TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル

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その男、最終確認開始につき

「とうっ!」

 

「いぃっ!? いきなりすぎんだろ!?」

 

 はいはい、そんなわけで左之助のお帰りですね、おかえりなさいませー。

 挨拶がてらちょっとした奇襲、羽突かっこ弱ってなもんで。

 

「で? 今度は何処でバカやってきたんです?」

 

「あー、まぁ。一言でいやぁ喧嘩を、だな」

 

「はい、亜細亜一のバカ決定戦優勝おめでとうございます」

 

「あぁっ!?」

 

 恵さんの台詞だけども、まぁどうやら俺のとこへ一番に顔だしてくれたみたいだし多少はね?

 ていうか汗だくやべぇな左之助。

 

「とりあえず汗拭いてください」

 

「おお、ありがとうよ」

 

 燕ちゃんに渡すつもりだった手ぬぐいを渡して。

 左之助が帰ってきたってことはぼちぼち弥彦と剣心も目が覚めるだろう。

 

 右手の負傷が無い左之助だ、ほんと遠慮なくというかやりたい放題やってきたんだろうなと、汗を拭う左之助を眺めながら。

 曰く所の喧嘩。

 単純と言うかなんと言うか、清々しいなんて言葉が似合う左之助の表情だけど、それは喧嘩だけで晴らした曇天ってわけでもないだろう。

 過去にケツを叩かれた。

 これでようやく、左之助も前を向けたんだ、定かじゃない未来を心のままに行くと。

 

「んだよ、悪かったって。だからんな目で見んねぇ」

 

「はい? あぁ、いえ。別に咎めているわけじゃありませんよ。まぁ腑抜けて帰ってきたわけじゃなさそうですね」

 

 いかんいかん。ちょっと最近色々妬ましいなんて思うんだよな、自分を棚に上げまくってるけど。

 やっぱ先を見ることが出来たやつは羨ましい。

 自分で自分の首を締めてるってだけに過ぎないんだけど、やっぱり俺は剣心と戦うまでは見れなくて。

 

 左之助が喧嘩をして鬱憤を晴らしたように、俺もまたそうしなくちゃいけない。

 

 強迫観念に近いのかもしれないけれど、やっぱり。

 

「そうかよ。まぁなんだ……わりぃな」

 

「……」

 

 あー……うん、ちょっと謝ってる方向変わったね?

 なんだろ、一人で先に行って悪いな、って感じだろうか。まぁちょっと妬ましいじゃないけど寂しい気持ちはあるな。

 

 だけど。

 

「バカ言ってんじゃねぇですよ左之助。あなたには……いえ、あなたも私の先を行く人間であって欲しいのですから」

 

「はっ! だったらさっさと追いついてこいや?」

 

 ったく、付き合いが長くなるってのも嬉しいやらなんやら気恥ずかしいもんだ。

 明治での年の瀬と俺が生きていた現代で重みがどう違うのかわからないけれど、同年代って存在はどうやら素敵なものらしい。

 

「ええ、そうさせてもらいますよ左之助。まぁとりあえず――」

 

 ――おかえりなさい。

 

 ――おう。

 

 手を上げてみれば随分といい音が響いたハイタッチ。

 今日がいい日であることを教えてくれる音色だった。

 

 

 

 さて、左之助と弥彦がメシタイムの間。

 剣心が再び立ち上がった時の顔を見たいのは山々だったけれど、俺にもまだやることがあるわけで。

 

「準備は……って、聞くまでもないですね」

 

「……ふん、当たり前だ」

 

 やってきたのは警察署、斎藤のお部屋。

 まぁ随分と荒れている……ってわかるのがなんだか嬉しいけれど。

 乱雑に書類が散らかされているわけでもないけれど、やっぱり抜刀斎との決別を意識しているんだろうな。

 

「何か手伝いをと思いましたけど、やること無さそうですね」

 

「まぁな。後は明日を待つのみだ」

 

 実のところ予想通りでもあったりする。

 自分の気持ちを実務に悪影響として及ぼす様な人でもないし。

 だからここに来たのは提案するため。

 

「じゃ、ちょっと汗でも流しませんか? 左之助じゃあありませんが、気晴らしにはなりますよ」

 

「貴様……やれやれ、俺をあの阿呆と一緒にするな」

 

 なんて言いながらもちょっと笑ってるじゃないですかやだなーもう。

 

「わかる……ってわけじゃないです、それほど安っぽいモノでもないでしょうし」

 

「……仕方ない。少しだけだ」

 

 一瞬驚いた顔が見れたのはヨシとしておこう。立ち上がってくれたしね。

 幕末に生きた勇士、そんな人にしか抱えられなくて背負えない想い。

 理解が及ぶなんて思えないし、間違っても言えない。

 

 そして同調して慰めに来たわけでもなければ、斎藤自身それを求めているわけでもない。

 

