TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、勝利につき

「尖角に楯突くなんぞ……馬鹿なことを……!」

 

「そ、村長……巫丞家のモンが楯突いたせいで……お、俺たちも……」

 

「案ずるなっ! もはやあやつは村の者ではない! そ、それでどうにかなるっ!」

 

 はぁん? ほんっと弥生ちゃん何したんすかねぇ……いや、家っつってたから親がどうかしたのかね。

 

 まぁ、いい。

 

「ブァウウアアアッ!!」

 

「うるさいですね……!」

 

 今は出自よりこいつだ。

 

 尖角。

 

 三下といえばそうなんだけど、それは剣心達にとっての話。

 はっきり言って俺にとって相当な強敵に違いはない。

 だってそうだろ? 剣心の罠に引っかかったとは言え、背後を取れる程の速さに加えて――。

 

「ヴァアアア!!」

 

「……ちっ」

 

 両手の握り懐剣。

 力は見た目の通り強い。木刀で受け止めるなんて考えた瞬間死ぬだろうな。

 となるとやっぱりいつもどおり、避けるという手段に行き着くわけだ。

 

「フンッ! ちょこまかと! さっきの威勢はどうしたぁ!?」

 

「その尖った頭に脳みそ詰まってます? 詰まってるなら自分で考えたら如何ですか?」

 

 原作では剣心のスピードと同じって思い込みによる自爆で勝負は終わった。

 当然俺はあんなスピードを出せるわけないからその手段は取れない。

 

 そう、そんな思考トラップに嵌めることはできない。

 

 しかしながら。

 

「情けない姿だっ! 一太刀すら抜かず、ただ避けるだけとはなっ!」

 

「ほんっと……うるさい」

 

 まさに尖角の姿は暴れるって言葉がよく似合う。

 懐剣を力任せ、速さ任せに振り回し、俺を追い立てる。

 完全に主導権を握ったと思えるくらいに自分のペースで、すこぶる気持ちいいだろう。

 

 至近距離で避け続けてるせいか、尖角の汗が時折跳ねてきて俺の嫌悪感も最高潮だ。

 

 間合い的には拳の距離に近い尖角。もっとも巨大な体躯もあって小柄な俺からすれば木刀の間合いと噛み合ってもいる。

 あえてその位置で避け続ける理由としては、尖角の攻撃がより激しくなるためってだけ。

 

 目論見通り、尖角は調子に乗って勢いのまま攻撃の回転を早めてる。

 やかましい雄たけびとともに暑苦しいにも程があるってもんだ。

 

 対する俺。

 

 冷静……ってわけでもない。

 正直、気を抜いたら(・・・・・・)感情のままに木刀を振ってしまいそうになるのを必死で堪えてる。

 

 落ち着いて、力を抜いて。

 

 ただただこの異能に身を任せる。

 

 集中。

 

 視界がどんどん狭くなっていくのがわかる。

 見るべきものはただ尖角の懐剣だけ。

 アレほどやかましく聞こえた雄叫びも気づけば耳に入ってこない。

 チラチラと俺を取り囲む兵や村人が見えるけど、尖角の勢いに巻き込まれてはいけないと遠巻き気味。

 

 つまり。

 俺と尖角の戦いに邪魔は入らないってこと。

 

「――」

 

 まだまだ調子に乗って何かを言ってる尖角。

 内容はわからない、どうせヴァーとかなんとか言ってるんだろう。

 

 俺だって避けられないものはある。

 

 たとえば雨を避けろなんて言われても無理だ。あたりまえだ。

 剣心がいずれ会得する九頭龍閃だって怪しいところだろう。

 つまるところ俺は広範囲同時攻撃ってやつはどうあがいたって避けられない。

 

 尖角。

 

 確かに速い。

 持ち上げ過ぎかも知れないけど、剣心の龍巣閃を常に浴びてるようなもんだろう。それくらい速いし力強さも感じる。

 

 けど、避ける合間が無いわけじゃない。

 

 その間へ身体を滑り込ませることに難を感じない。

 

 いつだったか思ったな。

 

