TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ…… 作:ベリーナイスメル/靴下香
隠密御庭番衆。
強さの証明……いや、最強という華を今も尚追い求める幕末の残り火。
それが四乃森蒼紫であり、江戸御庭番衆。
帰ってくるなり部屋に引っ込んだ剣心と恵さん。
今頃剣心が武田観柳の私兵団規模を聞いたりと情報収集に励んでいるところだろう。
それを怪しんで薫さんが出歯亀しようとしてるのはさっき聞こえた声でわかってる、薫さん可愛い。
味噌汁を温めていた釜戸の火を落として、これから起こるだろう戦いについて考える。
まずは今から御庭番衆の
最初から姿をあらわすのはひょっとこだけで、まぁ剣心、左之助によって問題なく撃退されるはずだ。
その中で、俺は何が出来る?
弥彦の代わりに恵さんを毒殺螺旋鏢から守る?
いや、弥生の異能は自分に対してのみ有効だ、そういった誰かを庇うために発動するかどうかはわからない。
わからないものをいきなり実戦投入するなんてことは出来ないし、ミスって恵さんに螺旋鏢が刺さるなんてことになったら目も当てられない。
「だと、するなら……」
直接癋見と対峙する。
そうして戦闘不能に陥れることができれば恵さん、ひいては毒殺螺旋鏢の毒にやられそうになる弥彦を守ることは出来る、けど。
それをしてしまったら高荷恵の正体というべきか、高等な医術を修めている人間だということが発覚しなくなるわけで。
かと言って可愛い弟弟子に辛い思いをさせたくもない複雑な乙女心。
なんてこった、これが恋か。
んなわけねぇ。
っていうか何で俺は戦うこと前提で考えてるんだまじで。
色々思考回路がおかしくなってきているこの頃いかがお過ごしですか。
別に漫画通りに物語が進むのならばそれを害さない程度に見守ればいい話だというのに。
「……っ」
どうもそれは弥生が許してくれないらしい。
弥生の訴えは頭痛となって、確かな熱となって俺を動かそうとする。
それに。
「わかってるよ……」
俺も、そうだ。
そうやって借り物の熱に浮かされている。
強くなりたいという思いは日毎に増していく。
命をかけた戦いは、もうすぐそこまで迫っているんだ。
それに対して臨もうとする心があることを否定できない。
本来のこの身体の持ち主は、一体何を望んでいるのか。
強くなった先に何を求めているのか。
心なんていう不確かな存在となってなお、俺をどうしたいのか。
「――来た」
門が大きな音を立てて壊される音。
いつぞやも言ったがそれ誰が掃除したり何なりすると思ってんだこのやろう。
まぁ良くないけどいいや……行こう、死戦が、そこにある。
そんな俺の決断は。
「雑魚が高みの見物なんてカッコつきませんよ」
「――てめぇ」
癋見と戦うことだった。
木に登って見物決め込んでる癋見に大きめの石を投げて挑発してみれば引っかかってくれた。
後ろではちょうど剣心が逆刃刀グルグルしてひょっとこの火吹き対処し終わったところ。
「弥生殿っ!?」
「弥生ちゃん!?」
そんな中こんなことしてる俺へと驚く薫さんと剣心だけど……申し訳ねぇ。
心配かけるなって言われたけど、約束したけど。
「心配しないで下さい。心配するほど危険な相手ではありませんから」
挑発ぱーとつーを敢行する。
弥彦も驚いていたけど、そんな中で左之助だけが俺にじっと視線を向けていた。
――でぇじょうぶか?
