TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、夜間待機につき

 火照った身体に夜風が気持ちいい。

 女の身体になってろくでもないことに気づいたけど、熱が籠もりやすい。

 よく漫画なんかで巨乳の女の子がならでは(・・・・)の苦悩があるなんて言ってたけど……わし、こんなのしりとぉなかった。

 

「こら、女の子がはしたないわよ」

 

「あ、あはは……すいません、つい」

 

 おにぎりをお皿に載せて差し入れてくれた恵さんから顔をそらしながら、開けていた胸元を整える。

 呆れているのかな? まったく、なんて目で見られながらも手渡されたおにぎりを一口。

 

 ……美味しい。

 

「やっぱり恵さんは料理上手ですよね」

 

「それはありがとう。まぁあなたの家主に比べたら……でも、弥生ちゃん程じゃ無いと思うけど?」

 

 いやはや何を言いますやら。

 恵さん手ずからの握り飯故に最の高なんですよ。

 

「それにしても……良かったの?」

 

「何がです?」

 

「こっちに来て」

 

 そういった恵さんの表情は、なんとも言えない。

 

 言外に言っているんだ、ここを守るよりも神谷道場を守るべきだろうと。

 確かに神谷道場は最重要防衛所。ここが直接破壊されてしまえば同時に剣心の心だって壊れる。

 壊れるだけじゃない、剣心が剣心だけに万が一俺が居ないせいで道場が破壊されても、決して俺を責めないだろう。

 

 元はと言えば自分のせいで。

 

 そうやって自分を責め立てるに違いない。

 

 恵さんは分かってるんだ。

 自分の重要性よりも、遥かにあの場所が重要で、何より剣心が守りたい場所であることを。

 

 それだけじゃない。

 

「左之助に言われませんでしたか?」

 

「何を、かしら?」

 

 そのために自分が犠牲になっても構わないとさえ思っている。

 並んで崖の淵に手をかけているのなら、迷いなく自分から手を離す覚悟をしている。

 

「剣心さんの幸せに、恵さんだって存在しているんですよ」

 

「――」

 

 俺は恵さんが好きだ。

 そうやって自己犠牲と言うには悲壮過ぎるかも知れないけれど、誰かの幸せを強く願う恵さんが大好きだ。

 

 だからこそそんな目をしないで欲しい。

 引き立て役なんかじゃないし、ましてや当馬でもない。

 

 医者として多くの人を救い、多くの幸せを願う恵さんは素敵な人なんだ。

 

「恵さんと薫さん……姉さんの間で、決着がついたのはわかります。ですけど、それはあなたが不幸になっていいという理由ではありません」

 

 選ばれなかったから、身を引いたから。

 

 陳腐な言い方だけど、幸せの形は一つじゃないと思う。

 剣心と結ばれることこそが最大の幸せってわけでもないはずだ。

 

「だから私はここを守るんです。剣心の幸せを守るってお題目だけじゃない、私が私の幸せを守るためにもここを守るんです」

 

「……弥生ちゃん」

 

 台無しな話ではあるけど、今晩は道場を襲撃されないと知っているからってのはもちろんある。

 それでも陸軍省の人に道場で何か異変があればと備えの準備はしているし、いざとなれば向かえる手はずは整っている。

 

 ただ、どうしても今恵さんと話したかった。

 今晩が終われば、神谷道場へ襲撃が来るのは目と鼻の先。

 そうなれば神谷薫、偽りの死。人誅が完成されてしまう。

 

 こうして落ち着いて話すのは、これが最後になってしまうかも知れない。

 

 恵さんは大人の女性だ。

 放っておいてもきっと上手く心の整理をつける。

 

 でもこれだけは言っておきたかったんだ、言わなくちゃいけないって思ったんだ。

 

「私は、あなたの幸せを守りたい。私が幸せでいるために、諦めたくない、切り捨てたくない。全てを守るって決めたんです」

 

 恵さんだけじゃない。

 弥生っていう俺を取り巻く全ての大事を、守る。

 

「……くすっ」

 

「うえっ!? な、何か変なこと言いました!? ちょ、調子に乗っちゃいました!?」

 

 なんですかその生暖かい目は!? や、やめてくれ! その目は俺にこうかはばつぐんだっ!

 

「ううん、あなたが女だっていうのがすごく残念だなって思っただけよ。本当に……今からでもちょっと男になってみない?」

 

「あ、あははー……非常に光栄なんですけど、とっても複雑です」

 

 男なんですよ、ホントは。いや、マジマジ。

 ってかさっきのセリフ、どう考えてもプロポーズですね本当に、ありがとうございました。

 

「ふふふ。それじゃ、しっかり守ってね? ……ありがとう」

 

「はいっ! お任せ下さいっ!」

 

 そう言って恵さんは背を向ける。

 目端に光った何かは……見なかったことにしよう。

 

 

 

 さて。

 夜も更けて、随分と眠気が強くなってきた。

 

「ふあ……」

 

 流石に寝ないけどさ。

 万が一の話が起こっても困るし、気合い入れて起きます起きます。

 

 まぁ良いタイミングだしこれからのことを考えよう。

 

 さっきも思ったけど、今日が終われば一気に慌ただしくなる。

 剣心が帰ってくれば、過去についての話が始まるだろう。

 正直知っていることだしわざわざ聞かなくてもいい。剣心だって、話さなくてはならないと思ってはいるだろうけど、聞かなくてはならないというわけでもない。

 

 空気読めないヤツだって話かもしれないけれど、こういう時間を上手く使うべきだとも思う。

 

