涼宮ハルヒのドキュメンタル 作:はせがわ
えっと、ここに座ればよろしいんですか? なにやら緊張してしまいます。
――――はい、そこにお掛け下さい。本日はよろしくお願いします古泉さん。
こちらこそ、よろしくお願いします。
僕などの為にこのような場を設けて頂き、恐縮なのですが……、果たして上手く話せるかどうか。
――――いえいえ、どうぞ楽にして下さいね。それではお話を聞かせて頂こうと思います。いくつか質問をさせて頂きますね。
はい、承りました。僕でよろしければ。
――――それではまず……、大会開幕時の涼宮さんについて。あの時の彼女の様子をご覧になり、どのように思われましたか?
あの時の涼宮さん……ですか。
そうですね、正直度肝を抜かれてしまったというか……。
僕の団での役割は、涼宮さんのサポートやメンタルケアであると自認してはいるのですが……、その僕をしても、まさか涼宮さんがあそこまでの覚悟を持って臨んでいたとは思いもよらず。
凄くおどろいた……というのが正直な所です。まったく予想が付きませんでしたから。
――――いつもの彼女らしくなかった、と?
いえいえ、今にして思えばですが、純粋で真っ直ぐな涼宮さんらしい行動だったと思います。
彼女でなければ、とてもあのような企画を実際にやろうとは思いもしないでしょう。
そしてその覚悟の程も、大変涼宮さんらしい。流石と言わざるを得ません。
――――我々にとって古泉さんというのは、団長の補佐はもちろん、団の活動を円滑に進める事に尽力していらっしゃる方だという印象があるのですが……。当日の涼宮さんの様子には、さぞ困惑したのでは?
そうですね、困惑しなかったと言えば嘘になります。
しかしながら、それは一瞬の事でしたよ。
――――と、言いますと?
あの涼宮さんの言葉を聞いた途端……なにやら全て吹っ切れてしまいまして。
僕の団内での役割や、立場の事。そういった物は確かあるのですが……、今はただ、彼女の想いに対して誠実であろうと。
この企画に全力で挑もう、それこそが涼宮さんの想いに答える唯一の方法なのだ。と思いましたね。
余計な事はもう、考えない事に決めたんです。
――――なるほど、よく分かりました。そういう覚悟で臨んでいたんですね。
まぁ、後で色々な方に怒られる羽目にはなりましたけどね……。
それでも、後悔はしていないつもりです。
――――ありがとうございます。では次の質問になりますが……この戦いに挑むにあたって、古泉さんは誰を一番警戒していましたか? もちろんご自身が優勝する覚悟で臨んでいたとは思うのですが、自分以外の方でこの人は強い、この人が怖いと思っていたのは?
……そうですね、例えば長門さんなどは、凄く警戒していましたね。
この戦いにおいて、彼女は“鉄壁“と言える防御力を持つ方なのではないかという印象がありました。
加えて当日は、なにやらある種の不気味さのような物も感じていましたから。あの場においては、一番の脅威になるだろうと。
――――古泉さんの優勝予想は、長門さんだった?
いえいえ、正直に言いますと、誰が優勝するのかなどまったく予想がついていなかったんです。
このような場に参加する事など、今までの僕にあろうハズもなかった事ですし。先の展開が予想出来る程の知識も無かったと言いますか。
……ただ、漠然とした印象で良ければ……、この人が優勝するのではないかという方は、一人いらっしゃいましたね。
――――それは、ズバリどなたでしたか?
これは僕の希望というか、淡い期待というヤツですが。ふふっ。
……しかし、彼はいつも、それに応えてくれた。
彼は決めるべき時、しっかりと決めてくれる人ですから。
「さっ、ついに始まったわね! とりあえずみんな、冷蔵庫でも開けてみる?」
ブザーが鳴り、まるで永遠と見紛うような沈黙が部屋を支配した後……、まるで何事も無かったかのようにして、ハルヒが口を開いた。
「そうですね、中を見てみましょうか」
「わたし、喉が渇いちゃって。何があるかなぁ?」
「……」
ハルヒが部屋に設置された冷蔵庫へと歩いて行き、三人がゾロゾロとそれに追従する。
「ふむ、ミネラルウォーター、オレンジジュース、コーラに牛乳ですか。
そちらの棚には、紅茶やコーヒーも用意してありますね」
「あ、ロールケーキが入ってますっ。ホールケーキもっ。
後は即席ラーメンに、お弁当なんかも沢山。これはお刺身の盛り合わせかなぁ?」
「かなり充実してるわね! これなら万が一にも食いっぱぐれる事はないわ!
