TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、初めての死戦につき

「おはようございますっ! 恵さん!」

 

「おはよう、弥生さん」

 

「やですよもうー、弥生って呼び捨てにして下さい」

 

 あーにっこり笑顔の恵さんは……最高やなっ!!

 

 そうです、弥彦も回復して少し。

 本日はお日柄もよく、恵さんとおはぎを一緒に作ろうイベント開催予定です。

 

 そうして少しずつ好感度を稼いでお風呂イベントに繋げるんや……やったるで……。

 

「ええっと、それで? 私に何か用?」

 

「はいっ! 良ければ一緒におはぎ作りませんか? 薫さん、材料いっぱい買っちゃって一人じゃ大変なんですよ」

 

 少しずつうちに慣れてきてくれた恵さん。

 その要因の一つに俺がいるというのは疑いようもない事実だろう。

 

 薫さんにはなんか恨めしそうに嫉妬されたり、弥彦にはなんだかわからねぇけどいいんじゃねぇ? って顔されたり。

 剣心には仲良きことはーなんてにっこりされて、左之助には複雑な顔を浮かべさせた。

 

 まぁそれくらい俺はグイグイ恵さんに絡んでいってるわけだ。

 今ほど自分が女であるということに感謝したことはない、きっとガワが男ならこうはいかないだろうさ。

 

「そうなのね。随分と久しぶりだけど……一緒なら大丈夫かしら」

 

「恵さんなら大丈夫ですっ!」

 

 いえーい! 前向きな返事いただきましたっ!

 やったるでぇ! そして貪り食うぜぇ! 恵さんのお手製おはぎとか家宝にするくらいの気持ちで!

 永遠に胃の中で留まれ、留まって欲しい。

 

 そんなこんなで一緒におはぎを握る。

 

 横目で見る恵さんの顔は何処と無く楽しげで。

 激動を乗り越えてきた……のはまぁこの人だけじゃないけど。

 やっぱりこうやって戦いとは無縁の世界で、穏やかにおはぎを握ったり、医者として患者を診たりしてる姿が一番似合うと思う。

 

 守りたい、この笑顔。

 

 日々ここでの生活に慣れて、少しずつ笑顔を多く見せてくれる恵さん。

 それを嬉しいと思う嵩を増す度に武田観柳許すまじの気持ちも増してくる。

 

 こんな人を自分の欲を満たすためだけに使っている人間は許せない。

 

 なんちゃっての正義感だろうけど、やっぱりむかっ腹を抑えることは難しいもんで。

 

「ん? どうかした? 弥生」

 

「あ、いえ……その、なんでも無いです」

 

 おっと見つめすぎた。

 不思議そうな目で見返されてしまったぞ?

 

 って、ひえっ?

 

「うふふ、私じゃ何も出来ないかも知れないけど……言ってご覧なさいな? 言うだけでも楽になることってあるものよ?」

 

「あわ、あわわわわ……」

 

 あご、あごを指でくいって……くいって!

 あぁ……おねーたま……ぼく、もうらくになってもいいよね……。

 

「あら」

 

「ぷしゅるー……」

 

 あかんこの人やっぱしゅき。

 

 目の前が暗くなったけど幸せいっぱい胸いっぱいです。

 

 

 

 とは言え。

 

「しくったっ!」

 

 恵さんが書かされた置き手紙をくしゃりと丸めた剣心。

 やっぱりこうなる。なんて達観してる自分が嫌になる。

 かと言ってこうなった原因の場に俺が居合わせたところで今度は俺を材料にされるだけの話で。

 

 小賢しく思考を回す自分へと余計に腹が立って。

 

「左之っ! 観柳邸の場所はわかるなっ! 行くぞ!」

 

 慌ただしく出発しようとする剣心に心の中で同意して。

 

「行けよ」

 

 左之助の冷たい言葉を耳にする。

 

「あの阿片女のためになんで俺が動かなきゃなんねーんだよ」

 

「てめー! いつからそんなダセェこと言う様に――」

 

