TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、東京帰還につき

 一ヶ月。

 俺たちが繰り広げた葵屋での死闘、剣心たちが繰り広げた比叡山での死闘から経った時間。

 

 あの日の夜、満身創痍とはいえしっかり帰ってきてくれた剣心たち。

 ちゃんと原作通りの結末を迎えることで一安心したのもつかの間だったのは俺。

 

 所属している組織の違い。

 なんだかんだ言ってもやっぱり警察組だった俺はそれなりに忙しかった。

 

 ……いや、太ももライフルでぶち抜かれたって相当な重傷なんだけどさ、まじで。

 人使いが荒いにも程があるよ、なぁ斎藤さん。

 

「……なんだ? 言いたいことははっきり言え」

 

「べっつにぃ?」

 

 まぁ流石にブラック企業も真っ青な使われっぷりをされたわけじゃない。

 ただ東京から駆けつけてくれた恵さんのおかげというべきか、せいというべきか。ある程度動けるようになるまで然程時間はかからなかった。

 幸か不幸か、銃弾は貫通しきっていたし大きな血管を傷つけていたわけでもなく、爆発による火傷なんかも含めて二週間程でだいぶ良くなった。

 

 それでも病み上がり、怪我上がりの人間がプチ復興作業の陣頭指揮なんかするもんじゃないだろう常考。

 

「仕方がないだろう、貴様が居る居ないでは作業効率が大きく変わる」

 

「はぁ……喜ぶべきか他の感情を覚えるべきか。難しいところですよ」

 

 京都警察署の人たちから向けられる尊敬の視線がやばい。

 そう、京都大火阻止戦と葵屋防衛戦。

 二つの戦いでどうやら巫丞弥生の名前はめちゃくちゃ広まったらしく。

 

「お疲れさまです! どうぞ! お茶、冷やしておきました!」

 

「あっ! これはどうですか? さっきまで川で流してた西瓜です!」

 

「あ、ははー……ありがとうございます。暑いのは皆さんもそうですから、もうひと頑張りした後で一緒に夕涼みしましょう?」

 

「はいっ!」

 

 なんて返してみればガッツポーズと一緒にその場を後にする警官さん。

 

「相変わらず人使いの荒いやつだな?」

 

「あなたに言われたくありませんよ……」

 

 くつくつと笑う斎藤にがっくり肩を落としてしまいますねこれは。

 

 とは言え、剣心や左之助もそうだけど、この人も大概な重傷拵えて帰ってきて今こうしているわけで。

 そんな人の前で弱音を吐くってのもかっこ悪いと思う。

 

「お互い無事に生きていたんだ。なら先を迎えるためにすべきことをするのは当たり前だろう」

 

「はいはい。そうですね、そのとおりです」

 

 それでも白い目を向けちゃうのは勘弁な! 不死身さんまじ不死身。

 

「おいこら! ワイを呼んだんはそこでいちゃついてんを見せるためかい!」

 

「あ、ほうきさんごめんなさい、今行きますね」

 

「ええかげんその呼び方やめぇ! ワイにはちゃんとした――」

 

「さっさと行ってこい、煩くてかなわん」

 

 しっしっと邪魔を払うようにされてしまった。

 

 まぁ気持ちはわかる、というか同感だ。

 

「ぐぬぬぬ……! くっそだらぁ! ほんでなんやねん!」

 

「わかってます、わかってますからちょっと落ち着いてください」

 

 元十本刀の張。

 こいつは煩い。

 

「なんやその態度は! さてはワイを舐めてるんやな? ええでぇ……いっちょわからしたるっ!」

 

「わからされる、の間違いでしょう? これだから噛ませは」

 

「誰が噛ませ犬じゃ!」

 

 はいはいと宥めながら。

 

 改めてなんでこいつを密偵にスカウトしたんだろうかね。

 正直向いてないにも程があると思うんだけど……実力は確かだし、荒事には向いてるのも違いないんだろうけど。

 

