TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、前進につき

 恐らく。

 ユメノオワリとは今を指すんだろう。剣心は行方をくらまし、神谷薫は死に。

 道場に流れる空気は重たいを通り越している。

 

 人の価値ってものが本当にその人が死んだ時に流れた涙で決まるというのなら。

 あんまりにも少なすぎる(・・・・・)

 もっと、もっと多くの涙が溢れて良いはずだ、それこそ海が出来るほどに。

 

 いや、分かってる。

 薫さんが生きていることなんてわかっている。

 分かっているだけに、本気で死んだと思っている人達の中にいることが辛すぎた。

 こうなるって知っていたのに、覚悟していたのに。

 後悔する権利なんてあるはずもないって、言われるまでもないのに。

 

 自罰的といえばそうなんだろう、誰に左右されるわけでもない自分の中で定まっている未来。

 そのために親しい人たちを悲しみに沈めているという事実は、自分で裁くまでもなく俺を責め立てた。

 

 だから逃げた。

 

 信じられないの一点張りで。まるで狂人かのように。

 今の皆からすれば、生きているはずのない薫さんを探そうとする、現実が見えていない人を演じて。

 

「……切り替えろ、俺」

 

 一人呟く。

 引きずられている場合じゃあない。自分で選んだ道なんだ、都合が良すぎる。

 狙い通りじゃないか、むしろ漫画の道を辿ったんだ喜べ。

 

 ただ、どうしても。

 

 もし縁がトラウマを克服していたら?

 なんて想像が、発想が邪魔をする。

 

 目が覚めた時、剣心が泣き崩れていて、その先に薫さんの死体があって。

 もしも……もしも本物だったらって。

 そのまま棺桶に入れられた薫さんから、何の人工物も出てこなかったらって。

 

「落ち着け、冷静になれ……!」

 

 縁は俺に対して酷く動揺していたように思う。

 故に自らの手ではなく外印を使って俺を行動不能にしたんだ。そのはずだ。

 

 若い女性を傷つけることが出来ないだけではなく、姉と呼んでいる存在を知って。

 まず間違いなく俺って存在を自分と重ねたはずだ、それが出来ないのならそもそも人誅なんて考えても実行に移さない。

 

 縁が巴さんを姉ちゃんと慕ったように。

 俺もまた薫さんを姉と慕っているなんて、すぐ理解に及んだはずだ。

 

 今頃は、原作以上に心へダメージを負っているだろう。

 もしかしたら、眼鏡の奥に映す巴の顔は曇っているどころじゃないかもしれない。

 

「違うって……そうじゃないって……」

 

 なんて、それこそ自分を棚に上げて恨みって心で誤魔化しているに過ぎないんだろうな。

 

「皆、ごめんな……」

 

 弱くて。より良い幸せを模索できなくて。

 

 だからこれは一生背負わないといけない業。

 剣心が抜刀斎として多くの命を奪ったことをそう捉えているように。

 俺もまた、薫さんの擬死を死として扱ったことを、簡単に解決させてはいけないと心に刻んだ。

 

 

 

 皆で行った落人村。

 そこではしっかり漫画で見た光景が流れていった。

 

 左之助の言う仇討ち。

 心情的には近いものがあるけれど、やっぱりブレーキがかかった。

 もちろん、このままで終われないという気持ちはある。

 だけど、それでも。

 

「この状態を容認したのは……誰だ、って話で」

 

 何も言うことが出来なんだ。

 もう疲れたと言った剣心にも、そんな姿に怒りが収まらない左之助にも。

 

 だから。

 

「ねぇ、四乃森蒼紫さん」

 

「……」

 

 いつか会ったのは京都の市内。

 お互いに面識はそれだけ。

 

「私には薫さんが死んでしまったなんて信じられないんです」

 

「……そうか」

 

 それでもこうして言葉を返してくれるのはきっと優しさなんだろう。

 何を考えてるのかわからない代表ではあるけれど、カリスマだけはビンビンと伝わってくる。

 

「ええ、なんで一番心へ傷を負わせることが出来るだろう殺害の場面を剣心の前でやらなかったのか……そんなことを考えると、ね」

 

「――!」

 

 そこでようやく俺に目を向けてもらえた。

 流石に表情へ出さない蒼紫さん、ご立派です。

 