とりあえず飲み物が欲しいけど、みんな何が良い?」
「アップルティーを所望する」
冷蔵庫を囲み、和気あいあいとしている4人。まるでついさっきまでの出来事が嘘だったかのように、いつも通りの朗らかさを見せている。
そのあまりの切り替えの速さに、ただただ俺は、その後姿を見ている事しか出来ない。
「はい、貴方はコーラでしょう?」
「あ……あぁ。すまんな古泉」
その場で立ち尽くすばかりの俺に、古泉がコーラを手渡してくれる。それによってようやく動くようになる、俺の身体。
古泉は「いえいえ」となんでもないように言ったが、今はただ、コイツの気遣いに感謝する他ない。
「さて! それじゃあいったん座りましょっか!
今回は6時間の長丁場だけど、まずはみんなでトークでもしようじゃないの!」
「大変よろしいかと。
普段の団活時、僕らはそれぞれ好きなように過ごしていますからね。
せっかくの機会ですし、皆でトークに花を咲かせるというのも楽しそうだ」
「わぁ、いいですね♪ すごく面白そうです♪」
「かまわない」
和やかなムードのハルヒ達。一見すると、それはいつも通りの姿にしか見えないが、全員まったくと言って良いほど
これだけ明るい雰囲気で談笑していれば、鶴屋さんから注意が来てもおかしくなさそうな物なのだが……、だが今の所その様子も無い。
お互いがお互いの首元に、刃物を突きつけ合っている――――そんな剣呑さを鶴屋さんも、モニターを通して感じ取っているのかもしれない。
「ほらアンタ! ボケっと突っ立ってないで座りなさいよ! はやく座る座る!」
「お、おう……」
そうハルヒに促されるまま、俺はコーラ片手に適当な席に着く。
俺が座ったのは長机の一番端っこだ。無意識に両隣を“囲まれる“という事を嫌ったせいなのかもしれない。
「よし、それじゃああたしも座ろっかな~って……ん?」
さも自然な動作で、俺の右隣の席に着こうとするハルヒ。だがその行動は、ハルヒと同じように右隣りの席に座ろうとした他の三人によって阻止されてしまう。
「ん? どうしたのみんな? 椅子から手を放して欲しいんだけど……」
「あ、ごめんなさい。ここには僕が座ります。
同じ男性同士、女性同士という風に座るのがよろしいかと」
「ん~ん? せっかくだし、今日は自由に座ったら良いと思うんです。
ここが一番ポットやコンロから近いし、わたしが座りたいなぁ」
「団長なら、上座に着くべき。
部屋の日当たりを考え、この席が一番読書に適していると判断した」
俺の右隣りの椅子に手をやり、ギリギリと引っ張り合っている様子の4人。
その表情こそは普段通りの物だが、なにやら手に血管が浮き出ている気がする。
「お、お前らこっち側の席が良いのか? なら俺は向こう側に」
「――――アンタはそこで良いのよ!! じっとしてなさいよッ!!」
ハルヒの一喝に、思わず〈ビクゥ!〉と身体が跳ねた。
いま目の前にあるパイプ椅子は4人の手によって掴まれ、ガタガタと震えながらちょっとずつ宙に浮いてきている。
「……みくるちゃん? 有希? 分かるわよね?
あんまり無暗やたらと権限を振りかざすのは、気が進まないんだけどっ……!」
「わたしはっ、皆さんに美味しいお茶を淹れたいんですぅ……!
命賭けてるんですぅ……!」
「私は宗教上、この時間帯はこっちの方角を向いて座っていなければならない。
理解して欲しい……!」
「皆さんはっ、大岡裁きという話をご存知でしょうかっ……?
母親を自称する二人の女性が……ひとりの子供を引っ張り合うという……!」
ギリギリ、ギリギリ。貴重な団の備品であるパイプ椅子が、抗議の声を上げるが如く軋みをあげている。
もうこのパイプ椅子が空中浮遊を始めて一分近く経つが、一向に誰も手を放す気配は見られない。このままでは勝負は付かないだろう。
「えっと……じゃあハルヒがそこに座るって事で構わないか?
