無感動な少女と魔眼使いの少年(リメイク版)   作:しぃ君

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 結翔「前回までの『無少魔少』。俺のことについて語ったり、名前を出すと危ない遊園地に行ったな」

 まさら「ミッ〇ーマウスとか出てきそうな夢の国だったわね」

 こころ「一歩間違えれば、このお話がD社に消されちゃうから止めようか」

 ももこ「ピックアップする情報があるとすれば、結翔は殺人を悪事の中でも最悪なものとして見てるって事と、結翔の表と裏の境界線が薄いってことだな」

 結翔「ももこに大事な事言われちゃったけど……。取り敢えず、どうなる八話!」

 ※みふゆの一人称に間違いがありましたので修正しました。(3月6日)


八話「ヒーローの定義」

 ──結翔──

 

「一緒に戦いたい?」

 

「はい。一ヶ月半一緒に居ますけど、結翔さんと一緒に戦ったことないな……って」

 

 

 ドリームカントリーの件から一週間。

 同居し始めてから区切りよく一ヶ月半が経った日。

 こころちゃんがそんなことを言った。

 丁度買い物途中に話しかけられたこともあり、夕食の献立でも聞かれるのかと勘違いしていた。

 

 

 一緒に……か。

 三人で戦って時の光景を何となく想像する。

 まさらが一人で突っ込んで、俺とこころちゃんがフォローする……なんて言うテンプレートな回答が浮かんだ。

 

 

 確か、キュウべえ(クソ野郎)曰く「迷いがなく強い」らしい。

 親友とも言える存在になったこころちゃんと出会うまで、防御を全く考えない攻撃特化のスタイルだったとか……

 ステータスの過半数を攻撃に振ったまさらと、逆にステータスの過半数を防御に振っているこころちゃん。

 

 

 相性が良いから成立しているコンビだろう。

 固有能力が攻撃時に有利な『透明化』のまさらに、防御に有利……と言うか防御そのもの『耐える』のこころちゃんだ。

 

 

「俺が二人の間に入ってコンビネーションを邪魔しちゃうかもよ?」

 

「平気です。今後も一緒に居るなら、トリオでの連携も練習しないと!」

 

 

 今日に限って押しが強い彼女の言葉に、俺自身もすんなり納得してしまい。

 翌日から、連携の練習をすることを約束した。

 だが、トリオなんてやった事ない俺からすれば、どう動けばいいのかなんて分からない。

 

 

 幸いな事に、トリオをやっている連中は友人に居るので、アドバイスは何とか貰える筈だ。

 

 

(ももこには声掛けるとして……。葉月(はづき)と……れいらは止めとくか。東に行くのは面倒事の種になりそうだし)

 

 

 諸々の事情を考えて、俺はももこと葉月にだけメールを送った。

 二人からの返信はすぐに着た。

 ももこからは『了解』と了承の返信だったが、葉月からは『ちょっと行けそうにない』と断わりの返信が来る。

 このはの所為、だろうなぁ。

 姉バカの典型的な例が、彼女だろう。

 

 

 友人レベルに仲良くはなれたが、あと一歩が中々詰められずにいる。

 …取り敢えず、今はいいか。

 

 

「一応、ももこには連絡取っておいたから、明日からやろっか」

 

「よろしくお願いしますっ!」

 

 

 眩しい笑顔で頷くこころちゃんは、本当に良い子なんだろうなぁと俺に思わせる。

 家事全般出来るし、気も利いて色々やってくれるし……ももこと同等の優良物件だ。

 ホント、なんでこんな子に恋人ができないのか…。

 世の中の男子は目が腐ってるんじゃないか? 

 

 

「結翔さん? 早くしないと、タイムセール始まっちゃいますよ?」

 

「嘘っ!? 急げ急げ! 早くしないと、今日の夕食が無くなる!」

 

「えっ?! そんなに何も無かったんですかぁ!?」

 

 

 驚く彼女の声を流し、俺は主婦の波の中に入って行く。

 …ボロボロになりながらも、何とか夕食の食材を調達する。

 今度から、もうちょっと時間に気を配って考え事をしよう、と決意した。

 

 

 ──こころ──

 

 新西区の建設放棄地にて、私とまさら、結翔さんが三人で集まって居た。

 既に魔法少女への変身は終えており、連携の方法を考えている。

 

 