「過程を省く必要は何処にもない。むしろ本当に絶望の底へ叩き落としたいのなら、それはあるべきもののはず」

 

「あぁ、その通りだ巫丞弥生。俺にも違和感があってな、その時の一部始終を出来る限り詳しく話せ」

 

 本来ならこれは恵さんの役割だけど。

 俺自身少し逸っている気持ちがある。一刻も早くこの辛い現状から抜け出したいと思っているんだろう。

 今から墓を暴く……なんてのは無理だろうけど。

 それでも、少しだけでも早く今から脱却したい。そんな気持ち。

 

 だから遠慮なく話した。

 途中、随分と冷静なんだななんて突っ込まれたのはかつての斎藤さんを思い出してしまったけど。同じく、そう見えたなら光栄だとしか言えなかった。

 だってそうだろう? あの時はなし崩し、場当たり的にカードを切っていった結果だったけど、今回はある程度思考を巡らせている。

 

 随分と、虚勢を張るのが上手くなってしまった。

 

「わかった」

 

 そう一つ頷いた後、その場を後にしていく蒼紫。

 

 なんというか、本当に掴めない人だ。

 恐らく徹底的な現実主義という隠密のルールに則って行動し、明日の夜にでも薫さんの墓は暴かれる。

 それでこの空気も終わりだ。

 

「あぁ、そうか」

 

 ふと、気づいた。

 

「蒼紫達の到着を早める手助けをするだけで……もしかしたらこの戦いは――」

 

 ――終わっていたのか。

 

 あぁ、そうだ。そのはずだ。雪代巴の手記、それがただの一日でも早く手に入っていたのなら。

 

 なんてこった、正解はこんな簡単なところにあった。

 

 バカだ。

 

「はは……ははは」

 

 バカだなぁ……俺。

 何がバカって……。

 

「なんでこんなに嬉しいんだ」

 

 なんでだ、なんでだろう?

 なんでこんなに涙が出るんだろう。

 

 なんで今さら、心が痛いんだろう。

 

「そっか……そうなんだ」

 

 ようやく俺は俺をちゃんと責められる。

 仕方のないことだから、乗り越えないといけないからなんてお題目で隠していた心。

 

 ミスを見つけたから、自分の迂闊を見つけられたから。

 

「ごめん……ごめんなさいぃ……!」

 

 やっと、後悔できる。

 

 

 

「剣心さんとのお別れは済みましたか?」

 

「……弥生。んだ? おめぇも俺と来るか?」

 

 いやいや、目が笑ってねぇですって。

 弥彦の台詞が引っかかってるのはわかるけど、俺にあたることでもねぇでしょうに。

 

「まぁ、それもいいっちゃ良いのかもしれませんけどね」

 

「……は」

 

 あぁ、分かってるんだろ?

 絶対についてこないってわかってるからの台詞だったんだろ? それくらいわかるさ。

 

「弥彦に言われたでしょうし、私が似たようなことを言っても仕方ありません」

 

「んだよ……だったらいっちょ喧嘩でもすっか? そうすりゃ、多少でも気が晴れるぜ?」

 

 おーおー狂犬もびっくりね。触るもの皆傷つけるってか?

 

「いいえ? 私の気はもう晴れていますから」

 

「あぁ?」

 

 訝しげだねぇ。

 けどまぁ、生憎と。

 

「もう動くしかありませんから。いつまでも終わってなんて居られないんです」

 

「意味、わかんねぇ……! こちとらむかっ腹が立ってたまんねぇんだ……! たとえてめぇでも――」

 

「はっ! バカ言ってんじゃねぇですよ左之助。アイツがダメになったから自分もダメになることを容認しちゃうようなヤツを殴る拳も剣もねぇんです」

 

 今の自分がどんだけ情けない背中してるか分かってるか?

 

「私の好きな左之助なら一人でも薫さんの仇討ちに走っていましたね!」

 

「――!」

 

 あんたはそういうヤツだよ。

 剣心に引きずられて落ち込んだりするタマでもねぇだろう?

