TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、帰郷につき

「ねぇっ! ねぇってば!」

 

 弥生ですが、後ろから聞こえる声がうるさいです。

 

 いやまぁ仕方ないよね、ついうっかり四乃森蒼紫ってワードを漏らした剣心が悪い。

 蒼紫の足取りを調べてる操ちゃんにとっては値千金というかようやく見つけた手がかりだ、食らいついて離さない意気は見上げたもんだよほんと。

 

 針のむしろとまでじゃないだろうけど、剣心も居心地が悪そうだ。

 別に責めてるつもりはないんだけど剣心にとったら知らなかったとは言え自ら旅路を喧しくしてしまったことを反省してるんだろう。

 その証拠になんとも申し訳無さそうな顔を時折俺に向けてくるし。

 

「仕方ないですって」

 

「あぁ、ありがとう弥生殿」

 

 ってやり取りも何度目か。

 

「教えてよ! 蒼紫様はどこ!」

 

 しっかしもうちょっと聞きたいならそれ相応の態度ってのがあるんじゃないかね。

 続く口汚い言葉チビやら男女やら……あ、おっぱいおばけは褒め言葉ですどうも、羨ましいか? ふふん。

 

 操ちゃんは損してるよななんても思う、ある意味箱入り娘なんだろうとも。

 御庭番衆先代の愛孫。

 その立場というか出自から可愛がられてきたんだろうなと。

 

 多分漫画やらで操ちゃんって人物を知っていなけりゃあんまりいい気分ではいられなかったのかもしれない。

 

 いや、想像してみてくれよ。

 なんかわからんけどストーカーばりに付きまとわれて、挙げ句罵言を浴びせられ続けるわけで。

 正直今の段階で剣心が御庭番衆の終焉を知っているから相手のことを察して腹を立てないって、どんだけ聖人だよって話。

 

 良くも悪くも真っ直ぐで素直な操ちゃん。

 だからこそ憎めないというか、可愛がってしまうんだろう。

 

 とはいえ。

 

「……」

 

 ――どうするでござる?

 

 そんな視線が向けられてきた。

 

 どうするも何も、撤くしかないんじゃないかなって。

 ほんで根性見せられて剣心が折れる形が一番いいんじゃなかろうかと。

 

 ただまぁそれに俺は間違いなくついていけないからどうしたもんかなって部分。

 

 剣心はもちろんだけど、ぶっちゃけ操ちゃんに追いかけられたらあっという間に俺は捕まる自信がある。

 ベースのスペックが違いすぎるからね、仕方ないね。

 

 かと言って、別々に行動してってなるとちょっと厳しいんだよな。

 街道から外れて森の中を進んで行くからこそ新月村の事件へと介入できるんだし。

 新月村を合流地点にして落ち合いましょうなんて出来ないからなぁ……ん?

 

 ――再合流地点は沼津宿でどうですか?

 

 視線を送り返しながら口パク。

 まぁ伝わるでしょ多分。一瞬驚いてたみたいだし、疎通できてる出来てる。

 

 どの道剣心が原作をなぞるなら新月村に行くことになるんだ。

 だったらそれ前提で俺も新月村に行けばいいわけで。

 

 俺と剣心だったら十中八九操ちゃんは剣心を追うだろう。

 まだ操ちゃんに対して優しさと言うか、ある程度コミュニケーションを取ってる剣心だし。

 

 あ、俺?

 一切合切無視してますよごめんなさい。

 いや、剣心程腹芸が出来る自信もないのでな……心がちょっと痛いけど思いっきり突き放してるほうがいい。

 

 どの口が言うんだってツッコミは無しの方向で。

 

 剣心の顎が少し沈む。

 はい、それじゃ。

 

「撤くか」

 

「撤きますか」

 

 

 

 案の定と言うべきか、操ちゃんは剣心を追った。

 後から思えば捕まえるなら俺のほうがやりやすいんじゃなかろうかとも思ったりしたけど結果オーライ。

 剣心は操ちゃんに折れて一緒に行くことになるだろう。

 そして俺が言えたことじゃないが、街道じゃなく獣道を進むこと、そんな道を二人で行くことで歩みは多少遅くなるはずだ。

 その間に俺は街道を急いで先に新月村へ行かねぇとな。

 

「しっかし……」

 

 弥生を掠める視線、視線、視線。

 コレばっかりは予想というか考えが及ばなかった。

 

 可愛らしい女の子が一人旅。

 

 あーこれだめですわ。襲って下さいって言ってるようなもんだわ。

 

 そう、すれ違う若い男だったりなんなりが好色そうな視線で見てくるわけですよ。

 こいつらまとめて皆ホモ、間違いない。

 

「おいお嬢ちゃん、一人急いで何処へ行くんだい? よかったら一緒に行ってやろうか? へへ……」

 

「結構です」

 

