TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ…… 作:ベリーナイスメル/靴下香
「弥生殿は斎藤と一緒に行くのでござるか」
「ええ、伏せていましたが京都までご一緒するのが目的ではありませんでしたので」
三島一家にはこちらの都合についてよく話して
流石に中身違うんスよーなんて言えなかったので、若干強引に三島兄の名前を利用させてもらったこと。
悪用には違いないけど、俺自身志々雄一派と戦うためにそうしていると。
「なら次に会うのは」
「はい、京都で……また、お会いしましょう」
そう言ってまっすぐ剣心の目を見る。
やっぱり、人斬り抜刀斎とるろうにの自分で揺れている剣心。
言い換えれば、まだ俺はこの人に殺される事が出来る。
なんて。
思考の中にそれは存在しているけど、その道を辿ることは無いだろうな。
新月村でのこの一件。
おかげで俺はるろうに剣心の世界でやりたいことが見えた。
「ねぇ、あんた」
「……やれやれ、私には一応巫丞弥生という名前があるのですが」
「……弥生」
「はい、なんでしょうか?」
操ちゃんから向けられる目には色々なものが宿っていた。
剣心のように……いや、剣心程とはまだまだ言えないだろうけど、やっぱり俺も常人の壁を超えつつある人間。
それが今回よくわかった。村人から向けられる視線はほぼ全てが苛立つものではあったけど、中でも尖角に対して向けるものと一部一緒であるということに気づいて若干泣きそうにもなった。
「ううん、やっぱ、いい」
「そうですか……いえ、それがいいと思いますよ」
だからだろう。
操ちゃんも、四乃森蒼紫の情報を持っているに然る人間として俺を認めたんだ。
今聞かなかったことはきっとその情報に関して。
あるいは、何処か俺のことを侮っていた点に対して何かいいたかったのかも知れない。
二人と一旦別れの挨拶を終えて。
振り返ってみれば三島一家と斎藤が話している光景。
「巫丞弥生。三島一家は警察で保護しながら東京へ向かわせるでいいんだな?」
「はい。三島さん達を襲撃する理由はもう無いでしょうけど念の為。向こうに着いたら一旦栄一郎さんの家で過ごしてもらって……私が帰れば、また追って連絡します」
「……ありがとう。この恩は、必ず」
やだなぁもう、いいんですよーちゃんと口裏合わせてくれたらー。
そういって親父さんが栄一郎さんへと肩をまわして馬車に乗り込んでいく。
お袋さんも俺と斎藤にふかーいお辞儀をした後背を向けて。
そんな中。
「なぁ、弥生、姉ちゃん」
「どうしましたか? 栄次君」
何かを考え込みながら、俺の目と別の場所を行ったり来たり。
複雑といえば複雑だな。
原作では孤独になったこの子、斎藤の家内である……確か、時尾さんだっけ? その人のもとに身を寄せることになるけど。
それがこうして一家無事でいる。
自分以外全員の死を知った時の栄次は復讐に生きようとして、剣心に窘められて涙を流した。
今回、この子は何もしないでそのまま事態が過ぎていっただけだ。
自分の手を、動かすことのないまま。
それは間違いなく幸せなことなんだろうけど、復讐を誓うように過激な面を持ち合わせているこの子だ。
やっぱり整理しきれない思いがあるのだろう。
だったら。
「……え?」
「悔しいですか? 自分が何も出来なかったこと」
しゃがんで、頭に手を乗せる。
そうしてしっかり目を合わせる。
「……」
「私も似たような気持ちを感じた覚えはあります。わかる、とは言いません。ですけど――」
ずっとずっと守られる側の人間でいる。
それは、ある意味あの村の人間と同じとも言えるんだ。
誰かのせいすること、それは誰かを盾にすることでもあるんだから。
「強くなりなさい、栄次君。キミが守りたいものを守ることが出来るくらいに」
