涼宮ハルヒのドキュメンタル 作:はせがわ
えっと、ここに座って良いんですかぁ? わたしこういうのって、初めてで……。
――――はい、そこにお掛け下さい。本日はよろしくお願いします朝比奈さん。
こちらこそ、よろしくお願いしますぅ。
ちゃんとお話し出来ると良いんだけど、緊張しちゃって……。
――――どうぞ楽にして下さい。それでは早速お話を聞かせて頂こうと思いますが、構いませんか?
はい、わたしなんかで良ければ。なんでも訊いちゃって下さいね♪
――――ありがとございます。ではまず、開幕直後の事についてなのですが……朝比奈さんを含めた皆さん全員が、あの彼の右隣りの席に座ろうとなさっていたようですが、あれには何か理由が?
あぁ、あれはですね? わたしなりの作戦でもあったんですっ。
隣同士に座って、わたしが前さえ向いていれば、それだけでわたしがする事の影響がキョンくんの方にいきにくいっ、と思ったんですぅ。
わたしが何か変な事をしても、どんな格好をしてても……前じゃなく横に座ってるキョンくんには見えにくいですよね?
完全に無しにするのは無理ですけど……でも少しでも、と思ったんです。
――――彼を脱落させてしまわないように、工夫がしたかった?
はい。正直に話しますけど、わたしはキョンくんにがんばって欲しいって思ってたから……。
それなのにキョンくん、わたしの写真で笑っちゃって……あれには凄く焦りましたぁ……。
――――もしかして、皆さん同じ事を考えて、彼の隣に座ろうと?
わかりません。わたしはそうだったけど……少なくとも涼宮さんは違うと思うから。
でももしかしたら、あの二人はわたしと同じように考えていたのかも。
他にも理由があったのかもしれないけれど……。
――――よく分かりました、ありがとうございます。……それでは次の質問ですが、涼宮さんがいわゆる“口火“を切った瞬間、朝比奈さんはどう思われましたか?
あぁ……あれはもう、覚悟してましたぁ……。
わたしもDVDを観て予習して来ましたから、こういうのがあって当然なんだって。
だから心構えだけは、ずっとしてたんですぅ。
――――涼宮さんの厳しい質問に、すごくサラッと答えていらして……。正直あれには我々も驚きました。
うっ……も、もう顔から火が出そうですっ。いま思い出しても恥ずかしいっ……!
でもあの時のわたしは、しっかり覚悟を決めてたから。
涼宮さんとしっかり向かい合うんだって……だからこそ平気だったんだと思います。
――――本当に……朝して来られてたんですか?
きっ……! ききき禁足事項ですぅっ!!
――――失礼、同じ女性として気になったものですから。それでは質問を変えますが……朝比奈さんはあの中で、誰を一番警戒していましたか? 自分以外のメンバーで、誰が一番強いだろうと?
そうですね……わたしは古泉くんの事を、すごく警戒してました。
味方でいてくれる時はすごく頼もしいけど……敵にまわしてしまうと、あんなに怖い人はいないって。
あの時、わたしは古泉くんの隣の席に座る事になりましたから……さっきの“隣の席作戦“で言えば、もしかしたら幸運だったかもしれません。
それに古泉くんは男性だから……ある意味わたし達の中で、いちばん“彼“に近い場所にいるの。
上手くは言えないんですけど……その怖さもあったんだと思います。何をしてくるか分からないって。
――――朝比奈さんの優勝予想は、古泉さんだった?
いえっ、そうでもないんですぅっ!
長門さんもすごく強いって思ってたし、涼宮さんもすごくやる気になってたし、みんなとっても怖かった……。
でも、あの中で一人だけが勝つんなら、きっとこの人だっていう人はいましたよぉ?
――――ズバリ聞きますが、それはどなたですか?