 故にここへ来たのは示すため。

 俺を本当の意味で闘いへ誘ってくれた人への恩返し、それに足る人間へなったと。

 

 稽古場へ向かう俺たちの間に会話は無い。

 

 斎藤は何を思っているのだろうか。

 頭のキレる人だ、言葉にできない何かを感じ取ってもらえたなんて思うのは甘えなのかもしれない。

 本当に、ただの気晴らし、そのために相手をしてくれるってだけなのかもしれない。

 

 それでもいい。

 これは俺が打てる最後の布石であり、最後の修行。

 

 超えられるなんて思っていない。

 斎藤とガチで戦って勝てるなんて微塵も思わない。

 だけどそれでも認めて欲しい。

 

 あなたの代わりに戦う……緋村剣心との何かへケリをつける人間に足る者だと。

 

「いつか貴様は言ったな。殺さなくても殺す道を選ぶと」

 

「はい、たしかに言いました」

 

 向かい合う。

 それだけでわかる斎藤という壁の高さ。

 

「かつてそれを甘いと断じた。しかし、貴様は見事にそれを貫いた」

 

「……」

 

 感じる重圧、剣気。

 そのどれもが俺の心を折ろうと伸し掛かってくる。

 

「だが、外印。貴様は酔った、殺意に、狂気に。あの時四乃森蒼紫が居なければ確実にお前はヤツを殺していただろう」

 

「……はい」

 

 否定できない、むしろ肯定する。

 あの時の高揚感にもにた何か、それは今でも覚えていて、心の何処かでもう一度と願っていることを。

 

「貴様は、まだまだ弱い。強くはなった、初めてやりあってから今に至るまで、目を疑う程に強くなった」

 

 分かってる。

 小手先の力ばかりが身について、戦いを何処か舐めていて。

 肝心の心がクソザコナメクジであることなんて。

 

「故に……来い、貴様の甘さを殺してやる」

 

「……お願いしますっ!!」

 

 断ち切ろう、甘さを。

 精算の時はまだもう少し先だけど、ここで、彼と同じく幕末を生きた人の胸を借りよう。

 

 そして。

 

「はあああああああっ!!」

 

 歩きだそう。

 

 

 

「おいおい弥生姉、そんなんで大丈夫か?」

 

「なぁに言ってんですか弥彦。心配は嬉しいですけど、こんなのへーきへーきですって」

 

 身体の痛みより、むしろ舟の揺れの方がキツイっす。

 あー大地が揺れるんじゃあ……おろ……っぷ。ゲロインじゃないです。

 

「いやまぁ、弥生姉がそう言うなら大丈夫なんだろうけどさ。頼むぜ?」

 

「ええ、ありがとうございます。そして弥彦こそ」

 

 大丈夫ですよありがとうと笑おうとした時。

 

「っ!?」

 

「何事だっ!?」

 

 あかんこれ機雷あかんて。めっちゃ揺れるだめだめもう……。

 

「おろろろろ……」

 

「うわぁっ!? やっぱダメじゃねぇか!!」

 

 返上失敗ですねはい。

 あーもう、後はお願いしますほんとまじで。

 

「……ったく、おい、小舟を出すぞ」

 

「ひゃ、ひゃあい……ご迷惑おかけしますぅ……」

 

 言いながら肩を貸してくれたのは斎藤さんまじありがとう。

 後ろに左之助が所在なさげに手を伸ばしているけどごめんフォロー出来ません、うっぷ。

 

「……あんたねぇ」

 

「うぅ、操ちゃんにこんな姿、見られとぅなかったです」

 

 呆れてジト目を送ってくれちゃうけれど、勘弁してください。むしろ気にせず川蝉の嘴(カワセミのはし)よろしく。

 

「――距離、六十一、五(メートル)。右に二十九、七分だ。水中を見ようとせず、波の変化を集中して見極めればいい、射て」

 

「――はい! 貫殺飛苦無、川蝉の嘴!!」

 

 え、まってちょっとまって。

 それ、成功したら爆発するよね? かっこいいシーンだけど爆発するよね?

 

「おうっぷ」

 

「おいやめろ、ここで吐いたら海に沈めるぞ」

 

 無理無理無理無理。死ぬ、マジで死ぬ。

 どうせなら殺せ、戦って死にたいだけの人生だった。

 

 あー景色が揺れるんじゃあ……目も回るんじゃあ……。

 

「やはり捨てるか」

 

「が、がんばりまひゅかりゃ……おねがいしましゅ」

 

 うおおお……頑張れ俺、超がんばれ。波に負けるなゲロに負けるな。

 弥生は強い子可愛い子。

 私、吐き気なんかに負けない!

 

 

 

「くっ、殺せ」

 

「何いってんでぇ……」

 

 やっぱり船酔いには勝てなかったよ。

 あぁ、弥彦のジト目が痛いし、斎藤さんの視線が心臓狙ってるってはっきりわかります。

 

 やっぱり大地って良いよね、揺れないもん。抱きしめたいな!

