TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ…… 作:ベリーナイスメル/靴下香
「おせぇ! 剣心のヤロウ! もう四時半だぞ!」
おーおー吠えてますねぇ。
全く、先を知らないってのはちょっと羨ましいもんだ。
あぁ、そうだ。
きっと今日の夜、赤べこは人誅の犠牲になる。
色々な思いから、宴会の準備をやらせて下さいと厨房に立っている俺。
なし崩し的ではあったけど、やっぱり愛着というか……そういう思いがある。
やっぱりだからだろうな、こうして丁寧に料理を作ってしまうのは。
こういうところなんだろうな、俺が神谷活心流でいられないっていうのは。
だってそうだろう? 俺は知っているのにも関わらず、赤べこが犠牲になるのを止めようとしていないのだから。
京都で色々していた頃ならば、きっと赤べこ壊滅も阻止してその上で物語を上手く進めようとしていたはずだ。
……自分が嫌になる。
剣心が人誅と向き合うことが大事だってわかってる。なんてのを理由にして、犠牲を容認してしまうなんて。
人誅。
考えてみれば、もしかしたら弥生も雪代縁たちの仲間に入って、無理矢理にでも剣心と戦う道があったのかも知れない。
弥生の想い。
剣心を殺し、殺されたいと願う心。
それは間違いなく人誅と言える範疇に存在しているのだから。
弥生に従って、人間関係を振り切って。
何も感じることのないよう心を凍てつかせられたのなら。そんな風にも思う。
かと言って時既に遅し。
人誅グループに信頼関係があるわけじゃないだろうけど、参加するのには無理がある。
何より薫さんを実際には殺さないとは言え、危険に晒すなんてとんでもない。
上手くグループに入れたとしても、絶対にボロが出て終わりだろう。
終わり、と言っても雪代縁は俺を殺せないだろうが。薫さんを手に掛けることが出来なかったように。
何にせよ、だ。
そもそもこの戦いに介入するべきなのかどうかって問題だってある。
これは剣心の戦いだ。
大事な大事な、心と過去との戦いだ。
剣心と命のやり取りをしたいなんて願っている俺が参加しても良いもんなのか。
そう思って躊躇してしまう気持ちがある。
「だけど、やらかしてるなぁ……俺」
外印。
葵屋での戦いで、俺は夷腕坊ではなく外印とやり取りしてしまっている。
仕方がなかった……なんて思いたいけど、それでもいざ目前に迫ってくるとどういう影響が生まれるか心配にもなってしまう。
「ほんとに、俺は……都合が良いやつだ、なぁ」
あぁそうだな。
丁寧に料理を作ってしまうのは……きっと愛着なんかじゃない。
罪悪感からだ。
「弥生ちゃん? お客さん来はったから、ごめんやけど鮭飯一つお願いしてもええ?」
「あ、はい。わかりました」
鮭飯……そうか、来たか。
武身合体、鯨波兵庫。
……。
「ダメだ、考えんな。これは、必要なことなんだから……!」
歯を食いしばって、耐える。
お笑いだ、何が耐えるだ。
かつての自分が今の自分を見たらぶん殴ってる。
そうだってわかってるのに……!
「ちくしょう……!」
心とは裏腹、すごく美味しそうに出来上がった鮭飯へ。
無性に、腹がたった。
「で、どうした? 二人して何があってぇ?」
宴会の帰り道。
左之助が俺と剣心に対して口を開く。
「……はぁ、左之助に心配されるのに慣れた自分が嫌ですね。お気遣いなく、私は男の人には言えない乙女の秘密です。それより剣心さんのほうですよ」
「ち……まぁそう言えるならでぇじょうぶか。だが後でしっかりシメてやらぁ。で? 剣心は」
ふぅ……。
割と大丈夫じゃないけど、自分が物語の邪魔をしちゃ洒落になんねぇしな……しくったなぁ、顔に出てたか?
