TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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その男、前向きにつき

 前向きに考えよう。

 天狗鼻を叩き折られるのは世の常ではあるけど、伸びる前の鼻を潰されるのは貴重なことだ。

 弥生というチート。

 多分、あのままだったら確実に増長していただろうそう思う。

 

 仮に、だ。

 世界を余裕で潰せるくらいの俺つえぇチートばりに。

 たとえばるろうに剣心の世界でファイアーだとかサンダーだとか、そんな魔法が使える異能であるなら。

 

 誰もそいつの鼻を叩き折れないだろう。それは悲しいことだ。

 

 良き友人は作れるのかも知れない、可愛いヒロインに惚れられるのかも知れない。

 それでも切磋琢磨し合う誰かを作るのは難しい。

 

 誰かが言った、最強という名前の孤独。

 

 想像するしか無いけど、俺は最強なんてものよりは誰かと一緒に頑張るほうがいい。

 

 だから自惚れない(・・・・・)

 

「――っ!!」

 

 こうやって剣を振るって流れる汗でいい。

 流した分だけ強くなれたらいい。

 

 感謝するよ、刃衛。

 お前は何もしなかった、それでも得るものがあった。

 

 俺は弱いと思い知ることが出来た。

 

「荒行かぃ?」

 

「っ!! ……左之助、さん」

 

 声の方を振り向いてみれば三角巾で腕を固定したままの左之介。

 なんとなく呆れたような雰囲気を纏いながら笑ってる。

 

「そんな、とこです」

 

「へぇ」

 

 左之助越しに見える外は赤色。

 一人で素振りしだしたのは確か昼だっただっけ?

 

 ……どうりで胸の谷間に汗が……。

 

「弥生……お前、そういうところだぞ?」

 

「はい? ……あぁ、すいません。すぐにご飯作ります」

 

 そういうところって何処だよ。

 

 まぁいいや、腹減って探しに来たんだろう? んじゃちゃっちゃとメシを……あれ?

 

「――っとぉ」

 

「す、すいません」

 

 歩こうとすれば膝から崩れ落ちそうに……やっべ、むっちゃ身体重い。

 というか左之助ナイス、転けなくて済んだぜありがとさん。

 

「だから……そういうところだぞ?」

 

「はい?」

 

 ごめんわかんない。

 それよりすまんですぞ、片手怪我してるってのに申し訳ない。

 弥生は軽いだろうから大丈夫だと思うけど……って。

 

「近いですっ!?」

 

「今更かよっ!?」

 

 ごめんごめん、こういうところね、おけまる把握した。

 うん忘れてたよまじで、俺女だったよそうだよ。

 

 谷間見た時に思い出しましょうね自分。

 

 ふと左之助を見れば困ったように頭をガリガリと。

 いやまぁ困りますよねわかります。

 俺ならきっとその仕草だけじゃ済まないですはい。

 

「はぁ……ったく、メシはいいから少し休みな。お前の汗入り夕餉なんざ食べたかねぇよ」

 

「え? あ、はい……すいません」

 

 美少女の汗とかご褒美なんじゃ?

 なるほど明治、慎み深い。そして現代人はじまってたな。

 

 ともあれ床に腰を落ち着けてみれば何故か左之助も目の前にどっかりと。

 

「んで、だ。何があった」

 

「……え」

 

 ……びびった。

 何が驚いたって、確信を持って言ってきたことに、だ。

 

「呆けてんじゃねぇって、俺は弥生のぼでぃがーどだ。雇い主サンのことは聞いとかねぇとな」

 

「……」

 

 やだなにこの人かっこいい。

 

 ……いかん、俺は男、俺は男……。

 

「……強く、なりたいんです」

 

「十分強えじゃねぇか。いつも喧嘩ん時言ってるだろう?」

 

「女にしては……いえ、女としてなら、ですよね」

 

 わかってる。

 いや、わかったんだ。

 

「私は……剣客として、強くなりたいです。遊びで、喧嘩でじゃないです。一人の剣客として、強くなりたいんです」

 

 左之助は俺をそう見ていた。

 

 なるほど、たしかに今の時点でも薫さんほどなんて言えないくらいには差があるだろうけど強いんだろう。

 明治という時代に生きる女の中では強い。

 

 それはきっとすごいこと。

 

 だから左之助は俺に強いと言った。

 同じ戦いに身を置いた人間としてではなく、そこらの女の人を見れば強いと言ってくれたんだ。

 

「先に言っておくけどよ……俺は弥生との喧嘩で確かに満足した。いい喧嘩だったと思ってる」

 