――もちろんです。
目線でやり取りをした後、癋見へと視線を向けてみれば顔を赤くして地面に降りてきたところらしい。
「ぶっ殺すっ!!」
「そういうのは殺した後にどうぞ?」
慌てて薫さんがこっちに来ようとしたのか、そんな気配がちらり。
流石にもう相手から目を離せないから何も言えないけど、左之助の声が聞こえた後気配が消えた。
ありがとさん。
さて、癋見。
漫画では螺旋鏢を放っているところしか見なかったわけだが。
多分、俺と癋見の相性は悪くない。
「くらえっ! 螺旋鏢!!」
というのも。
「っ!?」
「やれやれ、それしか出来ないんですか?」
基本的には螺旋鏢による中距離から遠距離攻撃、それに対する弥生の異能。
螺旋鏢が弥生にとっての脅威である限り、極論目を瞑っていても避けられるだろう、今そうしたように。
「てめ――っ! まぐれでいい気になるなよっ!?」
「まぐれ? ふふっ、可愛いですね? ほんとにそう思うのですか?」
立て続けに放たれる螺旋鏢をすいすいと躱す。
そう、螺旋鏢は確かに俺の命を脅かす脅威ではあるが、戦闘において脅威ではない。
だから問題は。
「ちぃっ!!」
「――っ」
どうやって距離を詰めるか。それに尽きる。
今避けながらも間合いを詰めようと進んだ分離れられた。
良くも悪くも、だけど、癋見は俺のことをそれなりにやるやつだと認識したのだろう。
故に自分の得意技……いや、信のおける技に固執した。
それなりにやる相手、その実力がわからない。
なら近づいて相手の間合いに入るのは得策ではないと判断したんだ。
「傷つきますね……こんなに可愛い女の子を避けるなんて」
「るせぇ! 不気味なんだよっ! いいからさっさと死ねやっ!!」
あくまでも予想だけど。
あの四乃森蒼紫の部下って言うんだから近距離で戦う術だってあるはずだ。
御庭番衆である以上いわゆる基本的な忍者? としての術は修めているはずなんだ。
だから、もしその術をもって戦われたらどうなるかはわからない。
故に今の状況でどうにか勝つしか無い。
相手が俺のことを
「まったく……いい加減埒があきませんね。男らしくこっちに来てもらえませんか?」
「抜かせっ! これが俺の御庭番衆としての力だっ! 俺の螺旋鏢でてめぇを仕留めてやるっ!」
とはいえ癋見。
頭に血が上りやすいというか、挑発へと簡単に乗っかってくれる一面があるわけで。
そして原作知識持ちの俺は一番激昂させられるであろう言葉を知っているわけで。
――出来れば、言いたくない気持ちがある。
正直、俺は御庭番衆が好きだ。
癋見もひょっとこも式尉も般若も。
この後向かうだろう武田観柳邸で繰り広げられる光景を慮れば貶す言葉なんて使いたくはない。
だけど。
「そんなだから……一芸だけのキワモノ野郎なんてバカにされるんですよ? 役立たず、さん?」
「――殺すっ!!」
向けられた殺気に背中の産毛が逆立った。
怒りの表情を貼り付けて吶喊してくる癋見に心で謝る。
それでも勝つ。
強くなるって決めたから。
「ああああああああっ!!」
「死ねえぇえええええ!!」
バカにされて尚、癋見が選んだ攻撃は螺旋鏢。
それこそ自分が御庭番衆である証と言わんばかりに、飛びかかってきながらもその構え。
勝負に勝って試合に負ける。
そんな言葉を思い浮かべながら。
「そこっ!!」
「ふぐっ!?」
カウンターで胴へと竹刀を叩き込んだ。
「弥生ちゃん……」
「あはは……心配、かけちゃいましたか?」
振り向いてみれば安心したかのような薫さん。
見ればひょっとこと左之助の戦いも丁度終わったところのようで。
「楽勝っ!」
「の割には満身創痍でござるな」
なんてやり取りをしてる剣心と左之助。
「あの二人みたいに心配されないようになるには……どれくらい強くなればいいんでしょうね」
「……そっか、弥生ちゃん強くなりたいんだ」
そう言って見れば薫さんの目が少しだけ変わった。
強いて言うなら、妹分を見る目から……一人の剣客を見るかのような。
「強いなんてもんじゃないわよ……あなたも、あの二人も一体何者?」
おっと恵さん強いの中に俺も入れてくれるんすかぐへへありがてぇ。
「ふふ、弥生ちゃんもあの二人も……頼りになる自慢の、仲間よ」
ああーうれしみで成仏しそうなんじゃあー……。
いやまだだ、お風呂イベントを迎えるまでは死ねない。
とは言え。
「……」
地面に伏せている癋見。
心の底から申し訳ないと思う。
もっと俺が強ければ、あんな挑発なんて必要なかった。
純粋に、力の差で打ちのめすことが出来なかったことが悔やみとしてある。
この、小さな弥生の掌。
こいつがこんな異能を持つ理由はわからない。
けど、それに甘えてばかりもいられないわけで。
覚悟。
あの時左之助が言ってくれた言葉。
その覚悟の一つに、きっと今の気持ちを呑み込むってのがあるんだろう。
「強く、ならなきゃ……」
そう思う。
左之助にきっぱり無理だって言われたけど、それでも。
戦おう。
強くなりたいって気持ちは、もう弥生だけのものじゃないのだから。
「あぶねぇっ!!」
「っ!?」
弥彦の声に驚いた。
その声の先を見てみれば。
「いくら小さな鏢だって心臓にでも当たったらただじゃすまないのよっ! 危険だからあなたは下がってなさい!!」
「冗談じゃねぇ、剣心たちも……それにこの馬鹿姉弟子もこの女守ってんだろ? 俺だって剣心組の一人だぜ、攻め手は無理でも守り手ぐれーはきちっとやるぜ」
……迂闊。
迂闊すぎだ。
何やってんだ俺は、浸ってる場合じゃねぇって!!