 

「まぁもっとも? そうして欲しいなんて思ってませんし? 今の左之助にソレをされるくらいなら今ここで貴方を潰してから私が仇討ちに走ります」

 

「てめぇ……!」

 

 あーあー、これだから左之助は。

 道を開けるがてら拳を躱して、その背中を木刀で小突く。

 

「行けよ左之助。一旦終わってこい」

 

「あぁっ!?」

 

 存分に苛立って、存分に憂さ晴らししてこい。

 

「返す拳は結構です。もうちょっとマシな面してから殴り返して来なさい」

 

「――ちっ」

 

 それでもまぁ言っておかないといけない言葉はあるか。

 

「良いですか左之助。待ちはしません、けど必ず……見届けに帰って来なさい。これでも、今でも……私は貴方の帰ってくる場所でいるつもりですから」

 

 言葉が届いたのかは、わからない。

 もう漫画で、原作でこうだからこうなるとも思わない。

 

 俺は、俺として、弥生として、どこまでもこの絆を信じてやる。

 

 

 

「それで俺に裏を取りに来たってわけか」

 

「ええ、嬉しいですか?」

 

 なんて言ってみれば斎藤はニヤリと笑って。

 

「コイツより遥かに使える人材が来るのは喜ぶべきことだ」

 

「おうコラちょっと待ちや!? こんだけコキ使っといてそらないんちゃうか!?」

 

 はいはい張さんは煩いんで黙っていてくださいねー。

 

 ま、邪険にされず良かったよ。なんとなくウェルカムな雰囲気です。

 

「それで? 今度は何処まで掴んでいる?」

 

「荒川河口……まぁ、斎藤さんと同じ睨みをつけてるって感じですか」

 

 言ってみればやっぱり眉を一つ動かして。

 

「やれやれ、貴様がそう言うならこれは本筋と考えて良さそうだ。そして欲しい裏は神谷薫が生きているだろうことか?」

 

「まさにその通り。そしてありがとうございます」

 

 うん、どうやらしっかりと薫さんは生きているようだ。

 これで一安心、しっかり動けるってもんです。

 

 今頃蒼紫達による神谷薫の墓暴き計画が立てられているところだろう。

 それに付き合うのも良いけど、やっぱり俺だからこそ動けることを優先すべきだ。

 

「よし。ならばここからはすり合わせだ。改めて(・・・)何処まで掴んでいる?」

 

 っとー流石にここで逃しちゃくれないか。

 ここで中華マフィア……縁達との関係を疑われないあたり結構信頼されてるよな。

 いや、もしかしたらその筋も疑ってるのかもしれないけど……。

 

「推論を元に、と前置きしますが。雪代縁に組織の旗頭となる力はあっても纏め上げる能力はないでしょう。実務、折衝担当がいると睨んでいます」

 

「続けろ」

 

「そして雪代縁最大の目的は現段階で達成している……剣心さんへ人誅を仕掛けるためだけにと決めつけるのは早計ですが、達成した以上組織のトップとして据え置くには危うい人種です」

 

 今現在に至るため。

 ここまで生き延びるって部分があったにせよ、その理由はやっぱり剣心へ復讐するためのはず。

 

「そういった組織のトップとして日本に来た、という点も絡めて考えて。日本へ市場を広げるには絶好の好機であるはず。実務折衝担当がこの機を逃すとは思えない」

 

「……流石だな。今からでもコイツの代わりにならないか?」

 

「ちょおい!?」

 

 いや流石に人誅編以降はお役に立てないでしょう遠慮いたします。

 

 ともあれ一つ斎藤は頷いた後。

 

「貴様の言う実務折衝担当……組織のナンバーツーが東京へ入ったと連絡があった。雪代縁個人の人誅なら可愛いものと見過ごせようが、ここから先は絶対にまかり通らん」

 

 流石の迫力。

 斎藤の悪即斬、それに抵触するとなると本当に。

 

「一つ、網を張っていまして」

 

「網?」

 

 まぁ張ったのは俺じゃないけど、蒼紫だけど。

 あん時の借りはしっかり返しておかないといけない。

 

「時間をかければ警察の捜査でも新アジトは割れるでしょう、ですがこちらも確実性が高いはず」

 

「わかった。ならば互いに情報が得られ次第連絡を取り合えるよう図っておく」

 

 今度は二人で頷く。

 

 そうさ外印。

 甚だ八つ当たりで申し訳ないが、いい加減葵屋から続いてる妙な縁……終わらせようぜ。 

  

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