TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、帰り道につき

 一先ずのんびり出来るのはこの十日間。

 それは皆の共通認識だろう、そして自分の先について考え始める十日間でもある。

 弥彦が腕振り一万回を突破して、左之助がタダ飯たかりに来るのを受け入れて。

 

 なんてことはない。いつも通りの日常だ。

 

「弥生ちゃんがサービスしてくれるって!?」

 

「うっひょうほんとかよ赤べこ始まったな」

 

 そう、いつもどおりの日常、日常……。

 そんな中赤べこ再建に向けてビラ配りをしてるなうな俺ですよ如何お過ごしですか。

 

「なぁにとんちんかんなこと言ってるんです。赤べこは料理を楽しむ場所であって私を楽しむ場所じゃないのですよ?」

 

「弥生ちゃんを……」

 

「楽しむ!?」

 

 うぉい言葉尻だけに反応するんじゃあない。

 その助平精神を引っ込めろ、今すぐにだ。

 

「そうか、なら俺も一つ……」

 

「この間の貸しを……赤べこで!?」

 

 んで陸軍省の皆さん無事で何よりです! とっても嬉しいんで回れ右して仕事にカエレッ!

 

 あーったく無茶苦茶だよ。

 どいつもこいつも弥生ちゃん弥生ちゃんと男のケツ追い回して何が楽しいんだ、いいケツなのは認めるが。

 いやそうじゃない。

 

「あーもう! 再開した暁には! 私によるお酌サービス、つけちゃいますぅ!」

 

「やっほおおおおおおおい!!」

 

「流石弥生ちゃんそこに痺れる憧れるから結婚して」

 

 やんややんやの大騒ぎ。

 天下の往来だって忘れてんじゃねぇのこいつら恥ずかしい。

 

 でもまぁ。

 

「ええの? 弥生ちゃん」

 

「……嫌だって気持ちはまぁありますけど。でも……」

 

 そうだ、今いる日常を守るんだ。

 より幸せな日常へ向かうんだ。

 

「やっぱり賑やかな赤べこが、大好きですから」

 

「先輩……」

 

 嘘じゃない。上っ面じゃない。心底そう思う。

 

 そうなんだよ燕ちゃん。

 俺たちが戦う理由は、いつだって何かを守るためなんだ。

 もう俺は神谷活心流じゃあないけれど、それでも活心流の理を無くしたわけじゃない。

 

「ぐすっ……なぁ、弥生ちゃん?」

 

「あーあー妙さん、もう泣かないで下さい。それで? 何でしょう?」

 

 思わぬ感動をぶちこんでしまったらしい。

 あんまり思ったことを簡単に言ってしまうのも考えものだよね。

 いやでも最近こうなんだよな、ちゃんとというか、言ってしまう。

 

「もし、もしな? 良かったらでええんやけど……ウチに、こうへんか?」

 

「ウチって……赤べこに、いや。妙さんの所にってことですか?」

 

 おっと、予想外のお誘い。

 

 まぁ確かに、この後がしっかり上手く行けばだけど、道場に居てもただのお邪魔虫だしなぁ。

 

「そうや。ウチに来て、一緒に赤べこを切り盛りしていかへんか? うちは……本気で思ってるよ」

 

 つまりなんだ。

 これは正社員雇用的なお誘いか。

 隣にいる燕ちゃんも、これで先輩とずっと一緒になんて目でキラキラとまぁ……。

 

 率直に言って嬉しいし、渡りに船……って言えばちょっと腹黒いか。

 でもこうやって俺を認めてくれるっていうのは悪い気しないどころかむちゃくちゃ嬉しい。

 

 けども。

 

「ありがとうございます、妙さん。ですけど、まずは身内(・・)のごたごたを何とかしたいので」

 

「うんうん、それも大事やもんな。ええんよ、返事は急いでへんし、ゆっくり考えて」

 

 ありがたい。

 人情あふれる人達だから、大事にしたいしそれに応えたいって想いはすごく強い。

 

 けど、そう、だけども。

 

「……先、かぁ」

 

 ふんわりとしか思い描く事が出来ていない未来。

 乗り越えなければ前に進めないと感じている壁。

 

 やっぱり俺にはどうしても剣心と戦わなければ、それに腰を落ち着けて考えることは出来ないらしい。

 

 

 

 終わりではなく始まり。

 別れではなく旅立ち。

 

 そう剣心が薫さんへと語ったように、俺達は知らぬ間に、無自覚に未来へと歩く。

 

 薫さんは、剣心へと告白したのだろうか。

 そして剣心はそれを受け入れたのだろうか。

 

 なんて、赤べこからの帰り道で、ぼうっと考える。

 

「おう、弥生。赤べこのけぇりか?」

 

「左之助……。ええ、今日も沢山ビラを撒いてきましたよ」

 

 相楽左之助。

 多分、異性として一番弥生へ親しい人物だろう。

 もしも、俺が俺なんて言わず、れっきとした女だったら……薫さんが剣心へ告白するように、左之助へと告白していたのだろうか。

 

 ……うわ、考えただけで鳥肌立った。良かった。

 

「へっ、そりゃご苦労さんだったことで」

 

「ええ、ご苦労さまでしたよ。プー太郎」

 

 顔を見合わせて笑う。

 どちらにしても、だ。

 