「いい加減にしろ左之。お前らしくもない」

 

 あぁ、そうだな剣心。

 俺もそう思うよ。

 

 俺だってこんなかっこ悪い左之助は見たくない。

 けども気持ちはわかるんだ。

 

 だからさ。

 

「人が動くにいちいち理由が必要ならば、拙者の理由はそれで十分でござる」

 

 発破かけてやってくれよ、いつもの左之助に戻れるように。

 それが出来るのは剣心だけだからさ。

 

 捨てられた子犬のような目、心許せる家族に等しい存在を求める恵さん。

 それが剣心の動く理由だってんなら。

 

 恵さんに幸せになって欲しい。

 そんな想いでも十分だろう。

 

 命をかける、理由には。

 

「私も行きます。恵さんのこと、好きですから……これでも十分ですよね? 剣心さん」

 

「――そう、でござるな」

 

 そう言ってみればやっぱり困ったような笑顔。

 共に戦う者として認められたわけじゃないってのは分かってる。

 

 だけど、いずれ。

 

「ここは命懸けでも助けに行く!! それが出来ねーで何が活人剣の神谷活心流だ!!」

 

「こいつぁ、多分徹夜仕事になる。六人分の朝食と風呂の準備を忘れんなよ」

 

 ――四の五の考えんのはもうやめだっ! ここは俺らしくひと暴れしてやるぜ!

 

 うんうん、それでこそ左之助っすよほんとに。

 

 さぁ、それじゃあ。

 

「行くぞっ!!」

 

 応っ! 

 

 

 

 はえーでっかい。

 そんな感想を覚えたのも束の間。

 レッツ突入である。

 

「は、はええ……なんだ、あれは?」

 

「オラオラっ! よそ見してっと! 怪我するぞっ!!」

 

 まぁ正直俺と弥彦の出番なんかないわけでだな。

 ただのランニングになってるこの状況は少し恥ずかしい。

 

「左之助っ! 遅れを取るんじゃねぇぞっ!!」

 

「……弥彦ちゃん」

 

 流石です弥彦さん。その心意気、見習いたい。

 けどまぁ安心しなって。

 

「左之っ! 弥彦っ!」

 

「おうっ! ほらよっ! お前の出番だ活躍してこいや!!」

 

 あーいってらっしゃいませー。

 左之助に放り投げられた弥彦は銃士隊に突っ込んで、お見事な活躍。

 

「……んだよ」

 

「いーえ、何でもありませんよ。私も投げます?」

 

「……そういうところだぞ」

 

 もうどういうところなのかわかりませんよっと。

 

「さっさとかっこいいところ見せてくださいね?」

 

「ちっ……わぁったよっ!!」

 

 汚名返上期待してます。

 ま、多分俺はその光景を見れないかも知れないんだけどね。

 

 むしろ生きてここから帰られるかなとすら思ってる。

 私兵団を薙ぎ払って、進んでいく度に心臓が早鐘を打つ。

 突入する時も大概緊張してたけど、遠くの門が大きく見えるようになってくる度に、その緊張で心臓が押しつぶされそうになってる。

 

 覚悟。

 命をかける、覚悟。

 

「年貢の納め時だ、観柳」

 

「――っ」

 

 口上が始まった。

 あれだけ小さかった玄関はすぐそこ。

 

 そしてその玄関を越えれば待ち受けるのは般若。

 

 俺の、命を燃やす相手。

 

「私兵団五十人分の給与をお支払いしましょうっ! 是非とも私の用心棒にっ!!」

 

「降りてくるのか来ないのか、どっちなんだ」

 

 全く馬鹿げてる、相当頭おかしい。

 

 なんでよりにもよって般若なんだろうか。

 左之助と剣心が出来る、強いと認めた相手だぞ? 何でそんなヤツ相手にしようと心に決めているのか。

 

 生き様だってそうだ。

 何故か共感できるその軌跡。

 

