TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、再会につき

 さて、京都に無事で辿り着いたわけだけど今の状況はどうなってるんだろうか。

 流石に薫さんと弥彦はもう京都にいるだろう、白べこへ足を運べばもしかしたら会えるかもしれない。

 剣心は既に逆刃刀真打を手に入れてもう比古清十郎の下で奥義伝授のために修行を積んでいるだろうか。

 

 独自路線というか、原作から外れた障害ってのはやっぱりこのあたりに響く。

 時系列をそのままなぞっているだけだったのならこんなことで頭を悩まさないで済んだんだろうけど仕方ない。

 とりあえず斎藤との合流場所である警察署に行くべきなんだろうけど、状況把握も優先したいなんても思う。

 

「しっかし、京都か」

 

 弥生になる前でも京都に足を運んだ経験はない。

 けったいな話でもあるな、まさかこんな身になってから初めて来ることになるなんて。

 けども。

 

「お! ねぇちゃん! ちょお一緒に茶でもしばかへんか!」

 

「ひゅうっ! えらいべっぴんやん! ちょおこっちきぃへんか!」

 

 何処にでもこんなやつらは居るんだなぁ……。

 変なところで妙に安心してしまったよほんと。

 

「あはは、申し訳ありませんが少し急いでいますので」

 

「ええやんええやん! ほんまちょいだけやって! さきっぽだけでかまへんのや!」

 

 先っぽってなんだよ……お茶じゃ無かったのかよ……。

 アグレッシブが過ぎるぞ関西。怖いよ京都。

 全く命の危険は感じていないはずなのに何故か弥生センサーがフルオープンだよどうしてくれんのさまったく。

 

 ひょいひょいと……なんて言えたら良いんだけどまぁやり過ごしながら。

 ナンパなんて進んでるんだな都会ってやつはとか色々おかしいことを考えながら。

 とりあえず警察署に行く前に薫さんや弥彦に謝るほうが先かなと白べこを探す。

 

 その最中。

 

「――」

 

 鍔鳴りと共に背筋へと氷柱を突っ込まれた。

 

 四乃森蒼紫。

 

 その男が目の前に立っていた。

 

「抜刀斎は何処だ」

 

「……私が、それに答えるとでも?」

 

 センサーがフルオープンだと思っていた。

 でもそれは間違いだった。

 

 静かに剣心の居場所を聞いてくる蒼紫の瞳は言わなければ殺すと言っていたし、それをそうだと感じる間もなく身体が避けたがっている。

 一瞬にして弥生の異能がすべて蒼紫に向けられていることを実感した。

 

「言わなければ――」

 

「殺すと? やれやれ、無理矢理にも程がありますね。自らが望む情報を持つであろう人間を殺すなんて愚の骨頂だとは思いませんか?」

 

 なるほど、蒼紫にとってはまだまだ俺は一般人と変わりない一人のままだったんだろう。

 確かにこの人相手に俺の実力を見せたことはない、だから仕方ない。

 

 とは言えこの人に勝てるなんて到底思えない。

 思えないけど簡単に殺されるような自分ではないという自負と自信もあった。

 

 だからだろうそんな言葉が勝手に口から出たのは。

 だからだろうそんな俺へと僅かに瞳を揺らしたのは。

 

「……」

 

「なんて、ね。そう剣呑な目をしないで下さい。私は別にあなたと抜刀斎の決着を邪魔する気は無いです。無いだけに知っているのなら伝えていますよ」

 

 実際あてはあるわけで。

 居るとすればさっきも考えた通り逆刃刀真打を手に入れるために動いているか、比古清十郎の下に居るだろう。

 それを伝えることに抵抗は無い。

 

 ってのもここで剣心と蒼紫の戦いが実現して決着が付けば、志々雄のアジトで言ってしまえば余計な傷を剣心が受けることもなくなるからって考えがある。

 それでもはぐらかしたのは志々雄のアジトに四乃森蒼紫が居ない状態ってのがどうこれからに作用するのかわからないからだ。

 もちろん、最強という華を手にしたいというのならば、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)を会得した剣心と戦ってどうぞとも思ってる。

 

「そうか」

 

「……それでも私の口を割ろうとするなら相手をするのもやぶさかではありませんが?」

 

 いや正直めっちゃやぶさかあるから勘弁して欲しい。

 剣心、斎藤、蒼紫は紛れもなく原作最強クラスだもん、経過はどうあれ最終的に負けるだろうすなわち殺される。

 

 ……いや、そこに並び立とうと思ってるんだ。

 逃げても居られない、か。

 

「どうします?」

 

「……」

 