まぁいいや、気をつけよう。
というか弥彦、酒クセェ。
「嬢ちゃんたちに隠すのは構わねぇが……俺に隠すのなら、まだこの俺を弱点扱いするつもりなら。全力でてめぇを叩き伏せてでも口を割らせてやるぜ」
「生憎とそこまで野蛮な私ではありませんが。今の幸せが脅かされるのを、忍べる女ではないつもりですよ」
「……そうだな、すまん。左之と弥生殿には……話しておくべきでござったな」
どの口が言うんだまじで俺は。
心が痛すぎて笑えないぞ。
「いい加減、お前も平和に慣れろよ」
左之助がそう言って促した、蛍と戯れる三人。
そんな光景が、より胸を突き刺して、ご都合主義すぎる俺の心を痛めつける。
この光景は――
「!?」
アームストロング砲で切り裂かれるって、知ってるんだから……!!
「先輩?」
「ん……どうしましたか? 燕ちゃん」
無垢な瞳がつらい。
心配しないでくれ、しないで欲しい。
もう痛すぎる。
「半鐘の音……やっぱりさっきの轟音……」
「アームストロング砲? いくらなんでもそれは」
あるんだよ。
ありえないことなんだろう、だけどあり得たんだ。
我慢しろ、俺。
状況を待て。
すぐだ、すぐに警官達とすれ違う。
そうすれば……!
「おお! これは緋村さん!!」
「署長殿? これは?」
「聞こえませんでしたか!? さっきの轟音! 砲撃ですよ! 何者かが上野山から市街地に向けて一撃! 赤べこという牛鍋屋が直撃を被りました!」
来たっ!!
「弥生ちゃん!?」
誰かが呼んだ気がする。でも止まらない、止められない。
ようやくだ、ようやく状況が動いた。
これで俺も上野山へ向かって、剣心や左之介と確認すればいい、人誅の始まりだって。
それで……それで……!
「なん、で……」
知ってただろう、分かってただろう?
赤べこがどんな状態になったかなんて。
上野山へと向かって、調べて、来る人誅にどうやって対応するのかだって、考えただろう?
だっていうのに。
「う、あ……うあああ……」
なんで俺は。
「うああああああああああ!!」
赤べこの前に居るんだ。
赤べこだった前で、なんで俺は膝をついている? なんで泣いている?
なんで涙が止まらないんだ、止められないんだ。
漫画で知ってたじゃないか、こうなるって。
さっきだって思ってたじゃないか。
この光景を見たくないから上野山へと向かうんだって。
……。
あぁ、そうか。
そうだよな。
状況を言い訳にして、物語を言い訳にして。
逃げようとしていたのか、俺は。
逃げたかったのか、俺は。
力をつけて、もしかしたら何か出来るかも知れないって分かってたのに。
そんなことを言い訳に、建前に。
ここは漫画の世界なんかじゃなく、すでにリアルだって、十分に分かっていたから。
ここに生きる人達が、意思をもって、意味を持って俺と関わっていたから。
ショックを受けるって、分かってたから。
「弥生ちゃん……」
「ああ、あああ……おれ、おれは……ああああぁぁ」
何が剣心の物語、だ。
そこに生きる俺の物語でだってあるんだぞ。
京都に居た頃、十分に分かってたじゃねぇか。
無様。
無様すぎる。
剣客隊をどうすれば生かせるか、新月村をどうすれば救えるか。
あれだけあの時考えたのに、今考えなかったのは。
身近での悲劇を認めたくなかったから。
「大丈夫、大丈夫だから、ね……」
「ひぐっ、かお、かおる、さん……ううううう!!」
後悔は先に立たない。
回避する方法が、あったはずだ。その上で知る未来へと繋げられる方法だってあったはずだ。
剣心との戦いに夢を馳せるなんて、とんでもない。
まだまだ、俺は、弱かった。
一夜明けて。
初めて眠った薫さんの胸の中、驚くほどに男らしい欲求は生まれなくて。
思いっきり反省して。
「剣心さん、左之助」
「もう、落ち着いたでござるか、弥生殿」
「おう、でぇじょうぶか弥生」
きっとさっき薫さんが入った時、慌てて隠したんだろう地図。
それを俺の前では隠そうとしないことに覚悟を決めて。
「話はおおよそ掴んでいます。そして今お話していたことは甘いと断じます」
「甘い、でござるか?」
すっと剣心の目が細められる。同じく左之助も。
その目を見返して、頷きを一つ。
覚悟は、決めている。
