TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、決意につき

 戦いの……いや、俺の人生はいつから始まっていたんだろう。

 男として生きていた頃からか、それとも弥生として第二の生を得てから? それともオリジナルの弥生が生まれた時?

 今となっては全てが俺そのもので、まるで命が二つあるかのよう。

 

 いつから。

 いつから今目の前で刃を交えている人を殺したいと思っていたのか、殺されたいと願っていたのか。

 弥生が俺で、俺が弥生。

 そうなってしまってからは、もう、意味のない疑問なんだろう。

 

 これが知り得るるろうに剣心、その漫画の最終戦。

 後で彼が言うように、戦いの人生は未だ完遂されていないけれど、それでも最後。

 

 この戦いが終われば……ようやくと言えるのだろう、剣心が剣心として生きるように。

 俺も、弥生でもかつての俺でもなく。

 生まれ変わった俺として歩き始めるために。

 

 不意に笑ってしまいそうになる。

 今の状況、この世界へ産み落とされたこと。

 

 事実は小説より奇なり、なんて言葉があるけれどそれはまさしくその通りだ。

 誰が想像できる? 女の身体になって、中身は男のままで。

 今までの弥生はどう考えていたんだろうか、そんなことすら笑えてしまう。あぁ、だから俺はやっぱり狂人なんだろう、外印が言った通り。

 あんまりにも欲望へ忠実過ぎるんだ。かつて欲望の向け先だった、この胸、この身体。

 男らしくと言うべきか色々とヤることだって出来たっていうのに。

 チキンハートだと己を情けないなんて思うべきか、それともそれ以上に強くなるって欲望が強かったと思うべきか。

 

 それは後者だと信じたい。

 だってそうだろう? 皆と同じように、目の前で繰り広げられる剣心と縁の戦いから目を離せない。

 誰もが剣心の勝利を願っている、もちろん俺だって。

 

 ただ、その内訳は俺だけが異なるだろう。

 

「……なんて、ね」

 

 集中しよう。

 知識と照らし合わせて見る……いや、観察できる剣心の戦いはこれが最後だ。

 強さそのものが剣心の域へ手をかけたなんて今も思えない。

 だからこそ、対緋村剣心の対策を練る必要がある。

 

 場面は高さの勝負。

 縁の疾空刀勢(しっくうとうせい)、ありゃどうやっても真似できない。

 高さ、力、速さの中で、剣心が唯一縁に勝るのは速さのみ。

 

 これもそうだ、剣心の読み、予測から外れた技術。

 故に剣心は痛撃を受けることになった。

 つまり俺の考え、緋村剣心は予想外に脆いっていうことが正鵠を射ている証左だろう。

 

 自分へと置き換えてみれば情けないことに、どれも剣心には及ばない。

 そんな今持ち得る俺の武器の中で、剣心の予測や読みを超えられるものと言えばやっぱり異能しかない。

 

 故に緋村剣心が絶対に避けられないと確信した攻撃を避ける、それにカウンターを放つことこそが勝利への道。

 

「――っ!!」

 

 そして今二度目の九頭龍閃が発動前に潰された。

 

 あぁ、実に素晴らしい着眼点。

 発動されてしまえば、絶対に避けられないだろうその技の潰し方。

 あれは、恐らく羽突で似たようなことが再現可能だろう。

 

「立て! 人斬り抜刀斎!!」

 

 縁が吠える。罪を祓うにはまだまだ足りないと吠え立てる。

 あらゆる負の感情から生まれる強さを以て、緋村剣心をねじ伏せようとしている。

 

 きっと、縁が最高のパフォーマンスを発揮出来るのは、剣心相手だからこそなんだろう。

 もちろん素の力に疑問は浮かばない、だけどここまで強くはならない。

 

 俺は……負の感情とは言わずとも、そこまで熱望しているのだろうか。

 仇でもない、それどころか尊敬の念を捧げる人。

 そうだと言うのに、ただただ未来を歩くために必要だからと思いこんで刃を向けようとしている。

 

 そんなことが、許されて良いのか?

 

「――死人に罰を下す術はない!! だから愛するものが代わりに罰を執行する!!」

 

 あぁ、そうか。そうなんだ。

 

 弥生はもう、罰を下されることは無いんだ。

 こうして無限とも思えるループの傍観者となることこそが罰なのかもしれないけれど。

 それをもう十分だと赦すことができる存在がいない。

 

 緋村剣心に殺されたいと希う心。

 

 それは果たして罪なのか? 誰かを好きになることが罪なのか?

 そりゃ随分とひん曲がった願いだと思うし、危うすぎる恋心だと思う。

 でも、だからこそこの罪の中に未だ生きている。

 

 つまり、弥生は。

 

「分かったよ、弥生。だったら俺が精一杯あんたを愛してやる」

 

 久しぶりに感じる、自分以外の鼓動。

 分かってる、何いってんだって話だ。

 今もなお願う気持ちは確かに存在していて、あんたの心を燃やし続けている。

 

 だったら簡単だ。

 

 あんたは失恋をするべきだ。

 

「……っ」

 

 あったまいてぇ、なぁ……。

 分かっただろう? もう十分だろう?