コイツが無茶したらすぐ止められるよう、出来るだけ近くに置いときたいんだ」
「「「!?!?」」」
おっかなビックリの発言ではあったが、俺の言葉を聞いてゆっくりとパイプ椅子を床に降ろしていく一同。
三人は心なしか、苦虫を噛み潰したような顔。そしてハルヒはあふれ出る喜びをかみ殺しているような表情をしている。
「キョンのくせに生意気言ってんじゃないわよ!
……でもまぁ、その心意気は買わない事もないわ! 座ってあげる!!
団長であるあたしを止められるモンなら、止めてみなさいな!」
ムフフ……ムフフ……と言わんばかりの顔をしているハルヒ。
その表情は近くで見ている俺からしたら明らかなアウトなんじゃないかと思えるのだが、鶴屋さんがアナウンスを告げる事は無かった。
人間のやる事なんだし、見逃しだってあるのだろう。それとも序盤という事での慈悲だったのか、俺には知る由もなかった。
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「へぇ~! そうだったの古泉くん! 今とはぜんぜん印象が違うわね!」
「えぇ、母親が言うには、当時はとてもやんちゃな子供だったそうで。
大事に育てては頂きましたが、イタズラにはかなり手を焼いていたそうですよ」
席に着き、談笑に花を咲かせている俺達。
いま話しているのは「子供の頃はどんな感じだった?」という話題。現在は古泉が皆に向かい、子供の頃の自分について語っている。
「クレヨンで壁にらくがきをしたり、父の大切な絵画に穴を空けたり、
恥ずかしい思い出ばかりです。近所でも相当有名な悪ガキだったようで」
「いいじゃない! 子供ってのはその位じゃないといけないわ!
元気でナンボなのよ!」
「意外だけど、想像してみると微笑ましいかも。
きっと可愛いお子さんだったんだろうなぁ~」
「ユニーク」
俺とハルヒが隣り合って座り、その対面に長門、朝比奈さん、古泉が座る。
その構図がまるで一般人VS宇宙人未来人超能力者連合といった風な感じで、自分で提案しておいてなんだが、俺としては内心ソワソワと落ち着かない。
さりげなく気遣ってくれる古泉や、先日「貴方は私が守る」と言ってくれた長門などは俺の味方であるのだろうが……。
ちなみに朝比奈さんに関しては、“俺が“朝比奈さんの味方、と言った感じだ。彼女は俺が守らなければ。
「よろしければ、写真をご覧になりますか?
ちょうど話のネタにでもなればと、当時の写真を用意してきたんです」
「え、あるんですか写真! 見たいです見たいです!」
「グッジョブよ古泉くん! さすがは副団長っ、気が利いてるわ!」
「みたい」
リクエストを受け、胸ポケットから写真を取り出す古泉。それを皆に見えるよう、机の中央に置く。
「これは、僕が小学2年生の時の写真になりますね。
友達と一緒に公園にいる時の物です」
そこには、全身素っ裸の状態でジャングルジムに縛り付けられ、キリストのようにグッタリしている古泉少年の姿があった。
「――――ん゛ふっ!!」
「――――ごふ゛っ!!」
真顔のまま、口から色々なものを噴出するハルヒ。共に覗き込んでいた俺も同様だ。
「お………お……お前っ。……いったい何があったんだよ」
「いやぁ、当時あった子供グループ同士の抗争に、敗北してしまいまして。
リーダーとしての責任を取り、こうして裸で縛り付けられているのです」
「ボコボコじゃないの!! なに朗らかに当時を語ってんのよ!!