 俺は体力の続く限り脅威を避け続けることが出来る。

 

 それはそのままその意味だ。

 そして警察署での荒行は戦闘体力を増加させるための稽古。

 

 脱力する。

 余計なものをこそぎ落としてただただ避けるという一目に専念する。

 

 邪魔な情報をシャットアウト。

 音も、景色も……全て。

 

 そうすれば完全な無の空間。

 

 俺だけの世界ができあがる。

 

「はぁっ! はぁっ! 何故だっ!? 何故あたらないっ!?」

 

 世界から帰ってきたのは頬に水滴を感じたから。

 

 目の前には汗だくの姿になった尖角が荒い息をつきながら両腕を信じられない思いを振り払うように動かしている。

 

「ヴァ……ヴァアアア!!」

 

「……そこです」

 

 気がつけば避けることしか入れ込めなかった合間は攻撃を入れ込む程の大きさになった。

 膝を狙ってコツコツと木刀を振るう。

 

「ハ……ハーッハッハッハ! 何だその攻撃は! そんな太刀ではこの尖角様をいつまでも倒せはしないっ!!」

 

「――阿呆が」

 

 おっといけねぇ、斎藤さんの口癖がうつっちゃいましたねテヘペロ。

 

 何処に元気を取り戻す要素があったのか。

 確かに一刀のもとねじ伏せるなんて出来ませんよ。

 俺の戦い方はいつだって、いつまででも相手の力を利用するだけ。

 

 避ける、打つ。

 避ける、打つ。

 

 相手の攻撃と重なるように、カウンターを膝に集める。

 

 そして。

 

「ウグッ!?」

 

「……いつまでも倒せない、でしたか?」

 

 やったことは二番煎じ。

 相手の自滅を誘っただけ。

 ただ、俺でも出来る……いや、俺だから出来る方法で。

 

「気持ちよかったですか? すっきり出来ました? ……私で、満足は出来ましたか?」

 

「あ……あぐ、あ……」

 

 興奮して、いい気になって、逃げまとう俺の姿に満足はできたかな?

 興奮で消えていた痛みが限界を超えて。

 気づけば尖角の両膝は青いを通り越してドス黒くなっている。

 

 両膝を震わせながらなんとか立とうとする尖角だけど。

 

「えい」

 

「ウグアアアアアア!?」

 

 あーうっさいの復活だな。大の男……いんや、でかすぎる男がみっともない。

 

「お、お前らっ! こ、こいつを早くやってしまえっ! おいっ!」

 

「みっともないですねぇ……良いですけど。で? やりますか? 尖角を今にも殺せそうな私と」

 

 一瞬武器を構えようとした兵たちは一睨みでその戦意を萎えさせ尻もちをついた。

 

 ま、ここで逃げてもどうせ志々雄はこいつらを処分するだろうし? いい言葉だよね、弱肉強食。

 俺に向かってくるのが殺されない分正解だけど、それを理解されちゃいけないよな。

 

「あまり虐めてやるな、巫丞弥生」

 

「っ! 斎藤さん……」

 

 立ってる人間に目を向けてみれば一週間ちょっと付き合った嫌味ったらしい笑顔。

 なるほど、どうやらタイミングはわりと合っていたらしい。

 斎藤の後ろには困ったように笑う剣心と驚きに目を丸くしてる操ちゃんに……。

 

「弥生……姉ちゃん……?」

 

「お久しぶりですね、栄次君」

 

 三島弟が顔を覗かせていた。

 

「貴様の案じていた三島栄一郎も一命を取り留めた。安心しろ」

 

「そう、ですか……良かった」

 

 ならこれで三島家は全員無事ってわけな。

 

 だったら後は。

 

「あなただけですね、尖角」

 

「ヒッ……!?」

 

 視線を戻してみれば芋虫……というにはでかすぎるな。

 手だけでなんとか後退ろうとしてる尖角の姿。

 

「どうします? このまま志々雄に殺されます? それとも大人しく法に裁かれます?」

 

「あ、あ……」

 

「……いや、その必要はないかもですね」

 