普段は「やれやれ」って言ってばかりだけど……いざという時、ほんとうに頼りになるんです。
わたし達の事をいちばん想ってくれてるのは、この人だって……。
たとえどんな事があっても、この人ならなんとかしてくれるって、そう確信してるんです。
えへへ。だから出来るだけ良い形で、彼にバトンを渡せたらって……そればっかり考えちゃってましたっ。
「なんかもう、とんでもない目にあった気がするわ」
「自業自得だけどな。悪い事はするモンじゃないぞハルヒ?」
あれから暫くし、ようやくハルヒが放心状態から立ち直った。
いまは目をぱちくりさせ、「あービックリした~」と言わんばかりの顔だ。
「ねぇキョン? さっきって何があったんだっけ?
あたしちょっと、記憶が曖昧なんだけど……」
「思い出さんで良い。
とりあえず、お前がイエローカードになったって事だけおぼえとけ」
「えー、まっじっでぇー」みたく、物凄くピュアな表情をするハルヒ。
どうやら信じていた団員達の知らなかった一面を見て、軽く現実逃避的なアレになっているようだ。
「という事は……もしかしてあたし、ピンチだったりする?
もしかしてあと一回だったりする?」
「ザッツライトだハルヒ。お前ヤバイ事になってるぞ」
「駄目じゃないッ!! こんなんじゃみんなに示しがつかないわっ!!!!
あたしもう、ぜったいに笑わないからッッ!!!!」
ガーッと目を見開き、天に向けて雄々しく宣言するハルヒ。それを生暖かい目で見守る一同。
「そうよ、まだ序盤だしね!! おてんばするのは、まだちょっと早かったかしらね!?
ここはもうちょっと……まったりいく感じにしましょう!!」
脂汗を浮かべながら、ハルヒが団員達に指示を出していく。「へいへい、ハルヒびびってる~!」とか茶化してやりたい所なのだが、あまりの必死さにもう言葉をかける事も出来ない。
「はい、それがよろしいかと。
ではいったん落ち着きまして、各自が、自由に過ごしてみるという事で」
「わたし、ちょっとお腹が空いてきちゃいましたぁ。何か作ろうかなぁ?」
「了解した。待機している」
そして各々が席を立ち、思い思いの場所に散っていく。
古泉は部屋を見て回るように、朝比奈さんは冷蔵庫の所に、長門は改めて席に座り本を手に取った。
なんなんだ……この余裕は。ハルヒとえらい違いじゃないか。
いま俺の目の前で、持って来たカバンから大量の菓子パンを取り出して机に並べているハルヒを見て思う。
このパンは腹が減った時と言うよりも、恐らくは笑いそうになった時に、それを誤魔化す感じで口にする為に用意してきたんじゃないかと思う。
あまり良い手段とは言えんだろうし、たぶんハルヒにもそれは分かっているだろう。だが今のコイツは必死なのだ。早くも追い詰められているんだから。
それに比べて、この三人の余裕だ。まるで自分の家のようにしてこの部屋で寛いでいる。
それが俺には、この上なく恐ろしく映る。汗だくのハルヒとこいつらの対比が凄い。
「あ、皆さんも何か作りましょうかぁ? あたし材料を準備してきましたからぁ」
「お願いするわみくるちゃん! ガンガン持ってきてちょうだい!!」
そう返事をしつつ、馬鹿でかいフランスパンをまるで自分の命だと言わんばかりに抱えているハルヒ。
そんなモン食ったら、メシ入らなくなっちまうぞお前。
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「お待たせしましたぁ。どうぞぉ」
ハルヒがフランスパンにブツブツ話しかけている間に時は過ぎ、やがて席に着いた俺達の前に、朝比奈さんが作ってくれた料理の皿が置かれる。
