TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、最終試験につき

 さて、青龍。

 見切りを得意とした相手ではあるけれど……。

 

「ふっ!」

 

 とりあえず一刀。

 力を抜いて、相手よりもまずは足場の確認。

 やはりと言うべきか、砂浜は多少勝手が違う。踏み込めば幾分沈みが深いし、力を伝えるのにラグがある。

 

 なるほど、それでもこれなら十分だ。

 

「……その程度か?」

 

「……」

 

 おっとー、それは挑発ですねわかります。

 まぁそうですよね、最大の武器をまずは見たいよね、そしてそれを見切りたいよね。

 

 気持ちはわかるよ。

 知るって言うことは武器だ、俺自身もそれを武器としてきたし、している。

 相手、最大の詰めろ……寄せ手、切り札。

 そういったものを回避できるという札が出来てしまえば、大きな安全マージンだから。

 

 だけどそれは決して勝敗を決めるモノではない。

 

「やれやれ、きかん坊ですね。せっかちな男は嫌われますよ?」

 

「ハッ!」

 

 まぁ良いさ。

 左之助じゃねぇけど、お前ほどで足踏みしてやるほど退屈はしてないんだ。

 存分に試させてもらうさ。

 

「――羽突」

 

 若干不安ではあったけど、なるほど雑魚って言い切れてしまうほどではないらしい。

 しっかり青龍の懐に生きる場所が見えたってことは、ちゃんと危険な場所があるってことだ。

 

 そして当然。

 

「――見切った」

 

「へぇ?」

 

 いやいやいや、ダメでしょ早漏でしょ。

 羽突の真髄はただの突進突きじゃねぇんすよ? それをただのそれとして見切るのは早計に過ぎませんかね?

 

 ……まぁ良いか。

 

「ヌシが只者ではないということはわかる。身に纏う雰囲気が、そして気迫が、そうだと告げている」

 

「そりゃどうもありがとうございます」

 

 なんだよ口がうまいなーもう。

 とは言えまぁ木刀ですものね、結構いい感じに左腕へ入ったけど……ダメージは如何ほどか。

 見る分には使用不可能ってほどじゃないか、急所に打ち込んだわけでもなし、しばらく痛みが邪魔をする、まぁそんなもんだろう。

 

 大刀を振るうにあたって片手では厳しいだろうけど、簡単に犠牲にするんだ。それほど左腕が使えなくとも影響はないんだろう。

 何より見切るってのは相手の武器を封殺することでもある。見切った確信を得たんだ、なら対処(・・)で勝負を決められるということ。

 

「故に勝利の代償としてこの負傷……十分に安い」

 

「なるほど? まぁ良いです、じゃあどう見切ったのか教えていただきましょうか」

 

 ……羽突はあんまり乱用したくないんだけどな。まぁ良いさ。

 羽突の弱点、教えていただきましょうね。

 

 同じく、突っ込む。

 そして。

 

「容易いこと!! その技の弱点! それは――」

 

「――それは?」

 

 相手にとって右側、俺にとって狙いをつけるための左手側。

 原作よろしく死角を利用した攻撃は……呆気なく空を切って。

 

「うぐっ!?」

 

「……阿呆。一見で見切れなかった試し、今作っちゃいましたね」

 

 カウンターとなり俺の突きが再び青龍の右腕へ吸い込まれた。

 まぁ仕方ないよね、何処までも弥生の真髄は回避することなんだから。

 

 でもまぁ、羽突は一旦お休みだ。

 恐らく。

 

「ぬうぅっ!」

 

「……あらら。自尊心、傷つけちゃいました?」

 

 ただの愉悦ヤロウは煽り耐性ゼロなんだろうから。

 わけわからん逆上でこうなるってのも分かってた。

 

 そしてその攻撃も、羽踏へ切り替えた俺へは届かない。

 

「……つまらない人ですね。斎藤さんがやる気なくなるのもわかります」

 

「き、キサマッ!」

 

 いやいや、更に自分を見失ってどうするよ。

 こちとら最終確認の予定なんだ、それにすら至らないでどうするんだ。

 

 遮二無二、とでも言うべきか。

 ぶんぶんと獲物を振り回す青龍は滑稽と言っていい。

 

 沸々と湧き上がる、あの時感じた高揚感。

 

