涼宮ハルヒのドキュメンタル   作:はせがわ

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開始。

 

 

「いやぁ……困った事になりましたね」

 

 俺の隣で古泉が呟く。いつもニヤケ笑いのコイツではあるが、今回ばかりは流石に参っているのか、苦い表情を浮かべている。

 

「僕の役目は、涼宮さんのやりたい事を最大限サポートする事。

 出来る限り彼女の願いを叶えるべく、お手伝いをする事です。

 しかしながら……正直今回ばかりは」

 

 部活を終え、帰路の途中だった俺を「少しお話よろしいですか?」といつもの如く呼び止めた古泉。

 いつもであれば、それは俺への助言であったりサポートをする為の会話であったハズだ。しかし、今のコイツは心底参ってしまっているのが見て取れる。

 いつもとは真逆で、コイツが俺に対して「どうすれば良いのでしょうか」と助けを求めているような様子なのだ。

 

「一応軽いルール説明はハルヒから受けたが……、

 そんなに拙いのか古泉? お前がそんな風になっちまう程」

 

「ええ……かなり問題がある企画かと思います。

 貴方はあの番組、ドキュメンタルをご覧になった事は?」

 

「いや、無いな。

 アイツも言ってたが、地上波でやってた番組じゃないんだろう?

 普段TVだってそこまで観る方じゃないんだ、名前も知らんかったよ」

 

「もしよろしければ、DVDをご用意しますよ?

 まだ土曜日までは若干の猶予がありますし、予習をなさるのも手かと。

 僕としては、あまりお勧めはしませんが……」

 

「ん?」

 

 まるで苦虫を噛み潰したような顔で、古泉が俯く。

 

「僕がドキュメンタルを知っていたのは、本当にたまたまと言うヤツです。

 以前、受験勉強の気晴らしにでもなればと思い、

 レンタルしてきたDVDの内のひとつだったのですが……。

 あのような内容だと知っていたなら、僕は決して観はしなかったでしょう」

 

「……そんなに酷いのかそれは?

 面白くなかった、って意味じゃないんだろう?」

 

「ええ、面白かったですよ。

 普段こういった物に触れる機会が少ない僕でも、沢山笑わせて頂きました。

 ……しかし、お察しの通り問題は、その内容にあります。

 具体的に言うと、もしあの番組と同じ事をやったのなら、

 恐らく僕らSOS団は、全員停学処分となる事でしょう――――」

 

「ッ!?」

 

「お勧めしない、と言った理由がコレです。

 もし貴方がDVDをご覧になり、この番組を参考に行動をしたのなら、

 間違いなく当日は、目も当てられない程の大惨事となるでしょう。

 僕としては……そのような貴方の姿は見たくない……」

 

 倫理規制のない状況下で行われる、芸人の矜持を賭けた、全力の笑わせ合い。

 ゆえに、アルティメット(なんでもあり)。小道具、下ネタ、何をしても良い。

 古泉が言っているのは、つまりそういう事なんだろう。

 

「例えば、僕ひとりがそれをするのは構いません。

 恥をかこうが、情けない想いをしようが、全て僕ひとりの問題で済みます。

 たとえどんな目にあおうとも、貴方は後でフォローして下さるのでしょう?」

 

「ま、同じSOS団の仲間だ。出来る限りのフォローはするだろうさ」

 

「ありがとうございます。感謝しています、心から。

 しかし問題は、涼宮さんがSOS団全員でやろうとしている事(・・・・・・・・・・・・・・・・)だ。

 僕だけでなく、朝比奈さんに、長門さんに、貴方に、……そしてご自身も。

 それをSOS団全員に求めている、という事なんです」

 

「…………」

 

「涼宮さんの事だ、きっと生半可はマネは決して許しはしないでしょう。

 仲間だからこそ、仲間との勝負だからこそ、全力で取り組もうとするハズです。

 自らが思い描く形……すなわちあの番組の通りの状況を、彼女は望んでいる。

 そして、それを望んでいるのが他ならぬ“涼宮さん“だというのも問題なのです。

 ……もし我々が生半可なマネをし、彼女を満足させる事が出来なければ……、

 もうお分かりですね?」

 