「――!」
納得するには強くなるしかないんだ。
自分で自分を納得できる位に。
誰だって誰かに守られて、そして誰かを守って生きている。
悪くばかり言ってしまったけど、あの村の人間だって確かに自分たちの生活を守ろうとしていたのだから。
「あぁ!」
「ん、いい顔です! さ、皆待ってますよ? 道中気をつけてくださいね」
元気に走る背中を見送る。
出来れば神谷活心流で、なんて気持ちもあるけどそれはあの子が選ぶことだ。
ていうか類友とでも言うのかね、仮に栄次が神谷活心流の門を叩いたとしたら似たような子が三人に増えてすっごいことになりそう。
「やれやれ、随分と子供の扱いが上手い」
「そうでしょうか? ……まぁ、こうして年下の子を可愛がることなんて、東京へ行くまではありませんでしたから。その反動で甘々なのかも知れません」
あーだからそういう笑い方はやめてくださいってほんと。
色々こっちも裏考えちゃうんですからね、勘弁してほしいのです。
それに、だ。
「そんなことより。私の身の潔白は証明出来ました?」
「……ったく。あぁ、安心しろ巫丞弥生。以降貴様は純粋な協力者だ」
重傷患者相手だけど、それはやっぱり取りたかった裏だろう。
抜け目無い斎藤ではあるけど、俺に対する信頼を深めるためでもあるだろうし。
うん、三島兄、グッジョブ。
斎藤をだまくらかすじゃないけど信じさせるとか並大抵のことじゃねぇっすよ、素晴らしい。
……なんて思いたいけど。
斎藤を欺くなんて無理って考える方が自然だよな……大事の前の小事として捨ておいてくれてるのか、それとも別の判断材料があったのか。
まぁ少なくともこうして参加を許されてる以上、俺が裏切らなければいいだけか。やられそうになったらなったときだ。
「なら……次に進みましょうか」
「あぁ。しかし、良いのか巫丞弥生。俺としてはありがたい反面、惜しくもあるんだが」
そう思ってくれるのはありがたいんだけどね。
一応顔見知りさんが無残に殺害されてしまうってのは結構心に来そうなんで。
俺の次の任務。
それが斎藤が集めた剣客隊の護衛。
この新月村で緋村剣心の内に潜む人斬りを顕にするという目的のもと十本刀へと集結令が下る。
その中で一つ見過ごせない事件があって。
「ご自分で言っていたでしょう? 私達の動きは掴まれている前提で動いたほうが良いと。なら、自由に動ける私が適任です」
「確かにそうだがな……いや、現地の警官がどれほどかわからんが主力に替えは利かないか」
そういうことですよ。
神戸に向かって、そこから京都を目指す斎藤の選りすぐり。
言い換えれば東京の警察署で俺の稽古に付き合ってくれた人達。
彼らは神戸に着き、そこで十本刀の宇水に殺される。
宇水の情報、まぁ力量だな。
それについてまだ把握していない斎藤は、恐らくこの時点である程度の被害は出るかも知れない位には考えているとは思う。
だけど結果的には全滅。
俺自身宇水の相手を出来るとまでは言わないけど、一晩……同じく十本刀の張曰くの夜襲一、二時間なら耐えられるとは思う……いや信じたい。
流石に斎藤へ手傷を与えられる相手だ、そう安くは見積もらないし、見積もれない。
「しかし忘れるな」
「あ、はい? 何をでしょう」
珍しい顔してどうしたのさ。
「奴らは確かに主力ではあるが、欠けてはならない力は貴様や抜刀斎である事を」
「……」
あれあれ?
あれれのれー?
「……何だ? その腹立たしい顔は」
「いやーまさか斎藤さんに心配されるなんて思ってなくてですねー? そうですよねー私も戦力の一人ですもんねぇ?」
いやー良いもん見れたし聞けたわー!
これは家宝にしなくてはなりませんね間違いないっ!
「……猫娘が」
「ね、ねこむすめぇ!?」
え、なにそれ可愛い。
いやいや、猫かぶりって意味なんでしょうけどね!
