TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ…… 作:ベリーナイスメル
「こらぁっ! そこの若いの! わしの目の前で廃刀令違反とはいい度胸だぁっ!」
おこなの? 激おこなの?
いやまぁびっくりしたよ、まったくあの笛うるさいわほんと。
「あーっと、申し訳ありません。一応許可を頂いていますので、こちらを」
「なんだぁ……っ! も、申し訳ありません! 任務、お疲れさまですっ!」
斎藤から預かっていた帯刀許可書を見せてみれば効果覿面ってなもんだ。
まぁこれで三回目だからね、慣れたもんですよ。
「いえいえ、そちらこそお疲れさまです。職務熱心大変結構なことだと思います、その調子で皆の安全をよろしくおねがいしますね」
「はっ!!」
おー……いい敬礼。
いや、許可書の中身は見るなって言われてるから見ないけどさ、一体なんて書いてあるんすかねぇ……。
あ、見送りは良いですよほんと。すっごくなんか行きにくい。
「感謝すべきかそうじゃないか、いまいち判断がつかないでござるな」
「まぁまぁ。確かに余計悪目立ちしてしまってる感は否めませんが……剣心さん、あるいは私が目立つだけなら構わないじゃないですか」
志々雄一派に自分たちの足取りを掴まれていないなんて思うほうが甘い。
現に斎藤もそう言っていたわけだし。
なら逆の発想。
目立てばそれだけ注目を惹きつけられるわけで。
俺と剣心へと目を割いたぶんだけ他が動きやすくなるはずだ。
浅はかなのかも知れないけど、剣心へそう説明してみれば納得してくれたし、あながち間違ったことでもないだろう。
それより問題なのは。
「弥生殿、今日で小田原は抜ける予定でござるが……大丈夫でござるか?」
「あはは、気にしてもらって嬉しいですけど。仕事のお付き合いですから、心配は無用ですよ」
わかってたことだけど剣心は健脚だ。
いや、というよりはこの時代の人達自体がそうなんだ。
東海道を歩いて京都まで。
鉄道敷設で歩きの旅行客ってのは少なくなったらしいけど、こうして歩いてみればその陰りってやつをいまいち実感は出来ない。
鉄道が出来る前、江戸時代なんかの人達はこれが普通だったってんだろうから凄いよな。
ともあれこの道程。
距離で言えば日本橋から三条大橋まで約四百九十二キロ。
剣心なら五日もあれば十分らしいけど、いやまじぱねぇっすよ。
車ですらちょっと気が引ける距離だよ、新幹線が恋しい。
「仕事仲間だからこそ、でござるよ。それに――」
「わかってます。宿は取らないのですよね? 今のうちから無理するなという部分はよくわかります」
俺を許容してくれた剣心だから、人と可能な限り関わらないってのは俺が許容するべき事柄だろう。
剣心の懸念もまぁもっともな話だと理解できるし、あえてという程じゃないけど、原作よりも多少強く注目を引いているんだ、宿泊中に襲撃がある可能性は高まっているはず。
「やれやれ。素の弥生殿は少し頑固でござるな」
「そうでしょうか?」
「そうでござるよ。拙者、単純に野宿を強いるのは忍びない気持ちからそういっただけでござる」
む……やっぱりその笑顔は反則です。
そうだよなぁ……ちょっと決めつけが過ぎるのかも知れない。
知っているのはガワだけなんだ、裏、裏ばかりを測るんじゃなくてもう少し額面通りを素直に受け止めるようにしないと。
「……そうですね、斎藤さんみたいになりたくないですし。気をつけます」
「おろろ」
今までは知っているをポジティブに捉えていたけど、やっぱり弊害ってのはあるね、うん。
あ、斎藤さん? くしゃみしてます?
特に謝る気はないですよ? あしからず。
「野宿は久しぶりでござるな」
そういう割には手際がよろしいことで。
地図を出して現在地なんかを確認している間にぱぱっと剣心が用意してくれた。
実のところ剣心との間にそこまで会話はなかった。
それこそ出発して最初だけで、ある程度大丈夫だと思われたのかそれ以降はめっきり口数が減った。
焚き火の炎が揺らめいて、その焔が剣心の瞳を映す。
何を思っているのだろうかってのはやっぱり薫さん達のことだろう。
恨まれても仕方ない。
そんな風に今思ってる剣心なんだろうけど、俺にはどうしてもそうとは思えなくて。
「別に恨まれてはないと思いますよ」
「……拙者、口にしていたでござるか?」
少し驚いて口元に手を当てながら視線が向けられる。
さて、俺は原作シーンから思い浮かべた内容ではあるけど。
「いえ? 多分、あなたと関わりを持った人間がみれば私でなくても思い至るんじゃないでしょうか」
「……」
弥彦なら、らしくねぇぞ剣心。なんて言いそうだし。
左之助なら、とりあえず一発景気付けに殴ってそうだ。
薫さんでも……うん、黙って察して寄り添う、かな?