 俺は左之助が好きなんだろう、最低限人間として。

 その上にきっと男同士の友情とか、異性なら恋心とかそういうのがあるんだろう。

 

 あぁ、認めよう。

 男でも女でもない俺は、今の感情に答えは出せない。

 

「左之助は」

 

「おん?」

 

「どんな未来を描いていますか?」

 

 知っているさ。今まさに先ってやつへ悩んでいることくらい。

 どれだけ強くなっても、先を見据えて歩もうとしている奴らは最強だ。

 道を切り拓こうとする力は、生きようとする意思は、何よりも強いのだから。

 

「おめぇ……」

 

「その未来に誰が居ますか? あなたの隣で誰が笑っていますか? 私はまだ見えません、思い描くことすら出来ない。やりたいことや、ぼうっとしたものはあります。けれども」

 

 中途半端な俺は、まだそれを描く資格がない。

 男としても、女としても。この明治を生きる人間としてではなく、もっと単純な、生物としての未来。

 

「私は、思うがままに生きたい。そしてそのためには必要なことが沢山あって、それを一つずつ片付けている最中です。左之助は……左之助はそれを手伝ってくれますか?」

 

「……」

 

 告白じゃあない。

 ずるいと思う、一緒に居て欲しいとは言わないのだから。

 左之助の未来は、俺以上に誰にも憚らず、何にも縛られず自由に生きていて欲しい。

 そういう男だって、そういう未来を生きるって知っているから。

 

「おらぁよ……難しいことはやっぱわかんねぇ。おめぇが何を期待してるのかもわかんねぇ。だけど一つわかってることがある」

 

「それは……なんですか?」

 

 左之助が分かっていること。

 それは一体なんだろうか。

 

「おめぇが……弥生が、生涯をかけて付き合えるダチってことだ」

 

「――」

 

「正直に言やぁよ。てめぇとガキ拵えて大黒柱ってヤツに収まるのも悪くねぇなんて思ったこともある」

 

 それは……うん、自分で言っておいてやっぱり生物的な嫌悪感があるな。いや、ごめんまじで。

 

「んだけど、やっぱちげぇんだ。おめぇは……弥生はなんつーかよ、帰る場所なんだ」

 

「帰る場所、ですか?」

 

「あぁ。ふらっとどっか行ってよ、まぁたふらっと帰ってきたときによ、呆れた目で今度は何処でバカやってきたんだって言ってくれる……そんなヤツで、けぇってくる場所なんだ」

 

 帰る場所、か。

 あぁ、そうだな、悪くない。すこぶる最高に悪くない。

 

「先のことは……やっぱわかんねぇ。もしかしたら、いつか考えたように、おめぇとくっついてる未来ってやつになってんのかも知んねぇ。けど、どういう形であっても、そんな光景だけは変わんねぇんだろうなって思う」

 

「……ふふ、とんだ放蕩クソヤロウですね」

 

 あぁ、そうだな左之助。

 俺たちの関係ってのは男女じゃねぇよな。

 俺もそう思うよ、あんたと子供作ろうが、一人で生きていようが。

 

 多分、いやきっと。それだけは変わんねぇな。

 

「ちっ。ちげぇと言えねぇ俺が憎いぜ」

 

「だまぁらっしゃいバカヤロウ。悪一文字を背負った人に良いやつはいませんね。はっきりわかりました」

 

 やっぱりお互い笑顔で。

 こんなクソ話をしても、どっか俺たちは外れてる。

 

「だからよ。おめぇの言う思うがままに生きようや、お互いによ」

 

「ええ、全くですね。ありがとうございます」

 

 肩に遠慮なくパンチして。

 返ってきた拳を軽く躱して。

 

 お互いの未来を祝福し合った、帰り道。

 

 

 

 そして決戦の日はやってくる。

 

 この日を迎えるために準備はした。

 多くのことをしたわけじゃない、赤べこは痛恨だったけど……被害を最小限に収めてここまでやってきた。

 

 これから始まるのは剣心の私闘。

 多くの絶望がやってくると俺は知っているけれど、それでも。

 

「未来へ生きるために」

 

 皆が皆らしく幸せに。

 それだけを願い、心へ定めて再び戦いの場に立つ。

 

「最前には拙者が立つでござる。左之は前庭、弥生殿には道場周辺を。攻守の判断は任せる」

 

「おうっ!」

 

「はいっ! お任せをっ!」

 

 事前に相談したわけじゃないけれどいい場所につけた。

 標的と定めているのは八つ目。あいつは最初薫さんを狙いやがるからな、しっかり咎めてやるし煽ってやる。

 

「弥彦、お主は最悪の場面に限り攻撃へ転じることを許すでござる」

 

「お……おうっ!!」

 

 ――おおしやるぜえええ!!

 

 うんうん、燃えてて大変結構なことだ。空回りしないことを祈るのみ。

 

 全員で生きて、朝を迎える。

 やってくるのは絶望に彩られた朝だと知っているけれど。

 

 未来に、変わりはない。

 希望へ続く道に、変わりはない。

 

「――来たっ!?」

 

「……いや、なんだよ花火かよ、驚かしやがって」

 

 いいや違う、これは間違いなく開戦の合図。

 

「いえ、驚いたほうが良いようですよ……!」

 

「え……?」

 

「っ――! あれは!!」

 

 さぁ、始めよう。

 お大臣よろしく空で見下ろすクソガキを……まずは引きずり下ろしてやるっ!!

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