大丈夫だったの古泉くん!?」
「えぇ、通りすがりの人々に沢山見られてしまい、
もう街を歩けないという程に恥をかきましたが、なんとか無事でした。
ちなみにこの写真を撮ったのは、僕のお母さんです」
「 助けろよッ!! なに撮ってんだよお母さん! 息子がエライ事になってるよ!! 」
今も俺の眼前には、アルファベットの「Y」の形でグッタリしている古泉少年の写真がある。それを出来るだけ視界に入れないようにしながら、古泉にツッコんでいく。
「あ、そう言えばわたしもあるんですよぉ♪ 小学校の頃の写真♪」
手のひらを合わせ、思い出したという風な感じで嬉しそうに朝比奈さんが告げる。
「これね? 私が小学校1年生の時の写真なんです♪
当時やってた習い事で、大会に出た時の写真なんですよぉ♪」
朝比奈さんが、俺達の前に写真を差し出す。言われるがままに覗き込む俺達。
そこには、空手胴着に身を包み、瓦20枚を一撃のもとに粉砕するみくるちゃんの姿が映っていた。
「 ――――――お゛ほ゛ッッ!!!! 」
口から鼻から色んな液体を噴出する俺。ハルヒは目を見開いてただただ写真を見つめている。
その時―――設置されていたスピーカーから〈ウ~ウ~ウ~!!〉とけたたましくサイレンが鳴り、赤いライトの照明が部屋中を照らす。
『デデーーン!! キョンくんアウトぉー! オレンジカードにょろ~!!』
壁に掛けられた大型のモニターに鶴屋さんの姿が映る。そしてこちら側に向かってサッカーの審判が使うようなオレンジ色のカードを突き出している。
『まだ序盤だから甘めにしてるけど、
今のは“技あり“のイエローカードでもおかしくなかったよぉ~!!
気をつけてねぇキョンく~ん!』
「……ッ!!」
ガッハッハと笑う鶴屋さんの映像がモニターから消え、再び部室は静寂を取り戻す。
「……」
「……」
「……」
静まり返る一同。今大会で初めて出たアウトの勧告に、さっきまでの楽し気な雰囲気は一気に吹き飛んでしまう。
皆一様に表情を凍り付かせ、ハルヒなどは脂汗を浮かべている。
「……なるほど、こんな感じで進んでいくんですね」
「オレンジ……と言う事は“注意“ね。
実質的に、キョンはあと二回笑ったら退場って事よ」
「……くっ!!」
油断してた。まさか朝比奈さんからポイントを獲られるなんて思いもしなかった。
今俺の眼前には、なにやら申し訳なさそうに俯いている朝比奈さんの姿がある。
もしかしたら朝比奈さんはハルヒを落とす事を狙っていて、それに俺が誤爆してしまったという形なのかもしれない。
……だが、アレは無理だ。
普段朝比奈さんに可憐な印象しか持っていなかった俺が、一番そのギャップに耐えられなかったという事なんだろう。
もしもう一度見せられても、俺は瞬時に吹き出してしまう自信すらある。
「あの、みくるちゃん……? 一回『チエストォー!!』って言ってみてくれない?」
「やめんかハルヒッ! 俺を殺す気かッ!!」
朝比奈さんが困り顔で自重してくれたから良かったものの、もし容赦なくやられていたら、俺の冒険はここで終っていたのかもしれない。
もしかしたら……俺のツボというか弱点は、朝比奈さんなのかもしれない。俺は内心タラリと冷や汗をかく。
「写真から検証した結果、
朝比奈みくるの手刀には1トンの破壊力があると推定」
「あぁ、綺麗に飛び散ってるもんねぇ……瓦……」
「やっ、やめてくださいよぉ! ないですよぉ~!」
いや、あると思う。もう写真から〈バコーン!!〉みたいな音が聞こえて来そうな程の臨場感だから。もう修羅みたいな顔してるから、みくるちゃん。
この手刀を喰らったのが人間ではなく瓦であったのは、とても幸いな事であったのかもしれない。
「と……とりあえず有希は? 有希は子供の頃、どんな子だったの?
あたしまだ会った事ないけど、お父さんとお母さんってどんな感じ?」
「いない」
笑ってしまいそうなのを堪える為か、ハルヒが話の矛先を長門に移す。
しかし、そこには冷たい現実が待ち受けていた。
「両親はいない。顔も憶えていない」
「……えッ!?」
驚愕するハルヒ。淡々と言葉を突き付ける長門。
あまりにも何気なく質問を投げ、そして無遠慮に長門の心の傷に触れてしまったのかと、ハルヒは戸惑いを見せる。
「そ……そうだったの有希。あの、あたし……」
「かまわない。憶えていないほど、昔の事」
申し訳なさそうな表情を見せるハルヒに対し、長門はただ淡々と事実を告げていく。
「ただ私は、
「 ――――――ん゛んッッ!!!! 」
大量の鼻水が、ハルヒの顔面からブーッと噴出する。
「そして1歳の時、私は鷹にさらわれ、そのまま育てられた」
「 ――――――お゛っふぇッッ!!!! 」
その時、部屋中にサイレンの音が響き渡り、モニターに鶴屋さんの姿が映る。
『はぁ~い! ハルにゃんオレンジカードぉー!!
