TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ…… 作:ベリーナイスメル/靴下香
「張さんは裏取り……今頃は雪代縁のアジト探索ですか?」
「……だから貴様は……やれやれ、逃した魚は大きいと思うことにしよう」
そんな風に話しかけてみれば目を丸くされた後に笑われる。
ていうかまぁた俺やっちゃいましたね? こんなん言ったらまた尋問されますよ怖いです。
これだから戦闘後の高揚感ってのはダメだ、落ち着きなさい。
「わぷっ?」
「後、少しは女らしくなれ」
投げつけられたのは制服の上着。
はて? 女らしくも何も俺は男ですが?
なんて思いながら自分の姿を確認してみれば。
「いやーん?」
「……阿呆が」
色々際どい格好になってますねはい。斎藤さんまじ紳士。
と言うか今更ながらに身体いてぇわ、アドレナリン不足ですね間違いない。
それでもまぁ動ける程度、爆発の熱波による火傷がメインだろうか、ひりひりする程度。後は土砂のせいだろう細かい傷が幾つか。
ほんと弥生の異能様々ですね。
「しかし考えたな」
「はい?」
「牙突の話だ」
あぁ、弥生式。
まぁぶっちゃけ見て覚えられる技でもなし、主に突きの正確性を高めるためと、より的確かつ攻撃力の高いカウンターを考えた結果で型を模倣させてもらった。
「私には体重はもちろん力がありませんから。相手の勢いを利用する形で、牙突と言うには少し拙いが過ぎると思いますけど」
「あぁ。だが、後の先をあぁも的確に取る……いや、取れるのは貴様だからこそだろう。少し癪ではあるが、認めてやる」
面白くなさそうにを気取ってはいるけれど、顔は少しにやけてる。
なんですか斎藤さーん? ちょっと慕われるのが嬉しいように見えますよ斎藤さーん?
「その顔はやめろ。そういうところだ。そしていい加減後ろの心配そうにしている医者に気づけ」
「はえ?」
「……まったく、やっぱり弥生ちゃんなんかのバカ感染ったでしょ? 正直肝が冷えたどころじゃなかったのよ?」
いやぁ申し訳ない。これも戦闘後の高揚感が悪い、全部それが悪いから俺なんも悪くない。
「良いから行ってこい。俺は別に逃げん」
「はぁい……斎藤さん」
「なんだ?」
――また、後ほど。
そう口だけで言ってみれば、顎を引くように小さく頷いてくれた。
「それにしても」
「どうしましたか? 恵さん」
「弥生ちゃん……ほんとに強かったのね」
わぁおすんげー今更感!
っても仕方ないか、実際に俺が戦った所を見たことないもんね。
でもなんだろうな。
「それほどでも……ですができれば、あんまり見てほしくなかった気もします。今更、ですが」
「あら? それはどうして?」
くるくると手際よく巻かれる包帯。
消毒液がやっぱり沁みる中、なんでそんな風に思うのか。
「言いましたよ? 私は恵さんが好きですから。血生臭い娘だと思ってほしくはないんですよ」
なんて言ってみるけど。いや、恵さん大好きはマジだけど。
多分戦いの人って思われるのが嫌なんだろうな。
俺にとっては近所のキレイなお姉さん、恵さんにとっては近所の可愛らしい女の子。
そんな関係でずっといたかったんだろうと思う。
女の子……?
だめです男の子です。
「……そ。じゃ、おバカな女の子だと思うようにしておくわ」
「あ!? あー! 違います! 私別に左之助してませんから!」
「――おいこら弥生。その左之助してるってなんでぇ」
あーもう無茶苦茶だよ! 俺しーらねっと!
そんな俺達の様子に剣心は一つ心を固める。
とは言っても、迷いは晴れないまま、この戦いの先にあるだろう答えを求めて戦いの場へ赴いた。
俺もいい加減クールダウン。ここからは茶化しはナシだ、そうやってる心の余裕もない。
「資質もある、鍛錬も積んでいる。だがそれだけだ」
「これでしっかり剣術を学んでいれば……」
心の余裕がないって小さい理由の一つ。
それが、倭刀術。
これは少し前から思ってたんだ、実に俺向きの剣術だと。
「ならばまず一つっ!!」
――蹴撃刀勢。
いや、流石にあんな太刀なんか持ってないし持つつもりもないから、そのままトレースするなんて不可能だけど。
もっと言えば狂経脈なんてのもない上、空中疾走も当たり前だがムリ。故に学ぶべきは発想。
つまるところ、
かつて本格的に剣を握る前、剣心にも言われたように。
俺はまだまだ力で剣を操っている。
さっきお披露目した弥生流牙突もそうだ。
斎藤のようにそれ一本で戦うなんて程昇華できてるわけでもなし、使えてワンポイント、ピンポイント的な使い方になる。
羽踏にしてもそうだ。
回避と攻撃を同時にする……これは物理的やらなんやらを含めて、絶対的に回避できない攻撃へ対しては無力。
ベースとなる剣術が必要だ、神谷活心流では生きていけない俺だから。
「良いのか? 抜刀斎を見なくて」
