グレイゴーストは恋を知る   作:ペトラグヌス

1 / 4
私の日記

×月××日

指揮官から日記帳をもらった。何でも、自分の心の整理に役立つらしい。私は必要ないと断ったのだが、強引に押し付けられてしまった。あの指揮官にしては珍しい。あんな強気な態度をられたのは初めてかもしれない。

 

×月××日

することもなく暇なので、これを書いている。指揮官はいつまで私をここに閉じ込めておくつもりなのだろうか。窓から見える戦場が恋しい。

 

×月××日

私にこれを書く意味はあるのだろうか。兵器である私に心の整理などいるのだろうか。

 

×月××日

今日も一日ベッドで過ごした。私の居場所はここではない。すでに傷は癒えた。ならば、出撃するのみだ。

 

×月××日

出撃しようとしたのだが、指揮官に止められてしまった。廊下に立ちふさがり、通り抜けようとすればしがみつかれる。正直、私は驚いた。着任してからというものの、私はこの指揮官にいろいろと驚かされてきたが、今回はまた違った驚きだ。消極的な指揮官がこんなにも積極的に私に何かしてきたことは今までになかった。いったい何があったのだろうか?

 

×月××日

朝、指揮官が私の部屋にやってきた。それだけでも驚きだが、それ以上に驚いたのは私を秘書艦に任命したということだ。適材適所という言葉がある。私はそのような仕事に向いているとは到底思えない。

 

×月××日

今日は秘書艦として迎える最初の日だった。最初の業務は、指揮官の書類整理の手伝いだ。一体今までどうしていたのか知らないが、執務机の上にはいくつもの書類の山が築かれていた。普段から指揮官室には居ないようだし、きちんと仕事をしているのだろうか?こんなになるまで放置しているなんて、私の前任者もいったい何をやっていたのか。

 

×月×日

今日も書類の相手をした。この仕事は苦手だ。やっていると私が何なのかを忘れそうになってしまう。

 

私は戦うために造られた存在だ。それを思い出させてくれるだけでもこれを書く意味はあるのかもしれない。

 

×月××日

あまりにも量が多いので、指揮官に今までどうしていたのかを聞いた。驚いたことに、これができたのはつい最近のことらしい。書類の内容も大半は備品や装備についてのもので、いつも基地中を回って皆の要望を聞いているそうだ。思えば私も何度も要望はないか聞かれていた気がする。それを聞いてからは、少しはこの仕事にも意味があると思えた。

 

×月××日

ようやく書類整理が終わった。一段落したところで、指揮官に秘書艦として今後どのような仕事をすればいいのか尋ねたのだが、これがどうにも要領を得ない。聞くと、今まで秘書艦をつけたことはなかったらしい。私が今までであった指揮官の中にはいろいろな人がいたが、みな誰かしら秘書をつけていた。本当におかしな指揮官だ。

秘書艦としての仕事については、当面は指揮官の手伝いを色々とすることになった。おかしな指揮官だとは思うが、不思議と悪い気はしない。お互いに遠慮なく意見を言い合えるような関係でありたいと思う。

 

×月××日

他の子たちの装備を見て感じたのだが、指揮官はどうにも装甲にこだわりすぎているように感じる。機動力を上げたほうがかえってダメージが減るといった事例は数多くある。明日、指揮官に言ってみるとしよう。

 

×月××日

今日は秘書艦らしく指揮官にコーヒーを入れたのだが、不評だった。指揮官が遠慮なくいったところによると”泥水”のような代物だそうだ。流石に私もムッとしたが、たしかに指揮官が入れたコーヒーは美味しかった。なぜああも違うのだろう...。

 

×月××日

先日の提案を試したところ、皆のダメージが減ったと指揮官がお礼を言ってきた。大したことではないと思うのだが、なんにせよ良かった。最近わかって来たのだが、指揮官はかなりの心配症だ。装甲に拘っていたのもそこら辺が理由なのだろう。きっと艦隊の皆もあまりに心配する指揮官の手前、意見できなかったのだろうな。これからも、このように活発に意見交換していきたいと思う。

 

×月××日

今日はロイヤルの皆においしいコーヒーの淹れ方を教授してもらった。初めに私がいつものやり方を見せたのだが、皆は唖然としていた。そんなにひどかったのだろうか…。だが、今日一日でみっちりと仕込まれたわけだから私の技術は格段に向上したことだろう。更にブラッシュアップしていき、指揮官を驚かせたいものだな。

 

×月××日

遂に実戦に復帰した。ブランクを考慮しての簡単な任務だったが、帰ってきたのだなと実感した。だが、あんなにも待ち焦がれていた戦場のだというのに、不思議と気乗りがしない。私の居場所はここしかないというのに。

 

やはり、実戦から長らく離れていたからだろう。ここから徐々に感覚を取り戻していきたい。

 

×月××日

最近、指揮官は機嫌がいい。不思議に思って聞いてみると、原因は私だという。何でも、私の戦い方が変わったのが嬉しいのだそうだ。言われてみれば、変わったという気がする。以前の私は少し無理をしていたのかもしれないな。

だが、なぜうれしいのかと聞くと指揮官は露骨に話題を変えてしまった。なんだか、けむに巻かれたような気がする。戦果が増えたのがうれしいということなのだろうか?

