涼宮ハルヒのドキュメンタル   作:はせがわ

5 / 7


 到着した。着席の許可を。

 ――――こんにちは長門有希さん、今日はお疲れ様でした。お越し下さりありがとうございます。

 構わない。今日の予定はこれだけ。後は家に帰り、録り貯めしていたゴッドタンを観るだけ。

 ――――ではお座り頂いた所で、色々お話を聞かせて頂こうと思います。よろしいですか。

 だいじょうぶ。貴方に協力するよう指示を受けている。なんでも訊いてほしい。

 ――――ありがとうございます。では早速質問ですが……我々から見ても今回の企画、長門さんはMVPと言っても過言ではないほど大活躍されていましたが、いったいどのような意気込みで臨んでいらしたんですか?

 とくに。

 ――――――特に……ですか? えっと……。

 意気込みのような物はない。わたしの使命はいつもと変わらない。ただ遂行するだけ。

 ――――使命、ですか? それはどのような物かお訊きしても?

 涼宮ハルヒ、および彼を守る事。その為にわたしは存在している。

 ――――長門さん、あの彼はともかく……涼宮さんに対しては結構えげつなく攻めていませんでしたか?

 ……。

 ――――長門さん、長門さーん? 大丈夫ですかー?

 ……問題ない。あの状況下においては、下手に生存させるよりも脱落させた方が涼宮ハルヒの為。そう判断したまで。

 ――――涼宮さんは「彼の人生を貰う」などと過激な宣言をしてましたし……、もしやそれに腹を立てていたとか?

 ………………何を言ってるのか理解できない。次の質問への移行を提案する。

 ――――失礼しました。では次の質問ですが……当日の古泉さんは全裸めいた服装になるなど、我々から見てもかなり過激な事をされていたように思います。あれは長門的にはどうだったのでしょう? 眉ひとつ動かしていなかったように見えたのですが……。

 あの古泉一樹の行為は、この企画における常道。来るべくして来た攻撃。わたしが感情を乱される事はない。

 ――――えっと……有り体に言って、おちんちんでしたが……ぜんぜん平気だったと?

 へいき。高校生男子の全国平均から見ても、古泉一樹のそれは何の変哲もない物と言える。
 氷を駆使して縮こまらせる、またはマジックで変な顔を描くなどの工夫をしない限り、私が獲られる事は無い。

 ――――そういう事を言っているのではないのですが……よく分かりました。ありがとうございます。

 毛を剃る、またあえて剥かずに来る(・・・・・・・・・)という行為も大変有効。
 その点で言えば、古泉一樹は過ちを犯したと言える。

 ――――――続いての質問になりますがッ!! ……長門さんが一番の強敵だと思っていたのは誰でしたか? もちろんご自分が勝つ気でいらしたとはと思うのですが、この人が怖いと思っていた方は?

 ……わたしは今大会中、朝比奈みくるを警戒していた。

 ――――ほう、それは何故かお訊ねしても?

 朝比奈みくるは、“彼“に対して特効になりえると予想していた。
 もし彼が笑うとすれば、それは朝比奈みくるによる物と。

 ――――するどい。実際彼は、序盤に彼女からポイントを獲られていますね。

 本来彼を狙った攻撃でなくとも、それに誤爆する可能性が充分にありえた。
 ゆえにわたしが一番警戒していたのは、朝比奈みくる。
 私という個体も、彼女を非常に手ごわいと感じている。

 ――――長門さんの優勝予想は、朝比奈さんだった?

 否定。先ほど“自分以外の“という言葉はあったが、わたしがいる限り朝比奈みくるの優勝はありえないと推測。
 もし私が敗北するとしても、それは全く別の人物になると予想していた。

 ――――ズバリ、それは誰でしたか?

 かんたん。
 わたしは彼に勝つ事は出来ない。
 もし私が敗れるなら、それは彼の手によってでしか有り得ない。
 ……私は鉄壁を自負しているが、それは他の人間に対してだけ。
 彼の前では、私はいつも無力になる。








失策。

 

 

「あ~面白かったですっ。それじゃあ次は、キョンくんのちんちんを……」

 

 いま背後にある長机の方から、〈ガタッ!!〉という誰かが立ち上がる音が聞こえた気がするが、それを無視して朝比奈さんに向き直る。

 

「いや……もう古泉の惨状を見た後なんで。とりあえず他の事をしませんか?」

 

「そうですか? 残念ですぅ」

 

