TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ…… 作:ベリーナイスメル/靴下香
開戦の合図は鯨波兵庫から。
どう考えても先走りだろう、外印が呟いたように一発逆転の可能性を高めるアームストロング砲。
それが使用不可に陥る状況は避けなければならないはずだ。
「次弾装填!」
「そうはさせぬ」
無論、というか。
チームとして、団体戦としての勝利を目指すならって話だけど。
そんな意識あいつらには無いだろう。
人体急所の一つである脇下、打ち抜かれた鯨波兵庫はその身体を沈める。
代償は左之助の斬馬刀のみ。
改めてここまでは出来すぎと言っていいくらいの状況だろう。
「さぁ、薫さん、恵さん道場へ」
「う、うん」
「弥生ちゃん、動じないのね」
感心したように……ってのも違うか。
少し驚きを含ませながら俺へ言うのは恵さん。
一番強いのは知っているからってのが理由だけど、同じくらい鉄火場に慣れてしまったんだろう。
慣れてはダメなものでもあるっていうのはわかるけど、まだまだこんなことで取り乱していられない。
そうだ、そう言えばこの後……!
「左之助っ!」
「おう?」
「私にもっ!!」
上空を見上げれば気球から飛び降りようとしてくる二人。
そのうちの一人、戌亥へ向かって左之助の拳を要求する。
「んなっ!?」
なんだ、やれば出来るもんだな? それとも左之助が上手いのか。
しっかりと攻撃態勢を整えながら飛べた俺に対して戌亥は上手く動けない。
そうそう、ここでダメージを与えられずともちょっかいを出しておかないとね。
「雷神車キャンセル、ってね」
「こん、のっ――!」
無意味に門を破壊させてたまるもんかって話。
俺つえーしたいならどっか別の世界に転生してどうぞ。
体勢を完全に崩した戌亥が落ちていく。まぁちゃんと着地程度は出来るだろう。
「――」
飛び上がった先で外印と目が合った。
そして互いを認識し合った。
……嫌な交差ではある。
ここで戦うつもりはないけれど、いつか戦うことになるって確信を得てしまった。
まぁ……それも。
「この戦いが終われば」
届かせるつもりは無かった声だけど、小さく外印が頷いた気がする。
下を見れば門は無事。
うん、良かった良かった……ってあれ? 下?
「……どうしようめっちゃ高い」
これ絶対ダメなやつだよね? 戌亥は着地出来たかもしれないけど、俺、潰れるよ? べちゃって。
「……やっべ」
助けて弥生えもん!! こんな間抜けにわし、死にとおないで!!
「わっきゃあああああ!?」
「――っとぉ。んで弥生? おめぇは一体何しにいったんでぇ?」
よぉしナイスキャッチ左之助流石だべいべー! ケツに手が触れてるのは勘弁してやんよっ!
「あ、ありがとうございます助かりました」
「まぁいいけどよ。しっかり頼むぜ?」
コクコクと頷いてその場から離れる。
「て、てめっ――」
「あなたが私の相手? 馬鹿言わないで下さい、物足りなすぎます」
まぁ隙だらけだわな、後ろ姿を戌亥に狙われるけどすいすいってなもんだ。
「じゃ、左之助。よろしく」
「あぁ」
もちろん余裕の退散ですよ、プロですから。
「ねぇ弥生ちゃん?」
「なんでしょう? 恵さん」
そうして戻った道場の入り口、なにやらジト目が痛いけどなんでございましょうか?
