TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、京都守護者につき

 ――頼んだぞ。

 

 そんな言葉は俺の心を震わせた。

 なんとなく利用しているだろうと感じていた側面がある斎藤だけに、こうして心底任されるって確信できるものには重みを感じた。

 

 剣心と左之助、斎藤は原作通りに煉獄出港阻止へと向かい、俺は京都に残った。

 前にも思ったけど、やっぱりあの戦いはどう考えても足手まといになってしまう。

 役に立てる術があるとすれば剣心よりも先に煉獄を偽装した船を見つけることかもしれないけど、誤差に過ぎないだろうし。

 発見した後の事を考えれば剣心や斎藤はともかく、左之助のように海に浮かぶ板の破片を飛び石代わりに行くなんて芸当も無理だ。

 泳いで近づいたにしてもそれこそ煉獄が持つ兵器のいい的でしかないだろう。

 

 力になれることは是非もない、ただそれでも皆の弱点になってしまうのだけは嫌だった。

 

 悔しい、とても悔しいけれど。

 わきまえなければならない、退かなければならない一線っていうものはある。

 

 我ながら何を今更なのかも知れないけど、煉獄戦に関してはこれに抵触する部分だと思う。

 そう思えばこの後に続く比叡山、志々雄アジトでの決戦はどうするべきだろうか。

 内心、当然というかついていきたい気持ちはとてもある。

 だけど、この煉獄戦が言うところの締め切りだろう、志々雄へ明確に倒すべき敵として認識されるその機会の。

 

 なら、葵屋襲撃へと向かってくる十本刀への備えとして残る道。

 翁さんは負傷で動けないから当然として。かつ、増髪さん達京都御庭番衆の実力が操ちゃんとそう変わらないものだとするのなら。

 

「俺が一番の戦力、か」

 

 恐らくそうだろう。

 

 薫さんと話して、少し弥彦の稽古に付き合って。

 

 ――神谷活心流の剣客としてなら私の方が強い、けどただの剣客としてなら弥生ちゃんに勝てると思えない。

 

 思わず買いかぶりだと慌てて言おうとしたけど、そういった薫さんの目はとてもおだてているようには見えなくて。

 生唾を当然飲み込んで、ゾッとしたもんだ。思っていた以上に俺はどうやら死線を潜りすぎていたみたいだ。

 

 救われたのは続いた言葉で、負けるつもりはないと言われたこと。

 神谷活心流の師範代としてまだまだ教えるべきことは見えるし、勝てないながらも負けることもないと言ってくれたんだ。

 

 正直薫さんの実力っていうのはいまいち掴めないところ。

 神谷活心流という括りの中で言う俺は恐らく弥彦と同等か辛うじて少し上の腕前で、その遥か上に薫さんがいる。

 掴めないのはその括りから外れた、命を賭けあった戦いの中での実力。その勝負の行方が不透明なんだ。

 

 試してみたいという気持ちはある。

 だけどそれ以上に恩人であり、姉である薫さんと刃を交えたいとは思わない。

 

 だからそれはそれでいい。

 

 戦いの中で肩を並べたいと思ったのが剣心達なら、神谷活心流を担うものとして肩を並べたいと思ったのが薫さんだ。

 それがきっと最高の恩返しで、俺のやりたいことの新しい一つとなった。

 

 とは言え、だ。

 

「……京都大火阻止、か」

 

 今晩起こるのは大軍と言えば大げさかもしれないが、複数対複数の戦い。

 当然そんな戦いの経験はないからいまいちどう動けばいいのかはわからない部分がある。

 剣客隊の人は任せろと言ってくれたものの、俺がいるという変化をどう繋げるかが大切だ。

 

 原作では死者、重体者が僅かといえ出てしまった戦い。

 