ホントは2枚カード出したい所だけどぉ、一枚におまけしとくよぉ~!』
愉快な笑い声をあげる鶴屋さん。その姿がモニターから消え、辺りが静寂を取り戻す。
「え、絵に描いたような“緊張と緩和“でしたね……。
流石と言わざるを得ない……」
「長門さん……? なんでそんなウソついたんですかぁ……?」
「べつに」
俺達3人は、長門の出生を知っている。だからさっきの会話を聞いててもそこまでシリアスになる事は無かったが、ハルヒはそうもいかなかったようだ。
思いっきりゼロ距離で、直撃していた。見ていて面白い程に。
ちなみに“緊張と緩和“というのは、基本的な笑いのテクニックのひとつだ。吉本の養成所なんかに入学すると、しっかり教えてもらえるぞ。
「……えっ? あたし有希に獲られたの……? もうオレンジカード?」
「受け入れろ。これが
「ウソ……なのよね? ホントは大丈夫なのよね有希? それだけちゃんと教えて?」
「心配ない。親はアイダホでじゃがいもを作っている。
テンガロンハットを被っている」
それも真っ赤な嘘なのだが、とりあえずハルヒはそれで納得してくれたようだ。
鷹に育てられるよりは、よっぽどマシだったのだろう。
「う、うん……それなら良いの。変な事きいちゃってごめんね?
いいのいいの。オレンジカードくらい……」
なんかそれ以上踏み込む事が怖くなったのか、とてもしおらしくなったハルヒがグビグビとミネラルウォーターで一息。
今日の長門にうかつに踏み込んではいけない。そんな危険を感じ取ったようだ。安全第一。
「まぁキョンの家族構成は知ってるし、子供の頃の写真も持ってるし、
この話はもういいわ」
「ちょっと待て、何で持ってるんだお前」
俺の抗議をサラリと無視し、再びグビグビと水を飲むハルヒ。どうあっても俺の質問に答える気は無いようだ。
「いやぁ~、いきなり獲られちゃったわね! やるじゃない有希!
でもまだまだ先は長いんだし、ここから挽回していくわよ!
覚悟しなさいみんな!!」
腕を組み、なにやら満足そうにウムウムと頷くハルヒ。
恐らくコイツの中では自分が圧勝するつもりだったんだろうが、思わぬ健闘を見せる団員達にご満悦のようだ。俺はまだ一回も獲っていないが。
「せっかくの機会だし、普段聞けないような事なんかも聞いてみたいわね……。
SOS団はみんな仲良しだけど、でも気をつかうばかりの関係が仲間じゃないわ!
時には自分をさらけ出す事も必要なのよ!!」
ハルヒの提案に、その通りだとウンウン頷く団員達。
リーダーであるハルヒが会話の舵を取り、俺達がそれに追従していく。予想はしていたが、この形はいつもの俺達そのものである。
なんだかんだ言っても、この形が俺達には一番しっくりくるんだろうな。
皆の顔もキラキラと輝いているようだし、団長さまさまである。
「よっし! それじゃあ訊くけど、みんな最近、
「「「 !?!? 」」」
ハルヒの言葉に、思わず凍り付く俺達。
「お、おいハルヒ! お前なに言ってやがんだッ!!」
「えっ、何よ? 普段聞けないような事を聞くって言ったじゃない」
アウトを取られない絶妙な加減で、満足そうにニヤニヤするハルヒ。
片眉を上げ、俺をあざ笑うかのように笑っている。「当然でしょ?」とばかりに。
「さ! 順番に聞いて行こうかしらねっ! とりあえずキョンはどう?」
「答えるか馬鹿!! そんな義務はねぇッ!!」
俺は軽く激昂するも、それを分っていたかのように「フフン♪」と受け流すハルヒ。
この展開は、非常に拙い。俺は冷や汗をかく。
(下ネタ……。ハルヒの野郎、
分かってはいた事だが、ついにやりやがった。このまだ序盤である内から、躊躇なく!!