 

×月××日

やはり、最近の私はおかしい。なぜだろう。戦場で戦っているときよりも、秘書艦の仕事をしているほうが心が安らぐ。私は、戦場が居場所の兵器だというのに。私のどこかが故障してしまったのだろうか。

 

×月××日

指揮官から何かあったのかと尋ねられた。私は顔に出てしまうほどに思い悩んでいたのかというのか。だが、この悩みを指揮官に打ち明けるのはなぜだかためらわれる。本当に、なぜなんだろうな。

 

×月××日

このままでは私の存在意義が失われていく。それがどうしようもなく怖い。これを書くのだって、私を損なっている。もう、やめよう。

 

×月××日

なぜ、なぜこれを捨てられないのだろうか?なぜこれを開いてしまうのだろうか?

 

わからない。私はもう、何をどうすればいいのかわからない。

 

×月××日

どうすればいいんだ。誰か教えてくれ。

 

……指揮官、教えてくれ。私は……

 

 

 

×月××日

私は、いったい何者なのだろうか。私は人ではない。戦うために造られた兵器だ。そのことに疑問はない。だが、私は、私たちは、心を持っている。泣き、笑い、怒り、悲しむ。人のまねごとかもしれない。それでも、私たちは確かに心を持っている。これもまた、疑いようのない事実なのだ。

 

……これだけのことに気付くのに、随分と時間がかかってしまった。私だって皆と、指揮官と、過ごす時を楽しんでもいいのだな。

 

×月××日

朝、いつものように指揮官室に向かうと、指揮官が机で寝ていた。最近働きづめのようだから、寝るように言っておいたのだがな。私たちのことを心配してくれるのはいいが、少しは自分の心配もしてもらいたいものだ。

指揮官を起こした後は、コーヒーを入れた。ロイヤルの皆の指導のおかげで、私の腕前は相当なものになったと自負している。今はまだ指揮官には及ばないが、最終的には指揮官を私のコーヒーの虜にして見せよう。

 

×月××日

今日は皆と昼食を共にした。やはり、皆と取る食事はいいものだな。風とともにやってくる磯の香り、目の前に広がる……美しい海。私は、これまで海を美しいだなんて思えなかった。兵器が、戦場を美しいと感じてはならないと思っていたのかもしれない。今、こうして私が美しい海を見ることができるのは、指揮官のおかげだ。

 

×月××日

今日は近海の哨戒任務にあたった。途中、小規模な重桜の駆逐艦隊と遭遇したが、すぐに退いていった。ここの所、重桜とは小康状態が続いている。まだ戦争は終わりそうにもない。だが、指揮官とならいつか必ず、この戦争を終わらせることができると信じている。

 

そうだ、今日は指揮官も前線で指揮を執った。やはり、指揮官がいると皆の士気も上がる。かく言う私もそうだ。戦場だけが居場所だった今までの私とは違い、今の私には帰りたい場所がある。共に歩みたい仲間がいる。敵を倒すためではなく、皆と無事に帰るために、私は戦おう。

 

×月××日

今日の哨戒任務も小規模な艦隊に遭遇した程度だった。やはり最近の重桜は消極的なのだろうか、すぐに撤退していった。……ここ最近、このようなことが増えているような気がする。私が出ていない任務の報告書にも目を通したが、以前に増して重桜艦隊との遭遇が増加していた。近々、大きな動きがあるのかもしれない。指揮官にも伝えておこう。

 

 

×月××日

幸いにも、指揮官は軽傷だった。一週間もすればまた職務に復帰できるらしい。

 

私のせいだ。私が不甲斐ないばかりに指揮官は傷ついた。私のせいだ。

 

×月××日

指揮官のお見舞いに行った。指揮官は自分を責めなくていいと言ってくれたが、私が責められずに誰が責められるというのだろうか。あの時、指揮官が庇ってくれなければ私はここにいなかったかもしれない。でも、そんなことよりも、指揮官が死んでしまっていたかもしれないのだ。

