TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

46 / 53
その男、外法の戦いにつき

 ――良いだろう、だが始末は俺がつける。

 

 それが条件。

 簡単すぎて涙が出るね、蒼紫には心から感謝しよう。

 

 じっと息を潜めて待つのは外印。

 そう、アイツの言う造形美その集大成である神谷薫の死体人形。

 取りに来るのをひたすらに待つ。

 

 手に持つのはいつもの木刀。

 少し肌寒くなってきたせいか、やけに冷たく感じるそれに対して心は熱い。

 

 今の所、一勝一敗の引き分け。

 なんて単純な話ではないけれど、葵屋での攻防では俺が勝って、先の人誅戦では手痛い敗北を刻まれて。

 いい加減だましだましで紡いでしまった縁を断ち切ろう。

 

 だましだましでやってしまったからこそ、見て見ない振りをしてきたからこそ。

 自業自得の大後悔。そんな無様を晒してしまったんだ。

 自分にある何かへの決別、そして腐れ縁ではなく腐った縁を振り切る。

 

「……ふー」

 

 落ち着こう。

 因縁と言うには言いがかりにも程があるけれど。

 荒くなりそうな呼吸を抑えつけて。

 

 外印。

 いつでも考えている相性。

 

 弥生対外印を相性だけで考えるならガン不利と言っていい。

 鉄線の直線的な攻撃、あるいは曲線の攻撃。

 それらに対して脅威はほとんど感じないが、間合いの広さと、鉄線を用いた環境利用攻撃。

 

 何度だって確認するけれど、俺は広範囲同時攻撃に弱い。

 最近判明した命を目的としない攻撃もそうだし、トラップばりの攻撃にだって弱い。

 

 八ツ目の地雷爆破を生き抜けたのは……予め命を繋ぐ場所へ目星をつけられた事が大きい。

 異能で爆弾の位置を察知出来たんだって理解だけど、外印の攻撃とは似ているようで少し違う。

 

 最大の噛み合わない点ってのが、間合いに入ることを徹底して許されないだろうということ。

 

 もう散々外印に手の内は明かしてしまっている。

 なら相当侮られるでもない限り剣の間合いには入ってくれないだろう。

 木刀の間合い先、中遠距離を維持されたまま何処かでハメられるってビジョンが見えている。

 

 防御する、つまり避けることはしっかり警戒していれば何とか。

 だけど攻撃する手段が無い。

 

 夷腕坊に搭乗していない外印だけど。

 それでも夷腕坊と同じく打開策がいまいち見えない。

 

 ノープランで勝てる相手なんてこの世界にはいないってのは重々実感させられているし、承知もしている。

 だからこそこの事前に対策を打たないで勝負へ向かうことに意味がある。

 

「俺が、何処まで強くなったか」

 

 試金石に出来る相手じゃないってのも、分かってる。

 何を偉そうな事考えているんだって、俺の中にある何かが叫んでいる。

 

 それでも……それでも、だ。

 

 この世界に生きる人達は、いつだって初見相手だ。

 知っているなんて武器を持ち合わせていない。

 それでも勝利しているんだ。

 

 知っているってことを避けられないし、今更忘れることも出来ないけれど、せめて。

 

「――来た」

 

 蒼紫に教えてもらっていた仕掛けを起動する。

 

「うおっ!?」

 

 大漁大漁……なんておちゃらけたい口にチャックをして。

 

「やっぱり来ましたね、外印」

 

「巫丞弥生……! 貴様の仕業か……!」

 

 いいえ、蒼紫の仕業です。

 まぁ、こいつには外法のものって自己紹介っぽいことしてたっけ? ならここでそれっぽく笑っとくのが吉かね。

 

「貴様っ! 私の、造形美の傑作を! 何処に隠した!!」

 

 叫びと共に飛んできた鉄線……確か、斬鋼線、だったか? 身体が勝手に反応して頬の少し横を通り過ぎる。

 そのことに一つ安心、どうやらしっかりと今のは(・・・)避けられるらしい。

 

「ふん、どうやら知っているらしい。流石外法のもの(同類)、博識だな」

 

「……甚だ反論したい気持ちが大きいのですが、まぁそれほどでも……と、お答えしておきますね」

 

「ならば貴様もわかるだろう、それに対する想いが。遺憾ではあるが、それがなければ縁の所から無事にここまでたどり着けなかったとすら思うほどの」

 

 別にもう辻褄を合わせる必要もないんだけどな。

 それを自覚してなおやってしまうのは……嫌な癖になったなんて思う。

 

 んで? 無事にたどり着けなかった?

