TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、虚ろな勝利につき

 こうして八ツ目無名異と相対して。

 単純に感情の浮沈が激しすぎるだけなんだなと実感する。

 

「コロス!」

 

 今も物騒な言葉を使って騒いでいるけれど、その実冷静な部分を残している。

 牙突の構えを取った俺に対して、同じく構えている八ツ目だけどいきなり感情のまま襲いかかって来ないのがその証左。

 

 奇しくもな左対左は描かれず、右対左。

 

 少し感じるやりにくさ。野球経験者なんかはわかるのかもしれない感覚。

 それでもお互いに恐らく間合いの一歩……いや、半歩外での待機。

 

 この硬直はまだ続きそうだ、歓迎したくない間ではあるけれど、どの道俺の牙突は待ちの一手。

 

 カウンターの牙突(牙突弥生流)

 

 牙突の本質は突進だ、自分の体重、身体のバネ、そして脚力から生まれる勢い。

 それらを片手平突きにのせて攻撃力へと変える技。

 実際に斎藤が使い分けているように、間髪入れず横薙ぎへ切り替えられる物だったりと派生というか型みたいなものはあるんだろう。

 

 そして本質が突進であるならば俺の牙突は牙突ではないのかもしれない。

 

 斎藤曰くの正真正銘な牙突。

 

 あれは全体重を前方へ向けて、全てをその一刀に懸けると言っていいくらい、実に新選組の生き様を示すかの様な技。

 対して俺は全力で後方へ体重を乗せる。全身全霊で身体のタメ(・・)を作る。

 

 弥生の世界へは入れない。

 だからこれは恐らく初めてだろう、弥生ではない俺という剣客の勝負。

 

 散々アクションを卑怯にも知って、利用して。

 

 それでも生きてやると、無様で醜く足掻いてやるという決意表明。

 

「ちょ、ちょっと、ほんとに大丈夫なの!?」

 

「あぁ、心配すんねぇ。弥生は――」

 

 ――負けねぇよ。

 

「殺す殺すコロスッ!!」

 

「……さっさと来なさい、化け物」

 

 嬉しい台詞が台無しだっての。

 

「殺すっ!!」

 

 ――来た。

 

 予想通り想定通り、間合いが交差する前にアイツの左腕は地面を抉る。

 その破壊力にたじろぎたくなる気持ちを堪えてぐっと力を込めて。

 

 突進が重なるから土砂の防壁は驚異たり得るんだ。増した勢いに土砂は猛威を振るうんだ。

 本命はあの左手左腕。必ず土砂より先に腕が来る。

 

 だから。

 

「大した着眼だ――っ!?」

 

「知ってますよ、防げるんでしょう?」

 

 その左手が精密機械もびっくりな動きを描けることは知っている。

 この後に続く牙突零式なんて奥の手を持ってない俺にはそんな場所は狙えない。

 

 突き出した俺の左手は何のため?

 そりゃ狙いを正確につけるためでありあんたの土砂から視界を守るため。

 

 ――ここだ。

 

 相手の左手を潜り、土砂に向かって大きく踏み込んで。

 

「うあああああああああ!!」

 

 身体にビシバシと土が跳ね当たる。負けるな俺、男の子だろう?

 何のために突進を選ばなかったんだ、何のために力を溜めていたんだ。

 

 それはもちろん。

 

「――!!」

 

「このためですっ!!」

 

 相手のほうがリーチがある。

 ならば入り込んでしまえばこちらのもので。

 

 ぶちりと髪を止めていたリボンが切れた感触。

 もう何度も味わった感触で。いい加減短くしてやろうかな? なんて場違いにも程があることを考えながら。

 

「ぐぎゃっ!?」

 

 相手の左肩付け根へ木刀を全力で突いた。

 木刀から伝わる嫌な感触、肩峰か鎖骨を砕いて筋を断った。

 

「一応言いますが、動かさないほうが良いですよ? 無茶したらもう二度と使い物にならなくなります」

 

「がっ、がっ、グギ……!!」

 

 心配……なんて言わないけど、まだ戦闘を続けるなら続けている内に骨が皮膚を突き破る可能性大。

 我ながらえぐすぎるとも思うけれど、それだけに想像では測れない痛みだろう。

 

 弥生を外れた俺は、どうにもやり過ぎる……いや、拙すぎる故にこうなってしまう。

 

 そう、だけどこれで終いになるはずだ……普通なら(・・・・)

 

「ぐおおおおおっ!!」

 