「……
「……忘れて下さい」
バカは死ななきゃ治らないけど、感染するようなもんじゃないと信じたい。
さて、戦況に変わりはなし。
ちょっかいは結局ちょっかいレベルで終わった素晴らしい。
左之助と戌亥の喧嘩第一幕が始まったけど、漫画通り左之助がまずボコられているけど特に心配はしていない。
乙和と剣心の睨み合いは続いている。
相手からもこちらからも膠着状態と言えるだろう。
つまりは外印……夷腕坊が降りてくる。
――。
ちらり、と弥彦ではなく俺へと剣心の視線が配られた。
そしてその視線にノーを突き返す。
気球の数とこちらの戦力数。
事前に打ち合わせていた通りだ、ここで俺は動かない。
その役目は弥彦に譲ってほしいという訴え。
だから今の視線は最終確認。
いざとなれば俺が責任を持つという意味。
もちろん弥彦に万が一は起こさせないし、敢えて言うなら万が一を起こさせないための布石でもある。
剣心には天秤を渡したんだ。
弥彦が乙和と相対して戦う危険性と、俺がこの場を離れてあるかもしれない奇襲で薫さんたちが傷つく危険性。
その天秤は結局俺が薫さんたちを守る方へと傾いた。
夷腕坊が、降りてくる。
土煙をあげて、晴れた先には禍々しいと言っていいその姿。
「弥生……!」
「ダメです、私は動けません。気球はあと一つ……あいつの動向へ気を配りながら誰かと戦うなんて私にはムリです。それにアレと戦えるのは……剣心さんしか、いないでしょう」
薫さんが言いたいのは俺が乙和と戦って剣心が夷腕坊と戦うって布陣。
だけどそりゃムリだ。
戦いの構図が変化して、俺が乙和と戦えば、八つ目の相手をするのは弥彦だ。
最悪じゃないけど、斎藤がやってきて戦ってくれる可能性もあるけれど、ここで弥彦の戦いを奪うわけにはいかない。
乙和と俺なら、十中八九俺が勝つ。
相性はもちろん、単純な力量差だってあるだろう。
だからこそ、俺が戦ってはいけない。
「そんな……!」
「大丈夫。ほら――」
「うおおおおおおっ!!」
行け、弥彦。
「弥彦っ!?」
「さっきの一閃が最初から腕の武器を狙ったもんだとも気づかねぇヤツに、剣心の相手が務まるとでも思ってんのかよっ!!」
そうだ、よく言った。そしてよく戦いの場へ立った。
「剣心が……戦いの場を弥彦に任せた……」
「ええ、そうですよ薫さん。弥彦は……もう、剣心さんにだって認められる剣客なんです」
わかるよ弥彦、今の気持ち。
葵屋の時みたいに、状況的に戦わなければならないから戦うんじゃない。
誰かに、託される。頼られて戦う時の高揚感にも似た感情。
心配すんな、絶対に死なせないってのはもちろんだけど。
骨はちゃあんと拾ってやるさ。
「……」
「大丈夫です、弥彦は……勝ちますから」
これで、三局の戦い。
俺としては何とか、だろうこの構図に持ち込めた。
剣心と外印の戦いが始まった以上、これで俺の相手は八つ目で確定。
もしかしたら斎藤が登場する機を窺ってんじゃねぇかと勘ぐったりもするけど、あの人の性格的に待機なんかしないだろうし、縁を捕まえるためのチャンスを逃す人でもない。
つまり今まだ斎藤はいない。
八つ目の動きを警戒しながらではあるけど。
「やっぱ……強え」
思わず口から溢れた。
確かに痛撃を受けた剣心ではあるけど、ありゃ初見殺しに近い。
以降の読みで、剣心が違えることはなく、やっぱり戦いからは安心感が伝わってくる。
いや、早くも安心しているのは俺だけか。
隣にいる薫さんも恵さんも固唾を呑んで見守っているし、俺だけ緩めていても仕方ない。
ぶっちゃけこの二人だけじゃない。
俺以外この場にいる全員が剣心の戦いへ目が釘付けだ。
この間に何か出来ないかななんても考えたりするけれど、なんてことはない。
「……」
俺は俺で剣心の戦い方を分析するのに夢中なんだから。
実際の話。
俺が今まで勝ち続けて来られたのは、弥生の異能はもちろんだけど、同じくらい知っているという部分が大きい。
だから事前に入念な想定を頭の中で繰り広げて、足りなければ何かのピースで埋めてと不安材料を潰していったからこその勝利でもあった。
所々相性じゃねぇだろうとか無策も承知で戦ったことはあるけれど、それでもベースは分析によって導かれる勝利の方程式。
そんな分析で見ても、やっぱり剣心一番の武器は速さだ。
読む速さ、決断の速さ、身体の速さ、剣の速さ。
あらゆる速さを極めた先にこそ剣心の力がある。
それに追いつくためには、どうすればいいか。
不可能だろう、後から追いかけてたどり着ける境地でもない。
後から恵さんから告げられるように、その境地は常人には負担が多すぎる場所なんだから。
ならばどうすればいいのか。
どうすれば剣心と戦いになるのか。
今もそうだけど、剣心は予想できないことに対して脆い。あるいは想像以上と言うべきか。
いつか誰かが言っていた気がするけど、読みに頼りすぎている面がある。
力でねじ伏せているように見える戦いだけど、その実剣心の戦いとは究極に型へとはめこんだ戦いなんだ。
こうすればこうする。こうなればこうなる。
その読み、決断をとてつもないスピードで思考し、決めその道筋を描く。
だからこそ、そんなパズルピーズが狂っていればフォローが効かなく、痛手を負ってしまう。
対する、俺。
俺自身も何気に剣心と似ている。
勝利の方程式を築いてそのレールを走ろうとするって意味においては。
だけどそれでも、俺にとって相性が良い。
「うん、そうだよな」
俺と剣心の決定的な違い。
それは道筋にある。
答えに至るまでの道筋を俺は見ていない。
剣心は道筋から答えに至るまで全てを見ている。
こう思えば俺ってば随分と適当ね、なんても思うけど。
自分自身の力がはっきりとしていないからこそ究極的な結果オーライを求めてしまってる。
そしてそれは剣心にとって、全てが初見であるということ、予想がつけられないということ。
「……いける、かもしれない」
恐らく剣心の戦いを見るのは、ここが終われば後は縁との直接対決だけ。
考えよう、熟考しよう。
かつてもそうしたように、今も。
「あれが……!!」
「飛天御剣流奥義、天翔龍閃……」
あーでも、あれだけはどうしようもないっすねはい。
――楽勝っ!