 確かに帰りの船で襲われたんだろうけど……余裕そうだったし、余裕の返り討ちだろう?

 

 それ以外に何かあった?

 

 いや、まぁいいか。

 

 ダイヤモンドの粉末をうんたらかんたら。

 さも俺に勝ち目は無いってお話を校長先生の如く長ったらしく。

 

「ごちゃごちゃ煩いですね」

 

「何……?」

 

 不意を……つけてはいねぇか。

 構わねぇ。反射的に振るわれた鉄線を避けながら――。

 

「羽踏――!」

 

「くっ!?」

 

 手応えは……残念ありません。

 

 だけど。

 

「別に貴方から聞きたいことは唯一つ、そして貴方に教えることは何一つ無い……いい加減鬱陶しいんですよ外印」

 

「……貴様」

 

 あぁ、やっぱり無理だわ。

 冷静になろうと努めてたけど、早速羽踏起動させてるし、全然ダメだった。

 

「たっぷり八つ当たり、させて頂きますよ……再起不能は覚悟しろ、外印っ!!」

 

「小癪……なァ!!」

 

 

 

 擬似的に、今の俺は蒼紫お得意の流水の動きに近いことをしている。

 なんだっけ? 確か――

 

「水を裂くこと、括ることは叶わず……全くもって無駄な労力ご苦労さまです」

 

「小癪もそこまでくると言葉が思い浮かばんよ……巫丞弥生っ!!」

 

 来たっ!

 

 どごんと大きな音がして、周りへ這わされた鉄線が墓石を砕き、降り掛かってくる。

 

 ――信じてるぜ、弥生。

 

「つぅっ!!」

 

「裂くこと括ることが出来ぬのならっ! 叩いて飛沫にするのみよっ!!」

 

 ここでやることは力を込めることじゃない、その反対、力を抜くこと。

 弱点だって分かってる、勝手に身体へ力が入るのだって分かってる。

 

 だからこそ、抜け。

 

 全身全霊で弥生へ身体を預け、捧げろ。

 

「縁も黒星(ヘイシン)も……貴様も。総じて外法の人形使いをナメすぎだな――」

 

 俺の生きる場所、生きていられる場所はその先にある。

 

「さて、そろそろ――」

 

「――そろそろ、なんですか?」

 

 あーあー、黒ドクロ頭巾さえなけりゃなぁ? きっとその驚いた間抜け面を拝めたんだろうけどなぁ!

 

「化け物、か?」

 

「生憎残念とまだ(・・)それ呼ばわりは早いですね」

 

 うん、身体に痛いところは無い。

 一旦羽踏も解除だ、ここが山場だったんだ、この後下り坂になるかは未だわからないけど。

 

「……貴様の目指す先とはなんだ? それだけ秀でた力がありながら……この世だ、女が剣客として成功するわけでもなし。そもそも剣で収められる成功すらなくなりつつある」

 

 おっと、勧誘かな……? いや、勧誘もしたいんだろうけど、こりゃ半分はマジの疑問だな。

 

「ええ、そうでしょうね。私は剣客として何らかの成功を収めることは無いでしょう。この剣は今だけ、幸せを切り拓けさえすればそれ以降私にとって無価値もいいところ」

 

 あぁそうだ。

 鍛えたこの腕も、力も、剣術も、異能も。

 

 全てはイマの為だけに。

 

「目指す先に成功は無く、ただただ壁へと挑む心だけがある……外印、バカなことは言わないで下さいね? 貴方の言う成功は……私にとって地雷もいいところなんですよ」

 

 剣心や左之介、斎藤や蒼紫。

 彼らに並び立ち、雌雄を決する。

 

 あぁ、憧れだ。そんな場面を迎えられたら、きっと嬉しくてどうにかなっちまうだろうよ。

 

 だが残念、そこに勝利という成功を求めてはいない。

 

「私はいつだって最強で最高の彼らを見ていたいんです。そのためには何でもする。それがもし、私の死であるとするならば潔く死にましょう」

 

「意味が、わからんな。貴様、さては狂人か?」

 

 狂人なぁ。

 まぁそうなのかもしれないな、きっとこんな力を得たのなら、今まで数多の弥生は知らないけれど、俺みたいな中二病を拗らせたヤツなら俺つえーに走っていてもおかしくない。

 なんだったら、俺みたいなムーブかまして、陸軍省だなんだに入省して……なんてエリートコースを走っていたのかも知んねぇ。

 

 もっと言えば、俺が歩んだ軌跡より遥かに上手く立ち回って……自分にも、それこそ剣心たちにすら苦境を与えないようにしているのかも。

 

