TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、ご主人さまにつき

「シメてやるっ!!」

 

「お、落ち着いて下さい薫さんっ! だ、大丈夫ですから! ね? ね?」

 

 さて、動けるようになるまで時間はそれなりにかかって。

 戻ってきたら門の前でうつらうつらとしながらも待っててくれた薫さんに迎えられて。

 左之助との一件を正直に言ってしまうのに気が引けた俺は。

 

 ――暴漢に襲われて……。

 

 的な説明をした、してしまった。

 

 邪魔だと思った和服も動きやすいようにって破ってしまったから、いい感じにそれっぽく(・・・・・)見えてしまってあら大変。

 まぁ薫さんは心配一色だった表情を見る見るうちに怒りへ変えたわけだ。

 どんだけ愛されてるんだって思うよりも先に申し訳ない気持ちでいっぱいになりつつ暴れてる薫さんを宥める。

 

「まぁまぁ薫殿、弥生殿もこうして無事に帰って来たわけだし、落ち着くでござるよ」

 

「で、でもっ!」

 

「弥生殿? 大丈夫なのでござるな?」

 

「は、はい」

 

 頷きまくる。

 確かにまだ少し腹は痛いけど……うん、大丈夫。嘘ついた心のが痛いわ。

 

「む、むぅ……弥生ちゃん、ほんとに大丈夫?」

 

「……はい、大丈夫です。ごめんなさい、心配かけて」

 

 頭を下げる。

 心配をかけた事、嘘を吐いている事。

 

 ただ、不思議と今回の件は必要だったんだろうと思ってしまっていて。

 嘘でしたごめんなさいと謝るって気持ちは生まれなくて。

 

「そっか……ならもう心配かけないでね?」

 

「はい」

 

 そう言って門をくぐる薫さんに複雑な思いを抱えることになってしまった。

 だけど薫さんの後を追おうとした時に。

 

「……何をしてきたのか、暴くつもりはござらんが、弥生殿」

 

「……」

 

 やっぱり真面目な顔をするとかっけぇな剣心。

 男でもどきっとするもんだそうだろう? ……そうだと言ってくれ。

 

「あまり、身内に心配をかけない方がいいでござるよ」

 

「……あなたに言われたくありません」

 

 まじめな顔から一転していつもの困ったような笑顔でそんなことを言われるけど。

 どうやら珍しく俺と弥生の意見は一致したようで。

 

 ブーメランなんだよなぁ……その言葉は自分によく言い聞かせてどうぞ。

 自分で招いたことなのに憎まれ口叩いちゃうのはいかんのだけども……うぅん。

 

 ともあれ、だ。

 

 もう変に嘘でごまかすのはこれで最後にしようと思う。

 借り物の気持ち、身体……そうなのかも知れないけど、この世界にいる薫さんたちにとっては関係の無い事だから。

 やるなら、できるなら正々堂々としようと思う。原作知識を利用しないとは言ってない。

 

 

 

「くっ、このっ!!」

 

「あら弥彦ちゃん、そんなんじゃだめですよ?」

 

 数日後。

 すっかり怪我も治って動けるようになって。

 

 弥生は脅威からその身を躱すことが出来る。

 それはつまり脅威として感じなければその力は発揮出来ないということで。

 

 こうして弥彦と稽古をしている中ではあの感覚がやって来ることは無かった。

 どうやら弥彦は薫さんいわくのいい筋しているものの、まだまだその才覚を現しているわけではなさそうだ。

 

 っていうのもまぁ当たり前だろう。

 稽古し始めてまだ時間がそれほど経っていないっていうのはもちろん。

 弥彦がその強さを伸ばしたのは剣心の戦いを間近で誰よりも多く見てきたからだ。

 

 見取り稽古。

 

 誰だったか言った言葉通り。

 この時の弥彦はまだあの愚連隊が放った木砲の弾を真っ二つにした位しか剣心の剣を見ていない。

 

 これから。

 弥彦はまだまだこれから死戦を見て、感じて。そして経験していって強くなるんだろう。

 

 そしてそれは俺も。

 

 訳わからずではあったものの、左之助……斬左との戦いを経て俺もどうやら強くなったらしい。

 それは少なくともこうして弥彦に対して余裕を持って相手できる位には。

 

 強くなったというか……違和感すごいんだけど、言葉にすれば馴染んだって感覚がある。

 

「でぇっ!!」

 

「――そこっ!」

 

「うおっ!?」

 

 焦ったらしい弥彦の面打ち、がら空きになった胴を打ってみれば吸い込まれるような有効打。

 

 がら空きだと思えたこともそうだし、気づいたこともそう。

 たった一度、死戦なんて言えないかもしれない戦いで、妙な余裕が生まれた。

 

 身体(やよい)をしっかり使うことが出来るようになってきたとでも言うべきか、どうすればこの身体で戦うことが出来るかってのを無意識に理解できる。

 