「……ええ」
見方が違うのも流石に斎藤さんにはバレるか。
正直、この……
さっきの夷腕坊戦や、言ってしまうならばこの後、雪代縁との再戦にならば学ぶべきところはあるが。
「あぁっ!?」
「……なるほど、な」
目の前で龍巻閃が返された。
それで斎藤は俺の言う所を理解したらしい。
「巫丞弥生、貴様には今何が見えている」
「……ご自分が口に出したくないからって私に言わそうとしないで下さい」
信頼とも言えるだろう。斎藤を含めて、恐らくどころか確実に今の時点では誰も。
「緋村剣心が負けるはずない」
そう思っているはずだ。
俺がそう思っていないのは、知っているのはもちろん……唯一まだ剣心と戦いたいと思っているからだろう。
斎藤はこの剣心と戦いたいとは思っていないだろう、何処までも決着をつける相手は抜刀斎だ、だから気づいた。
「ちっ……」
「……」
舌打ちを一つ。それから斎藤は薫さんの所へ。
最大の弱点はお前だから何処かへ退けと言いに行ったんだろう、それはやっぱり抜刀斎であれ緋村剣心であれ負けるところを見たくないがため、だろうか。
そしてここが運命の分かれ道。
どうしても薫さんの擬死が見たくないのであれば、問答無用で退いてもらうべきだっていうのは分かってる。
だけどそれでもその先にこそ幸せがあると知っている。
歯がゆい。
全ての犠牲なく幸せに。
そう決めたからこそ、ここで動けない事が辛い。
あらゆるケースを考えた。
ここで自ら悪役を買って薫さんを攫ってしまうことさえ考えた。
それでも、どうしても先に綻びを描いてしまう。
ここで薫さんの擬死が無ければ、きっと剣心は答えにたどり着かない。
正直な所、雪代縁は対緋村剣心にのみ最強のジョーカーたり得る存在で、ともすれば斎藤や左之助なら呆気なく勝ってしまう可能性だってある。
何だったら私が戦っても良い。
若い女を傷つけることが出来ない縁だから、多分誰よりも勝利の目があるかもしれない。
だけどそれじゃあ一生剣心は前を向かない。
そしてその先にあるのはなんとも気味の悪い幸せのみ。
もしかしたらそれで納得するべきなのかもしれない、自分のエゴを通した、だったらそれで満足すべしと言われているのかもしれない。
「……嫌だ」
でも嫌だ。
俺のせいで幸せに陰りを作ることだけはダメだ。
巫丞弥生は異物なのかもしれないけれど。
るろうに剣心の世界に居てはならない存在なのかもしれないけれど。
俺も、幸せになりたいから。
やはりと言うべきか。
「所詮、所詮死など一瞬の痛み」
天駆ける龍の爪も牙も、地に伏せる虎へは届かなかった。
――貴様を生き地獄へ叩き落とす。
「姉さんはこっちへ!!」
「や、弥生!?」
あぁでもそれでも。
精一杯の抵抗はしてやる!
「弥生! 嬢ちゃんを頼んだぞ!!」
「わかってます!!」
くそっ! 煙幕でいまいち方向が掴めねぇ……! これじゃ別の道に逃げても追いつかれちまうっ!
やっぱり道場か……? 道場しか、ねぇのか!?
「くそっ!」
「弥生! 剣心が!!」
「くっ! バカいってんじゃないです! 姉さんが死んだら悲しむのは誰ですか! 悲しむ人の中に誰がいますか!?」
あーもう! これは恵さんの役目! 光栄だけどこのタイミングは嬉しくないっ!!
「っ!?」
「風向きが……っ!」
煙に巻かれないよう強く薫さんの手を掴み引く。
今の戦況はどうなってる? もう鯨波は目を覚ましただろうか。
だって言うのなら……そろそろ。
「私怨はないが、やつに人誅を下すため――」
「ちぃっ!」
来やがった! 雪代縁!
「ふん、余計なヤツまでいたか」
「姉さんに……手出しはさせない!」
大丈夫だ、雪代縁は俺にも薫さんにも手を出せない。
時間を稼ぐ程度なら問題ない、なんならここで倒してしまっても――。
「――巫丞弥生」
「なっ!?」
「弥生!!」
現れた影は――。
「そう何度も邪魔をされては、な」
「外印……っ!!」
足元を見ればご丁寧に鉄線で編まれた陣のようなもの。
命に関わる攻撃を避ける事ができる……が、命に関わらない攻撃には反応出来ない。
こんな形で……新しい弱点に気づくなんて……最悪もいいところっ!!
「外印……おまえぇ……っ!」
「おお、怖い怖い。……だが、いずれを今にしている暇はない。少しの間、じっとしてもらうぞ」
「やよ――っ!?」
――諦めろ。
あぁ、嫌だ。
その台詞は、それだけは。
分かってるのに、ちゃんと薫さんは生きているって知ってるのに。
「姉さんっ!!」
「とは言えこのままじゃ仕事も出来ん……眠れ」
「かひゅっ!?」
変な声が出た。
あぁ、そうか、俺はいま、鉄線に……。
「は、な……せ……」
「……縁じゃないが言わせてもらおう」
――諦めろ。
いやだ、いやだ、薫さんを守れなかったなんて認めたくない。
皆の絶望する表情なんて見たくない。
いやだ、いやだ、いや、だ、い――