「剣心さんが懇意にしている場所は確かにここと、小国診療所……そして破壊された赤べこ。同感です、そこが
「だったら俺たちで分かれて守りゃあいいじゃ――」
「待った。弥生殿、いずれ、とは?」
流石剣心、冴えてる。
「つまり相手も分かってるんですよ、そこを守るであろうことは。人誅……いや、復讐を名目に掲げているのならもっと……もっと剣心さんに苦しんでもらいたいはず。そんな相手が、早々と直接対決に挑むでしょうか?」
「弥生殿は、他に狙われるところがある。そう考えているのでござるな?」
再び頷く。
漫画では確かにこの後標的にされるのは前川道場と東京警察署長の家だ。
標的が変わるような変化はもたらしていないはず、だったらそれは動かない。
「私の考えでは、前川道場、そして警察署長宅」
「いや弥生。確かに剣心と関わりがあるのにちげぇねぇが、流石にそこまでやるか?」
「言ったでしょう左之助。剣心さんを苦しめたいのなら、関わりの濃い薄いじゃない。そこを襲撃することで剣心さんが自分が関わったせいだと思わせられればいいだけなんです」
少し難しい顔をして黙る左之助、一理あると思ったんだろう。
そしてそれは剣心もそうだ、一瞬はっとしたような表情の後静かに考え込む。
そうさ、反省したんだ、後悔もした。
ならもうしない。
そのためにこれ以上絶対被害を出さないと覚悟した。
「……我慢、出来ないんですよ。これは卑怯だ、姑息すぎる。剣心さんの過去を責め立てたいがために多くの犠牲を出すなんて、認められるわけがない」
だからもう遠慮しない。
かつて決めた、自重しないを改めて心に決めた。
これが剣心の答えを出すための物語であろうと関係ない、やりたいことをやる。そのためになら何だって利用してやる。
「その間、ここと小国診療所はどうするでござる? 弥生殿の言には一理ある、だが――」
「私では力不足ですか?」
じっと剣心の目を見つめる。
原作通り、前川道場に左之助を、署長さんの家に剣心を。
そしてここを俺が守る。誰もまだ来ないはずだけど、何かあれば命を賭して。
「わかったでござる。……弥生殿、頼むでござる」
「よして下さい、私としても、守りたいモノです」
俺のやらかしのせいで、剣心からは多分いまいち信頼を向けられていないはずだ。
その上で無理矢理にでも信頼しなければならないのはキツイことだって分かってる。
だからこそ示す。
俺はあなたと戦いたいけれど、幸せの場所を守りたいと言ったことだって偽りはないんだって。
「……うっし、話は纏まったな。弥生、他に何か考えられることはあるか?」
「そうですね……アームストロング砲が示したように、相手は場所ごと破壊することも目的の一つとしてあるのでしょう。個人での襲撃、そして兵器などによる破壊。両方へと気を配る必要があります」
前川道場には戌亥番神が襲撃に、そして外印が爆弾を。
署長宅には乙和瓢湖が襲撃に、そして鯨波兵庫の砲撃が。
……家屋に関しては、正直どうにかするのは難しい。
左之助のおかげで前川道場の家屋被害はそれほど大きいものにはならなかったはず。
だが署長宅は厳しい。
俺が砲撃地点を調べて鯨波兵庫を止めてもいいけど、そう動くことになればここの守りがなくなる。
それを剣心は許さないだろう。
後一手、足りない。
斎藤へ協力を仰ぐには時間的に厳しい。
恐らくすでに調査へと乗り出しているはずだし、捕まえられる確証はない。
会えさえすれば、貸し一つの返済を理由に動いてもらえるんだけど……。
いや、待てよ。
「恐らくどちらかにアームストロング砲は飛んできます。ですが、安心して下さい、アテがあります」
「アテ、でござるか?」
「……こんなこと今言うのもアレだが。おめぇ、ちょっと顔広くなりすぎじゃねぇか?」
呆れたように言われるけど、いいじゃんか。その御蔭で被害ナシに収められるかも知れないんだから。
「ただアームストロング砲以外の破壊兵器に関してはわかりません……どちらが出くわすかわかりませんが、十分に警戒して下さい」
「ああ、分かったでござるよ」
「おうっ! 任せときなっ!」
よし!
なら動こうか……覚悟しろよ雪代縁。
お前の気持ちはわからねぇけど知っている。
それだけに上手く行かせないことへ心苦しさもあるけど……。
構わねぇ。