……私は、指揮官を失いたくない。指揮官の隣にいると、心が安らぐ。指揮官の隣こそが私の帰りたい場所だ。私は、指揮官と共にこの先の未来を歩んでいきたい。

だから、私はもっと強くあらねばならない。大切な皆を、指揮官を、私の居場所を守るために。

 

×月××日

時が過ぎるのは早いもので、私がここに来てから一年がたった。随分といろいろなことがあった。この日記帳も、残りのページが随分と少なくなってきたな。

この一年で一番の出来事といえば、やはり指揮官に出会えたということだろうか。指揮官に出会って、私は変わることができた。平凡な日々がかくも美しいものだということを知った。本当に、指揮官には感謝してもしきれない。願わくば、また来年も指揮官とともにこの日を迎えられることを。

 

指揮官からプレゼントをもらった。こんなことは初めてだ。もらったのはクラシックな万年筆。あまり気の利いたプレゼントを思いつかなかったと指揮官は言っていたけれども、私にとってはどんなものでも一生の宝物だ。大切に使いたいと思う。ありがとう、指揮官。

 

×月××日

最近、時折胸が苦しくなる。それは決まって指揮官が他の子たちと話しているときだ。指揮官が他の子たちと楽しそうにしているのを見ると、胸が締め付けられるような感覚を覚える。指揮官が笑顔で楽しく過ごせているのは、私にとってもうれしいことのはずなのに。

 

×月××日

この気持ちはなんなのだろう。指揮官の隣で過ごしていると、胸の鼓動が早くなる。体中が熱くなって、指揮官と目を合わせることすらままならない。でも、なぜだかわからないけど、とても幸せな気持ちになる。

指揮官から離れていると、胸の鼓動が早くなる。特に他の子たちと一緒にいるところを見ると、締め付けられるように胸が痛む。そんな時の私は、幸せからは最も遠いところにいる。

この気持ちはなんなのだろう。

 

×月××日

ようやくわかった。私が抱いている気持ち、それがなんなのかということを。

 

私は、指揮官に出会ってからいろいろなことを知った。コーヒーのおいしい入れ方を知った。海がこんなにもきれいだということを知った。楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、苦しいこと。ただの兵器ではない、心を持った存在としての”私”を知った。

そして、誰かを好きになるということも知った。

 

私は、指揮官が好きだ。

 

初めは頼りない、おかしな指揮官だと思っていた。しばらくして、陰ながら私たちのために働いてくれていると知り、おかしいけれどいい指揮官だと思うようになった。秘書艦として過ごすうちに、指揮官といるのは楽しいと感じるようになった。兵器ではない私を見つけてくれた指揮官と、共に戦争を終わらせたいと思うようになった。指揮官に庇われて、この先に未来を共に歩みたいと思うようになった。

 

私は、指揮官とずっと一緒にいたい。戦争が終わった後も、その先もずっと。

私にはもう指揮官のいない世界など想像することもできない。

指揮官が私のことを好いてくれなくてもいい。ただ、傍に居られればそれだけでいい。それだけで私は、生まれてきてよかったと心の底から思えるんだ。

 

×月××日

指揮官といると、想いがあふれそうになってしまう。この気持ちは、私の中だけに留めておくべきものだ。

 

×月××日

ダメだ。我慢できない。どうしても、指揮官に私の気持ちを知ってほしい。

 

×月××日

指揮官に私の想いを伝えた。少し驚いたような顔をした後、指揮官はいつになく真剣な表情で少しだけ待ってくれと言った。受け入れてもらえるのだろうか。不安だ。

 

×月××日

今日は指揮官は一日中指揮官室にこもっていた。手伝おうかと声をかけたのだが、これだけは自分でやりたいといわれてしまった。一体何をしているのだろう?

 

×月××日

今日も指揮官は出てこなかった。早く答えを聞かせてほしい。

 

×月××日

指揮官はどうしたというのだろう?私の話を忘れてしまったわけではないだろうに。

 

×月××日

私は指揮官に拒絶されてしまったのだろうか

それでもいいからちゃんと私に言ってほしい。

 

×月××日

明日、指揮官の部屋に行こう。無理やりにでも入って、話をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さよなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃ?指揮官そんな顔してどうしたにゃ?悩みがあるなら明石が聞いてあげるにゃ」

 

 

 

「はい、指揮官の分にゃ。こういう時には釣りでもするのが一番にゃ。……ん?あれはなんにゃ?」

 

「にゃ!?そんな血相変えてどうしたにゃ!?……え?見覚えがある?……そういうことなら、明石に任せるにゃ!」

 

「よいしょと……ええと、エンタープライズ、にゃ?」

 

 

 




                                 つ づ く
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。