「こころちゃんはタンク役として、敵の攻撃をと注意を引きつけるのが仕事かな? まさらはこころちゃんに注意が向いてる内に、魔女に攻撃を叩き込む。俺は、魔女の動きを見つつ、二人のサポート…かな?」

 

「私は、別に何でもいいわ」

 

「まさら…。わ、私も、結翔さんの意見には賛成です。それが一番無難だと思いますし」

 

「まぁ、もしもの時は俺がタンク役で敵の攻撃と注意を引きつけるよ。これでも、そこそこ強いからね」

 

 

 魔法少女に変身した結翔さんは、凄く綺麗な女性だ。

 素の状態でも普通にカッコイイけど、変身するとカワイイも足されて……何だが女子として立場が無くなりそう。

 踊り子のようなヒラヒラとした黄色の衣装は、何とも言えない色香を放っており、一目どころか何回見ても元が男性だとは思えない。

 

 

「…にしても、ももこたちがくるまで暇だなぁ。はぁ、まさら組手でもするか?」

 

「分かったわ。…魔眼は使うのかしら?」

 

「使うわけないだろ。瞬殺で勝負が終わるわ」

 

「…それもそうね」

 

 

 ……あれ? 

 私が少し考え事をしてる内に、組手する流れになってる。

 そう言えば、結翔さんの武器って剣と銃…だよね。

 前聞いた話では、他にも色々な武器を使えるって言ってたけどどれくらい使えるんだろう? 

 

 

「あ、あの、二人ともストップで!」

 

「ん? どうしたのこころちゃん?」

 

「何かあった?」

 

「…いや、その……結翔さん前に言ってたじゃないですか? 色々な武器を使えるって。どれくらいの武器を使えるのかなぁ〜って?」

 

 

 私の疑問に、結翔さんは納得したように頷いた。

 以前と同じく、剣を魔力で編むと、私たちに見せながら様々な武器に剣を変え始めた。

 

 

「短剣、細剣、刀、逆刃刀、大剣、槍、二又槍、三又槍、薙刀、鎖鎌、鎌、大鎌、杖、棍棒。……あとは、まぁ色々かな」

 

「……早過ぎて全然見えませんでした」

 

「多過ぎる気がするけど、本当に使えるの?」

 

「使えなかったら変えねぇよ。銃の方はあのグロック以外無理だ。ライフルとか構造が難し過ぎて分かんないんだよ。あの銃はメンテも俺がしてるから、何となく構造が分かるだけ」

 

 

 手品のようにポンポン変わる武器の数は約十四。

 それ以外も使えるのが色々と有る……らしい。

 目の前に立つ結翔さんは、使えるのが当たり前みたいな感じだけど……どんなにベテランの魔法少女でもあの量の武器は使いこなせない…と思う。

 

 

 天才……? 

 いや、違う。

 血も滲む鍛錬を積んできた結果、使いこなせるようになったのだ。

 私生活の彼は、天才とは言い難い。

 変な所でミスするし、時々凄くアホっぽい事を言う。

 

 

 天才や鬼才とは違う、秀才に近い人。

 魔法少女としての戦闘力は天性のものだろうが、機転の良さや思考の柔らかさは後から必死になって身に付けたものの筈。

 そうでなければ、今まで生き残れていない。

 例え魔眼があれど、呆気なく生涯の幕を下ろしていた。

 

 

(ヒーローを目指して頑張って、自分をヒーローだと言っていた結翔さんが……自称するのを止めた理由)

 

 

 偶像の存在(ヒーロー)になろうとしたからこそ、身に付けた力。

 そのお陰で生き残った筈なのに、自称するのを止めたのは何故か? 

 

 

(ももこさんは、「大切なものをポロポロと落としたんだ。絶対に、落としちゃいけないものまでも…な。」って言ってた。これが…理由?)

 

 

 核心には迫れている筈なのに、決定的な一つが足りない。

 それが分かれば──

 

 

(きっと、結翔さんに近付ける)

 

 

 まさらがまさらなりに頑張って近付こうとしているなら、自分は自分なりの方法で近付く。

 踏み込んではいけない領域に足を踏み入れたとしても、彼の──藍川結翔の事を知りたい。

 作り笑顔の裏に隠された本当の顔を見たい。

 

 

(…出来るか出来ないかじゃない…やるんだ! この三人でやっていく為に……!)