「世界崩壊の危機……か。

 なんというか、本当にアイツは毎度毎度……」

 

 もう「やれやれ」の言葉すら出てこない。この口から洩れるのはため息ばかりだ。

 

「正直今回は、どう転んでもロクな事にはならないかと。

 だれも損をせず、まるく治めるという事は非常に難しいです」

 

「だな。ちょっと今回ばかりは、どうして良いもんか見当が付かん。

 あるとしたら、俺がマジ説教して止めさせる、って事くらいか」

 

「それはもう、最後の手段ですね。

 僕としても、貴方たちが不仲となるような事態は絶対に避けたい。

 それに涼宮さんの“仲間たちと真剣勝負がしたい“という気持ちも、

 分からないでもないんです。……自分で言うのもなんですが、

 今の涼宮さんは本当に我々に心を開いてくれていますから」

 

「くっそッ……! あのワガママ娘め」

 

 空を見上げて悪態をつく。そんな俺の姿をなにやら微笑ましく見つめている古泉。ブン殴ってやろうかなコイツ。

 

「とりあえず、様子見をしようと思っています。

 当日の涼宮さんの出方を見て、僕もどのように動くのかを決めようかと。

 ……まぁ何事もなく終えたいというのは、儚い願いかもしれませんが」

 

「俺もそんな感じだな。

 だが一度、朝比奈さんにも話を訊いてみようと思う。

 恐らくだが、今回最大の被害者はこの人だろ?

 参加の意思確認だけでもしておきたい」

 

「よろしくお願いします。

 僕としても、朝比奈さんの泣き顔というのは非常に心が痛いので。

 それでは、今日はこの辺で失礼します。また学校で」

 

 やがて日も落ちていき、俺達はそれぞれの帰路に向かい踵を返す。

 だが最後、俺は思い出したように振り向き、古泉の背中に声をかける。

 

「よぉ古泉、お前自信はあるのか(・・・・・・・)?」

 

 足を止め、ゆっくりとこちらに振り返る古泉。その顔に不敵な笑みを浮かべて。

 

 

「――――最善を尽くしますよ。貴方もお覚悟を」

 

 

 

 


 

 

 先日、自転車を漕いでいた時、見知らぬおじさんを撥ねてしまいました。

 

 おじさんはゴロゴロと地面を転がり、やがてゴチンと壁にぶつかった後、ピクリとも動かなくなりました。

 

 あたしはおじさんに「大丈夫ですか?」と言いました。

 おじさんは地面に倒れ伏したまま「大丈夫や」と言いました。

 

 やがておじさんはゆっくりと起き上がり、ヨロヨロとふらつきながら、どこかに歩き去っていきました。

 

 あのおじさんは今、どうしているのでしょうか?

 その日はとても良い天気だったのを、憶えています――――

 

 

 

 さて、貴方ならと思い、ご案内を申し上げます。

 

 明日の土曜朝9時、各種小道具などをご準備の上、SOS団部室にお集まりいただけますでしょうか?

 

 “ドキュメンタル“を開催致します。

 

 豪華な優勝賞品をご用意させて頂いております。

 もちろん、参加は自由です。

 細かいルールなどは、当日改めてお伝え致します。

 

 それでは、お返事をお待ちしております。

 

 

 キョンは来なかったら死刑。

 

 

 

涼宮ハルヒ

 

 


 

 

 

 

「……何なんだこの招待状」

 

 前日、ハルヒが教室で直接手渡ししてきた赤い便せん。

 恐らくこの文章も、本家の番組をオマージュして書かれた物なんだろうが、それにしても酷い。

 しかも最後の一文は、名指しで俺だけ死刑とか書かれてやがるし。これ絶対本家には無いヤツだろ。

 このスマホ全盛の時代にわざわざ手紙なんぞしたためんでもとは思うのだが、とりあえず死刑は嫌だもんな。

 