「大丈夫ですか? 弥彦ちゃん」

 

「くそっ!!」

 

 悔しそうに床へと毒づく弥彦。

 気持ちはわからないことは無い。やっぱり女に負けるってのは、認めている相手ならともかくもプライドをえらく傷つけることには変わりないのだし。

 薫さんに対しての態度もそうだし、まだまだプライドという服は重く弥彦に纏わりついているんだろう。

 

 なんて思ったんだけど。

 

「まだまだ稽古が足りてねぇ……今に見てろ! すぐに勝ってやるからなっ!」

 

「……」

 

 どうやら見くびっていたらしい。

 勝気な笑顔でそう宣言する弥彦にちょっと見惚れてしまった。

 

「……ふふっ、簡単には抜かされませんよ弥彦ちゃん」

 

「うるせぇ! すぐにちゃん呼びなんて出来ねぇようにしてやるからなっ! もう一本だっ!」

 

「はいっ!」

 

 やっぱすげぇよ剣心組は……。

 どいつもこいつも揃ってかっけぇわ。

 

 

 

 安心したと言うべきか。

 

 ――よう、喧嘩しに来たぜ。

 

 特にこの世界へと及ぼした影響ってのはちっさいもんで、ちゃんと左之助は剣心に喧嘩を売りに来た。

 薫さんたちの中に俺の姿を見つけて一瞬驚いてたけど、軽く笑った後剣心の経歴を話しだした。

 

 比留間たちの姿を改めて見てざわつく心を感じたけど、なんとも言えない薫さんの表情もあり落ち着かせて。

 

 緋村剣心の正体が緋村抜刀斎だと言うことを知っても態度を変えない弥彦に安心したり。

 

 そんなことを背後のやり取りで覚えながら、俺は左之助に話しかける。

 

「ありがとうございます」

 

「何のことだよ」

 

「黙っていてくれて、ですよ」

 

 あの場で余計な事言ってれば色々まずかったわけで。

 意図してかどうかはわからないけど、お礼は言っておくべきかなって。

 

「……俺にこうして話しかけてちゃ意味ねーんじゃないのか?」

 

「……あ」

 

 そうだよ! 何やってんだよ俺!

 ぬぐおぅ……ウカツッ! 迂闊すぎますよ俺!

 

「まぁいい。どのみち俺ぁそんなことに興味ねぇ。……嬢ちゃんならわかってんじゃねぇのか?」

 

「……偽善やろうの維新志士をぶったおす、ですか」

 

 そう言ってみればわかってんじゃねぇかと言わんばかりに笑みの種類を変える左之助。

 

「勝てると?」

 

「……わかんねぇ。けどな嬢ちゃん、俺たち赤報隊は、負けられねぇんだよ」

 

「わぷっ……」

 

 頭を撫でられた。

 あー撫でポってこういう時になるもんかね?

 こん時の左之助の笑顔は多分、今この時にしか見られないモンだろう。

 

 剣心曰くのしみったれた強さ、ひん曲がった何か。

 そんな時だからこそ見られるもんなんだろうから。

 

 ……ポってませんぞ?

 

 

 

 けどまぁ。

 

 斬左が倒れて、隙有りと拳銃をぶっ放したものの見事に刀の鍔で銃弾を受け止めた剣心。

 ならばと拳銃を俺たちに向けてくる狸野郎。

 

 剣心と左之助の戦いはすごかった。

 こうして紙でもテレビででもなく間近でこんな戦いを見られるなんて、剣の道を志してない人であっても興奮もんだろう。

 

「だったら両足を折れっ!」

 

「流石兄貴、頭がよく回る!」

 

 なんて俺たちを拘束すべく指をバキボキ鳴らしながら近づいてくる木偶の坊。

 

 ――ようやく、来た。

 

「ヤロウ!! 薫! 弥生! 何をぼーっとしてんだっ! さっさと逃げろっ!」

 

「だめ……さっきので腰が……!」

 

 あん時は逃げたけど。必殺技使っちまったけど。

 やっぱり弥生は許してなかったようで。

 

「バカですね、逃げるのは弥彦ちゃん、あなたですよ」

 

「あぁっ!?」

 

 弥彦の持っていた竹刀をすっと奪う。

 ちょっといつも使ってるものよりも短いけれど、こいつ相手なら誤差もいいところ。

 

「私、これでも怒ってるんですよね。薫さんにした仕打ち……到底許せるものじゃないですから」

 

「や、弥生ちゃん!?」

 

 前に出る。

 大丈夫だってあっちの狸野郎は。

 

「土龍閃っ!!」

 

「あぐぅあっ!?」

 

「兄貴っ!?」

 

 ほら、ボコボコになった。

 

 なら後は。

 

「てめぇの番だな?」

 

「ぐっ!? 何を……!?」

 

 ぐっと足に力を入れて……いくらでかくても鍛えられないところだってあるわけで。

 一歩踏み出そうとしたとき。

 