 

 

 色々な事をじっくりと考えるのは、悪い事じゃない。

 だが、物事に耽けるのは、程々にしないといけない。

 何故なら……不測の事態は何時起こるか分からないからだ。

 

 

「こころちゃん!! 危ない!!」

 

「えっ?」

 

 

 結翔さんの声が聞こえたと思って顔を上げた瞬間、目の前ににオモチャの包丁のようなものが振り下ろされる。

 スーパースローのように止まった世界で、自分の死を薄らと悟った。

 眼前に迫るオモチャの包丁。

 しかし、その巨大さがオモチャなようなもの……と比喩させる。

 

 

 刃があり、それで私の事など切断できるだろう。

 目を瞑った。

 迫り来る死が恐ろしくて、現実から逃げた。

 勘違いしていた、絶対にしてはいけない勘違いを。

 

 

 強くなった気になって自分なら大丈夫、と言う勘違いを……私はしていたのだ。

 けれど、私は痛みを感じなかった。

 いや、感じたには感じたが吹き飛ばされた痛みだけで、斬られた時に感じる焼けたような痛みは全く持って襲ってこない。

 

 

 そっと、目を開ける。

 現実を直視する為に、目を背け続けないために。

 ……だけど、そこには見たくない現実が拡がっていた。

 

 

「っ!! ぁぁあ!」

 

 

 結翔さんの短い悲鳴が響き、私の目の前の地面にナニカが落ちた。

 震える足に鞭を打ち、立ち上がる。

 そして、目の前の地面に落ちたナニカを見つめた。

 

 

 有ったのは左腕。

 切断面が見え、露出した骨と筋肉が本来出られない、出るはずのない外界に晒されている。

 落ちた衝撃で肉片が少し飛び散っており、自分の頬にも血と肉片が付いていることが分かった。

 

 

 ……この時、一瞬にして私の中のナニカが弾けた。

 

 

「あ…あぁ……あ゙ぁぁぁぁ!!! 嫌、いや、イヤァァァァァ!!!」

 

「ちっ! まさら! こころちゃんを下げろっ! あと持ってるグリーフシード使って、穢れが溜まるのを防げ!!」

 

「っ!? 分かったわ」

 

 

 二人の声が遠く感じて、意識が段々と暗闇に沈んでいった……

 

 

 ──結翔──

 

 あまりにも唐突な結界への引き込みだった。

 本来ならありえない、ありえない筈なのに……

 

(何でも起こるのがこの世界だもんな…)

 

 

 まさらは既に臨戦態勢に入っているので、放っておいても大丈夫だろう。

 問題はこころちゃんだ、考えに耽っているのか今の状況に気付いていない。

 早く気付かせなければ、命に関わる。

 声を掛けようとしたその時、魔女は現れた。

 

 

 身体中が継ぎ接ぎだらけで、四肢や頭部のそれぞれがオモチャで構成されている。

 右手がオモチャの包丁、左手がけん玉、右足が人形、左足がコマ、頭はオモチャの鉄砲だ。

 

 

 オモチャの鉄砲から出てくるのは……恐らくスーパーボール。

 何で分かるかって? 

 未来視のジャスト二十五秒後の世界で、出てきたのがスーパーボールだったからだよ。

 

 

 しかし、三秒後の未来の方が不味い。

 三秒後の未来で、こころちゃんは頭部から包丁で真っ二つにされている。

 

 

「こころちゃん!! 危ない!!」

 

「えっ?」

 

(ヤバイ! 反応が遅かった! こころちゃんの回避は間に合わないぞ!?)

 

 

 距離にして約三メートル、全力で行けば二秒。

 一秒もあれば突き飛ばせる筈。

 その計算を出した時には、既に走り出していた。

 一歩一歩を極限まで早く、長くして距離を詰める。

 

 

 包丁の刃が届くまで残り一秒を切った時、ギリギリでこころちゃんを突き飛ばすことに成功した。

 けど、代わりに俺の左腕が吹き飛んだ。

 運悪く、こころちゃんを突き飛ばした方向に。

 

 

 加えて、俺は火に炙られるような激痛から短く悲鳴を漏らしてしまった。

 

 

「っ!! ぁぁあ!」

 

 