「ありがとうみくるちゃん! さすがSOS団の専属メイドだわ!」
「実は朝食を摂らずに来たもので、いやはや助かります」
お前、抜いてくる余裕はあったのに、飯は食わなかったのかよ。
そんな事をふと思ったが、今は表情筋を硬直させる事に集中し、口には出さない事とする。
「さてさて! みくるちゃん、今日のゴハンはなぁに?」
「お
今俺達の前に、ドーナツくらいの大きさをした“麩“が、デローンと置かれた。
「とりあえず、お湯で茹でてみましたぁ。さぁ皆さん召し上がれ♪」
「……」
「……」
味噌汁とかお吸い物とかじゃなく、ただのお湯で茹でられた、麩。
それがいま俺達の前に、デローンと立ちはだかっていた。
「……お……お箸お箸。……とりあえずお……お箸よね」
「おう……。は……箸をまわして……くれるか……?」
反応したら負ける――――ツッコミを入れたら負ける――――――
そんな確かな予感を胸に、俺達は平静を保つ事に尽力する。
「い……いただきます……」
「いただきます……朝比奈さん……」
「はいどうぞぉ♪」
天使のような朝比奈さんの声を聞きつつ、とりあえず箸で掴んで、お麩を口に入れてみる。
「……」
「……」
「どうですかぁ? お口に合いますかぁ?」
――――まったく味がしねぇ。
口の中でモグモグしてみるも、まったくと言って良いほど味がして来ねぇ。それがもう、なんかじわじわくる。
「……ッ! ……ッ!!」
今俺の隣では、まるで修羅のように目をひん剥きながら、それでいて真顔でお麩を頬張るハルヒの姿。
とりあえずコイツが、お麩とか自分とか色々な物と戦っているのが見て取れる。
時折、お麩ではなく、ギリギリと歯を食いしばっている音が聞こえる。
とりあえず目の前のお麩を3分の1ほど頑張って完食した頃……俺の真正面の席に座る長門が、ゴソゴソと鞄から何かを取り出すのが見えた。
なんとなしに俺は、それをじーっと見つめてみる。
「――――ほう、タルタルソースですか」
ボソリと古泉が解説した途端、それを聞いたハルヒが「ん゛ーッ!!」と声を出して歯を食いしばり、そして自分の頬をバチーンとひっぱたき始める。
プリプリ、プリプリ。
長門がお麩にタルタルソースをかける音。そしてハルヒが自分の頬をビンタする音が部屋に響く。
「……な、長門? お前、それ美味いか……?」
聞いてはいけない。決して聞いてはいけないのだが……つい好奇心に負けて味を訊ねてしまう。
長門はモッチャモッチャと口を動かし、やがてそれをゴクンと飲み込んでから、じーっと俺の顔を見つめる。
「吐きそうだと感じている」
「 だよなぁ!! かけるモンじゃねぇよなぁ!! タルタルはッ!! 」
ハルヒの手の形がグーとなり、もうガツンガツンと自分の顔を殴り始める。
「そういえば皆さんは、
タルタルソースがどのようにして開発されたかは、ご存知ですか?」
「ん、材料か? 確かあれは……ピクルスとかだったんじゃないか?」
「いえいえ、材料ではなく、どのような経緯で開発されたのか、です」
お麩を普通にモッチャモッチャいきながら、いつもの感じで古泉がうんちく話を始める。
「あれはその昔、タルタル寺のタルタル和尚が『うちの寺の飯はあまりにもマズイ!!』
と憤慨し、開発なさったのだそうです」
「お前ウソついたろ? いま考えたろお前?」
もうハルヒがいるであろう方向から〈ドゴゴゴ!!〉みたいな打撃音がしてきた。
なにやら過呼吸のような「ハァーッ! ハァァーーッ!!」という呼吸音と共に。