「あ……あああああ!?」

 

「言ったはずだぜ!? これは俺の喧嘩っ!! 邪魔するやつぁ許さねぇっ!!」

 

 立ち上がった斬左が投げた斬馬刀で邪魔をされた。

 

 言った斬左は俺にも言ってるかのようで。

 

「……仕方ない、ですね」

 

 見事に横槍を入れられた……いや、入れようとしたのは俺か。

 とりあえずやり場のない実感してしまった怒りを。

 

「とーうっ!」

 

「ふぬぐっ!?」

 

 デカブツの金的にぶちこんだ。

 

 神谷活心流、禁じ手。末代祟(まつだいたたり)である。

 

 

 

 あれはなんだ! 鳥か! 飛行機か!

 龍槌閃だっ!!

 

 てなもんで。

 追撃の剣心ナックルによって地面に沈んだ斬左は左之助に。

 しっかり原作通りに終わって日常が再びやってきて、俺は赤べこ奉公中。

 

「怪我はもうええの? あんまり無理したらあかんよってに」

 

「はい、もうすっかり大丈夫です! お任せください!」

 

 心配げな妙さんに自分の胸を叩いてみればやわらけぇ。

 

 いや違うそうじゃない。

 

 ともあれそんな俺を見てもう一度、痛くなったらいつでも言ってねと言ってくれた妙さんはやっぱりいい人だなんて思ったり。

 

「おうおう寂しかったぜ!」

 

「あはは、ありがとうございます、ご心配おかけしました」

 

「そうだぜ弥生ちゃん! 俺、弥生ちゃんの顔見れなかったら手が震えちまってよ!」

 

「それは飲みすぎです。ちょっとお酒控えてください」

 

「ぼぼぼぼ、ぼくのやよいちゃ……」

 

「はい、お帰りはあちらです」

 

 こうやって温かく迎えてくれるファンの存在にほっこりしないでもない。

 というか大げさすぎである。

 

「おう、やってるねぇ……空いてるかい?」

 

「あ、左之助さんいらっしゃいませ。空いてますよ」

 

 入り口の戸が開いた音に振り向いてみれば包帯だらけのミイラ男、左之助のご登場だ。

 のしのしと歩いてくる姿には流石に頑丈だなぁなんて思ったり。

 

「えいっ」

 

「ふぐっ!? て、てめぇ……!」

 

「あら? 売りは打たれ強さで、こんなの屁でもないんですよね? 安静にしろって言ったのにこんなとこまで来てるんですからね?」

 

「こ、この……ろくな死に方しねぇぞ……? わざわざ、ぼでぃがぁど? しに来てやってる俺になんて仕打ちをしやがる……っ」

 

 そうなのだ。

 もう大丈夫って言ってるのに、稽古まで再開してるのに赤べこに出勤させなかった過保護真っ盛りの妙さんと薫さん。

 その悩みを解決したのが左之助で。

 

 妙さんは食い逃げしてたのを見逃す代わりに左之助へとそんな依頼をしたのだ。

 

 流石にそれを盾にされちゃ首を横に振れないわけで、左之助は俺が赤べこで働いた後の護衛……もといボディガードという役割に収まった。

 喧嘩屋廃業した後プー太郎とならずに済んでヨカッタネ。

 

「今の私にすら負けちゃいそうなボロボロさんに言われたくありませんよ」

 

「ぬぎっ!? こ、このやろう」

 

 怪我が治ってからで良いっつったのになぁ、やれやれだぜ。 

 まぁ俺としてもありがたいのだ、ボディガードの件は。

 

 実のところ俺は左之助に稽古をつけてもらう気マンマンである。なぁに心配はいらない、また喧嘩しようぜとの言質はある。

 

 剣心はいわずもがな無理なのはわかる。

 薫さんに稽古をつけてもらうのは良いけど、やっぱり弥彦程ゴリゴリ教えてもらえるわけじゃなかったもんで。

 色んな意味で気を遣われてるわけだ、色々の一部を俺はまだ理解できてないだろうけど。

 

 そんなわけで左之助の言ったまた喧嘩をやろうという言葉を都合よく解釈する気なのだ。

 

 ただ問題もあって。

 

「おいこらてめぇ! 俺たちの弥生ちゃんと何楽しげに話してやがる!」

 

「……あぁ?」

 

 弥生ファンかっこ酔っぱらいの存在である。

 いや、酔っ払ってなくても悔しげに左之助を見てる人がいるあたり嫉妬ぱねぇんだろうなぁ……。

 

 男は皆ホモ、はっきりわかんだね。

 

「別に楽しかねぇよ、俺は仕事で……」

 

「楽しくないぃ!?」

 

「な、なんて事いいやがるっ! あったまきた表でろっ!」

 

 あーもうむちゃくちゃだよ俺知らねぇっと。

 

 こうして喧嘩屋斬左改め、左之助は俺の用心棒となったのだった。

 

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