「……ええ、まぁ。期待してはいましたけど、続行だと確信してました。それでも敢えて言いましょう、まだやる気ですか?」

 

 牙突零式とどっちのがエグいのかな? まぁどっちもどっちか。

 俺の手元にはまだ木刀がある。流石に貫くなんて出来ないからね。

 

「当然だっ! 俺は抜刀斎を殺すためだけに一五年生きてきたっ! ここで闘わずにして退くならば死んだほうがマシだっ!!」

 

「……そう、ですか」

 

 なんとなく、俺じゃなくて弥生は理解できるのかもしれないなその想いは。

 剣心……抜刀斎に殺されたいと願い続けて弥生のループを続けて、続けさせられて。

 悲しくて虚しい闘いの人生。

 執念とも言えるだろう、呪いとも言えるだろうその生き様は。

 

「なら私がその闘いへと引導を渡してあげましょう」

 

「ほざけっ!!」

 

 素直な思いだ。

 そしてそれはいずれ弥生にも。

 なんとなく、物悲しい気持ちで屋根裏へだろう逃げ込んだ八つ目を見送る。

 

「いくぞっ! おおおおおお!!」

 

 上空から襲ってきた八つ目を躱して。モグラごっこを眺める。

 本当に、その肩、腕でよくやる。

 

「弥生殿っ! それは――!」

 

 結界でしょう? 大丈夫です。

 

 確かに弥生の異能、その致命的な弱点は広範囲同時攻撃。

 八ツ目無名異が縁から渡された……万弾地雷砲、だったっけ? それはまさにあてはまる。

 

 だけど、だけどだ。

 

「流石抜刀斎、察しがいいな」

 

 そんな言葉と一緒に大きな爆発音。

 爆発音に混じって聞こえなかったけど、多分誰かが弥生の名前を呼んだ。

 

「よく見ておけ抜刀斎、お前に関わった人間がまた一人死ぬ様」

 

 そうだ、だけど。

 

 いい加減戦っている相手は俺だってことを思い出して欲しい。

 さっきからずっと、俺はあんたと戦っている気がしない。

 

 まぁそれは俺もなのかもしれないけど。

 八ツ目と戦っているようで、八ツ目を通して別の何かと戦っている。

 

 酷く、酷く虚しい闘い。

 

 だから八ツ目、その気持ちは俺が預かるよ。

 いずれ来る未来への戦い、その時俺が全てぶつけてやる。

 

「――行くぞ。これで貴様の最後、全地雷を一斉爆破する」

 

「後でちゃんと埋め立ててから帰って下さいね」

 

 言い終わって。

 弥生の世界へ入り込む。

 

 全自動回避同時攻撃。

 

 あぁ、改めて考えてもチートに過ぎる。

 この身体は、この世界は。いつだって自分の命を繋ぐ場所へ入り込む。

 

 一斉爆破? ええ、ええとっても痛いですね。

 さっきからとっても熱いし爆風はあんたの土砂の防壁よりも激しく身体を襲う。

 

 それでも俺は生きている(・・・・・・・・・・・)

 

 爆弾の威力に差が有ったのか? 密集が薄い場所があったのか? それともたまたま自動的に向かった先の破壊力が少なかったのか?

 そんなことはわからない。

 ただ弥生は自分の死が見えている場所を避け、死が見えない先へと進んだに過ぎない。

 

「!?」

 

「そして空に飛んだあなたに土の加護はない」

 

 残念だったな八ツ目無名異。

 背負ってるもんは、若干俺のほうが重かったらしい。

 

 命ある場所へ動けたのも自動なら、奔らせた剣閃もまた自動。

 

 振り下ろされた鉄爪を躱し、カウンターを胴へと抜き放つ。

 

「――」

 

 ちらりと剣心へ目を向けて。

 

「さて八ツ目無名異、あなたは運が良い。私はつい最近神谷活心流を辞した所、つまり不殺の理から外れています」

 

「ぐ……ぁ……」

 

「あなたにとって剣心を殺すこと、死が救済となるのなら、私があなたに救いをあげましょう」

 

 八ツ目の目が俺とぶつかる。

 窺える色は少し怯えが混じっていて。

 あぁ、戦いは終わったんだなと理解した。

 

「弥生殿」

 

「……ええ、信じてましたよ」

 

 どうやら意図は伝わったらしい。静かに語りかける剣心へ背を向けて。

 

「ご満足のほどは?」

 

「まぁまぁ、ということにしておいてやる」

 

 にやりと笑う斎藤へ笑顔を返した。

 

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