 幾ら戦いに慣れて、傷を──怪我を負う事に慣れても、痛いものは痛い。

 悲鳴を完璧に我慢するなんて、一人前になれていない俺には不可能だった。

 そして、こころちゃんが瞑っていた目を開いた……いや開いてしまった。

 

 

「あ…あぁ……あ゙ぁぁぁぁ!!! 嫌、いや、イヤァァァァァ!!!」

 

「ちっ! まさら! こころちゃんを下げろっ! あと持ってるグリーフシード使って、穢れが溜まるのを防げ!!」

 

「っ!? 分かったわ」

 

 

 想像を絶する恐怖から発狂気味なこころちゃんの事を一旦まさらに任せて、魔女と相対する。

 まさらに預けてあるグリーフシードは二個。

 二個で間に合うなんて事はない筈だ。

 

 

 …恐らくだが、使い魔を全く持って出そうとしないことから、魔女になって間もないことが分かる。

 目の前に居る、助けられなかった生命に謝罪の念を向けながら、打開策を頭の中で構築していく。

 

 

 けん玉の玉を体を捻って避け、包丁を剣で受け流し、人形足の蹴りを同じく蹴りで蹴り返し、コマのドリル攻撃を横っ飛びで躱す。

 殆どどれもが紙一重。

 打開策の構築に脳の処理を回している分、未来視や静止と言った他の魔眼が使えないのだ。

 

 

 しかし、もう打開策は思い付いた。

 初めに、こころちゃんを言葉で正気に戻す。

 根性論になるが、気合いで正気に戻す。

 次に、まさらと協力して敵を撹乱。

 最後は正気に戻したこころちゃんの手でフィニッシュ。

 

 

 …聞いた話によると、あのパイルバンカー、もとい可変型トンファーは射撃モードと近接モードがあるらしい。

 近接モードの時の攻撃力は俺やまさらより上だろう。

 弱点……直死の魔眼で視た死の線が集中している場所を教えて、そこを殴ってもらえれば完璧だ。

 

 

 そうと決まれば! 

 

 

「静止!!」

 

 

 静止で止められるのは二分が限界だ。

 さっき止められてれば良かったけど、些か時間が短すぎた。

 だけど、今なら余裕がある。

 

 

「まさら、動き出すのは二分後だ。もし、二分後までに俺がこころちゃんを元に戻せなかったら、お前が足止めしてくれ」

 

「了解したわ。…でも、戻すと言ってもどうするの?」

 

「簡単だよ。呼びかければ良い」

 

 

 自信ありげに言った俺に対し、まさらは少し顔を顰めながら頷く。

 ……そう言えば、腕を治してなかった。

 勝手に止血はされて、切断面は何事も無かったかのように塞がってるが、吹き飛ばされた左腕をくっ付ければ……あら不思議、腕は元通り。

 

 

「悪かったよ」

 

「分かればいいは」

 

 

 俺とこころちゃんを庇うように前に立つまさら。

 そんな事しろとは言ってないけど…良いか。

 治したばかりの左手を使い、こころちゃんの頬を優しく叩く。

 

 

「こころちゃん! 起きてくれ!」

 

「あ…ぁぁ…結翔…さん。う、腕、ごめんなさい!!! ごめんなさい!!! ごめんなさい!!! ごめんな──」

 

「謝んなくていいから! 兎に角、俺の話を聞いて!」

 

「は…い」

 

 

 近過ぎた気もするけど、気にしない。

 反応はして、意識も少しは元に戻った。

 …目は少し濁っているが、まだ元に戻せる範囲内だ。

 

 

「俺は無事。腕も何ともなってない」

 

「で、でも、さっき」

 

「……何ともなってない!」

 

「ゴリ押しすぎませんか!?」

 

 

 …凄いな、あっさり元に戻った。

 ボケたつもりは無いけど、ツッコミされて元に戻るなんて……

 初めてだな、こんなに簡単に元に戻ったの。

 でも、これだったら、すぐにあの魔女を倒せる。

 

 

「よし、元に戻った」

 

「…何か嫌な戻り方ですね」

 

「動ける?」

 

「すいません。腰が抜けちゃって…」

 

「…計画は変更か……まぁ、何とかなるか」

 

 

 腰が抜けた状態のこころちゃんを、長くこの空間に置いておく訳にはいかない。

 まさらに避難の補助を頼むとしても、時間稼ぎは不可欠だ。

 

 