 覚悟を決めて目を見返してみれば、もう興味を失ったかのように背を向けた蒼紫。

 

 ……残念だとも、良かったとも思う。

 そして良かったと思う気持ちを否定できないということは、まだまだ並び立つには覚悟も実力も足りてないなと悔しく思った。

 

 

 

「ご苦労だった」

 

「ええ、我ながら苦労だったと思いますほんと」

 

 白べこに行ってみれば、そこに薫さん達は居なかった。

 妙さんの姉、冴さんいわく探し人が見つかったとかなんとか。

 つまり現状、剣心は既に逆刃刀を手に入れて比古清十郎の下へと行っているのだろう。

 

 確認出来たことだしと警察署に向かえば丁度斎藤も着いたところだったらしく、同時に鉢合わせたことを少し驚いたんだろうその後に労ってくれた。

 

「報告は後でまとめて聞く。どうやら志々雄一派の剣客が捕らえられているらしくてな、まずはそっちからだ」

 

「ええ、了解です」

 

 十本刀、張のことだろう。

 剣心が逆刃刀真打を手にしたというのなら、張は敗北して警察に引き渡されているわけで。

 一先ず大きく原作と食い違っていないことに安堵した。

 

「長旅ご苦労。そして藤田君、彼女が――」

 

「ええ、協力者です」

 

「始めまして、巫丞弥生と申します」

 

 角刈り小太りの署長さんへと挨拶をしてみればやっぱり驚かれている様子。

 まぁそりゃそうだよな、何処まで斎藤から説明されてるかは定かじゃないけど、こんな裏の血なまぐさい案件に絡むようには見えないだろうし。

 

「ご安心を。署長が想像しているよりも遥かに使える女です」

 

「そ、そうか……いや、キミがそういうのなら何も言うまい」

 

 使える女ですってよ奥さん。喜んで良いのか微妙ですわね!

 まぁ良いですよ構いません、そういう評価を得られる位置には辿り着いたと思っておきましょう。

 

 そうして三人で地下へと足を進める。

 

 ……ちょっとドキドキしてきた。

 ようやくというかまぁ俺にとっちゃ張がどうのってよりも、左之助との再会のが緊張するイベントなもんで。

 

 どんな風に話してたっけな。

 正直()をさらけ出したのは別れるあの時一回だけ。

 剣心も言っていたように、素の俺ってやつはどうにも少し皆の弥生とは違うらしいし。

 

「へへ、思惑通り……って、弥生?」

 

「……」

 

 さぁ、やってきたよ俺ってば。

 

 どうする?

 俺は今、なんと言葉を紡げばいい?

 

「何だ、こいつを知っているのか?」

 

 斎藤が水を向けてくる。

 その顔は何処と無く悪戯っぽい。

 知ってるも何も、道場でやりあった時のこと忘れたわけじゃないでしょうに……って、あぁ。

 

「いえ全く」

 

「そうか、なら単なる人違いか頭がイかれているかのどちらかだな。どちらにしても邪魔だ、ここに閉じ込めておきましょう」

 

「うむ」

 

「ちょっと待てコラァ!!」

 

 いやー斎藤さんってばお茶目さんだなぁ! そんな一面あるんすねぇ! 弥生の中で斎藤株ストップ高ですよえへへのへ!

 

「逃げんのかてめー()! 開けねぇなら自分で開けるぞ! いいな!」

 

 ま、そうだよな。

 いい感じに緊張を解してくれてありがとさんってことで一つ。

 

「な……!」

 

 いい音するなぁ……流石二重の極み。

 そうですよ署長さん、あれ、二重の極みっていうんスよ。

 

「以前の俺と同じとナメてかかると、てめぇらもこうだぜ?」

 

「署長。こいつの始末は私()がつけます。上で待っていて下さい」

 

 その言葉になんとも言えない目を返した署長だけど、結局言われた通り上へと戻っていった。

 

「正直、探してた……いや、会いたかった奴が二人同時ってぇのは混乱するがよ。まずは――」

 

「なるほど、技の発想は空手の(すか)しと同じようなものだな、尤も威力は――」

 

 さて、斎藤が左之助の口上なんざ知らぬとばかりに二重の極みを検証して、防御のいろははどうしたなんだと左之助といちゃついているわけだが。

 

 一言、見違えた。

 

 なんて言ってしまえば上から目線で嫌な感じかもしれないが、左之助の姿を見た感想はそれだった。

 確かに技を教えた悠久山安慈が言っていた若鶏のようだという言葉。

 思わず頷いてしまいそうになる。

 