「ほんま気に食わん……ごっつ気に食わんわぁ……上がいけすかんなら下もそうっちゅうわけや」

 

「上? 斎藤さんのことですか? うん?」

 

「なんやとぼけた顔しおって、あいつの部下なんやろがい」

 

「え、違いますよ?」

 

 うん違う。

 便宜上斎藤の直属として動いてはいたけど、別に部下って訳じゃない。

 

「はぁ? なら、あー……」

 

「弥生です」

 

「弥生はんは、なんでワイらと戦ったんや? 警官ちゃうならお国の僕っちゅうわけでもないやろ、抜刀斎の仲間やからか?」

 

「仲間……そうですね、そうだと嬉しいですけど。それでも私が戦った理由ではないですね」

 

 戦った理由、なぁ。

 別に、戦いたくて戦った訳じゃない。

 ただ、思う通りに生きるって中に戦いがあっただけで、変えてしまった道のりの軌道修正に戦いが必要だっただけで。

 

「ならなんやねん」

 

「……明日も今を歩くため、ですかね」

 

 知っている未来通りに生きるため。

 知っている幸せの中に皆が居てほしいから。

 

 ずっと言っているし思ってる。

 俺って異物がこの世界に居ていいんだよって免罪符が欲しいって。

 そしてそれを掴み取るために。

 

「ようわからんわ」

 

「ふふ、そうですね。私にもよくわからないんですよ」

 

 生きる意思は何よりも強い。

 

 俺にとってこの言葉は、きっとそういう(・・・・)意味なんだろう。

 

 

 

「あの阿呆は?」

 

「言われたとおり葵屋に行ってもらいましたよ」

 

 冷房なんてないこの時代。下手すりゃ部屋の中の方が暑いんじゃないかって思ったりするけど、窓に吊るされた風鈴の音が風と一緒に涼を運んでくれるだけマシ。

 

 事後処理ももうすぐ終わり。

 警察署を含めた京都の町で損壊した建物の修繕も目処が立ち始めた。

 だからだろう、こうして改めて斎藤に呼ばれたのは。

 

「……あいつがお前のように察しが良ければいいんだがな」

 

「あはは、それは斎藤さんの仕込み次第、教育次第じゃないですかね」

 

 色々察している俺に向けてふっと笑う斎藤。

 関わってから今までで、随分と柔らかい表情を見せてもらえるようになったなと、なんだか嬉しくなってしまう。

 

「恩赦が確定した。巫丞弥生、貴様は晴れて一般人だ」

 

「ありがとうございます。と言ったほうが良いですかね?」

 

「阿呆が。喜んでおけ、さもなければこっちの具合が悪い」

 

 多分、斎藤としては俺を部下に置きたい気持ちがあるんだろうな。

 こと今回の志々雄編で見せた活躍はあんまりにも有能すぎるんだろう。

 かと言って、いつか言ったとおり俺を危険な道に置き続けることへも抵抗がある。

 

 故に、恩赦として一般人へ戻す。

 それで斎藤自身も気持ちの整理をつけたんだろう。

 

「貴様への嫌疑、要するに志々雄一派の構成員であるという疑いは晴れた」

 

「それは何よりですね、もう疑われるのはこりごりですよ」

 

 途中から少なくとも斎藤からそういう目では見られてなかったと思うけど、それでも公に認められたってのは嬉しいね。

 やっぱあれかな、娑婆の空気はうめぇとか言っとくべきだろうか。

 

「加えて、だ。巫丞弥生、貴様何か欲しい物はあるか?」

 

「欲しい物、ですか?」

 

「あぁ、貴様の功績は褒賞がついて然るべきものだ。しかし、コトが志々雄という日本の暗部だっただけにおおっぴらに渡せなくてな。俺を通じてではあるが……望みがあるなら聞こう」

 