「恨まれてはないです、絶対。でも……
薫さんに黙って消えたわけじゃないはずだけど。
それでもショックを抜けた薫さんもまたブチキレてるだろうな、おんなじような言葉と一緒に。
「……関わったつもりがないと言う割には……よく知っているように話すのでござるな、弥生殿は」
「ええ、そうですね。あなた程皆と関わったつもりがなくても、この程度はわかります。わかるんですよ、剣心さん」
気づいてないかも知れないけど。
心の奥底ではわかってるんだろう? あの場所に居たいと思ってしまった自分の心を。
戻るべき場所に成り得たと感じてる気持ちを。
何より俺の言葉に心を乱した。
それが何よりの証拠だろうよ。
「――っ!」
「……剣心さん」
「わかってるでござる……だが女と複数だろう男の声。志々雄一派ではなさそうでござるが」
いやまぁわかってるよ俺は。
四乃森蒼紫大好きっ娘の登場だね。
「あぁ、関わりたくないと言うなら私が行きますけど――」
――どうします?
そんな風に目で聞いてみれば。
「山賊か追い剥ぎの類か……どちらにしても放っておくわけには行かないでござるよ」
そう言って、やっぱり困ったように笑いながら腰を上げてくれた。
「あーっ!? あたしの外套ぉっ!!」
「あ、すまぬ、つい……」
まぁちょうど目にできたのは男達をのした操ちゃん。
お金の代わりに剣心の刀を剥ぐと豪語するんだけど、ごらんの有様だよっ!
あー、まぁそろそろ私が出るかー……。
「はいはい、落ち着いて下さい。外套のお金はお支払いしますから……とりあえずこのお金は返しに行きましょう?」
「何よっ! 急に出てきて! そのお金はあたしが手に入れたんだからあたしのもんだっ!」
はいはい、うるさいですよっと。
あ、良いんだよ剣心。逆刃刀渡さなくていいんです。
なぁに経費で落ちるさ。さて、財布は――
「――っと」
「へぇ? やるじゃん」
手癖わりぃなこの娘。
財布だそうとしたところに手を伸ばしてきおったぞ。
うーん……正直さっさとこの金返しに行きたいんだけどなぁ。
一応俺は警察へと協力している身だからさ、悪事を見過ごしてしまったら斎藤に怒られるじゃ済まないわけで。
「弥生殿?」
「剣心さん、それ小田原宿の田村屋ってところのらしいですので先に返してきてくれませんか? ちょっと私、この子とお話してから追いかけますので」
「おはなしぃ?」
なんて言ってみればすんなり頷いてくれた。
理解が早いっすねうん、それだけある意味信頼されてるのかな?
「あ、ちょっとっ!」
「はいはい、あなたは私と楽しいお話タイムですよ」
「何さっ! あれはわたしんだっ! もうっ! いいよ! 外套代にあんたの金剥いですぐ追いかけてやるっ!」
がめついなぁ……ちゃっかりしてると言うべきか?
あ、でも苦無じゃなくて体術で向かってきてくれるのね、そこらへんは良識的かも?