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「キョン、ごはんって結構危険だわ。
あたしもう、みくるちゃんのゴハンはいいや」
「おう、がんばったなハルヒ。
とりあえずこっち来て、頬っぺた冷やそうな?」
食事の時間が終わり、俺はハルヒを冷蔵庫の所に引っ張っていく。
氷を駆使して二つほど氷嚢を作ってやり、それをハルヒの頬っぺたに当ててやる。
「さっきから頭がガンガンするの。
これってさっき、お麩を食べたせいなのかな?」
「そりゃあお前、自分の頬っぺたガンガン殴ってたからな。
頭もガンガンするだろうさ」
氷嚢を当てたまま、ハルヒを元の席に座らせる。
なにやらハルヒの口調が、病気で心身共に弱ってる人みたいに弱弱しくなってきてるのが気がかりだ。
「頑張れそうかハルヒ? あとまだ4時間半以上もあるんだぞ」
「うん、がんばるわあたし。まだがんばれる」
しおらしい……。ハルヒがすげぇしおらしくなってる……。
それを見て、俺はもう涙が零れ落ちそうだった。
「口ん中は切れてないか? 一回うがいしとくか?」
「ううん、だいじょうぶ……。ちゃんと考えて叩いてたから」
とりあえずお前ら、ハルヒを見ろ。この姿を見ろ。
そんなトコで意味も無くウロチョロしてんじゃない。こっち来て見ろよ。
「ねぇキョン、あたし良いこと考えたんだけどね?
こうボールペンか何かを、膝に刺しておくの。
それでまた笑いそうになったら、ギューって」
「やめようなハルヒ? 危ないからな?
とりあえずそこに座っとけ? 一休みしような」
ハルヒをそっとしておいてやる為、いったんその場を離れる。
氷嚢で頬っぺたを押さえながら、とても綺麗な瞳で「ぽぉ~」っと天井を見つめるハルヒを残していくのは忍びないが、今は俺もやる事があるのだ。
「……おい古泉、どういう事だこれは。流石にハルヒが可哀想だ」
部屋の端っこに沢山並べられたダンボール箱、それをフムフムと物色していた古泉の耳元に口を寄せる。
「軽く怪我人が出てるじゃないか。
いくらアイツの自業自得とはいえ、この状況はねぇよ」
「……はい。正直僕も、どうしたものかと思っている次第で……」
こちらに背を向けていたので分からなかったが、どうやら古泉もダーダー脂汗を流し、この状況を憂いていたようだ。
「これは涼宮さんが望んだ企画です。
本当はもう保健室に行って頂きたい位なのですが……、それは彼女自身が……」
「だろうな……なんとか無理させないよう、騙し騙しやるしか」
「それも中々に困難でしょう。もし我々が手を抜けば、すぐ彼女に気付かれます。
先ほどは、いっその事ここで脱落して頂こうかと思い、
がんばってみたのですが……見事に裏目に出てしまいました。
この企画に賭ける涼宮さんの本気さを、侮っていた」
「よく耐えたよハルヒは。俺もおどろいた」
その後も二人して頭を捻ってみるも、良案は浮かばず。
とにかく隣に座る俺が、なんとかこれ以上怪我をさせないようにだけ気をつけよう、という事しか決まらなかった。
「とりあえず、現在涼宮さんは小休止をなさってくれています。
決して望んでいた展開とは違いますが……今はある意味で好機だ。
彼女がお休み下さっているこの間に、我々でゲームを進めませんか?」
古泉が目の前のダンボール箱を指さし、そこに入っている数々の小道具を見せる。
「我々が準備してきた物以外にも、あらかじめ用意されている小道具があるようです。
おもちゃのバット、クマのぬいぐるみ、……これは洗濯バサミですか?