「…俺が時間稼ぐ、と言うよりアイツを倒すから。こころちゃんは下がってて。まさら、悪いけど、お前が危険だと判断したらすぐにこころちゃんと一緒に外に出ろ。あとの事は俺が何とかする」

 

「ん。了解したわ」

 

「ごめんなさい。結翔さん…」

 

「別に、謝る必要は無いよ。…大丈夫! 俺が守るから!」

 

 

 サムズアップと笑顔のダブルコンボを二人に向けて放ったあと、ゆっくりと魔女に向かって行く。

 オモチャの魔女は使い魔を出さず、包丁をデタラメに振りながら近付いてくる。

 

 

(右、左、斜め右、そのまま切り返し、突き)

 

 

 未来視で視た情報をフルで活用し、捌いていく。

 受け流すこと一分。

 段々とパターンがある事が分かってきたぞ……

 

 

 未来視の魔眼を一度閉じて、直死を発動。

 目星をつけておいた死の線を見直し、そこにありったけを打ち込む。

 剣を大剣に変化させて、速攻で距離を詰める。

 

 

 だが、俺はここで違和感に気付いた。

 全く迎撃の体制を取らないのだ。

 まるで、攻撃されても構わない……と言わんばかりに。

 

 

(……!? けん玉の玉が無い?!)

 

 

 千里眼を発動しようとした刹那、後ろから声が響き渡る。

 

 

「結翔! 後ろよ!」

 

「結翔さん! 後ろです!」

 

 

 二人の言葉で後ろを振り返ると、眼前まで玉が迫ってきていた。

 避けるには時間が足りないが、受け身は何とか取れる。

 

 

「ちっ! クソが!」

 

 

 腕を交差させてブロックするが、玉は余程勢いを付けていたのか地面とほぼ平行に吹き飛ばされる。

 地面に大剣を突き立て、止まることは出来たが二十メートル程飛ばされてしまった。

 魔法少女の身体能力なら二十メートルくらい秒で走れるが、それではいけない。

 

 

(一か八か、キックで……)

 

 

 右足を一歩分後に下げ、左足を半歩分前に出す。

 その後は、ゆっくりと腰を下ろし、右足に各属性の魔力を溜めていく。

 各属性の魔力量は全て1:1にして、少しづつ混ぜる。

 

 

 ここまでの工程で掛かった時間は僅か五秒前後。

 誰かに褒めて貰いたい気分だが、そんな状況ではないので集中して走り出す。

 一歩、また一歩と地面を踏み締める度、若干だが魔力の跡が地面に付く。

 

 

 魔力を纏った足は白く光っており、聖なる光を彷彿とさせる。

 

 

「これで決まってくれよ!」

 

 

 魔眼を使った、『一閃必殺』とは違う。

 魔法少女としての俺のマギア(Magia)

 名付けて『英雄の一撃(ヒロイックフィニッシュ)』だ! 

 

 

「はぁぁぁあ!!!」

 

 

 キックは正確に死の線が集中した部分を命中した。

 命中したと同時に、各属性の魔力が流れ込み、魔力の奔流に耐えられなくなった魔女は爆発した。

 

 

 爆発の煙が晴れると、オモチャの魔女が居たであろう場所にグリーフシードが落ちている。

 小走り気味に近付き、それを拾ってまさらやこころちゃんの方に戻った。

 二人の方に到着すると同時に結界も崩壊し、俺たちは全員変身解除した。

 

 

「終わった〜。今回は結構派手にやったな!」

 

「…体は大丈夫なの?」

 

「おおっ!? 珍しいな、お前が俺の事心配するなんて」

 

「片腕が吹っ飛ばされた人間に体の状態を確認しないなんて、人間性が終わっててもありえないは」

 

 

 正論で返されたけど…若干怒ってる感じがするのは気の所為か? 

 珍しいって言ったの怒ってるのか……? 