「……前置きはいいんです。あなたらしくもない、はっきり言って下さい」

 

 じっと左之助を見る。

 一瞬たじろいだように見えたけど、それもすぐに仕切り直して。

 

「無理だろうよ」

 

「……」

 

 すっぱり言い切ってくれた。

 

「嬢ちゃん……神谷薫ってヤツが強いのは多分ちっせぇ頃からずっと竹刀を握ってたからだ。それでも言っちゃわりぃが俺とヤり合えば俺が勝つだろうよ」

 

「私じゃ……遅すぎる、と?」

 

「折れねぇ強さはある、肝っ玉も据わってらぁ。だがよ……お前が言うところの強くなるには、十年おせぇ」

 

 ……反論できない。

 

 左之助だってそうだ。

 ずっとずっと喧嘩に明け暮れた、その時間を重ねた。だから強くなった。

 剣心だってそうだ。

 師匠の下修行を続けて、身につけた力を幕末の京都で振るい……強さを増した。

 

 時間。

 それは今超人かと思えるような人間であっても必ず強さのために費やしたもの。

 

 それが、俺には無い。

 

「……」

 

 悔しい。

 あの時感じた刃衛のプレッシャーを撥ね退けるには、その力を持つには。

 

 あまりにも遅すぎる。

 

「だがよ、それでも……それでも強くなりてぇんなら」

 

「……?」

 

「覚悟が必要だ」

 

 覚悟。

 それは、何のだろうか。

 

「さっきも言ったがおめぇには折れねぇ強さがある。それを持って、持ち続けてよ……死ぬほどつれぇ戦いを経験できれば」

 

 ――もしかしたら俺のぼでぃがーどはいらねぇようになるかもな。

 

 

 

 そんな左之助とのやり取りがあった後。

 でろでろに剣心の血でダメになった薫さんのリボンを洗い終わって、以前より距離が近くなった剣心と薫さんにほっこりして。

 

 やっぱり無事に二人は帰ってきたのだ。

 つまり鵜堂刃衛は散ったのだ。剣心の手で……ではなく、時代によって。

 

 明治の世になっても人斬りは必要とされる。

 そして人斬りとしての価値を失えばやっぱり行き着く先はそこになるんだろう。

 

 人を斬りたいがためにその畜生道とも言える道に身を置き続けた狂人であり強人、刃衛。

 

 それほどまでの道を歩んで尚、散る。

 それほどまでの道を歩んで得た力を、散らす。

 

 諸行無常なんて言えばカッコつけ過ぎだろうか。

 歩んだことも、歩むつもりも無いけどそんな道を歩んで行き着いた先になんとも言えない感情を覚える。

 

 ――もし俺も、そんな強道を歩めて力を得たのなら。

 

 その先は何処に向かっているのだろう。

 俺の、弥生の歩む道は何処に繋がっているんだろう。

 

 るろうに剣心の世界で。

 わけもわからないままやってきたこの世界で生きた先に。

 

 俺たちは何を求めているんだろう。

 

「……なんて、らしくないですね」

 

「弥生ちゃん? どうしたの?」

 

「おう弥生っ! さっさと一本いくぜっ!」

 

 今日こそはと息を巻く弥彦に苦笑いしつつ竹刀を構える。

 

「はじめっ!」

 

「うおおおおおっ!!」

 

「――っ」

 

 向かってくる弥彦。

 巻き上げる気炎とは裏腹に工夫を凝らしているのがわかる。

 

 がら空きの胴。

 誘っているとわかる位には俺だって成長してる。

 

 だから問題は。

 

「ちぃっ!!」

 

「……まだまだっ!」

 

 俺が分かっていると分かっている上で誘っているかどうかだ。

 

 相変わらず弥生の異能は発動しない。

 弥彦との打ち合いはまるっきりそれを感じない。

 

 要するにこれは俺の素の実力一本なのだ。

 

「でぇええええ!!」

 

 再度同じ行動。

 それしか出来ないのか、それともよっぽどその行動の先に置いている布石へ自信があるのか。

 

 ……面白い。

 

「そこぉっ!!」

 

「かかったなっ!! くらえっ!!」

 

 そう、これは素の実力試し。

 

 そのはずなのに。

 

「――っ!!」

 

 自動的。

 自動的に、身体が打った胴の勢いそのままに流れた竹刀、その先へと。

 

「な、にぃ……!?」

 

「っ!! これで終わりですっ!!」

 