 それは俺の甘さだ。

 手の中で藻掻く羽蟲をどう潰そうかと浮上する昏い感情。

 

 それに決してもう酔わない。

 

「シッ!!」

 

「おごっ……」

 

 カウンターを見切るなんてそりゃ無理だ。

 いや、あくまでもこの状態の青龍なら、だけど。

 

「いい加減冷静になって下さい。良いですか? 私の真髄は反撃と回避。それをちゃあんと見切って下さい」

 

「こ、このっ!」

 

 それが出来ない青龍じゃあないだろう。

 わかっていれば、冷静であるならば見切られるはずだ。

 それすら出来ないと断じてしまうほど低く見てるつもりは無いし、敬意を払っていないわけでもない。

 

「ほらほら、さっきまでの笑みはどうしたんですか? たかがメスガキの一人ですよ? ちゃあんと対処して下さいよ」

 

 だって言うのにこの口は……もう煽らずにはいられませんことよ、おほほ。

 

 仕方ない。

 

「よっと」

 

「っ!」

 

 一旦間合いを大きく取る。

 このままじゃ何も得るもの無く羽踏で終わっちまう。

 

「ふぅ、落ち着いて下さい。そして私の手札はご理解頂けたでしょう? そしてあなたなら出来るはずだ、見つけられるはずです私の対処法を」

 

「――」

 

 よしよし、目に理性が帰ってきたね、お帰りなさい。

 

 じりじりと間合い外で思考戦。

 まぁ俺は別に何も考えていないのだけれど。

 

 この最終確認、その意図はやっぱり俺の粗探し。

 ぶっちゃけ先の斎藤とやった一戦であらかた掴めてはいるんだ。

 心を正しく燃やすことはもちろん、技量的なものだって。

 

 だからこれは答え合わせ。

 青龍を使った答え合わせに過ぎない。

 

「――来い」

 

「ええ、良いでしょう」

 

 青龍も答え、見つけたようで何より。

 

 んじゃ、リクエストにお応えしまして最後の羽突、行きますか。

 

「――」

 

 ……意識が切り替わる。

 今までのなんちゃって遊びに近いもんじゃなく、正真正銘、異能へ身体を委ねる。

 

 弥生じゃない俺がすべきことは唯一つ、唯一点。

 

 突っ込む。

 

「見切ったっ!!」

 

 そうだ、それで良い。

 防げないカウンターなら、カウンターに合わせろ。

 

 クリスクロス。

 

 ボクシングじゃそんなふうに言われてるんだっけ? カウンターに対するカウンター。

 

 突きを浴びながらも、青龍の大刀が下段から俺へと迫る。

 だから。

 

「――な」

 

 あぁそうだ。

 その選択は正しい、それこそ俺の弱点だ。

 

 さっきまでのな。

 

「くら、え……!!」

 

 女性特有の身体の柔らかさ、靭やかな動き。

 

 迫り来る刃に向かって、脱力する。

 満点とまではいかないけれど、及第点ではある。

 狙いのずれた刃が頬を少し引き裂いて、振り上げられた。

 

 ここから。

 地面へ四つ這いになったこの態勢、ここからだ。

 

「弥生流……柄の下段――」

 

 ――膝挫。

 

 構えた柄は青龍の膝へとしっかり吸い込まれ。

 

「ぐ、おおおおお!?」

 

 嫌な感触と共に青龍が砂へと沈んだ。

 

 

 

 ――ここにいるのは皆。拙者が心から信をおいている、仲間でござる。

 

 ですってよ奥さん! 聞きました奥さん!

 

 いやー勝てるとは踏んでましたけど結構際どかったね。

 ぶっちゃけ羽踏で完封だったんだろうけど、やっぱり確認大事。

 

 まぁなんだ。

 要するに俺はカウンターに合わせられると弱いんだ。

 先の斎藤との稽古。

 そりゃもうそればっかり狙われたよマジで容赦ねぇ。

 

 実際随分前に言われてたよな、平たくいえば非力だって。

 痛いとわかっていれば我慢できる、なら相打ち以上を狙った攻撃に対してダメージトレードで負ける公算が高いって。

 

 しっかり急所を狙って行けばそれは解消されるけれど、羽踏じゃ無意識下にいるからそれも無理だし。

 羽突じゃ突く場所を選ぶって事が出来ない。

 