 だからだろう、二重の極みで驚かされただけじゃなく斎藤が左之助の相手をしているのは。

 使えるかも知れない。そんな気持ちなのかも知れないが、ようやく左之助へと向ける視線の種類を変えた。

 

「あー!! 納得いかねぇ!! 勝負! 勝負せい! そこで素知らぬふりしてる弥生もだっ! てめぇそういうところだぞ!!」

 

「ぷっ」

 

 うわ、久しぶりに聞いたなそのセリフ。

 思わず笑っちまったよ、あぁ、馬鹿にしたわけじゃないですって落ち着いて下さい。

 

「まぁまぁ落ち着いて下さい」

 

「あぁ!?」

 

「私は斎藤さんと違って優しいですから。ちゃんと後で相手をしてあげます(・・・・)。今はそんなことしてる暇が無いだけですよ」

 

 ねぇ斎藤さん? なんて目を向けてみればやれやれと鼻を鳴らす斎藤。

 暇なやつだ、付き合いのいいやつだ……わかってるじゃないか。

 そんな色々な意味を含めた目で見返されてしまう。

 

「ちっ! 覚えたからな! ちゃんと後で喧嘩すっぞ!」

 

「ええ、約束です。斎藤さん」

 

「あぁ」

 

 そう言ってから厳重に閉じられたドアを開ける。

 

「……なんや随分騒がしかったなぁ? こちとらええ気分で寝てるんや、もちっと静かにしてえな」

 

 さて、それじゃあ尋問開始ですねっと。

 

 

 

 なんというかな鳥対箒の勝負が終わって。

 やっぱり左之助も大概かっけぇなぁなんて感想を覚えながら両手が自由になった張。

 約束通りなんでもしゃべると言ったことは嘘ではなく、志々雄による京都破壊計画についてが語られた。

 

 俺の護衛があったおかげというべきかその剣客隊襲撃についての話は挙がらなかった。

 これについては後で俺から斎藤へと話さなければならないだろう。

 

 そう、後で。

 

「……弥生」

 

「はい、何でしょう?」

 

 今は、喧嘩(再会)のお時間だ。

 

「俺が京都に何しに来たか、わかるか?」

 

「足手まといになるためでしょうか?」

 

 我ながら性格が悪い。

 剣心の力になりに来たってのなんて重々承知している。

 だけどまぁ俺と左之助は絶賛喧嘩別れ後の喧嘩中、だったらこれくらいのことは言っておかないといけないだろう。

 

「あぁそうだ。てめぇ達の力へなりに来たんだ」

 

「……へぇ?」

 

 挑発したつもりだけど。

 意外にも左之助は激昂するわけでもなく、ただ静かに俺の目を見てくる。

 

「悔しかったぜ、あの喧嘩はよ。ずっと妹みたいに思ってたヤツが……守ってやらねぇとなんてガラにもなく思ってたヤツがよ。俺にすら手に負えねぇだろう何かと戦おうとしてたって気づいてな」

 

「……っ」

 

 果たして。

 見くびっていたって言葉は生ぬるすぎた。

 俺は左之助を知った風に扱っていたけど真に理解していなかった。

 

「ちっせぇ身体で、俺より弱えと思っていたヤツが精一杯必死によ。何にそうしてたのかはわかんねぇ、けど気づいた俺は本気で自分をぶん殴りたくなった」

 

 左之助は言ってるんだ、俺にそう言わせてしまった自分が情けないと。

 そんな自分で居てしまった、居続けてしまったことが悔しいと。

 

「お前は、強え」

 

 弱いやつ扱いされたことなんて、欠片にも腹を立てていなかった。

 こうすれば後腐れなく一旦別れることが出来るなんて俺の目論見は、全くの無駄で無為だった。

 

「だからよ……俺の喧嘩、買ってくれや。喧嘩屋斬左でもねぇ、てめぇのボディガードでもねぇ。相楽左之助の喧嘩をよ」

 

 誰にも迷惑をかけないところでとやってきた夜の河原は寒い。

 だと言うのにものすごく心が熱い。

 

 あぁ、やっぱり剣心組はどいつもこいつも揃ってカッコ良すぎる。

 

 原作知識を小癪に利用して、降って湧いた力を利用して。

 小賢しく、はしっこく。

 そうやってここまで来た俺でも。

 

「口では如何程でも……らしくないですよ、左之助(・・・)。かかって、来なさいっ!!」

 

「へっ!! ありがとよっ!!」

 

 なれるだろうか、かっこよく。

 この人達の隣に、真に並べるだろうか。

 

 いや。

 

「あああああああ!!」

 

「うおおおおおお!!」

 

 なってやるっ!!

 


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