 だけど、それに俺は何の価値も感じない。

 

 ただただ見たいのは輝いているヤツらが輝いている姿。

 求めるのは彼らが幸せの中にいる光景。

 

「狂人で結構。狂人故に、貴方を排除する理由にもなる」

 

「――!」

 

 言ってはないけどさ。

 ほんとにこれはただの八つ当たりなんだよ外印。

 自分の失敗をあんたのせいだって押し付けようとしているだけなんだ。

 

 そうか、あぁ、なるほど、だからやっぱり俺は狂人らしい。

 

「何を、笑って……!」

 

「ふふ、ふふふ……笑わずにはいられませんよ! ええ、ええ! わからなくて結構です! わかって欲しいとも思わない!」

 

 自分へ盛大に笑いながら。

 

「……牙突」

 

「いいえ、違いますよ? これは――」

 

 ――羽突(ハトツ)

 

 思いっきり後ろ足で地面を蹴って。

 同時に弥生の世界へと身を委ねて。

 

 牙突弥生流の完成形。

 

「血迷ったか!? 左様な勢いでこれは避けられまい!!」

 

「――」

 

 おいおい忘れたか?

 鉄線も、墓石アタックも。

 

 俺の命はその先にある。

 

「っ!?」

 

「ああああああああああ!!」

 

 された攻撃が何だったのかはわからない。

 もうそれすら気にならない。

 

 ただただ目指すのは外印の水月(みぞおち)

 その一点。

 

 視界が反転した、ずれた。

 構わない、中心に置いたそれが揺るがなければそれでいい。

 

「っつぐぇ!?」

 

「――」

 

 突きが、完全に入った。

 自らの意思で、急所を狙った一撃。

 

 完璧に、入った。

 

 

 

「が……ご……」

 

「……苦しんでる暇は無いですよ? 外印」

 

「ぎぃっ!?」

 

 手の甲を突く。

 右手、左手と順に、強く、強く。

 

 これでもう、こいつは鉄線を使えない。

 

「あなたには薫さんの居場所を教えてもらわなければなりません……さぁ、吐いて? どうぞ」

 

「ごっ! ぎ、ぐ……!」

 

 あぁ、興奮が収まらない。

 

 捕まえた昆虫をピン刺しにしている気分だ。

 標本を作らなきゃならないのに、どうせ命を最終的に奪うっていうのに。

 

 命を弄んでいるこの実感。

 

「あれ? 言えませんか? すいません、尋問って言うんでしたっけ? 私、初めてなもので……至らなくて申し訳ありません」

 

「ごぉっ!?」

 

 尋問? あぁ、拷問だっけ? まぁどっちでもいいか。

 

 しかし喋ってくんないなぁ……もう一箇所位急所打っとく? 一本いっとく?

 

「巫丞弥生」

 

「煩いですね、今良いところなんですよ、邪魔しないで下さい」

 

 あぁ、そうだ。

 まだ大丈夫そうなんだ、だったら――。

 

「ふぐっ!?」

 

「……落ち着け、今のお前を誰にも見せられん」

 

 いったぁ!?

 

 ……あえ? 蒼紫?

 

「蒼紫、さん?」

 

「やれやれ正気に戻ったか。俺としては安心できたが……それは俺だけだろう」

 

 うん? 一体何のこと……って。

 

「うわ、それ私がやったんです?」

 

「……あぁ、後は任せろ」

 

 ……いやーちょっと直視できませんね。

 完全に血に……いや、狂気に酔ってましたね間違いない。胃のあたりからこみ上げるもんが……うぷっ。

 

「おろろろろ――」

 

「……まぁ良い。その姿を見て、誰もお前を外法の者だとは思うまい」

 

「げ、げほーのものじゃないでず……ずずっ。え? と言うかあれ?」

 

 なんでそんなこと言ってるんすか? え? いやもしかして。

 

「察しが良いな。その通り、こいつと共に貴様も外法のものであれば葬り去るつもりだった」

 

 ……うそん。

 あーでもあれだ、この人それが目的で生きてるんだっけか……。

 

 いやいや、そんな事実聞きとうなかった。

 斎藤といい、蒼紫といい。ちょっと狡猾が過ぎませんかね?

 

 まぁいいや、結果オーライ。

 なんだかすごく眠いんだパトラッシュ。

 

「連れて帰ってはやる」

 

「ありがとうございまーす……あと、おねがいしま、す……」

 

 すんげー気持ち悪いけど。

 気分はなんだか整理できた。

 

 複雑な気分のままで。

 

「……せめてソレからは避けておけ」

 

「……」

 

 漂う臭気に涙を流した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。