 つまるところ羽突と羽踏の連携。

 そして最終的に俺へと戻り攻撃する。

 

 この一連の流れを確認したかった。

 

 そういう意味で青龍へと期待していたんだよ。

 カウンターに対するカウンター、それに気づけるのはこいつ以外でも出来るだろうが、実践できるのは四神の中でこいつしか居ない。

 その目論見に見事応えてくれたんだ、感謝しないとな。

 

「ふぅ」

 

 心のなかで感謝して、ちらっと斎藤へと目を向けてみれば一つ頷いてくれた。

 まぁ少しだけど怪我しちゃったのは誤算ではあるな、女の命は髪と顔。お嫁に行けなくなっちゃう。

 

 ……いや、もう突っ込むまい。

 

 ともあれ勝利だ。

 他の人へと目を向けてみればしっかりと優勢、もう勝負もつくだろう段階。

 

 蒼紫は朱雀を拳でボコボコにしてるし、左之助も同じくボコボコ。

 弥彦はしっかり玄武の棍の先を抑えて刃止めしてるし。

 

 うん、勝利だね。

 

 そして。

 

「――っ!」

 

 雪代縁が現れる。

 

 ……別に感覚が鋭いわけでもない、だと言うのに伝わりすぎる程に伝わってくる憎悪を身に纏って。

 

 そんな縁と一瞬目が合う。

 なんだろう、僅かな表情の変化、だけどそれも一瞬で。

 

「立て、抜刀斎」

 

 静かに、剣心へ向けてその憎悪を解き放つ。

 

 前に立ちふさがる弥彦と左之助。

 だけど一切の視線を向けられず、ただただ剣心へと。

 

「あー! もう!」

 

 そんな重すぎる空気に、待ち望んでいた声が響いた。

 

「薫さんっ!!」

 

 やったぜ!! 安心した!

 

 あー……良かった、本当に良かった。

 分かってたけれど、分かっていたはずだけど。

 

 こうして無事な姿が見られて、ようやく安心できた。

 

「そこまでだ」

 

 思わず駆け寄ろうとするけれど、もちろんそれを遮るのは縁。

 

「オイ黒メガネ――」

 

「待って下さい左之助」

 

 左之助に一言。

 そして剣心へと一つ視線を向けて。

 

「……弥生殿?」

 

「剣心さん、薫さんのついでで良いので……迎えに来て下さいね」

 

 静かに縁へ向けて歩く。

 

「お、オイ! 弥生!!」

 

「……」

 

 向けられなかった縁の視線。

 それが今この時はっきりと俺へと注がれた。

 

「あの時はどうも、縁さん」

 

「……なんだ、キサマから殺されたいのか」

 

 何処か声が上擦っているのがわかる。

 あぁ、そうだろうな。

 俺とお前の立ち位置は、非常に似ているんだろうから。

 

「ハイサヨウナラはしませんし、剣心との戦いを邪魔するつもりもありません。だから私だけ、私だけでも姉さんの隣にいさせて貰えませんか?」

 

「……」

 

 じっと縁を見つめる。

 瞳が黒メガネの後ろで揺れているのがわかった。

 

 だから。

 

「良いだろう」

 

「ありがとうございます」

 

 許された。

 

「弥生っ!!」

 

「はぁ……無事で良かったです、姉さん」

 

 はぐっと抱きしめ合う。

 さっきの安心はこれで心に落ち着いた。

 

「もうっ! 弥生はいっつもむちゃばっかりするんだからっ!」

 

「あははー、姉さんにだけは言われたくないです」

 

 まぁどっちもどっちか、そうだねうん。

 これで皆も少しは安心を深めてくれたというか……剣心と縁の戦いへと集中できるだろう。

 

「じゃ、後は剣心さんを信じるだけですね」

 

「……うん!」

 

 そうして二人で戦いを見守る態勢に。

 

「弥生殿、ありがとう。そして薫殿」

 

 ――すぐに迎えに行く。そこで待っていてくれ。

 

 ……あー剣心やっぱかっけぇなぁ! くっそう!

 じゃ、これも最後の戦い。

 知っている戦いの最後。

 

 しっかりと、最後の見物人を、満喫することにしよう。

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