「あの、巫丞のモンが……尖角を……」

 

「なんでも良い……今、尖角は……!」

 

 ほんっと……この村の人って都合良いよな。

 絶対強者で自らたちを圧する者が弱っていたら……。

 

「斎藤さん」

 

「なんだ」

 

「……私じゃ、ちょっと止められないです。お願いしていいですか?」

 

 正直すごく気持ちが悪い。

 悪意……なんだろうか、よくわからないけどそんな悪い空気に酔った。

 

「やれやれ……仕方ない。その代わり、三島一家は任せたぞ」

 

「はい、お任せ下さい。それに……この後、行くんでしょう?」

 

 そう言ってみれば当然だと言わんばかりに鼻を鳴らしてくれる。

 

 志々雄がいる屋敷に乗り込んで、そこで尖角の相手をするって算段は狂ったけど。

 そのおかげで三島一家に対するフォローと自分のフォローができそうだし、仕方ないか。

 

「……あんた、ただもんじゃないとは思ってたけど」

 

「よして下さい、買いかぶりですよ。それよりお願いがあります。私が三島さん達を安全な場所へと移す間、周囲の警戒をお任せしたいのですけど」

 

「わかった。こんな状況だし、一肌脱いであげる」

 

 うん、ありがとう。

 やっぱりいい子なんだよな、操ちゃん。

 

「弥生殿」

 

「……志々雄の居場所は斎藤さんが掴んでいます。京都より早まりましたけど……行くのでしょう?」

 

 覚悟決めてる剣心は頷いて。

 まぁその覚悟はから回って挙げ句逆刃刀折れちゃうんだけど……必須イベントだろうし仕方ない。

 

 志々雄にしてもせっかく尋ねてきてくれた先輩(・・)を無碍にするなんてことはしないだろう、それ故のカリスマだろうし。

 

「ほんとに……弥生姉ちゃん、なのか?」

 

「……ええ、もしかしたらあなたの知っている私ではないかも知れませんが、ね」

 

 とりあえず、場所変えますか。

 あんまり、誰にとってもここは良い光景ではなくなるのだろうから。

 

 

 

 三島兄こと栄一郎さんは村からすこしだけ離れた荒屋に簡単な手当をされた状態で横になっていた。

 

 この場所を懐かしく思うのはなんでだろう。

 ボロボロの家だけど、確かに昔生活していた痕跡が残っている。

 

「……ただいま」

 

 無意識に言葉が口からこぼれた。

 そして理解した。

 

「こんな形の帰郷になっちゃって……なんて言ったら良いのかわからないけど……おかえりなさい、弥生ちゃん」

 

 ここは、弥生の生家だ。

 

 三島母さんが複雑な顔で言ってくれて。

 それ以上に難しい顔をした三島父。

 

「兄貴っ!!」

 

「……栄次? それに、親父……お袋……?」

 

 ちょうど英一郎さんも気がついたようだ。

 身体を起こそうとしたけど、やっぱりそれなりに重傷なんだろう顔を顰めて結局身体を横にしたまま。

 

「良かった……良かったよ……」

 

 出来れば抱きつきたかったんだろうけど、そんな兄の様子をみて傍らに座り込み泣く栄次。

 親父さんとお袋さんも安心できたようだ。

 

「……まずは皆の手当をし直しましょう。準備しますから、とりあえず皆さん楽にしてて下さい」

 

 そう言ってみれば緊張の糸が途切れたかのように座り込む。

 当然だ、今の今まで殺されかけていたんだ、疲労の極地にいると言っていい。

 改めて見れば皆栄一郎さんほどじゃないけど怪我をしているし、命に別状はないとしてもほっといていいレベルでもない。

 

 とりあえずお湯を沸かして皆の身体を一旦綺麗にしないと。

 布は……うーん、箪笥に入ってる服、煮沸すれば使えるか? 村に戻って必要なものを取ってくるわけにはいかないし……。

 まぁ一旦これで様子を見るしかないか、幸い沼津宿まで遠くはない。

 ある程度疲労を抜いて、身体が動くようになって。宿まで行けたらなんとかなるだろう。

 