いやいや、追い剥ぎする子に良識ってなにさ……大概俺も毒されてるなぁ……。
「んえっ!?」
「……うん、いい体術です。よほど良い師に巡り会えたんでしょうね。でもまぁ……おいたが過ぎますね」
流石の般若さん仕込みというべきかね。
掌打が外れるや否や当て身に切り替えて……さっき剣心にもやってたよねそれ。
ちょっと女だからって甘く見ないでくれます? 俺、男ですから。
「な、中々やるじゃない」
「へぇ? 中々、で終わらせられるのですか?」
攻撃の繋ぎ。
当身に切り替えようとした先に木刀を置く。
中途半端な体勢でその木刀に触れるか触れないかの位置で止まっていた操ちゃんは俺の言葉で慌てて距離を取り直す。
「……」
「あぁ、苦無使います? 先に言っておきますが無駄ですよ?」
剣心みたく抜刀の風圧で落とすなんて芸当は無理だけど。
少なくとも持ってるだろう苦無を避ける自信はある。
操ちゃんの貫殺飛苦無は点と面の攻撃、両方の特性を持つ。
まずは一本を集中して投げる、暗殺とかそういった点の攻撃。
だけど今はこうしてお互いの面が割れて、相対している状態。
一本一本を連投するなんてその繋ぎに合わせて攻撃して下さいと言っているようなもんだ。
撤退しながらの牽制として使うなら有用だけど、少なくとも今の操ちゃんに撤退の文字はないだろう。
なら一度に数を投げる。
それが面の攻撃だ、単純に避けづらい。
しかしながらそれをやってしまい
残されている体術。それは俺に通用しないとさっき証明されてしまってるのだから。
支援として遠距離から攻撃するならともかく、一対一で戦う巻町操の真髄は苦無と体術の組み合わせなのだろうから。
もっと言えばそもそも一対一を仕掛けるのが間違ってる。さっきの盗賊達とはそもそもの力量差が大きいから対処出来ただけだ。
「先に言っておきます。今の私は逮捕権を所有しています」
「な……」
期間限定ではあるけど、志々雄に関わってる
一応今の俺は密偵に限りなく近い存在に加えて、警官としての権利も有しているなんてチート状態。
……よくもまぁここまでの権限を俺に与えたよ斎藤さん。ちょっと信頼しすぎじゃねぇ?
「今ならあのお金を返して、無かったことにしてあげます。ですが、その手に持っているものを私に投げれば……保証はしません」
「ち……」
うわ、俺性格悪いな!? よくもまぁそんな言葉が口からでたよ。
間違いなく斎藤の影響ですねこれは。
あっはっは、都合悪いのは全部斎藤のせいにしちゃえ! てへぺろってなもんだ。
「もう少し言いましょうか。今なら、
うん。
これがトドメの言葉だろう。
操ちゃんの戦意が萎えていくのがわかる。
流石にそこまで馬鹿じゃない、ここで本気を出してぶつかり合う意味なんて無いし必要もない。
「わかったわよ……」
「はい、ありがとうございます」
めっちゃ不服そうではあるけど、な。
そんでまぁご丁寧に田村屋の前で待ってた剣心と合流して。
流石に壁をひとっ飛びなんて芸当は出来ない俺だから河原で待ってると言って。
あそこに見える橋がもう少しで剣心によって破壊されるやつだろう。
ってなるとこのあたり。
ここいらにいればまぁまた合流できるだろうさ。
「もうすぐ、新月村、か」
座ってみれば石の感触が冷たくて。
今までの弥生は新月村へと足を運んだんだろうか。
オリジナルの弥生はその村でどういった生活をしていて、どういった理由で東京へ出てきたんだろうか。
そう、俺が知りたいのはそこ。
志々雄一派……てか尖角だっけ? により占拠状態だろう村。
開放したいがために、ではなく。開放しなければ弥生の情報が聞けないから開放する。
もちろん三島兄のことも助けられるなら助けたいけど……無理だろうな。
あの人の死を剣心が看取るからこそ、そこへ足を運ぶ理由になるんだし。
京都に着くまでに。
俺は弥生の情報を集めたかった。
オリジナルの弥生。
そんな弥生の終わらないループ。
弥生は剣心に殺されたら終わるといっていた。
るろうに剣心の流れがわかっている俺にとっては正直無理も無理だと断言出来るんだけど。
知っているからこそ
そう思って、そう思ったからこそ弥生へと興味が湧いたんだ。
「わかったからって……実行するかはわかんねぇけど」
自殺願望者じゃあるまいし。
なんで自分が殺されるために努力しなきゃならないんだって話だ。
だから空想。
もしも緋村剣心が緋村抜刀斎になってしまったらって可能性を妄想する理由でしかない。
ただそれでも。
後世の人間をこの世界へ産み落とす。
後の世代を使ってこの世界を繰り返しているのなら。
「……らしくねぇ、な」
口から聞こえた音は女の声。
俺はもう俺じゃない。
元の俺を既に忘れそうになっているくらいには馴染んだこの身体。
他の誰かも、こうやって弥生になる。
それは、少しだけ、気持ちが悪い気がした。
「っと、そろそろか」
橋を渡ろうとしてる二人がヤクザ達に挟まれた。
ならそろそろ橋も落ちる。
「……これって、この後誰が修理するんだろうな」
俺、しーらないっと。