 十中八九負けるどころか殺される。

 分かってる、分かってるっていうのに。

 

「一時間以内にそこにへ行くっ!! 心して待ってろ観柳!!」

 

 死ぬほど辛い戦い。

 その最初を般若に求めた。

 

 そして馬鹿げてると分かってるのに。

 

「……行きましょう」

 

「おう」

 

 どうにも止められない。

 

 

 

「江戸城御庭番衆密偵型――般若。お頭の命につきこの場を死守する」

 

「不要の戦いは避けたいでござ――弥生、殿?」

 

「不要なんかじゃありませんよ、必要です。彼にとっても……私にとっても。ねぇ、般若さん?」

 

「……お頭の命は絶対だ。それは女子供とて変わらない」

 

 構えようとした剣心の前に立つ。

 ここに来て心臓は嘘のように静まり返っていた。

 覚悟が出来た、ってことなんだろうか。それとも現実感がなさすぎて心が理解できていないんだろうか。

 

「無茶だ弥生殿っ!! 般若の相手は拙者が――!!」

 

「剣心、ここは弥生にまかせてやっちゃくれねぇか? もちろん、最悪の場合は責任もって俺がなんとかする、剣心の不殺を破らせることは絶対にしねぇ……だからよ」

 

「左之っ!?」

 

 ありがてぇなほんと。

 けど最悪の場合……つまり死にかけるってのがあったら。

 それはまぁあれだ。

 剣客としての自分は死ぬってことだろう。

 

「剣心、あんな馬鹿姉弟子だからさ……」

 

「弥彦……」

 

 おうおう、流石かわゆい弟弟子。ありがとよ。

 

「弥生殿」

 

「はい」

 

「無理だと判断したら……止めるでござるよ」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

 そう、それでいい。

 いや、死なないことに安堵したわけじゃない。

 

 ここで負けたら俺はもう強さを目指せない。

 

 仮に死にそうになって、剣心たちによって九死に一生を得るようなことがあれば。

 

 俺はもうすっぱり剣の道を諦める。

 違うな、活人剣を振るうものは如何なる敗北も許されない。

 敗北してしまえば神谷活心流(・・・・・)巫丞弥生の死、そのもの。

 

 だから、ここはデッドライン。

 

 越えられれば、剣客としての道が拓き、退けばもう二度と拓かれない分岐点。

 

「神谷活心流、巫丞弥生……参ります」

 

 その戦いの幕は。

 

「キエエエエエエ!!」

 

「っ!!」

 

 般若の鉄甲が打ち鳴らされた音で切られた。

 

 

 

「破ッ!!」

 

「っ!!」

 

 顔面を前言通り遠慮なく狙ってきた般若の拳を避ける。

 当たり前だが般若の攻撃は脅威判定。

 身体は自動的に回避してくれる、つまり俺は後の先に集中するべき。

 

 なんだけど。

 

「疾ッ!」

 

「く……ぅっ!!」

 

 俺のカウンターより早い攻撃の繋ぎ。

 避けたと思えば竹刀を振るうより先に般若の身体が動く。

 続けざまに襲ってきた肘打ちを大げさに飛び退いて間合いを離そうとしてみれば。

 

「逃さんっ!!」

 

「くそっ!!」

 

 一足飛びで再び拳の間合いに引き戻される。

 

 左之助と稽古を積んでいて良かったと思う反面、違いが大きすぎて面食らったのがもう半分。

 確かに拳の間合いは理解できている、だが身体のこなしが全く違う。

 

 平たく言えば隙がない、割り込む呼吸を生むことが出来ない。

 まさしく般若は卓越した拳法家だった。

 

 途切れなく、間断なく。

 放たれ続ける般若の攻撃へと、ただ避けるだけで精一杯。

 

 だけどそんな攻撃が。

 

「……なるほど、癋見が負けたのも頷ける」

 

「はは……あなたに褒めてもらえるなんて光栄ですよ」

 

 不意に止んで言われる。

 