 こんな声をかけられたのも何度目か。

 ぶちのめしてしまおうかなんて考えたのも何度目か。

 急いでるんですよね、ほんと。

 剣心と操ちゃんだ、歩みが遅くなるっても知れてるし、常人より速いのは確かなわけで。

 常人よりほんの少し上かもしれない俺程度じゃ必死こかなきゃ駄目なんすよね。

 

「おいおい、こっちは善意で言ってんだぜ? 顔くらい向け……ヒッ!?」

 

「私……自分より弱い人に興味ないんです。出直して下さいね」

 

 流石に視線にムカついたからぶちのめすなんてしてしまうと今の立場上まずい。

 だから、こんな感じに無遠慮に肩を掴まれるって場面の時だけ相手をひっくり返す程度はする。

 

 ただまぁ……。

 

「ほ……惚れたっ!!」

 

「……変態」

 

 なんか知らんけど。

 睨んで邪魔するなと言ったつもりなのにこんな事を言ってくるやつが多いのはなんでだろう?

 ちょっと明治進み過ぎてないか? いかんでしょこれは。

 

 仕方なーく木刀で可能な限り優しく転がして差し上げる。

 

 ほんっとさ、勘弁してくれよまったく。

 

「――っ」

 

 なんて馬鹿をしながらも時折感じる冷たい視線。

 好色馬鹿の影に隠れて感じる命の脅威。

 

 剣心と別れてから感じるこの視線は明らかに多くなった。

 

 ある意味作戦は成功だったんだろうな。

 志々雄の手先に間違いはない。

 今の所襲ってくる気配は無いし、別れてから初めての一人野宿でも仕掛けて来られなかった。

 おかげで若干寝不足だ、どうしてくれんだよ全く。

 

 上手いなと思うのは、手下どもは交代制で見張りをつけているってところ。

 

 何度か視線の持ち主を突き止めてはいるものの、様子を伺っている内に違う人物に変わっていたりと組織的に見張りをつけている。

 様子を伺おうと待ちの姿勢を取ったのがまずかったんだろう、こちらから仕掛けるってのは難しくなった。

 それに加えてなんでも無い一般人かっこ変態ども。

 ものすごくやりづらい。

 

 そういう意味から考えれば、剣心が森の中を進んだのは結果的に良策だったんだな。

 追っ手にしても監視の目にしても、振り切りやすいし突き止めやすい。

 もちろん隠密に優れた相手なら難しいのかも知れないけど、そこは剣心に操ちゃん。プロもプロってもんだ。

 

「しくじったなぁ……」

 

 思わず愚痴ってしまうよ。

 正直なところ剣心に監視をつける理由ならいくらでも思い浮かぶ。

 だけど弥生にそれをつける理由がいまいちわからない。

 もちろん警察側、国側の人間の一人として捉えられているだけなら構わないんだけど、剣心と一緒に行動していたからな、それがどう作用しているもんやら。

 

 逮捕権を持っているんだ、片っ端から捕まえてしまうってのもアリなのかも知れないけど。

 今に限って言うなら新月村へと剣心達と同時、あるいは先に着かなきゃならないわけで。

 

 うーん……。

 

「ま、いっか」

 

 あんまり深くは考えないでおこう。

 とりあえずこれで足を絡めている暇はないってのは確かだ。

 急がねぇとな。

 

 

 

「貴様、余所者だな」

 

「……いいえ? 余所者ってわけじゃないですよ?」

 

 急いだ結果がこれだよっ!!

 

 ひのふの……八人位? めっちゃ囲まれてる、囲まれてます。

 うわー……やっちゃったなぁ、ほんと。

 

 これあれだよ。

 俺に監視をつけてた理由でしょきっと。

 別に迂闊な真似をしたつもりは無かったんだけどな……この辺りなら剣心達と合流しやすいかと落ち着こうとした場所に兵を置かれた。

 

「余所者は生かして帰さんっ!!」

 

「だから違うって……もう」

 

 一応この村出身らしいんだがなぁ。

 ともあれ村には入っていない、まだ入り口が見える位置。

 

「死ねぇっ!!」

 

「――」

 

 後ろの人が槍で突き殺そうとしてきたみたいだけど……当たんないねぇ、訓練してる?

 あ、次は右ですか、はいはい。おー悪くない太刀筋っすねぇ。

 

「こ、こいつっ!」

 

「……うるさいなぁ」

 

 考え事に集中できないじゃないかまったく。

 確かに袋叩きさながらの光景で状況なんだろうけど、あんまりにもなってない。

 数の暴力を活かしきってない。

 

 逃げられないのは間違いないけど、だからといって俺を仕留めきれないのも間違いない。

 

 自分の身体を弥生に任せて、状況を整理しよう。

 

 さて、どうやら俺は剣心達より早く辿り着いたようだ。

 剣心が先に着いたってんならもうちょっと村中が騒然としてるだろう。

 そんな様子も見られないし、時期を間違ったわけでもなさそうだ。

 

「この、ちょこまかと……!」

 

 ということは、だ。

 

「チャンス、か?」

 

 おっと、目の前を刀が通り過ぎましたね怖い怖い。

 

 そうだ、これはチャンスだ。

 三島兄、あの人は間違いなく剣心の目の前で息を引き取った。

 それはつまり剣心が来るまでは生きていたって証明に他ならない。

 

 元々の目的。

 弥生を探るって事を考えたら――。

 

「いい加減に――へぶっ!?」

 

「はい、考え事終了っ! あ、邪魔なんで退いてくれますか?」

 

 そうだね、俺を討ちたいならそれこそガトリングガンでも持ってきてどうぞ。

 雨は避けられないけど、そんな余白のありすぎる攻撃じゃ甘い甘い。

 

 ……強くなったよなぁ。

 

「まぁ、律儀に相手する必要もないんですけど……ねっ!」

 

「ぐふっ……」

 

 よーし、とっかーん!