 この世界でもそれを同じ結果を辿ってしまえば斎藤はよくやったと言ってくれるだろうが、俺が自分を許せない。

 そう考えた時、一番に抑えるべき相手は飛翔の蝙也だろう、あの空をある程度自在に動ける存在は極めて厄介だ。

 極端な言い方をすれば人数の壁を無視できないそれ以外の十本刀は当たらないでにらみ合いをしていればいい。

 お互いの兵と兵をぶつけ合って硬直状態を生み出せば、その間に火付け役が失敗し目的達成不可能になる。

 そうなってしまえばこっちのもんだ、相手は最大目標を失ってまで留まる理由がない。

 

 無論十本刀それぞれが一騎当千の強者である以上、刺激を強めてしまえば兵を下げて出張ってくる可能性が高まってしまう。

 ゴリ押しで火付けを成功させてしまうのが怖いところだろうな。

 

 変に十本刀……特に悠久山安慈、魚沼宇水の情報は操ちゃんに伝えないほうが無難だろうか。

 知ってしまい変な警戒をさせてしまえば、原作通り宇水の行動を安慈が止めるといった展開を失ってしまいかねない。

 ものすごく気が進まないけど、操ちゃんには危機一髪体験を経て盛大に悔しがってもらおう、ごめん。

 

 ともあれどの道俺は警官側だ。

 棚の上にぶん投げているかも知れないが、自分の事を考えよう。

 

「さて、どうするかな……」

 

 頭を抱えながら、葵屋へと足を運んだ。

 

 

 

「いいですか! 常に十本刀の姿には警戒して下さいっ! 深追いは決してしないように! 専守防衛! 相手を倒すことではなく京都へ入れない事を第一にっ!!」

 

「了解っ!!」

 

 どうしてこうなった。

 

 いやまてほんとにどうしてこうなった。

 なんで俺が正面部隊の指揮を取ることになってんだ、おい署長どういうことだ説明しろ。

 

「い、いいのかね!? 相手はそこまで多く兵の数を減らしていない! このままではその十本刀とやらが来てしまったら――!」

 

「むしろその方が都合がいいんです! 姿が見えないことが一番怖い! それにこの戦い、相手を倒すことが勝利条件じゃありません! 京都を守りきることが勝利条件です!!」

 

 あー! もう!

 わたわたしてんじゃねぇよ! てめぇタマついてんのかこのやろう!

 

 斎藤も余計なことを言ってくれたよこんちくしょう!

 相手の実力をよく知る俺を全面に頼るじゃないっすよ!

 頼るのと指揮預けるのは話が違いますよほんとに!!

 

「弥生ちゃん! 相手は怯え腰だ! このまま一気に行けば――!」

 

「駄目です! 宇水を忘れましたか!? 深追いしたところをぐっさりなんて私は泣いてしまいますよ!?」

 

 剣客隊さんあんたらもだ!

 ええ、ええよく警官達をまとめましたよ! ほんとにすごいっす!

 でもそんなあんたらがなぁ! 俺を頼ったらなぁ!

 

「報告! 敵敗走の気配!!」

 

「ありがとうございます! ここが一番の警戒どころですよ! 兵が下がろうとすれば相手はより大きな力を投入してくるはずです! 前で戦っている人にそう伝えて下さい!」

 

「了解しましたっ!!」

 

 こうなるだろ!? あいつなにもんだ、あの人達が指示に従うとかすげぇ人だってなるだろ!?

 

 まぁじ勘弁してくださいよほんとに。

 俺はさ、こうさ、使われる立場だと信じてたのにさ。

 信じて送り出された俺はなんだこれ話が違う状態だよ。

 

 やりづれぇ……めちゃくちゃやり辛い。

 

 でも、まぁ。

 

「被害状況は!?」

 

「はっ! こちらの損害は軽微! 負傷者はすぐに下がる事を徹底しています故重傷者、死者は今の所ゼロです!」

 

「ありがとうございますっ!」

 

 指揮と言えない指揮だろうけど、今のところは最良の結果だ。

 時間はもうすぐ零時。

 そろそろだろう十本刀が火の手の上がらないことを訝しんで姿を現すのは。

 

 そう思った時。

 

「――!」

 

「ほう……?」

 

 あっぶねぇ!? 今のは本気でやばかった!