 そして今日、土曜朝9時の少し前。

 俺はため息なんぞをつきながら、便せん片手にSOS団部室の扉を開けた――――

 

「あ、おはようキョンくん」

 

「おや? 貴方が最後じゃないというのも珍しい。おはようございます」

 

「…………」

 

 見渡せば、既に席に着いているいつものメンバー達の姿。

 朝比奈さん、古泉、長門。皆がこちらに目を向け、朗らかに手を振ってくれている。長門はジッとこちらを見てるだけだが。

 

「ん? ハルヒはまだ来ていないのか?」

 

「ええ、まだお見えになっていません。

 しかし恐らくは、ただ遅れていると言うよりも……」

 

「どこかで何かしらの準備をしてる、って事か。

 まぁ良い、座って待たせてもらうさ」

 

 前日の金曜日、SOS団の活動は中止だった。

 どうやらハルヒが鶴屋さんの協力の下、この日の為に必要な機材を部室、そしてお隣のコンピ研に設置していたのだそうだ。

 今目の前にある長机には、すでに何台かの小型カメラが設置されており、それと同じ物が天井や本棚にも取り付けられているのが見える。

 あの野郎、かなり本格的にやるつもりだな。

 

「朝比奈さん、昨日も訊きましたけど、大丈夫そうですか?」

 

「うん、ありがとうキョンくん。

 すごく悩んだけど、わたしもSOS団の一員だから。

 涼宮さんに喜んでもらえるように、がんばってみるね」

 

 後光が差して見える程の神々しい笑顔。まるで女神。いやエンジェルその物だ。

 

「昨日はなんだか眠れなくって……。でもう~んう~んって考えてる内に、

 なんか全てがよく分からなくなっちゃって。

 だからもう、このままいこうかなって」

 

「朝比奈さん……」

 

 美しい、大変美しくはあらせられるのだが……よく見れば目の下に隈を作っていらっしゃる事が見受けられる。

 俺はもう、涙が零れ落ちそうだ。

 

「ねぇキョンくん……? もしわたしがお嫁にいけなくなったら、

 キョンくん貰ってくれる……?

 わたしが今日どんな事を言っても、どんな事をしても……、

 嫌いにならないって約束してくれますか……?」

 

「――――ッ!?」

 

 その時、俺は朝比奈さんの目を見てしまう。

 か弱い声、儚げな雰囲気、しかしその瞳だけは“不退転の覚悟“に燃え、まるで射抜くかのように真っすぐ俺を見つめているのだ。

 背筋が凍る程の、真剣な目で――――

 

「朝比奈さんは……あの番組の事を?」

 

「………………うん、知ってるよ。予習してきたから」

 

 やがて朝比奈さんは俺から視線を切り、静かに俯く。

 足元には、彼女が用意してきたであろう小道具の詰まったボストンバッグ。

 戦う覚悟を……彼女は決めてきたのだろう。

 

「長門、お前は大丈夫なのか?

 なにやら、お前がハルヒにこの企画の事を教えたっぽいが……」

 

「平気」

 

 いつものように本を読み、だがいつもとは違い中央の長机の席に着く長門が、こちらに視線を向ける。

 

「平気って言ったって……知ってるんだろう?

 これがなんでもアリの、どキツイ企画だって事を。お前出来るのか?」

 

「できる」

 

 確かにコイツが爆笑する所なんか想像出来ないが、この企画は笑いを我慢するだけでなく、誰かを笑わせなくてはいけない。

 長門が大阪名物パチパチパンチをやるとも思えないし、「どうも、滝〇クリステルです!」とか言って突然踊り出すとも思えない。それで俺達が笑うかどうかは別問題だが。

 

「私はだいじょうぶ。アイム パーフェクト ヒューマン」

 

「長門?」

 

 長門が本に視線を戻し、そのまま読書の態勢に入る。

 

「心配いらない。貴方は私がまもる」

 

 俺が「お前宇宙人だろ」みたくつっこむかどうかを迷っている内に、会話は終わってしまったのだった。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 扉が壊れるんじゃないかという程の〈バコーン!!〉みたいな音を立て、我らがSOS団団長、涼宮ハルヒが姿を現した。

 

「おはようみんな! どうしたのよしけた顔してっ!

