楽しみに!
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