 陸軍省へのお礼はこの件が一段落ついてから改めてと言っているし、気にしないでおくとして。

 実は生きてたんだぜドヤァしたいだろうし、斎藤さんへのアプローチもおいておくとして。

 一番の問題は――

 

「誰を敵にするか、か」

 

 戌亥番神、乙和瓢湖はそれぞれ左之助と弥彦の相手で確定だろう。

 左之助に関しては今の状況をほぼ両手が使える状態で迎えているし、心配は欠片もない。

 弥彦に関しても……多分、原作よりも一段上の実力に至っているはずだし、弥彦が弥彦でいる限り負ける絵が想像できない。

 

 残るは鯨波兵庫、外印、八ツ目無名異。

 雪代縁は論外だ、あいつに対して相当ムカついてはいるけど流石に剣心が戦うべき相手。

 鯨波兵庫はまぁ……出オチと言えば言葉は悪いけど戦うタイミングが無い。

 

 ならば外印か無名異。

 

 順当に考えれば、先の葵屋で相対したことを考えても外印なんだろうけど……。

 

 参號夷腕坊、猛襲型。

 

 はっきり言って相性が悪すぎる。

 左之助や剣心クラスの破壊力を有していない俺じゃあどうやってもあいつを剣では(・・・)倒せない。

 ダイナマイトじゃないけど、爆発物なんかあれば話は別だろうけど、剣客としてのプライドからだって認めたくないし、調達だって厳しいだろう。

 戦う時だけ日本刀を用意する? いやいや、木刀と刀じゃ取り扱いに違いがありすぎるし、突き一点張りして勝てる相手でも無い。

 

 何より勝敗は別としても、外印を相手にしてしまうと剣心が万全な状態で縁と戦うことになる。

 

 縁が強いのは言うまでも無いけど、本人が言ったとおり天翔龍閃が初見であるか否かの違いは大きい。

 剣心の精神面で違いはあるだろうけど、それを抜きにしても天翔龍閃は強力な剣技だ。否応なしに縁がぶっ飛ばされてしまう可能性はある。

 

 それだとまずい。

 縁がここで倒されて、剣心が自分の人生に答えを見つけないまま、上っ面の幸せ生活を送るってルートも良いかも知れないけど、それこそいつか何処かで綻びが生じるだろう。

 

 薫さんは一度、殺されたと思わなければならない。

 

「……いてぇ、なぁ」

 

 改めて考えればものすごく心が濁る。

 皆の幸せを守るために、一度不幸のドン底に落とさなくちゃならないなんて。

 早速の矛盾に嫌気が差す。

 

「だけど……それでも……」

 

 幸せは先に待っているんだから、踏ん張りどころだ。

 

 なら、俺の相手は無名異か。

 道場での守りを固める立ち位置、斎藤の出番を奪うことになるけど、まぁ良いでしょう。

 

 ただ無名異相手なら盤石、勝てるのかという問題。

 

 そしてその答えは分が悪いの一言。

 

 リーチの問題じゃあない、あいつの攻撃による土砂の防壁が問題なんだ。

 本命の鉄爪による攻撃はまだいい、だけど土や石が飛んでくるのはどうにも出来ない。

 確実に消耗戦へと立たされる。

 土砂によって体力を加速度的に削られて、小さな傷を重ねて、最後は爪攻撃の餌食。

 

 そんな攻撃を乗り越えて追い込んだとしても、結界。

 地中の爆弾を一斉に起動されては……厳しいじゃ済まないだろう。

 

 いっそのこと、今回は何もしない?

 

 ……それもあり、か?

 薫さんを拉致しようとする縁と一対一で戦う。

 それで負けてしまえば……。

 

「あぁダメだ、自分を許せなくなって死ぬ」

 

 うん却下だ。

 

 やっぱり無名異対策だ。

 

 ずっとそうしてきたじゃないか。

 知っていることを武器に変えろ、俺だからこそ出来る戦い方を模索しろ。

 

 まずどうやって戦う?

 鉄爪やアイツの化け物じみたリーチ、間合いは問題ない。

 土砂。そう、土砂が問題だ。

 羽踏を発動してしまうと、土砂すらも避けようとしてしまうから使えない。意識的な無意識下で戦うのはムリってことだ。

 つまり俺本来の力で戦うことになる。

 

「……うわぉ、それってまぢやばくね?」

 

 意外なところで気づいてなかった。

 今まで本当に弥生の異能ありきで戦ってたんだなぁ……死ぬかも。

 

 いや、生死の極致を避ける弥生だ、そうそう簡単には死なないけど……。

 

 つまるところ土砂を気合で無視して鉄爪避けて木刀ぶち込めってわけか。泥臭い戦いになりそう。

 やっぱ原作リスペクトというか斎藤リスペクトで、土砂より前に出てる手を狙うべきか。

 

 ただそれをして上手くいったとしても、だ。

 やっぱり問題の結界。

 

 俺に剣心や斎藤みたいな跳躍力はない。

 追い込まれた後一斉爆破されて、上の更に上を得るなんて芸当は無理だ。

 

「いや……上……?」

 

 上空に飛ぶってことは、地の加護を放棄するってことだ。

 上から振り下ろされる爪に土砂は無い。

 

 そうだ、それこそが唯一の勝機。

 

 地対空で仕留める。

 

「出来るのか……?」

 

 一斉爆破だ、当然隙間なんて無い。

 両足なくなったよ! やったね弥生ちゃん! 

 それが見えてる。

 

 そう、死が見えている(・・・・・・・)

 

「ならなんとかなる」

 

 ぶっつけ本番、未体験ゾーン突入もいいところだけど。

 

 俺の勘が、弥生の異能が言っている。

 

「――ヨシッ!」

 

 やってやろうじゃねぇか!

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