 まぁ今日は笑っちゃ駄目なんだし、その位がちょうどいいわ!」

 

 音を入れるとしたら〈どよ~ん〉みたいな雰囲気の俺達に向かい、大きなボストンバッグを持ったハルヒが太陽のような笑みを浮かべて右手を上げる。

 

「さてさて! 早速だけど、今日の企画の事を説明していくわ!

 別にやりながら覚えていったらいいけど、

 つまんない失敗してもつまんないから、みんなよく聞いてね!」

 

 いつものように、ハルヒが「よっこいしょ」と団長机の上に立つ。武士の情けで目を逸らしてはやるが、パンツ見えるぞお前。

 

「改めて言うわ! 今日みんなにしてもらうのは“ドキュメンタル“!!

 某金髪ゴリラこと松ちゃんが企画した、笑いの実験場よ!!

 各自、SOS団団員の誇りを賭けて、戦って貰うわ!!」

 

「わ、わぁ~!」

 

「ぱちぱち、ぱちぱち」

 

「心得ました。精一杯やらせて頂きます」

 

「よろしいっ! 特にそこでぱちぱち言ってる有希! 可愛いっ!!

 何にもしなかったキョンは後でひっぱたくとして……ルール説明ッ!!

 今から制限時間6時間のあいだ、みんなにはここで笑わせ合いをしてもらうわ!

 笑った者は失格となり、隣のコンピ研の部室に退場ッ!

 最後まで残った者が勝者よっ!!」

 

 なにやらぼけっとしている内にひっぱたかれる事が確定してしまったが、とりあえず話を聴いていく事とする。

 

「一応、一回笑ったら即アウト! ってワケじゃなくて、

 本家と同じようにカードを出していく方式になるわ。

 クスッと笑っちゃったらオレンジ、思わず吹き出しちゃったらイエロー、

 そしてお腹を抱えて転げ回ったらレッドカードが出されるの!

 サッカーで言う所の、注意、警告、退場ね!

 でも実質的には“3回笑ったらアウト“と憶えておいてちょうだい!!」

 

「その判定は、誰がなさるのですか?

 団長である涼宮さん自らがなさるのでしょうか?」

 

「うむ! 良い質問ね古泉くん!!

 この判定は、お隣のコンピ研の部室にいる鶴屋さんがやってくれるの!

 この部屋の状況は、カメラを通して向こうの部屋でチェックされてるからね!

 もし誰かが笑っちゃったら、スピーカーから〈デデーン!〉みたいな音が流れて、

 笑った人の名前、そしてカードが鶴屋さんからアナウンスされる仕組みよ!!」

 

『はーい! アタシだよ~ん! みんな頑張ってね~!!』

 

 鶴屋さんのアナウンスによると、今回の企画には各種機材の協力の他、多くの人員も鶴屋家から動員されているらしい。

 見張りや警備の態勢も万全なので、鶴屋さんいわく『たとえその部屋で何しても、どんな事があっても、ぜったい大丈夫にょろ!!』だそうな。

 

「おい、鶴屋家全面協力じゃねぇか。ちゃんとお礼言ったかハルヒ?」

 

「言ったわようるさいわね!! ちゃんと鶴ちゃん大好きってハグしたわよ!!」

 

「我々、鶴屋さんに足を向けて寝ねませんね……」

 

「後でわたしからもお礼を言っておきます……」

 

「……」

 

 特に宣伝効果があるワケでも無いのに、なぜ鶴屋家はここまで協力してくれたのだろう?

 一介の高校生である俺には分からない事だった。

 

「基本的に、この部屋にいる間は何をしてても自由!

 備え付けの冷蔵庫を開けるもよし! そこのカセットコンロで料理をするもよし!

 6時間っていう長丁場になるんだし、各自好きなように過ごしてちょうだい!

 あと着替えをする時の為、部屋を出てすぐの所に簡易脱衣所を用意したからね!