 

「い、今のは?!」

 

「……十本刀の一人でしょう。まっすぐ指揮官……私を狙うなんて、流石いい度胸してますね」

 

 予想通り、想定通り飛翔の蝙也。

 警官隊を狙わず直接王狙いとは恐れ入った。

 

 兵をターゲットにしなかったのはラッキー……いや、ちゃんと頭を下げろって指示があったし、上手く警戒できたが故に俺しか狙えなかったのかもな。

 

「署長、ここの指揮はお返しします。……専守防衛、いいですね? 十本刀と思われる相手が前に出たら剣客隊の人複数で相手をして貰って下さい」

 

「なっ!? 弥生君! キミはどうするんだ!?」

 

「私ですか? 私は――」

 

 ――あのうざったいハエを叩き落としてきます。

 

 

 

「わざわざご苦労なことだ。俺はすぐにでも別の場所に翔べるというのに」

 

「そうですね。まぁ、雑魚相手に粋がりたいならそうすればいいと思いますよ? 誉れ高き? かどうかはわかりませんが、女相手に逃げる十本刀さん?」

 

 俺より高い位置から見下してきた、なんとなーく癋見臭がするこちら飛翔の蝙也さん。

 挑発へ簡単に青筋を立ててるあたりも似ているなぁなんて思いながら、屋根の感触を草履越しに確かめ木刀を向ける。

 

「貴様――」

 

「あぁ失礼。確かにあなたの攻撃はこういった戦いでは有用性抜群……私の戯言を捨て置いてどうぞせせこましく警官と戦って下さい」

 

 釘付けにするためとは言え肝が冷える。

 正直なところ、蝙也の飛空発破は俺にとって最悪に近い攻撃手段。

 剣心のように翔べるわけでもなし、弥彦程身軽でもなし。

 本気であいつがダイナマイトを使いながら飛翔し戦うといった戦法を取られてしまっては為す術もない。

 

 それにダイナマイト。

 これは俺の弱点でもある広範囲攻撃だ、相性だけで言うなら最悪に近い。

 ましてや今は屋根の上。

 それこそ使われた瞬間民家へ被害が当然出るし、最悪これが原因で火の手があがってしまう。

 

「死に急ぐバカを相手にする暇はない。一瞬だけ時間をくれてやる」

 

「それはどうもありがとうございます。一瞬で天国へ連れて行ってあげますよ」

 

 だから剣を交えるのはこの一瞬だけ。

 この一瞬にすべてを賭ける。

 

「――死ね」

 

 蝙也の取った手段は――滑空。

 

 狙うは一点。

 その身を包む外套の留め帯。

 

 すでに弥生の世界に入っている。

 身体は相手の持つ刃を簡単に避けてくれる。

 

 だから集中。

 狙いを定めたその一閃は。

 

「――なっ!?」

 

「ごめんなさい。行き先間違えました。そちらは地獄行きとなっております」

 

 見事に留め帯を引き裂いた。

 

 バランスを崩してゴロゴロと転がり落ちていったその先は……残念、志々雄側の陣営か、これじゃ確保は出来ないな。

 まぁ、あいつには弥彦が成長するための糧になってもらうって大事な役目があるしこれでいいのかも知れない。

 

 尤も。

 

「恥を忍べる器があれば、だけど」

 

 プライドの高そうなヤツだ、引き返してどういう扱いを受けるのかはわからねぇけど。

 汚名返上に燃えてくれることを祈るばかりだ。

 

「……ん?」

 

 屋根の上から見ればどうやら相手の多くは敗走を始めたようだ。

 多分、鎌足の部隊はまだ抗戦してるのかもしれないが……助太刀しに行こうそしてダメ押しだ。

 

 とりあえず。

 

「なんとか……なったか?」

 

 怪我人の数を聞くまで安心は出来ないけど、どうやら少なくとも京都を守り切ることは出来たと確信できた。

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