 そして、俺がぶつくさ一人で考えていると、こころちゃんが服の裾を掴んできた。

 何か言いたげな顔をしている所を見ると、また謝ろうとしているのだろうか……

 

 

「こころちゃん、どうかした?」

 

「…結翔さん、一つ聞きたいことがあるんです」

 

「何? どうしたの?」

 

 

 ごめん、俺の勘違いだったわ。

 …まぁ、大事な質問だと言うことは分かったから良しとしよう。

 

 

「何で、ヒーローを自称するの止めたんですか?」

 

「…言ってなかったっけ? ヒーローは期間限定だったんだよ…。どんなに頑張っても、遠くない内に気付いちゃうんだ。ヒーローになんて、本当はなれてないって」

 

「諦めてはないんですね?」

 

「それは……」

 

 

 彼女の核心を突く言葉は、俺に深く突き刺さる。

 …諦めていない、そうさ、俺は諦めてなんかいない。

 ただ、今の俺じゃヒーローを名乗れない、だから名乗らないだけだ。

 

 

「…なら、私が言います。結翔さんは間違いなくヒーローです」

 

「違う!!」

 

 

 建設放棄地に、怒鳴るような大声が響く。

 普通の奴なら、ここで押し黙ってしまうだろうが、彼女たちは魔法少女。

 ちょっと怒鳴られた位じゃ、怯んで黙るなんてことは無い。

 

 

自分の身を犠牲にして、他者を守る人をヒーローと呼ばずに何と呼ぶんですか? 

 

「そ……れは…」

 

 

 フラッシュバックする記憶。

 かつての仲間たちから言われた言葉を思い出す。

 

 

『結翔くんは間違いなくヒーローですよ! ボクが保証します!』

 

 

 違う。

 俺はお前を……

 

 

『結翔は……ヒーローだと思う。何となくだけど』

 

 

 違う。

 俺がもっと強ければお前を……

 

 

『ヒーロー…ねぇ。結翔はなれる…と言うかなれてるじゃない?』

 

 違う。

 俺はあなたの弱さに気付けなかったんだ……

 

 

『立派なヒーローですよ。結翔君は。ワタシとやっちゃんの自慢ですっ!』

 

 

 違う。

 俺があなたに寄り添えていれば……

 

 

『自称じゃなくて、結翔は本当にヒーローだよ! ふんふん! わたしも…早く、最強になりたいなぁ』

 

 

 違う。

 俺はお前の強さに寄りかかろうとしていたんだ……

 

 

『オマエはアタシのヒーローだよ。どんな時も助けてくれる……アタシのヒーローだ』

 

 

 違う。

 俺はお前から一度逃げたんだ……

 

 

 過去の言葉が、今の俺をヒーローに押し戻そうと叩いてくる。

 違うと言ってるのに……それなのに……

 

 

「結翔さん。私、思うんですよ。万人を救うヒーローも、少数も救うヒーローも同じだって。…だって、救われる側は──守られる側は全てじゃなくて、自分自身を守ってもらいたいんだから」

 

「…………」

 

「小さい女の子が、白馬の王子様を待つのと同じです。大抵の人は、自分を守ってくれるヒーローを求めているんです」

 

「…そんなの決めつけだよ」

 

「そうです。決めつけですよ。…でも、その通りだと思いませんか?」

 

 

 また、言葉が詰まった。

 言い返す言葉がない。

 言い返せる言葉がない。

 口を開くことが……出来ない。

 

 

「だから、結翔さん。私の──ううん、私たちのヒーローになって下さい! どうしても、万人を救える、守れるヒーローを目指すんだったら、手始めに私たちの事を守ってください」

 

「その理屈、分かんねぇよ。ホント……」

 

 

 笑うしかなかった。

 ヒーローと名乗る気はない……ないけど、振り出しから始めるのも悪くないと思っている自分が居る。

 今日の件で街も、街に住む人も守れていない事を再確認してしまったから……

 

 

「私も、結翔の作り笑顔は見飽きたわ。…早く、本当の顔を見せてちょうだい」

 

「…言っとくけど、ヒーローって名乗るつもりはないからな?」

 

「それで構いません! 私やまさらが勝手に思うだけですから!」

 

 

 本当に、眩しいくらいの笑顔だ。

 純粋な瞳は、あの頃の自分を微かに思い出させる。

 ヒーローの存在を信じていたあの頃の自分を……

 

 

「……あぁ! でも、今日は疲れたから帰る! 鍛錬はなしだぁ!」

 

「ふふ。良いですよ」

 

「…少しお腹が空いたわ」

 

「昼飯食って二時間なんだが……。はぁ、マックでも寄って帰るか」

 

「賛成です!」

 

「意義はないは」

 

 

 歩幅は少しバラついていたが、心の向きにバラつきはない。

 この日、俺たちはまた少しトリオとして──家族として進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回もお楽しみに!

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