 ちゃんと人数分あるから、小道具を置いておくロッカーとして使っても良いわよ!」

 

「メシや飲み物があるのは助かるな。

 6時間あるとは知らんかったから、何も用意して来なかったんだ」

 

「脱衣所があるのも助かります。本当に至れり尽くせりだ」

 

「一応だけど、何してても良いとはいえ、寝ちゃうのとかは駄目だからねっ!!

 みんなの約束として、誰かが何かをしようとしてる時、言おうとしている時は、

 ちゃんとその人の方を向く事!! 全身全霊を持って受け止めるのよっ!!

 あと細かい注意があれば、そのつど言っていく事にするわ!

 とりあえず、習うより慣れろよ! やってみましょう!!」

 

 そしてハルヒは天井のカメラに向かい、隣の部屋で観ているであろう鶴屋さんに指示を出す。

 説明もそこそこに、どうやらおっぱじめるつもりのようだ。

 

「――――あ、最後に言っておくけど。この戦いの優勝者には賞品として、

 敗者全員を好きに出来る権利(・・・・・・・・・・・・・)が与えられるわ。

 全裸にしようが、抱き枕にしようが、婚姻届に判を押させようが自由よ?

 好きにしてちょうだい」

 

「「「 !?!? 」」」

 

 まるでついでのようにサラリと告げられた、今回の優勝賞品。

 それを聞き、思わず目を見開く俺達。

 

「おいハルヒ! それはいったいどういう事だ!! 何考えてんだお前!!」

 

「あら? じゃあ本家と同じく、大会参加料として100万円払う?

 優勝賞金が確か1000万円だったから、ひとり頭200万円になるのかしら?

 アンタ払えるの?」

 

「んぐっ!?」

 

「無理に決まってるじゃない、あたし達に100万円なんて。

 でもその掛け金で覚悟を示すからこそ、1000万円という賞金があるからこそ、

 あの人達はあんなにも真剣に戦っていたの。絶対負けられないってね」

 

 ハルヒが腕を組み、冷たい声で言い捨てる。

 お前はいったい、ここに何をしにきたのかと。

 

「じゃああたし達も、その100万円に負けない位の物を賭けないと駄目じゃない。

 そうしないと本気になんてなれないわ。絶対適当な所で笑って終わらせてしまう。

 ――――アンタは絶対、あたしに勝ちを譲る。そうでしょうキョン?」

 

「……ッ」

 

「まぁ心配する事も無いわ。好きにして良いなんて言っても、

 どうせアンタならみくるちゃんとデートしたいとか、

 古泉くんにジュース一本奢らせるとかでしょ? 

 ……でも言っとくけど、あたしが勝ったら容赦なくいくわよ?

 比喩でもなんでもなく、あたしアンタの人生貰うからね(・・・・・・・・・・・)?」

 

 ハルヒが目を見開き、真っすぐに俺を睨みつける――――

 

「さって! なんかシリアスな空気になっちゃったけど、

 いつも通り楽しくやりましょ♪ 気を張ってちゃ最後まで持たないわ!

 ……あ~、でもみんな? お願いだから……」

 

 スッと目線を切り、ハルヒが団員達の方を見る。

 俺からは、その表情は見えない。だがハルヒの顔を見た団員達の表情が、一瞬にして強張るのを感じた。

 

 

「――――本気で来てね。あたしもそうするから」

 

 

 この時が、きっと最後のチャンスだったんだろう。

 ハルヒを止める、この馬鹿馬鹿しい戦いを止める最後のチャンスだったんだろう、今にして思えば。

 

 だが俺の身体は凍り付き、身動きひとつ出来ないまま。

 ただただ目だけがハルヒの方を見つめ、その光景を映し続けていた。

 

 

「分かりました。お受けします――――」

 

「恨みっこ無し。やくそくですよ、涼宮さん――――」

 

「了解した――――」

 

 

 

 

 

 ブザーが鳴る。戦いの開始を告げる音が。

 

 いま壁に備え付けられた電光掲示板が動き出し、1秒2秒と時間の経過を知らせた。

 

 

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