「……心配してくれて嬉しいにゃん」
「……いいだろう、精々主力を守る盾となり役目を果たしてこい」
あ、駄目ですか。
まだまだ明治は語尾萌え文化に届いてなかったですかそうですか。
そんなわけで、色々改めてお船の上。
一度東京へ戻って準備をし直してって運びだったから忙しなかったけど。
幸い船酔いには強かったらしく、快適に過ごせている。
「――」
だから考える。
宇水対策。
やつ曰くの心眼、その正体は視覚が奪われたことにより発達した異常とも言える聴覚だ。
心音や筋肉の動きまで聞けるその耳は、確かに姿や光景を見なくともその場を把握出来るのかも知れない。
しかしながら、だ。
「おーい、弥生ちゃん。こんなもんでいいのか?」
「ん、はい、良いですね。ちょっと使ってみましょうか」
導火線に火を付ける。
ジジジと音を立ててそれが短くなって――
「おわっ、結構いい音するな!」
「……はい、これなら十分でしょう」
大きな炸裂音を響かせた。
今炸裂したのは爆竹。
玉屋、鍵屋ってのは江戸時代からある。つまり花火の専門屋ね。
花火が世に出回り始めたと同時に爆竹も花火に比べたら下火だけど流通している。
そう、今回宇水対策に用いるのは爆竹と銃。
「しっかし銃はわかるが、なんでまた爆竹なんか?」
「子供騙しと思われるかもしれませんが……私達が気をつけないといけないのはやはり夜襲です。暗闇の中、爆竹とは言え火薬。相手をひるませるには十分です、銃は爆竹をより効果的にするためのものですよ。主体は爆竹です」
宿みたいな小さなところで銃を扱うなんて難しいのはわかってるしな、しかも想定上では夜だし。
脅しというか、そんな要素でしか無い。
こちらの人数は五〇人と俺。
つまり五一人がいる、そんな相手に白昼襲撃を仕掛けるのは無謀ってもんだろう。
実際宇水も夜を選んでいる、夜襲、暗殺に近い形のほうがやりやすいと判断したんだろうさ。
時間や人目を気にしないでいいなら真っ向から相手しても勝てる実力が宇水にはあるんだろうけど。
仮に俺一人対宇水という状況で二時間耐えろってのは……十分じゃないけど可能だと思いたい。
ただ、今回はこの人達の生存ってのが条件にある。
形としては俺が宇水の注意をひきつけて、まわりから攻撃ではなく爆竹で宇水の注意を逸らすことが出来ればって感じ。
それにやっぱり爆竹は音もでかい。
宿場でこんなでかい音を立てたら当然騒ぎになるわけで。これなら一、二時間と言わずもっと早いうちから撤退という手段を取らせる事が出来るかも知れない。
何より。
「……憂さ晴らし如きであなた達の命を取られるなんて、許せませんから」
「ん? 何か言ったかい?」
「いえ、何も」
志々雄への復讐を諦めたくせに、諦めてないふりして。その憂さを晴らすために人を殺す。
しみったれすぎでしょ。かっこわるいにも程がある。
全員無事に京都へたどり着く。
恐らく宇水を撤退させることが出来れば、それは叶うだろう。
もしかしたら一度撃退しても何度か再襲撃してくる可能性はあるが。
どちらにしてもお互い時間は有限だ。
志々雄にびびってる宇水だ、そう到着を遅らせるわけにはいくまいて。
後は。
「そう言えば、弥生ちゃん。アレ、出来るようになったのかい?」
「あぁ……そう、ですね。一応、実戦でも出来ましたけど……まだ想像してる完成には程遠いですね」
「え、実戦したのかい!?」
ええまぁ一応。
ただほんとに完成には遠い。
理想というか完成形はやっぱり攻守……いや攻避一体の動きだ。
尖角は確かに速かった、それ故にあいつが疲れる、動きが鈍くなるまで回避に徹することしか出来なかった。
それはまだこれが完成していない証明。
「
「その呼び方やめて下さいってば……何だかむず痒いです」
この人達との稽古と……斎藤、新撰組の一つの技を必殺技にまで昇華させるというやり方。
それで思いついた回避一点を突き詰めた動き。
誰が言い始めたかそれが羽踏。
尖角戦でやったように、脱力し完全に弥生の異能へと身を任せるもので、攻撃力も防御力も投げ捨てて回避に特化した状態。
一番近いのは蒼紫の流水の動きだろうか。違うのは攻撃に
斎藤の牙突を避けつつ攻撃出来たのが一つの完成形ではある。
けどあれはまだ返し技って範疇を抜け出せていないようにも思える。
究極的には避けてる間に敵が倒れるって状態。
それが、俺の必殺技。
「だけど……一体弥生ちゃんは何処まで強くなる気だい? 正直――」
「言わないで下さい……まだまだ、こんなんじゃ足りないんですよ」
正直女の子にしては強すぎる、かな?
この人達もいい人だ、時代背景的に自分たちの上に女がいるってのは認めたくないことだろうに。
そんな雰囲気は欠片も見せず、憧れてくれている、倣いとしてくれている。
やっぱりそんな人をここで失うわけにはいかない。
「もし、完成できたら……」
剣心や斎藤……左之助の後ろに続くのではなく、並び立てるのだろうか。
そうなれば……いや、そうなりたいな。ならなくちゃ。