TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ…… 作:ベリーナイスメル/靴下香
「はっ! あそこで見せちまったのを後悔するぜっ!!」
「ええ! 大盤振る舞いするのも大概にしたほうがいいですよ!」
あの時の喧嘩。
俺は左之助の振るう拳に向かって木刀を振った。
相手の力を利用して、木刀の柄尻でその拳を破壊しかかった。
今俺の左頬を通り過ぎていった腕。
かつてのようにそれはもう出来ないだろう。
やろうと合わせた瞬間二重の極みで木刀ごと俺が壊される。
「ちぃっ! 相変わらずっ! そういうところだぜっ! 弥生いぃ!」
「めんどくさい技拵えてっ! それはこっちのセリフですよ左之助っ!!」
甘えたことを言えば左之助は別に俺を殺そうとは思ってないだろう。
だけど、それを理由にして回避に手を抜いたり知ってしまっている二重の極みへの警戒を疎かにしてしまえば何より左之助を侮辱していることになる。
とは言えまだ羽踏は発動させていない。
かつてのように異能で避け続けて、相手の隙を木刀で穿つ。
やっぱりそれだけじゃ大したダメージを与え続けられない俺ではあるけど。
「ぐっ……!」
「どうしました!? 前より弱くなったんじゃないですか!?」
塵も積もれば山となる。
さっきから俺は左之助の隙をしっかり狙って攻撃を右肩に集めている。
これは本能だ。
反射という本能に限りなく近い何かを利用した攻撃。
確かに大したダメージではないのかも知れない、だけど露骨過ぎる攻撃の集中ってのはわかっているだけに意識の中へとこびりつく。
左之助みたいなタフな相手は本来気に留めるほどの攻撃じゃないってわかってる。だからこそ無理やり意識の中へと割り込む攻撃を繰り出さないといけない。
実際左之助はそれが出来る人間だし、利用もしてきた。
だから気付かせる。斎藤が言っただろう防御のいろはを無視した代償を刻み込む。
現に痛みを実感してきたんだろう、僅かながらに肩を気にする、かばうような反応を見せ始めている。
やっぱりこれも俺だから出来る左之助への対処方法。
羽踏を発動させてしまえば意識的に攻撃を集めるなんて出来ない、だから発動ギリギリのラインで踏みとどまる。
「強え。弥生、てめぇはほんとに強くなった」
「ええ、ありがとうございます。お陰様ですと言っておきますね」
少し距離が空く。
お互いの間合いは交差していない位置で左之助は笑う。
「だがそうじゃねぇだろう、てめぇはまだ手を残してる。だからこうして俺に教えるみてぇな戦い方が出来るんだ」
「……」
まぁ、気づかれるか。
いや正直驚いてるよまじで。
そう、俺は今左之助にとって超える壁になっている。
剣心を一発ぶん殴ってお前の力になりに来たってセリフ。
それを俺へと示そうとしているんだ。
「てめぇにとって俺ぁまだ東京にいた頃の俺だろうよ。それで構わねぇ、
つまり。
「認めさせてやるぜ、弥生」
「……どうぞ」
左之助の表情が変わった。同時に異能が一斉に警鐘を鳴らしてきた。
今のままじゃ、死ぬ。
これは左之助なりの信頼のぶつけ方だろう。
自分が本気を出してもこいつは死なない、なんていう。
ありがたくも思う。正真正銘今、俺と左之助は遠慮がいらない関係に至ったのだろうから。
だから。
「――羽踏」
意識を委ねる。
委ねた先は自分の中にある弥生という異能。
力も、感覚も……全幅の信頼を
俺だけの世界へと入り込む。
左之助が見せるというなら俺も見せよう。
あんたが見る俺って存在がどうなのか、もう今はわからない。
わからないから教えてくれ。
俺は今、あんたにとってなんなのかを。
妹分と思われているなら今は何なんだ。
守ってやらないといけない存在だと思っていたなら今は?
かつて俺が憧れ追いつく目標とした、悪一文字の背中は今、何処にある?
「――」
雄叫びを上げてるんだろう気当たりが凄い。
右腕を振りかぶりながらの突貫、露骨過ぎるこの手で殴るという意思。
そう、右手だ、二重の極みを発動出来る右手。
左之助だってわかってるだろう、その右手さえ避けることが出来ればって俺の考え。
当然だ、二の矢として左手で殴ろうとしてくればその左手に合わせてかつてのようにカウンターを決めればそれで左手は終わり。
後はさっきと同じように、立てなくなるまでダメージを積み重ねてしまえばそれでいい。
如何に左之助がタフで、倒れても倒れても立ち上がってくる意思と力の強さを示しても、あの時と同じく物理的に不可能になってしまえばどうしようもないのだから。
それだって、わかってるだろう? 左之助。
だったら、あんたは、何を俺に見せる?
「っ!?」
「おらぁっ!!」
確かに、確かに身体は避けようとした。
しかしそれは右手に対して反応したわけじゃなく。
地面。
「くっ!?」
二重の極みの威力が地面に伝わり弾ける。
大小様々な石礫が俺へと飛びかかってくるけど――無理だ多すぎる! 避けきれない!