 

 相手の崩れた陣形を突破する。

 勢いのまま村に突っ込んでみれば。

 

「あれはっ!!」

 

「ん?」

 

 あの特徴的なトンガリハゲっ!

 間違いねぇっ!!

 

「尖角っ!!」

 

「なんだぁ……? 小娘。邪魔をするな」

 

 うわ、でっかい。比留間弟といい勝負かも。

 明らかに異常成長、ハッキリわかりますねこれは。いや、破軍の不二ほどじゃねぇか。

 

 そんなことより。

 

「その二人を離しなさい」

 

「あ、あなた……弥生ちゃんっ!?」

 

「駄目だっ! 逃げなさいっ!!」

 

 三島さんの両親、か。

 いい人だな、今まさに殺されかけていたってのに俺の心配か。

 ってことは。

 

「三島さんは?」

 

「あの子ならっ……うぐっ」

 

「ほう、貴様この村の出か……貧相な村の女にしては中々良い身体をしてやがる。どうだ? この尖角様の女にならないか?」

 

 うえ、きんもー。

 冗談は頭の形だけにしてくださいよほんと。

 

「もう一度言います。その二人を離しなさい」

 

「聞く耳持たねぇ……良いな、気に入った」

 

「ごふっ」

 

 ……あぁ? 気に入られてもなんも嬉しくねぇけど?

 ていうか乱暴に降ろしてんじゃねぇよぶっ飛ばすぞ?

 

「おいっ! 村のモンっ! 出てこいっ!!」

 

「ひっ……!」

 

 あぁ、ちっさい村と言えどそれなりに人はいるもんだよね。

 何処と無く俺の育った限界集落を思い出さなくもないけど……あ、こんにちはお久しぶりです?

 俺の姿を見て弥生がどうのって言ってるあたり、ここが弥生の出身地で間違いは無いらしい。

 

 ていうか人集めてどうすんのさ。ご丁寧に兵まで出てきたし袋叩きパートツーはじまっちゃう?

 

「全員で、この女を嬲れ」

 

「……は?」

 

「聞こえなかったのか? 同郷の女だろう? その女を全員で嬲れ、殺すなよ? 後で俺が楽しむ」

 

 ……何いってんだこいつ。

 

「ひ、ひどいっ! よくもそんなっ!」

 

「黙ってろ。そうだな、女。お前が俺のモノになるってんなら……この二人は生かしてやるし、同郷のモンにボコボコにされずにも済むぞ?」

 

 下衆、ここに極まれり、だな。

 

 なるほど? 擬似的な村八分かっこ物理って感じか。

 確かに見知った人にそんなことされちゃ身も心も大ダメージだね間違いない。

 しかも三島さんの両親以外仕方ないみたいな感じで石やらなんやら手にし始めたし?

 

 同郷じゃなくてもキくな、これ。

 

「は、はやく尖角様に跪けっ!」

 

「お、お前が余計な事するからこうなったんだっ!」

 

 投げられる石。

 避けようとする弥生の身体をあえて押さえつける。

 

 むっちゃ痛い。

 石が、じゃない。

 心が痛い。

 

 原作改変しようとしてる罰がこれなのだろうか。

 酷く醜いだろうこの光景、萎えてしまいそうだ。

 いっそこいつらまとめて全員ぶっ飛ばしてやろうかとさえ思ってしまう。

 

 だけど。

 

「……その二人から、離れなさい」

 

「ク……ハーッハッハッハ!! 強い女もそこまで来るとはなっ! 何処まで俺好みになりゃ気が済むんだっ! ハーッハッハッハ!!」

 

 開き直ってるんだって、俺はもう。

 

 神谷活心流、巫丞弥生。

 

 そう生きると、決めている。

 

「感謝しろよ? 俺は片腕くらいなくとも楽しめる! 楽しんでやれる男だからなっ! ふんっ!!」

 

 そうだな、感謝するよ尖角。

 

「――なっ!?」

 

「ええ、感謝しますよ……あなたがグズの間抜けなおかげで、最高の結果を手に入れられそうです」

 

 あぁ、そうだ。

 おかげで三島一家はなんとか命を繋げることができそうだ。

 

 後は……。

 

「そのためにも尖角……覚悟してください? 神谷活心流、巫丞弥生……参ります」

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