 おっとこれは予想外。

 というか完全に考えてなかったな……正直嫌疑のことについても頭にあんまりなかったし。

 こういうのを棚ボタとでもいうのかね、しっかし褒美、なぁ。

 

「今すぐに決める必要はない、東京へ戻ってからでも良い。だが、その場合俺を捕まえるのに苦労をするハメになるが――」

 

「いえ、その必要はありません。決まりました」

 

「――ほう。では聞こう。巫丞弥生、貴様は何が欲しい」

 

 ぶっちゃけ欲しいもんなんて無い。

 敢えて言うならるろうに剣心の変わらない未来を、なんてもんで。

 それは俺がこの先自力で掴み取るべきものだ。

 

 だから。

 

「貸しを。藤田五郎で斎藤一、そんなあなたに貸し付けを一つ。それが私の望みです」

 

「ハ――」

 

 そう言ってみれば、斎藤は目を丸めて一つ息を漏らした後。

 

「ハハハハハ!! 良いだろう巫丞弥生、貸し一つだ」

 

「ええ、ちゃんと返してもらいますからね?」

 

 大爆笑した後しっかりと頷いてくれた。

 

 

 

 そして。

 

「お帰りなさい」

 

 薫さんが神谷活心流道場、その門の前で剣心へ手を差し伸べる。

 

 そうだ、ここが剣心の帰る場所。

 今まさにそうなった。

 

「ただいまでござる」

 

 一瞬迷って、それでもしっかり応えた剣心。

 

 旅の終着はここだけど、戦いの人生は未だ完遂せず。

 それでもようやくここで日常を迎える、迎えることが出来るとは認めてくれたんだろう剣心。

 

 皆と一緒に剣心の一歩を噛みしめるように迎える。

 

 こう出来ることを嬉しいと思う、心から。

 だけどるろうに剣心の物語はここで終わらない。

 

 それを知っている事が残念だ。

 純粋に新しい日常の始まりを迎える気持ちになれない。

 まだまだ仮初め、偽りとは言わないけれど一瞬の安息であることを知っている。

 

「どうした弥生、難しい顔して」

 

「左之助」

 

 一緒に笑顔で門をくぐったはずなのに、俺だけ少し陰を差していたことを気にかけてくれたんだろう目ざとい。

 

「なんかまだ気になることでもあるのか?」

 

「ふふっ、そういうのはありませんよ。ただ赤べこに出勤することを考えると気が重いなぁと」

 

「プッ! ガハハハ! なんだ弥生! 一人だけ先になんてこと考えてやがる! 葵屋の連中じゃねぇけどよ! まずは宴会だ宴会! 凱旋には飲めや歌えやの騒ぎが必要でぇ!」

 

 背中をバシバシ叩かれる、ってかいてぇぞこのやろう、しかも右手使ってんじゃ……あぁそっか、両手で二重の極み使えるようになってたから、そこまで負担はかかってねぇのか。

 

「ちょっと! バカのバカ力で弥生ちゃんを叩かないでよね! しかも右手! 痛めてるって自覚を持てっ!」

 

「良いじゃねぇかちょっとくれぇ! なぁ弥生!」

 

「はー……恵さん、バカにつける薬を一つ下さい」

 

「あったら私が真っ先に欲しいわよ……」

 

 うんうん、深刻な怪我に至ってないようで何より。

 あーでもこの状態だとあれか、両手を使った二重の極みを習得しない可能性があるな、要矯正だ。

 

 ……やれやれ。

 

 そうだな、そうだよな。

 

「じゃっ、お酒は万病への薬ってことで。今日は騒ぎますか!」

 

「おっ! いいねぇいいねぇ! よぉし! オイ弥彦! ひとっ走りいってこいや!」

 

「はぁ!? なんで俺が――!」

 

 やることは変わらねぇ。

 これからも、全力で剣心たちの未来を守る。

 それだけだ。

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