「掃除機の有用性は理解してもらえた事と思う。

 これにはまた後でご登場願う」

 

 至極残念そうな声の朝比奈さん、そして静かに座り直す誰かを見なかった事にして、再び小道具を物色していく。

 俺も若い身空で互い違い(・・・・)にはなりたくないからな。両親に申し訳ねぇよ。

 そして「あーでもない、こーでもない」と言いつつ、部屋のダンボール箱を見て回る俺達。ハルヒは未だにダウンしているし、今の内にゲームを進めておかなければ。

 そんな風に部屋をうろついている時、誰かが裾をクイクイと引っ張る感覚がした。

 

「ん、長門か? どうした?」

 

「これ」

 

 よいしょとばかりに長門が差し出したのは、いわゆる低周波治療器。あの電気でビリビリする、マッサージに使うヤツだ。

 

「おっ、よく見つけてきたな長門。

 確かこのパットを肩とかに張るんだよな? こういうの親が使ってたよ」

 

「そう」

 

 バラエティー番組の罰ゲームでお馴染み、低周波治療器。これを使って遊ぼうというのが長門の提案のようだ。

 

「おい古泉、お前これチンコに張ってみるか? 別に止めはしないぞ?」

 

「僕の未来をどうしようって言うんですか。ぜひ遠慮しておきましょう」

 

 そうか、さっき結構なダメージを受けていたし、もしかしてこれ張ったら治るんじゃないかと思ったんだが……残念な事だ。

 未だお盆で股間を隠している古泉から目線を切る。

 

「それじゃあ俺に張ってくれるか長門?

 一応言っとくが、肩とかでいいぞ」

 

「了解した」

 

 服を少しだけはだけ、長門がパットを張りやすいように屈んでやる。このパットはくっつくように表面がジェル状になっているので、かなりひんやりしていて思わず声が出そうになったが我慢だ。

 

「痛て……痛てててででででッ!!

 おい長門ッ! ちょっとお前痛てててででで!!!!」

 

「いま10段階中の5。これから段々と強くしていく」

 

 今だ半ばの強さとはいえ、結構な痛みが来る。

 本来は凝り固まった肩こりをほぐす為に使う道具なんだ。まったくの健康体である俺が使っても痛いだけなんだろう。

 

「痛ててて!! もういい! もういいから長門ッ!! 痛ててででででッ!!!!」

 

「凄いですね、なんか柔道家みたいなポーズになってますよ? 試合開始の時の」

 

「引きつってます! すんごく引きつってますキョンくぅん!」

 

「ゆかい」

 

 俺が悶えてる姿を、なにやら興味深そうに観察する3人。やるんだったらせめて笑って欲しかったが、凄く朗らかな雰囲気で観察されてしまう。実験動物か俺は。

 

「このままコーラを飲んでみる、というのはいかがです?

 ゴボゴボして面白いかもしれませんよ?」

 

「熱々のおでんを用意しますかぁ? 今なら上島さんに勝てるかも……」

 

「勝ちたくない! 勝ちたくないですよ俺! 痛たたたたたいッ!!!!」

 

 肩をビーンと引きつらせながら、部屋中をウロウロしてしまう俺。相変わらずコイツラはのほほんとした雰囲気だ。ドSの気があるのかもしれない。

 

「おい、これヤバイぞお前ら。6とか7とかでも相当なもんだ。

 正直耐えられる気がせん」

 

「流石はバラエティー番組で引っ張りダコなだけありますね。

 いわゆる“特殊な訓練“を積んでいない我々には、少し厳しいのでしょう」

 

 とりあえずスイッチを切ってもらい、一息入れる事とする。

 実感してみて分かる、芸人さん達の凄さ。

 あの人達、これしたまま走ったり、物を食ったりするからな。偉大な仕事だと思う。

 

「私には効かない。一度も効いた事ない」

 

「ん、マジかよ長門? これすんごい電気くるぞ?」

 

「へいき。私にかかれば大した事ない。

 作った人達に悪いから、いつも効いているフリをしてあげてる程」

 

「すげぇなお前。じゃあちょっとやってみるか」

 

 朝比奈さんにお願いし、長門の肩にパットを張ってもらう。

 俺はリモコン係を担当し、とりあえず電気の強さを5の所に入れてみる。

 

「へいき。何の問題もない」

 

「おいお前、なんかピクピク動いてるけども」

 