 緋村剣心は、どうあがいても神谷薫と結ばれる。

 だったら薫さんを殺すか? 今までの弥生にそういうヤツがいたとして、それであんたは満足できたか?

 出来ねぇだろう? あんたがどれだけあの場所を、薫さんを好きかなんて十分知っている。

 

 諦めなければならないんだよ、弥生。

 そして次の恋を見つけないとならない。

 

 限界集落育ちの俺だ、まったく恋がどんなもんかなんて説明出来るわけもない。

 近所の一回り年上の元おねぇちゃんに憧れた話なんて聞きたくもねぇだろう?

 

 だけどそれでもあんたは俺だ。

 俺と同じように、未来へ向かう一歩を踏み出せないでいる者だ。

 

 だから俺が示してやる。

 あんたの恋を終わらせてやる。

 

「……ふぅ」

 

 どくどくと流れる血潮が妙にハッキリわかる。

 自分の心臓だってのに、煩いとすら思える音を奏でているのにまるで他人事。

 

 もう一度、前をしっかり見る。

 そうすれば。

 

 一人でも、多くの笑顔と出逢いたかった――

 

「剣と心を賭してこの闘いの人生を完遂する! それが拙者が見出した答えでござる!!」

 

 ほら弥生、あの人は答えを見出したぜ?

 だったらその通りに生きてもらおうぜ、助けてもらおう。

 全力で、あの人を頼っちまおうぜ。それであんたが笑えるならさ。

 

 そんために、俺だって全力でやる。

 あぁそうだ、十分過ぎるほどの理由だよ弥生。

 いい加減に一歩、踏み出そうぜ。

 

 

 

 狂経脈下の縁へ、龍鳴閃が叩き込まれる。

 

 やっぱり、剣心はすげぇな、なんて陳腐なことを思いながら。

 それ以上か同等か、縁の執念に感服する。

 

 正直な所、まったくもって縁は嫌いではない。

 そりゃなんだ、赤べこの件はもちろん、罪人とした相手を裁くことに必要なら何でもしていいなんて思想へ同調しているわけではないけれど。

 大事な人をずっと大事に想えるってのはすげぇことだと思う。

 

 その部分を考えれば、ちょっとベクトルは違うけれど、弥生もそんな感じなんだろうなとも。

 

「俺が唯一守りたかったものは既に貴様に……貴様に奪い取られているっ!!」

 

 ――だから……殺すっ!!

 

 ……哀れ、とも思わないよ縁。

 そしてどちらが正しいから勝ったとか、間違っていたから負けたとかそんな次元でも考えられない。

 

 そもそも私闘だ、それで決着がつくわけでもない。

 

「弥生」

 

「……はい?」

 

 そんな時、決着がもうすぐ着くだろう瀬戸際で。

 

「私、どんなになっても剣心を支えるよ」

 

「……ええ、お願いします」

 

 色々な意味が含まれたその言葉。

 多分、俺が剣心との真剣勝負を決めているって部分も分かってるんだろうな、俺がそうだと理解するよりずっと前から。

 

 ありがとう、薫さんはやっぱり最高のお姉ちゃんだよ。

 

 天翔龍閃と虎伏絶刀勢が交差する。

 そしてやっぱり。

 

「剣心の、勝ちだっ!!」

 

 知っている、そして望んだ光景が映っていた。

 

 さて、安堵している場合でもない。

 黒星の銃ぶっ放し案件は……いや、動けねぇな。

 むしろその後、飛び出す薫さんを何とか守らねぇと。

 

「ダメッ!!」

 

 って早いよ薫さん!! ええいままよっ!! 縁! 信じてるからな!

 

「姉さんっ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 薫さんを庇って地面へ倒れた音と、縁が黒星を殴った音は同時。

 そしてトドメをさそうとした縁へ剣心が割り込んだことを確認して。

 

「……姉さん?」

 

「……その目はやめて欲しいかなー、なんて」

 

 ……やれやれ、まぁだからこそ、か。

 

「ちくしょう……ちくしょう……!!」

 

 さ、後は薫さん、剣心とよろしく。

 

 んで、だ。

 

「縁……さん」

 

 砂へ手を突く縁。

 なんだろうな、この感情は。言葉にできない。

 

「あなたは、私に、似ている」

 

「――」

 

 そう思っているのに、口から勝手に言葉が出る。

 

「悔しい気持ちも理解できます。既に失ってしまった幻影へしがみつかなければ生きていられなかったことも」

 

 縁は答えない。

 ただただ視線は砂浜に。

 

「私はもう、自分で答えを出すことは出来ませんが。それでも一つの光明を得ました……願わくば、あなたにも光差すことを……祈っています」

 

 ……。

 

 そっか、あぁ、わかったよ弥生。

 

 じゃあ、後は。

 

「……やる、か」

 

 終わらせよう、この物語を。

 そして紡ごう、俺の世界を。

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