「おおおおお!!」
だけど、だけどだ左之助!
その程度の痛み、俺だって我慢できるんだぜ!? その程度で俺の異能を捉え超えられるなんて甘いっ!
残念だよ左之助!
ならここであんたの繰り出そうとしてる左手、責任持って貰い受けるっ!!
「――なっ!?」
「……どうだよ示せたか? 納得は出来たか? 俺は、てめぇの力になれるか?」
左之助の左拳を潰すつもりで振った木刀が――砕け散った。
「右手だけ……そう思っていたのが、間違いでしたか」
「どうして右手だけだと思ったのかはわかんねぇが……まぁ、ご覧の通りでぇ」
大誤算、なんて一言で言えば済む話だけど。
まじか、左之助、両手で二重の極みを使えるようになったのか。
「おらっ!」
「あいたっ!?」
呆然と砕けた木刀を見ていたら、不意に頭を叩かれた。
「お前には左手で勘弁してやる。もう一人ぶん殴らねぇといけないやつが残ってるからな」
「……ふふ、その技を使うのは勘弁してあげてくださいね?」
あぁ、そっか。
わかった、わかったよ左之助。
あんたは右手で剣心を、左手で俺を殴るためにここまでやってきたんだな。
「んで? どうだ? まだ足りねぇってんならもういっちょやってやってもいいが?」
どうだと言わんばかりの表情。
久しぶりに見たな、当然か。
だけどやっぱり、酷く心地が良い。
「完敗ですよ左之助。ええ、私には……私達には勿体ないくらいです」
「そうかい、だったら良かったよ」
あー……悔しいとすら思えねぇや。
やっぱりこいつら強すぎる。
そうだ、そうだよな。
ここはもう、俺の知ってる舞台ってだけでキャストは同じだけど同じじゃない。
それでも、やっぱり性根は変わらずに輝いていて。
「左之助」
「なんでぇ?」
大人しく白旗を振ろう、嬉しい気持ちのまま。
「これからも、よろしくおねがいします」
「おう」
かつて目指した悪一文字を靡かせた背中が、隣にあることを実感した。
「そうか……」
左之助との再会が終わり。
斎藤へと神戸から京都への道中で起こった事を報告した。
宇水と交戦したことがメインではあったが、張の話にも出てこなかったしあいつが十本刀であるってことが伝えられないのがもどかしかったけど、これもまぁ仕方ない。
代わりに死を覚悟するほど強いやつに襲撃されたって体で話す。
こちらはそれなりの剣客が揃っている中一人で襲撃してきたことも含めてかなりの腕前であるということ、盲目でありながらこちらの動きをすべて把握しているかのように戦うこと。
そういった事を話していた時、斎藤自身襲撃者が十本刀であるのでは無いかとあたりをつけたような感じだった。
京都に来るまでと来た後、志々雄一派の一般兵とでもいうかそういった奴らの実力はある程度掴んでいるだろう斎藤。
新月村での戦い含めて、俺としても一般兵相手に遅れを取る可能性はほぼ無い。
そんな俺が手こずったというだけでも警戒に値するなんて嬉しいことを言ってくれた。
こう、改めて剣心や斎藤っていう強キャラさんから向けられる俺への認識だけど、多分斎藤が一番俺のことを買っているような気がする。
気のせいかも知れないけど、相性いいんだろうな……複雑だけど。
「襲撃者については改めて張へと確認しておこう。仮に十本刀と同等の位置にいるとして考えるのならば間違いなく俺の用意した剣客隊は相当な被害を受けていたはずだ。改めて、ご苦労だったな」
「はい、ありがとうございます」
気のせいじゃないかも知れないね。はい。
何が斎藤の琴線に触れてるのかいまいちわからないけど、良好な関係を築けてるわこれ。
「ともあれ京都破壊計画だ。これについて貴様はどう思う?」
「そう、ですね……」
京都破壊計画は東京攻撃の隠れ蓑。
だなんて言うのは簡単だけど、まだその時じゃないだろう。
まだ斎藤が持っている情報が足りていないし、役者も揃っていない。
「気になることがあるとすれば、簡単に情報が掴めすぎているという部分でしょうか」
「……続けろ」
「警察……こちらの諜報部が優秀であるとしても、です。張は簡単に情報を吐いていますし、また吐かれては困るからと処分される雰囲気もない。これは明らかにおかしいです」
後の展開先取りではあるけど。
少し考えればやっぱり分かる話でもあるのだ。
確かに張は厳重な警備の下ここへ拘置されているが、宇水や宗次郎。そういったクラスの実力者ならば張を処分するのは不可能ではないだろう。
このタイミングなら宗次郎はまだ十本刀招集のため京都にいないかも知れないが、それでもそれを知っていない人間はそう考えておかしくない。
「貴様もそう思うか。まだ俺がここに到着して間がないが、そういった動きは確認できていない」
「何か裏がある……とまでは考えられますが。ごめんなさい、それ以上のことは考えが及ばないです」