 まるでリズムを刻むように、定期的に上がったり下がったりする長門の肩。

 

「そんな事ない。へいき。

 もっと強くしてもかまわない」

 

「そうか? それじゃあ段々強くしていくぞ。

 駄目だと思ったら言えよ?」

 

 強さのダイヤルを5から6、そして7へ。その度に激しさを増してバイブレーションしていく長門。

 

「長門、大丈夫か? お前いま、たけしさんみたいになってるけど」

 

「だいじょうぶ。もっと強くしてもいい」

 

 声こそ出ていないが、なんか長門が高速で首をコキコキし「馬鹿野郎! この野郎!」とやっている人みたくなっている。

 

「いいんだな長門? じゃあ10にしてみるぞ?」

 

「かまわない。私に電気は効かない」

 

「分かった。それじゃあいくからな長門? ……10っと」

 

「 ハァァァーーースッ!! ……ハスッ! ハァァァァァーーースッ!!!! 」(裏声)

 

 その瞬間、部屋にサイレンが鳴り響き、鶴屋さんのアナウンスが入る。

 

 

『はぁーーい! 古泉くんイエローカードぉぉ!!

 後が無いよぉ古泉くぅん! ファイトだかんねぇ~!!』

 

 

 鶴屋さんの姿がモニターから消え、再び部屋に沈黙が戻る。

 

「……長門? なんかさっき、すごい声が出てたが……」

 

「そんな事ない。私に電気は効かない。貴方の聞き間違い」

 

「……あ、あの……。裏声やめてもらってもいいですか……?」

 

 痙攣する腹筋を押さえ、なんとか平常の呼吸を保とうとしている古泉。

 

「私に電気は効かない。もっと強くてもいいくらい」

 

「それじゃあもう一組あったから、これも使ってみるか。

 駄目なら正直に言え?」

 

「かまわない。私は全然へいき」

 

 肩の物に加え、もう一組の低周波パットを長門の頬っぺたに装着する。そしてふたつ同時に電圧を上げていく。

 

「長門? いま5だぞ? 大丈夫そうか?」

 

「だだ、だいじょうぶ。私に電気は効かなない」

 

「なんか効かなないとか言っちまってるけど、とりあえずまた10にするからな?

 我慢出来なかったら言えよ?」

 

「へいき。私は対有機生命体用ヒューマノイドインターフェイス。

 電気など効かない」

 

 顔を「うい~ん!」みたく引きつらせた長門が、自信まんまんで俺に電気を促す。

 

「それじゃあいくぞ長門? …………10っと」

 

「 ――――ハァァァァーーースッッ!!!!

  ハスッ!! ハスッ!! ハァァァァーーーースッッッッ!!!! 」(裏声)

 

 ……その瞬間、再び部屋にサイレンが響き渡り、鶴屋さんの姿がモニターに映った。

 

 

『……あのね? ぶっちゃけた話これ、“全員笑ってる“んだけどね?

 でもよく見たらこれ有希っこも笑ってる(・・・・・・・・・)から、

 今回は特別にノーサイドって事にしとくよ。みんな気をつけるにょろ?」

 

 

 鶴屋さんがモニターから消え、後には肩をプルプルと震わせる俺達だけが残る。

 

「……長門? お前なんかハスハス言ってたけど」

 

「そんな事ない。私に電気は効かない」

 

「何でそんなしょーもない嘘つくんですか。なんの意地なんですかソレ……」

 

「もしかして、と思ったんです……。今度は大丈夫かもと思ったんですぅ……。

 ハスって何なんですかぁ……?」

 

 長門は真顔でプルプルと首を振り、俺達は出来るだけそれを見ないようにしつつ、暫く肩を震わせる。

 頬のパットのせいだったんだろうが、長門にも笑顔判定が出た事により、なんとか全員がお咎め無しという裁きとなった。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

「ん、どうした長門?」

 

「これ」

 

 再び服の裾をクイクイ引っ張られ、俺は長門と向かい合う。

 いま長門が「どうぞ」とばかりに両手で差し出しているのはスプレー缶。それも結構な大きさをした、非常にファニーなデザインの物だ。

 

「あぁ、これはヘリウムガスですね。

 吸い込めば声が変わるという、パーティグッズの一種です」

 

「おぉ、よく見つけて来たな長門。えらいぞ」

 

「……」

 