「お前にはどうやら私の術は効かないようだ……それに、その身のこなし。侮れる相手ではないらしい」

 

「……買いかぶり、ですよ」

 

 般若の術――伸腕の術。

 腕に横縞の入れ墨を入れることで目の錯覚を誘い、太く、短く感じさせるもの。

 

「なるほど、合点がいったでござる」

 

「剣心? 何がわかったんでぇ?」

 

 流石剣心、相対せずともそれを理解するなんてぱねぇです。

 

 後ろの解説を耳に流しながら呼吸を整える。

 そう、俺は般若の攻撃を認識していない。

 認識しているのは弥生の異能。

 その異能へと身を任せて避けているに過ぎない。

 

 ただこの場では……いや、癋見と戦っていた時でもそれはうまく作用した。

 勘違い、とも言えるかも知れないけど、この力は相手の気を引き締めるには十分なものらしい。

 

「それにあの仮面で目線を察知し難くなる……拙者でも、一工夫凝らさなければあの術を見極めることは出来なかったでござろう……弥生殿、お主は一体……」

 

 どうやら勘違いは味方にまで……。

 いや、この戦いを預けてくれる理由になるなら何でも良いか。

 

 どちらにせよ。

 

「だが――」

 

「っ!!」

 

 再びの接近戦。

 そう、般若も分かってる。

 

「私に攻撃出来ないのであれば同じことだっ!!」

 

「まったく、その通りですねっ!!」

 

 俺はまだ一度も攻撃しようとしていない、っていうか攻撃できない。

 攻撃しようとすればきっとその瞬間般若の拳が俺の身体を捉えるだろう、それくらいはわかる。

 

 ジリ貧。

 

 これはそういう状況だ。

 確かに体力の続く限り回避は出来る、左之助の時と同じように。

 だけどそれは体力がなくなるまでこの状況が続いてしまえば負けるということで。

 

 ならその隙を作るためにどうすればいい?

 

 挑発? 効果は薄いだろう。

 あえて先制する? 現実的じゃないし、防がれるかカウンターでワンパンされて終わりだろう。

 

 分かってる、分かってた。

 

 俺じゃあ到底般若に勝つなんて無理だ。

 力が足りない、戦闘経験も足りない。

 

 時間も足りない。

 

「破っ!!」

 

「つぅっ!!」

 

 思っているより体力、集中力の消耗が激しい。

 今頬を掠めた般若の拳然り、体力の限界より先に攻撃を躱す限界が来そうな気もする。

 

 当たり前だ。これは死戦、死闘なんだから。

 

「そろそろ、限界のようだな」

 

「はぁ……はぁ……」

 

 分かってただろう? 決めただろう?

 命を懸けるって。そうして強くなるって。

 なら後はそれを実行するだけじゃねぇか、出し渋って何も出来ずに負けちゃいましたなんてバカにも程があるだろう?

 

「弥生殿」

 

「だめ……ですよ……まだ、終わってません、限界じゃないです」

 

 下がれって言いたいんだろう? それも分かってる。

 今なら無傷で退ける。

 この戦いからも、この先の戦いからも。

 

 そしてなんでも無い平和な毎日がやってくる。

 

「それは、だめ……です。わた、し、決めたんです……強くなるって、あなたと並び立てるほど、強くなる、って」

 

「……」

 

 高望みにも程があるけど。到底簡単な道じゃないって分かってるけど。

 

 弥生はそれを求めている。

 そして俺も。

 

「じゃないと、意味、ないですから、私が、生きる、意味が……」

 

「生きる、意味……」

 

 それはもう弥生と俺の願いだ。二つで一人分の意志だ。

 俺が弥生の想いに引きずられてるからじゃないのかとか、そんなことはもうどうでもいい。

 

 意味のない命なんて無い。

 でもそれは自分で動いて得るものだ。

 

 それは、近所の爺ちゃんがいつも酔っ払って言ってた言葉。

 

 俺の、生きる意味。

 

 かつての俺じゃないかも知れない。

 弥生という借り物に収まった命なのかも知れない。

 