とにかく、これらを使ってゲームを動かしてみるというのは?」
「ん、乗った。ハルヒを休ませている間、ある程度は俺達でやっとこう」
そう決めた後、俺達は部屋にあるダンボールを物色していく。朝比奈さん長門にも声を掛け、4人で何をするのかを考えていく。
「あ、これかわいいっ! アヒルのおもちゃですぅ!」
「何に使うのか分からないような物も多いですが……数は用意して頂いていますね」
「これはなに? 私の知識には無い」
「長門、そいつから手を放せ。ゆっくりと元に戻すんだ。いいな?」
長門が「?」と首を傾げながら手に取ったTENGAを、俺は二度と触らないように指示する。
「ふむ……ではせっかくですし、僕は今の内に着替えてこようかと思います。
すぐ終わりますので、このまま続けていてもらっても?」
「分かった。ハルヒがダウンしてる今の間に無茶しちまおう。
俺達で何か探しとくから、お前は衣装の準備してこい」
「恐縮です。では」
古泉と敬礼を交わし、三人でその背中を見送る。
「あれ? おっきな掃除機があるよキョンくん?」
「ダイソンのヤツ……ですか? こんなモンでいったい、どうしろって言うんだか」
「そんな事は無い。バラエティーにおいて、
掃除機はとても優秀な小道具。これで数々のドラマが生まれた」
長門が掃除機について熱く語る。出川さんだの上島さんだのの名前が出てくるが、コイツの部屋にTVなんかあっただろうか? ちょっと思い出せないんだが。
「お待たせしました皆さん。準備OKです」
「お、早いな古泉。だがまだ何をするかは……」
声のした方に振り向く俺達。
そこには
「――――ッ!!」
「「――――ッッ!!」」
「いやぁ、手間取ってしまいすいません。
ちょうど良いサイズのお盆が、見つからなかったもので」
よく見れば、金属製のお盆で股間だけを隠している古泉。
その立ち姿は堂々たる物だ。まるで「やぁ、待たせたかい?」とデートの待ち合わせ場所にでもやって来たかのように。
「……お、おう……。構わんぞ、古泉……」
「……ぜ、ぜんぜん大丈夫……ですよぉ……」
「……ア〇ラ100%」
歯を食いしばり、出来るだけ平時の呼吸を保つようにして、ゆっくりと心を落ち着かせていく。
出来るだけ物を考えないように。ただただ眼前の光景を意識しないようにして、俺は古泉と言葉を交わしていく。
そうしなければ、一気に決壊する――――
「さ……寒そうだな古泉……。なんならストーブの傍に……」
「いえいえ、お気になさらず。動いていれば、身体は温まりますから」
その恰好で動くつもりかお前……(驚愕)
これが例のアキラなんたらさんと同じだとするなら、そのお盆の中は非常に“潔い“事になっているんだろう。
保険をかけずの、真剣勝負なのだろう。
「とりあえず、どんな事をしましょうか? 僕の準備は既にOKですが」
「そ……そうだな。いまダイソンの掃除機を見つけた所なんだが……」
古泉を直視する事が出来ない。古泉の姿を見ているであろう二人の表情を見るのが怖い。
この女性陣二人は、いったい今何を想っているんだろうか? 気になって仕方ない。
「あ、それじゃあ古泉くんのちんちんを、掃除機で吸い込むのはどうですかぁ?」
――――その瞬間、部屋にサイレンの音がけたたましく響き渡り、やがてモニターに鶴屋さんの姿が映し出された。
『はぁーい! 古泉くんオレンジカードぉぉーーっ!!
見事に切り返したねぇみくるぅ~! その調子でがんばるにょろ~!!』
愉快愉快と笑い転げる鶴屋さんの姿が画面から消え、辺りは再び静寂を取り戻す。
「おま……お前さ……? 自分で笑ってりゃ、世話ないだろ……」
「不覚……です」
ぶっちゃけた話、俺が笑わずに済んだのは奇跡の賜物だ。
あの天使のようなお声で「ちんちんを~」と聞いた途端、物を思うより先に視界が真っ白になったのだ。
今は必死になって歯を食いしばっている最中だが、少しでも気を抜けば吹き出してしまいかねない。
「それじゃあ、どうしますかぁ? どんな風にやったら良いですかぁ?」
まるで花のような笑顔を浮かべ、朝比奈さんが掃除機を手にジリジリと古泉に寄って行く。
思わずお盆を両手で押さえ、ジリジリ後退していく古泉。
「あの……朝比奈さん?