 

 決して地面に突っ伏したい気持ちで溢れかえってるわけではない、断じて。

 

「縁!! 聞こえているだろう! 拙者だ!!」

 

 あー剣心、わかるんですけどね、かっこいいんですけどね?

 すっごく頭に響くから勘弁してくださいお願いします。ほんとごめんなさい。

 

 まぁあれだ、縁はともかく、黒星は十分かそこいらでここまで来るはずだ。

 それまでに何とか体調を整えよう。

 

「め、恵さん……」

 

「……はい、これ胃薬」

 

 流石だぜ恵さん、愛してる。

 水筒と一緒に受け取って、しばらく目を瞑る。

 

 ふぅ……。

 

 いい加減ネジ締めなおそう。

 ようやくだ、ようやく原作中で知っている戦い、その最後。

 俺が定めた最終確認。

 

 相手は誰になるだろうか。

 斎藤には事前に言ってある。悪即斬に抵触する相手でもなし、殺したがりというわけでもなし、普通に任せてもらえた。

 そのまま斎藤の代わりに戦うってなるならば青龍だろうか、確か見切りを極意とした相手で大刀を獲物にしていたっけか。

 

 とは言え、あの四神は自身達で一番相性のいい相手を判別して戦うのだから、そうだと限られるわけでもないだろう。

 ならば予想されるのは誰か、あえて言うのなら玄武だろうか。

 拳相手はやっぱり拳だろうし、蒼紫相手にはやっぱり朱雀だろう。

 

 弥彦のことを考えるとやっぱり俺に青龍をアテて欲しい部分があるが……ふむん。

 ぶっちゃけ俺から考えると玄武が相手になった場合、正直楽勝が過ぎる。

 

 異能は考えて対応出来るようなもんじゃない。

 

 弥生の異能はいわば反射だ。

 本能の動きに近い、本能を思考し対処しろなんて無茶も過ぎるわけで。

 そういった意味から考えれば、青龍の見切りなんていうやっぱりこれも反射に近い特技じゃなければ対処出来ないだろう。

 

 もっとも、それが初見、ぱっと見で把握できるのかってところだけれど。

 

 ただまぁ青龍の相手が弥彦になった場合は少し困るな。

 弥彦の勝ちは揺るがないだろうけど、負うダメージは絶対にあるはずだ、その量は青龍を相手にした場合のほうが多くなるはず。

 間合いでの勝負って弥彦はまだいまいち経験が無いはずだし、ちょっと俺もあの槍チックな武器を弥彦がどうするのかって部分がイメージできない。

 

「さて、どうなるか」

 

 思わず呟く。

 一緒に息を吐いてみれば胸のムカツキは随分とマシになった。

 

 立ち上がってみればふらつきもしない。

 砂を踏みしめてみれば、少し勝手は違うけれど戦闘行動に支障はない。

 

「――やはりな」

 

 不意に斎藤がタバコをポイ捨てした。だめだぞ。

 

 言葉で前を向いてみれば五つの影。

 

「――暴悪に荒れ狂えっ!!」

 

 うわ、きんもー。

 左之助も言ったけどニタリじゃねぇよったく。

 

「四対四……おい、弥生、でぇじょうぶか?」

 

「誰に言ってんですか、もちろんです」

 

「……さっきの姿からそうとは思えねぇんだけどな」

 

 はいはい忘れて下さいね。

 

 さて。

 

 なんだか戦いの前口上が述べられているけれど、やっぱ黒星って小物だな。

 同じ組織のナンバーツーといえば、方治のことを思い出すけれど、こうも簡単に感じる器の違い。

 

「おい」

 

「はいはい? どうしましたか斎藤さん」

 

「今回の仕事は思った以上につまらなさそうだ。後は任せる」

 

 そう言って少し離れてタバコへ再び火をつけた斎藤さん。

 

「……ありがとうございます」

 

「ふん」

 

 その姿に御礼を。

 

「――ならばチンピラとガキとメスガキと陰気な男だっ!!」

 

 あっ、ふーん?

 なんだっけ? 抜刀斎と戦わせてくれなきゃやだやだやだーだっけ?

 と言うか語彙すくねぇなナンバツーかっこ笑いさんよ。

 

「年頃の娘に向かってメスガキとは……やれやれ、クソガキに言われると腹も立ちませんね」

 

「わかったもういいっ!! どうやら全員ここで死にたいようだナ! 四神!!」

 

 おーたっかーい。

 んで? そのジャンプする意味は何?

 高いたかーい?

 

 うっせ他界させっぞこんにゃろう。

 

「――っ!!」

 

「……」

 

 よっし、青龍キター!!

 んじゃ、さっそく……。

 

「最終確認、開始、っと」

 


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