 それでも。

 

「手を、伸ばす……そして、掴み取る。そうじゃなきゃ、意味、ないですっ!!」

 

「弥生、殿……」

 

 そんな願いが生まれたことだけは確かだから。

 

 真っ直ぐに般若をにらみつける。

 何の攻撃を受けたわけでもない、それなのにすっかり満身創痍。

 

 これが、闘い。

 自分の命を天秤に載せて、行われる死戦。

 

「覚悟は出来たようだな」

 

「ふふっ……! わざわざ待ってくれるなんて……! やっぱり般若さんは紳士ですね……っ! おまたせしました! さぁ! これで終わりにしましょうっ!!」

 

 あぁ、感謝するよ般若。

 そりゃ操ちゃんも慕うわ。俺も慕っちまいそうだ。

 

 覚悟を決める。

 

「鉤爪っ!?」

 

「弥生殿っ!!」

 

 俺の覚悟に呼応してくれたかのように、般若の手から鉤爪が現れる。

 

 ありがてぇ、ちゃんと、俺を殺してくれる気マンマンだ。

 

「……」

 

「……」

 

 一瞬の余白。

 だけど永遠にも等しいくらいに感じられる時間。

 

 あぁ、そうだった。

 

 弥生は回避してくれる。

 俺は攻撃することだけを考えればいい。

 

 だったら。

 

「おおおおおおおおおおっ!!」

 

「ああああああああああっ!!」

 

 同時に、しちまえばいいんだ。

 

 出来る。

 今の俺……俺と弥生ならきっと出来る。

 

「っ!?」

 

「くらい……やがれええええええっ!!」

 

 飛天御剣流――龍巻閃もどき。

 

 般若の鉤爪が半身を捻った俺の頬を浅く切り裂く。

 髪を留めていたリボンが裂ける。

 

 それでもそれは回避が成功した証明。

 

 だからそのまま。

 

「――っ!!」

 

 流れた相手の身体、立ち直せていない身体を地面にそのまま叩きつけるように。

 遠心力をたっぷりのせた一撃を。

 

 般若の後頭部に叩き込んだ。

 

「や、やりやがった……!」

 

「す、げぇ……」

 

「今のは……」

 

「はぁっ!! はぁっ!!」

 

 地面に顔から突っ込んだ般若さんが立ち上がる気配は無い。

 弥彦が化け物と称した素顔が割れた仮面から覗ける。

 

 そしてその目から完全に気を失っていることがわかった。

 

 確認できて、ようやく。

 

「はぁっ……はぁああああーーーー……」

 

「弥生っ!!」

 

 クソデカため息と一緒に地面へ座り込めた。

 

 床、つめてぇなぁ……あー俺、生きてるわ……ちくしょうやってやったぜ。

 弥生も、ありがとうな……残念かもしれねぇけど、俺、生きてるよ。

 

「立てっか? ……ったく、俺より先にかっけぇところ見せてんじゃねぇよ」

 

「あはは、たまには私のかっこいいところも見せておかないといけませんし」

 

 手を差し出してくれたのは左之助。

 握って立ち上がろうとするけど。

 

「あ、あらら?」

 

「っとぉ……いい加減それやめろや」

 

「わざとじゃないですって!」

 

 もう生まれたての子鹿もびっくりな足元で、左之助の胸の中に収まってしまう。

 

 ……あーいや、男の胸に収まるなんて生理的嫌悪感は疲労により無効です。

 

「弥生殿」

 

「……言いたいことはわかります。ですが、今は恵さんが先です……急ぎましょう」

 

 どうしてと顔に書いている剣心には悪いけどうまく説明できる気もしないし、今はそんな事追求してる場合でもない。

 

 般若の四乃森蒼紫への心酔っぷりが語られなかったことや、恵さんの居場所を聞けなかったのは残念だけどとりあえず。

 

「……やった」

 

 剣客としてのスタートラインに立てたことを喜んでおこう。

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