そこまで言ってみれば斎藤は瞑目して考え込む。
少しもどかしいけど、答えを出すのはやっぱり剣心が揃ってからだろう。
もしかしたらここまでの情報と俺の言葉で斎藤はあたりを付けてしまうのかも知れないけど。
「そう言えばあの阿呆と一戦交えたんだったな? どうだった?」
「左之助のことですか? やですよもぅ、気になるならご自分で戦ってみてはどうですか?」
おっと、話題の転換ですね? それに左之助を持ち出してくるなんてやっぱり気にしてるんですねーもう。
「その顔はやめろ。俺が聞きたいのはヤツの実力ではない、戦った貴様の仕上がりが気になっただけだ」
「もー誤魔化さなくても――あ、いいえ、なんでもないです。そう、ですねぇ……」
最大の驚きといえばやっぱり両手で二重の極みを使えるようになったことだろう。
これがこのまま原作通りの流れを辿って安慈と左之助が戦うことになった時どう作用するのかはわからないけど、単純なスペックとしてまだまだ安慈に届いていない左之助だろうからそこまで心配はしていない。
じゃあ斎藤が気にしているらしい俺の仕上がりについて。
「自分の弱点がしっかりわかりましたよ」
「ほう」
興味の光を俺に向けてきた。
「やっぱり私はどうやっても物理的に避けられない攻撃には弱いです。言ってしまえばまったくの同時、広範囲攻撃には手も足も出ない。もしもあれが石礫ではなく爆発などといった致命的な攻撃なら……考えたくはないですね」
実際二重の極みで弾けた地面は爆発と言っていい位のモンではあった。
あの時は気にならなかったけど、戦い終わった後避けそこねてた礫の当たった場所は青痣になっていたしそれなりに痛かった。
もっと大きな礫だったりしていたら骨までいっていたかも知れない。
そう考えてみれば操ちゃんの飛苦無も状況や投げられる飛苦無の数と範囲によっては俺の弱点に届き得るもんではあるんだろうな。
直接的な防御力が足りないってのは俺にも当てはまる。
回避力と防御力はやっぱりイコールでは結ばれないのだろう。
加えて読み。
何時だったか思った読みの技術も必要だろう。左之助の右手が地面狙いであるってのは気付けるだろう範囲だし、読めていたならもう少し違った戦いになっていたはずだ。
放置していたツケとでも言うか、読み技術の向上は羽踏発動のタイミングを測るのには必須だろうし意識しねぇとな。
「なるほどな。しかしそれが叶う攻撃がどれほどあるかと考えれば……そう多くはないと思うが」
「ええ、ですが弱点の把握は大切です。そうでなければ牙突に種類を設けてはいないでしょう?」
言ってみれば斎藤は少し目を丸くして。
「ふん……やはり貴様は察しが良すぎるな」
「お褒めの言葉ありがとうございます。まぁだから、ですよ。私の必殺技も幾らかカバーする面を考えなければならないでしょう」
俺にある武器といえば神谷活心流剣術とこの異能。
神谷活心流奥義が刃止めであることのように、基本的には防ぐことを目的とした剣技が多いように思える。
膝挫にしても相手の力を利用するってことは、相手が攻撃しようとしてくるって結果の後、要するに後の先を取る形だ。
それはこの異能と相性がいいってのはわかってる。避けながら攻撃するってのは非常に神谷活心流とマッチしている。
つまるところ俺の異能含めてさらなる高みへ至るためには神谷活心流の習熟が必要不可欠なんだろう。
「それはもちろんそうだがあまり欲張るな。先が見えたからと言って、それを為せるのはまだ先の話だ」
「……はい、わかっています」
これから先、少なくとも志々雄一派との戦いが終わるまで俺が神谷活心流の稽古をする時間は取れないだろう。
薫さんと別行動を取っている時点で神谷活心流の習熟は難しい。だからこそ異能を活かした戦い方を模索しているものの……これは一つの到達点に辿り着いたと言っていい。
改めて俺は今の俺で京都編を乗り越えないといけないのだ。
警察側に居るというか、斎藤の側にいている以上この後の動きは自分の意思よりも斎藤の采配にかかっている。
京都大火への備えとして警備に回っている警官、剣客隊の指揮を取るって可能性もあるし、もしかしたら煉獄出港阻止に回るかも知れない。
俺としては……いや、なんとも言えないな。
「まぁいい。話を戻すが、現段階では判断を下す情報が足りていない。抜刀斎もまだ姿が見えんしな。僅かな時間しか無いのかも知れないが、貴様は京都巡回、警邏にあたっておけ」
「わかりました」
言うように、もう時間は多くないだろう。
左之助との再会も果たせた、薫さん達とはまだ会えていないけど……どういうルートを辿っても顔を合わせることにはなる。
だったら、その辺りも含めて覚悟を固めておこうじゃないか。