 しかしどうするかな。

 どういう風に説明して理解を得ればいいんだろ。

 まずこの人達との関係性がわからない。

 三島一家は弥生のことを知ってるみたいだけど、アレだけのやり取りじゃ流石に掴めないっすよ。

 

 むぅ、原作外しの弊害は大きいなぁ。

 

「ごめんなさい、やらせてしまって……何か、何か手伝えることがあれば……」

 

「あ、いえいえ。大丈夫ですからゆっくりしてて下さい?」

 

 うーんやっぱりいい人なんだろうな。

 

 申し訳ないって文字を顔に貼り付けて言ってくれるのは悪い気しないんですけど無理しないでくださいねお袋さん。

 

「で、でもっ! 私達はあなたにあれだけの事をしていたのにっ! こうして命まで助けてもらってっ! これじゃあ――」

 

「やめなさい」

 

 おっとー……情報を零してくれるのはありがたいけど、何やら不穏だね? 正直もっと言って下さいどうぞってなもんだけど……そう気楽なものでは無いのね。

 

「……改めて、ありがとう。こうして一家無事なのは弥生ちゃんはもちろんあの人達のおかげだ……だが、どうしてだい? 僕達含めた村の皆が巫丞家にした仕打ちを忘れてしまったわけではないだろう?」

 

「……」

 

 どうやら弥生は、いや巫丞家は何かされていたらしい。

 

 沈黙は金。

 

 こういう時は黙るに限る。

 

「助けてくれたことは感謝しているんだ……本当に、恩返しが出来るなら何でもすると誓える位に。だけど……本当に手前勝手だけど、恨まれて当然の僕達を助ける。それをとても不気味に思ってもいるんだ」

 

 意を決して……いや、多分これが大黒柱なんだろうな。

 きっと不気味に思ってるってのは三島一家全員の考えでもあるだろう。

 

 恨まれて当然、か。

 

「罪を憎んで人を憎まず、ですよ。それに私はきっとあなた達の知っている弥生じゃあないです。今は神谷活心流巫丞弥生。活心流の理に従って助けたんです」

 

 嘘は言ってない。

 弥生の問題はこの際置いておくにしても、俺の都合的にどの道少なくとも栄一郎さんに対して情報のすり合わせをしなきゃ駄目だっただけでもある。

 無論、神谷活心流の担い手として当然の行為だとも思っているけどな。

 

「……大人に、なったんだね」

 

「それほどの時間は、きっと経ったんですよ」

 

 時系列もわかんない。

 どのタイミングで弥生がこの村を出て神谷活心流道場の世話になりだしたのかとか。

 るろうに剣心の世界は理解しているけど、巫丞弥生の世界は全く理解していないんだから。

 

 それっぽく言っておくしか出来ない。

 

「それでも、言わせてくれ。僕達は君達を生贄にした。村の繁栄を願うがために君達を必要悪として扱った。それは紛れもない罪だ……憎まないと言ってくれても、それだけは一生を賭けて償わせて欲しい」

 

「あ、ちょ……あ、頭を上げて下さい!?」

 

 じゃぱにーずどげざ!?

 うわっ! お袋さんまで!? あぁ! 栄次君までしなくていいって!

 

 慌ててそんな風に言ってる頭の傍らで。

 妙な納得があった。

 なるほど、詳細はわからないけど巫丞家は村八分にされていたんだろうな。

 そして、生家に来たと言うのに弥生の両親がいないということ。

 それはつまり。

 

 ……。

 

 いや、よそう。

 単純に、シンプルに考えて捨て置こう。

 要するにこの村人は尖角に占拠、統治される前から弱肉強食のもと生きる素養があった。

 それだけの話だ。

 

「はぁ、もういいですから、ね? それより、傷の手当……やっちゃいますよ」

 

「……すまない」

 

 いいんですよ。

 腹黒い俺ですから、負い目を抱えてくれているならありがたい限り。

 この後するお願いを守ってくれる鎖になり得ますからね、えへへ。

 

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