俺が頭を下げますんで、どうか勘弁してやってはくれませんか……?」
「いえ……貴方のお気持ちは有難いのですが、僕も男です。
ここはひとつ、受けて立とうかと――――」
キリリとした表情で、古泉が一歩を踏み出す。掃除機を手に待ち構える朝比奈さんに向かって。
ぶっちゃけた話、そんなお前の男らしさなんて見たくなかった。
「ではこれは、一応ア〇ラ100%氏の芸のマネなので、
今から僕がクルッとお盆を回転させます。
その瞬間、朝比奈さんが掃除機で僕のちんちんを吸い込めたら、
朝比奈さんの勝ちという事で」
「わかりましたぁ。それじゃあいきますねぇ」
「なんだそのルール……」
仁王立ちの古泉がお盆を構え、真剣な表情を浮かべている。
そのすぐ近くで掃除機を構え、「じぃ~!」っと股間のお盆を見つめる朝比奈さん。まるで股間に顔をひっ付けんばかりの距離で。
グォォ~~ンみたいな掃除機の音が部屋に木霊する。
「では…………いざっ!!」
「はぁ~い」
古泉が〈カッ!!〉と目を見開く。次の瞬間、見えない程のスピードでお盆を回転させた。
「えーーい!」
パカッとお盆が回転し終わった後、だいぶ遅れて掃除機のノズルを突き出す朝比奈さん。
それは
「 ――――痛い痛い痛い!!!! いたたたたたたいッッ!!!! 」
ジュゴゴゴゴ!!!! という音が暫くの間しつこく鳴り続け、そして古泉が色々と丸出しにして床にひっくり返った後……部屋のスピーカーからサイレンの音が鳴り響いた。
『みくるっ、オレンジカードぉぉーー!!!!
駄目だよみくるっ、自分で笑っちゃあ~!
そこは我慢してこそクールな女だよぉ!』
怒っているワリには爆笑。そんなワケのわからない様子の鶴屋さんが画面から消え、部屋が静寂を取り戻す。
「朝比奈さん……? なんか、だいぶと長いこと吸ってましたけど……?」
「いくら古泉一樹が逃げようと、追いかけてまで吸い続けた。謎の執念」
「……」
顔を背け、必死に笑いをかみ殺す朝比奈さん。どうやら面白いというよりも、その行為をする事自体が楽しくて仕方なかったのではないだろうか。
「古泉、大丈夫か? ダイソンだぞあれは」
「えっと……あの。ちょっとどうなってるか、確認してもらっても良いですか?」
くの字で床に蹲り、股間だけはお盆で隠している古泉。その股間をちょいちょいと指さし、俺に様子を見ろと彼はのたまう。
「いや……まぁ男同士だし、それは構わんのだが……。
なんかおかしいのか古泉?」
「それがですね……? なにやら今、玉が奇妙な感覚なんです。
……もしかしてこれ、
「 ――――――ん゛き゛ょ!!!! 」
…………そしてサイレンが響き渡り、床を転げ回っている様子の鶴屋さんの姿が映る。
『イエロー!! イエローカードだよみくるぅーーっ!!!!
あるまじきっ、淑女としてあるまじき醜態ッ!! でもよくやったみくるっ!!』
鶴屋さんが画面から消えた後も、ずっと顔を背けてプルプルと肩を震わせている朝比奈さん。
彼女のツボはこういうのだったのか。
俺のマイエンジェルは、もう戻れない所まで堕天したらしかった。
キョン オレンジカード(注意)
涼宮ハルヒ イエローカード(警告)
朝比奈みくる イエローカード(警告)
古泉一樹 オレンジカード(注意)
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