 会心の出来だったのだろう弥彦の胴返し面。

 その面を俺は躱して、膝を突きながら再び胴を返した。

 

「一本っ! そこまでっ!!」

 

「ちっくしょおおお!! ありがとうございましたっ!」

 

「……ありがとうございました」

 

 礼に終わる。

 

 ……正直、泣きそう。

 泣いてもいいよね、女の子だもん。

 

 いや、いかん。

 プライドまで投げ捨ててどうするよ。俺は強い子男の子。

 

 今、間違いなく弥生の力が発動した。

 それはつまり、弥彦の攻撃を脅威と感じたということ。

 

 俺と弥彦の差が縮まりつつあるということ。

 いや、もしかしたら既に抜かされているのかも知れない。

 

 あかん辛いだれかぼすけて。

 

「遅くなってすまないでござるよ」

 

「あ、おかえりな――」

 

「随分しなびた家ね。剣術道場?」

 

 高荷恵、きたああああああ!!

 

 来ましたついに来ましたよどうか俺を治療して下さい出来るなら男に戻してください。

 

 実のところ俺は恵さんが好きなのです。

 

 いやさ、すんげぇいじらしいじゃん? いい女じゃん?

 性格黒いのかも知んねぇけどさ、俺、イケルよ、大好物だよ?

 やっぱり時代は明治だけどいつでも変わらぬ美人っているもんなんすよ!

 

 待てよ?

 俺今女じゃん?

 

 ってことはさ!

 一緒にお風呂イベントとか頑張ったらできんじゃないの!?

 

 うっそまじで?

 燃えてきたっ!!

 

 シリアス? 知らんがなっ!

 

 俺は今、最高にキてるっ!!

 

「見損なったわっ!!」

 

「ほげっ!!」

 

 あ、薫さんナックル。追撃の面打ち乱打。あれは痛い。

 

「まさかそんな人買いみたいな事するなんて! 左之助ならわかるけど剣心まで!!」

 

「なんでぇそりゃあ」

 

 日頃の行いっすよ左之助さん。

 いや、根は良いやつ……うんにゃこれは褒め言葉じゃねぇや。

 俺は好きっすよ左之助の兄貴。

 

「ええっと、高荷さんでしたよね? こいつにはよく言っておきますからどうぞお帰りになって……」

 

「あら、私は帰る気ないわよ?」

 

 ――私ねぇ、この人のコト気に入っちゃったの。片時も離れたくないくらいよ。

 

 キマシタワー!! じゃねぇけど来ましたわ!!

 こんなコト言ってる裏ではこいつ使える的なことを今は考えてるんだろうけど良いんです!!

 

 おい剣心俺と代われっ!! 弄ばれたいっ!

 

「あんまりからかうんじゃねぇよ。この嬢ちゃん、すげー単純なんだからよ」

 

 ぶちぃっ!!

 

 あ、うん。

 そんな音が聞こえたね、冷静になったよわぁい。

 

「出てけ-! みんな出てけ-!!」

 

 皆に俺は換算されてないの? なぜなのほわい。

 

 俺以外を放り出した薫さんの背中へと苦笑いを送ってみる。

 

「何っ!? 弥生ちゃんっ!」

 

「あ、あははー……私、汗流してご飯の準備してきますね-」

 

 偉い人は言いました。

 三十六計逃げるに如かず。

 

 さくっとその場から逃げようとするんだけど……ぬぐ。

 

「ねぇ、弥生ちゃん」

 

「は、ははは、はい?」

 

 首根っこをむんずっと掴まれて逃げられない。

 あぁ、やっぱり薫さんはラスボスなんやなって。

 

 そんなアホなことを考えてみれば。

 

「わ、私って……単純、かな?」

 

「……あー」

 

 何この可愛い生物。

 少し俯きながら上目遣いしてこないでよ、それは剣心にやってよ、禁じ手だよ、末代は祟れないよ。

 

 はーやっぱこの人がヒロインなんやなって。

 いや、俺は恵さん推しですけど。

 

「そこが可愛いと思いますよ、多分剣心さんもそう思ってるんじゃないですかね」

 

「か、かわっ!? 可愛いって! 剣心もっ!?」

 

 何この可愛い生物ぱーとつー。

 急にいやんいやん、ぐりんぐりんと怒ってた薫さんは何処行った?

 

 ……やっぱ単純なんだなって。

 

 はぁ。

 

 まぁいいや、ともあれ、だ。

 

「武田観柳……いや、四乃森蒼紫現る、か」

 

 漂い始めた戦いの気配に、心がうずいた気がした。

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