――あ、じゃあぶっ潰れた道場の壁、修繕お願いしますね?
――あぁん!?
勝利することを欠片も疑っていなかった左之助はちゃあんと勝利を収めてくれて。
ちょっと手を痛めたは痛めたんだろうけど、恵さんに呆れられることなくてよかったね。
そして今。
「どこ見てやがる。お前の相手はこの俺だぞ」
「チッ……口数の減らない」
こっちを見て撤退を考え始めた乙和を睨み返して。
「死ねるかぁああああああっ!!」
弥彦はしっかりと刃渡りを決めた。
さぁ、次は俺の番だ。
こんなとことで躓いてはいられない。
さっき定めたばかりなんだ、未来も、強さの果ても。
すっかり腰の抜けた薫さんを可愛いと思っている場合じゃない。
後ろで斎藤の声が聞こえた気がするけど気にしている場合でもない。
「薫殿っ! 早くこっち――」
「いえ、その必要はありません」
天井から音を立てて現れた化け物紛いの腕。
その腕をしっかりと木刀で払う。
「チィッ!」
「……さて」
うん、我ながら元気いっぱい、力負けするかなと思ったりもしたけどこの分なら大丈夫そうだ。
じゃ、やりますか。
「ねぇ? 化け物さん」
「……五分預かるぞ、抜刀斎」
「待てっ! 八つ目!!」
「五分もいりませんよ、三分で十分です」
おっと、だーいぶ巻き進行にしちゃいましたね? 口上言えなくて残念無念。
「この姿を化け物と呼んだヤツから! 真っ先に俺は殺してきたっ!!」
っ! っとぉ!
わぁいお家に堀が出来たよー? 鯉でも買いましょうか薫さーん。
……あー冗談だろ?
やぁっぱ読むのと見るのは段違いね、知ってた。
はいはい、そんな自慢げにニヤつかないでくださいよまったく。
「なんだ、こっちは問題ないか」
「ええ、欠片ほども。ですので、斎藤さんはお空の大将をよろしくおねがいします」
そう返してみればなんてことない、やっぱ戦いたかっただけなんすねぇ。
でもごめんなさいですよ、見て楽しんでもらえる程度には頑張るつもりなんでギャラリーよろしくです。
「どうだこの威力。俺は化け物じゃなく、人間を超えたものなのだ」
ドヤ顔鬱陶しいな。というか舌が主に気持ち悪い。
「その牙はまぁ良いとして。舌も人体精製でしたっけ?」
「これは自前だ」
あーあーそうだったそうだった。
別にこの辺を原作意識したつもりは無かったけど丁度いい。
「なるほど? 十分化け物ですね」
「っ!? 殺すっ!!」
はいはい、もうその手のセリフって聞き飽きてるんですよね。
八つ目、あんたを弱いなんて思わないよ。ぶっちゃけそんな余裕をぶっこくほど余裕があるわけでもない。
それでもあえて言うよ。
「殺す? あなたが? ……ふふっ」
――身の程知らずですね。
「っ!?」
「……貴様」
一番に驚いてくれたのは剣心かな? それとも左之助?
んでちょっと怒ってる風味なのは斎藤かな?
「まぁ、見ていて下さいよ斎藤さん。私も……別に遊んでいただけってわけじゃないんです」
そうして構えた身体に力を込める。
長い長ーい八つ目の腕に対して構えるは。
「ふん。つまらないものは見せるんじゃないぞ?」
「ええ、見せてあげますよ。……私流の牙突ってやつを」