自分でも分かってたじゃねぇか! 危惧してただろう俺!!
「で、でしゃばった報いだぜ……! 毒殺螺旋鏢、こ、これが御庭番衆、癋見の真の技……」
半身を起こしていた癋見は再び倒れる。
あぁもう! こんな形で原作進行すんなしっ!! 俺のアホ! 一回死んどけっ!!
「解毒剤を持っているはずでござる!! それを――っ!」
「止そう」
あぁああああもう! 般若さんこんな形で登場すんなしっ!
いいから解毒剤下さいまじで!! 謝るからっ! 顔怖いっすから!!
あたふたしてたら剣心と般若の一合、やっちまえ剣心!
あ、やっぱだめっすよね、逃げられますよね、はい。
「解毒治療は時間との勝負よっ! 急ぎなさいっ!」
……落ち着こう。
そうだ、迂闊と猛省するけどやっぱりこうなるさ。
恵さんが指示を飛ばして、それに従って。
あれよあれよと動く中。
「……完璧だと、思ったんだけどな」
最後の力を振り絞らせられる程度には浅かった。
そんな実感、力不足に思いを馳せた。
「左之助さん」
「おぉ? 弥生、どうした?」
高荷恵の真実。
剣心と恵さんの会話をこっそり出歯亀して知った薫さんと左之助。
薫さんは納得したけど、やっぱり左之助は納得できていないようで。
いまいち踏ん切りがつけられないと顔に書いてある。
「ありがとうございます」
「なんでぇ急に」
あの時俺が戦うことを認めてくれた。
それがやっぱり嬉しいのですよ。
「それでですね。そんな私が嬉しくなるくらい人の気持ちを汲めるあなたが、何浮かない顔してるんです?」
「……ちっ」
そう、聞いてしまった。
後で剣心も言ってるけど、振り上げた拳の下ろし先を見失ってしまったんだ。
優しい……というか、人の気持ちを汲める左之助だから。
恵さんの素性、過去を知って責められなくなった。
「ふふっ、私、やっぱり左之助さんのそういうところ好きですよ」
「はぁっ!?」
おおっと勘違いすんなよ? 兄貴的存在としてって意味でだぞ?
俺はノーマル、至って女の子が好きな一般男子です。
「誰を責めればいいかわからないんですよね? 恵さんにイラつく想いはある、けど納得しなきゃならない、けど抑えられない」
「……」
「いいじゃないですか、それで。納得できないことを無理やり納得するなんてあなたらしくないですよ。そうしようと努力する左之助さんはかっこいいですけどね」
まぁ結局観柳邸に乗り込んで大暴れしないと気持ちの整理出来ないだろうしな。
納得じゃなくて発散。
そうして左之助は生きてきたんだし、何より悪一文字はそういうものじゃない。
「いい子になるため悪一文字を背負ってるわけじゃないでしょう? だったら、いいじゃないですかそれで」
「……はぁ、ったく……弥生、ほんとにてめぇはそういうところだぞ?」
「わぷっ! もう、頭撫でないで下さいっ!」
こんな風に言ったところで左之助のもやもやとした想いは晴れないだろう。
けど、自分はこう思ってると相手に伝えるってのは大事なことだ。
強くなりたいとこの人に伝えたからこそ、癋見との戦いが実現したように。
どっちにしろそれを晴らすのはやっぱり剣心の役目だし。
「……ありがとよ」
「はい、お礼は稽古で結構です」
ともあれ、だ。
次の戦いは観柳邸。
……俺も、もう一つの覚悟を決めなきゃな。