口火を切るとしたら、ハルヒだろう――――
そんな漠然とした予想はあったものの、まさかここまで躊躇なく切ってくるとは思わなかった。
(SOS団だぞ、ここは……。長門や朝比奈さん、古泉……、
こいつらに向かって下ネタやろうってのか、お前は)
こいつらの献身を知っている。そしてこいつらが本当に心の綺麗な奴らだって言うのを知っている。
だからこそ、どこかで俺は「やるワケが無い」という想いがあったのかもしれない。
こんなにも良い奴らに対して、下ネタなんかやれるワケが無いんだって。
「古泉くん、最近いつオナニーした?」
「
「――――ほぉ゛ッッ!!!!」
何とか堪えはしたが、思わずコーラを吹き出しそうになる俺。
あまりに普通のテンションで言葉を返され、ハルヒもなにやら戸惑っている様子だ。
「えっ……。あの、古泉くん? ……今朝って」
「あ、そうです。今朝です。
ここに来る前に、済ませて来ました」
「来る前に済ませて来たのっ!? ……そ、そんなにしたかったの!?!?」
「いやぁ、まさか僕も、このような大切な日の前にしたくなるとは思いもよらず。
自分でもビックリしましたよ」
いつものように、爽やかな表情を見せる古泉。きっと漫画やアニメだったらキラキラした背景が付けられる事だろう。
「そ……そうなの……。まぁしたかったんなら、しょうがないわよね……。
健全な男子高校生だもの」
「恐縮です。痛み入ります団長」
まさかのカウンターを喰らい、物凄いオロオロしているようだが、それでも折れないコイツは結構立派なもんだと思う。流石SOS団の団長である。
「じゃ、じゃあみくるちゃん!! みくるちゃんはいつオナニーしたの?」
「
ハルヒが何故か「え゛ぃん!!」みたいな声を出して机に額を打ち付けたが、朝比奈さんはいつも通りの美しい顔だ。まったく変化は見られない。
「み……みくるちゃんもしてきたの? そんなにしたかったの?」
「はいっ。どうしようかなって迷ったんですけど、して来ちゃう事にしましたぁ。
わたしもビックリしたんですよぉ」
「そ……そうなんだ……」
う、うん……みたいに狼狽え、ハルヒは汗をダラダラかきながら、なんとか平静を取り戻す。
「……ち、ちなみに有希は」
「
「――――――なんで食い気味なんだよ!! 躊躇しろよオイ!!」
「うふふふんwwww」
そして部屋にサイレンが鳴り響き、ガッハッハとお腹を抱えて笑う鶴屋さんから、ハルヒに対してイエロー(警告)のカードが出された。
「 どうなってんだよSOS団の性事情ッ!!
俺月曜から、どんな顔してお前らと会えば良いんだよッ!! 」
「ちなみに涼宮さんは、いつ頃なさいましたか?」
「…………け、今朝」
「 ――――お前もかよっ!! 俺以外全員が今朝かよッ!!
抗えよお前ら性欲にぃッ!! 青少年のなんやかんやにぃッッ!! 」
もう頭を抱えて振り回さんばかりに暴れるが、古泉も朝比奈さんも「まぁまぁ」と言わんばかりに、冷静に諫めてくれやがる。
俺はもう、何を信じてこれからやっていけば良いのか分からなかった。
ハルヒにイエローカードが出され、こんな序盤にも関わらず、コイツには後が無くなった。
さすがにこの事実は堪えたようで、コイツもただ放心したように暫し黙り込んでしまう。
「今のは……貴方と長門さんの合わせ技じゃないかと……。
貴方が切れ味良くつっこむので、むしろ破壊力が倍加してしまった感が……」
「お……俺か!? 俺のせいなのか!?」
「キョンくん……プロの芸人さんみたいだった……。
鶴屋さんは見逃してくれたけど、わたしも笑っちゃったもん……」
天井を見上げてポカーンとしているハルヒを余所に、ウンウンと頷く三人から攻められる俺。
そんな中、ふと目をやった先に長門の姿が見え……、コイツが俺に向かって何かを伝えようとしているのが分かった。
「――――心配いらない。貴方は私が守る」
俺にだけ聞こえる程の、小さな声。
長門はそっと俺から目線を切り、未だに呆然としているハルヒの方に向き直った。
キョン オレンジカード(注意)
涼宮ハルヒ イエローカード(警告)
残り時間 05:17:21