 俺はなんとなしに長門の頭をよしよしと撫でてしまい、そのすぐ後で「あ、拙かったかな?」と反省。

 女の子の髪なんだし、勝手に触れるのは流石にNGだった事だろう。

 しかし長門の方が気をつかってくれたのか、嫌がる素振を全く見せないでいてくれたので助かったという感じだ。

 嫌な想いをさせてしまわぬよう、今後は気をつけていこうと思う。

 

「キョンくんキョンくんっ! こ、こんなのもあるよっ!! こんなの見つけたのっ!!」

 

「ん? あぁそれピコピコハンマーですか? とりあえず今は長門のを消化して、

 後で叩いて被ってゲームでもしましょうか朝比奈さん」

 

「…………………はぁい」

 

 何故か項垂れた様子で、すごすごとピコピコハンマーを戻しに行く朝比奈さん。いったい何だったんだろうか?

 

「どうやらスプレーは数本あるようですし、何人かでやってみますか?

 恐らくですが、声の低い貴方などは結構なギャップが出るかと」

 

「そうか? じゃあまず俺がやってみるか」

 

 スプレー缶に書かれた説明を読み、やり方を確認。そして思いっきり肺の中の空気を吐き出した後、勢いよくヘリウムガスを吸い込んでみる。

 

……あー、あー! おっ、意外と良い感じだな

 

「これは素晴らしいアイテムですね。いやはや驚きました」

 

「すごいっ、いつもと全然声が違うよキョンくんっ! これ面白いかもっ」

 

「ユニーク」

 

 たかがパーティグッズ、されどパーティグッズ。

 気の知れた仲間とやるなら、こういうのも意外と楽しいもんだなと思う。

 

こんにちは、古泉です。……どうですか皆さん?」

 

「おぉすげぇ! マジで声が違うぞ!」

 

「古泉くんもすごいですぅ! わたしこれ大好きですっ」

 

「たのしい」

 

「もっとやって、もっとやって」と囃し立てる朝比奈さん。

 どうやらそのリクエストに応えて長門が出陣するらしく、いまパクッと愛らしくスプレー缶の口を咥え、ス~ッとヘリウムを吸い込んでいった。

 

 

どうも、宇宙人です

 

「 ――――こ゛ふ゛ぅ゛ッ!! 」

 

「 ――――ん゛ぼ゛ぁッ!! 」

 

 

 真顔で色んな物を口から噴射する俺達。その後はなんとかアウトを獲られないようにと、ひたすら口を押えて耐える。

 

「……な、長門……長門よ? …………駄目だろ?」

 

「ちょ……ちょっとそれは洒落になりません……。

 誰もが思いつく事ではありますが、まさかご本人がやるとは……」

 

わかった

 

 何食わぬ顔で、悪びれもせずに俺を見る長門。

 朝比奈さんなどはもう声も出せない程「――ッ!! ――ッ!!」と必死で耐えている様子だ。

 

 今こいつ、躊躇なく全員落としにかかったな……。

 長門の中にあるヘリウムガスが出ていってくれるまで、俺達はひたすら無言になり、ただただ耐えるのであった。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 気が付けば、朝比奈さんと古泉がイエローカード。後いっかいのアウトで退場という状況だ。

 ハルヒもすでにそうだったし、これで5人中3人がイエローという事になる。

 

 俺はまだ……と言っていいものか分からないがオレンジ。長門に至っては貫禄のノーカード。

 この企画もそろそろ中盤といった頃合いだが、なにやらハッキリと明暗が分かれてきてる感がある。

 

 長門のスマッシュが猛威を振るい、この場の全員があわやといった事態に陥った、地獄のような時間。

 それをなんとか歯を食いしばって乗り越えた頃……俺達の背後にある長机の方から、今まで沈黙していたアイツの声が響いて来た。

 

「よっし、もう大丈夫よ! 頭痛も収まってきたし、頬っぺの腫れも退いたわ!!」

 

 勢いよくピョーンと飛び上がり、シュタッと床に着地するハルヒ。なにやら太陽のような笑みを浮かべているが、アウト取られたらどうすんだお前。

 

「あ、キョンあたしね? 痛みがあったらきっと笑わないと思うし、

 頭にオオカマキリでも乗せとこっかなって」

 

 どこかにおっきなカマキリいないかしらと、窓の外をジロジロ探し出すハルヒ。一見大丈夫そうに見えても、まだ内面にはダメージの蓄積が見られる。

 

「とりあえず復活からの一発目ってことで、ひとつぶちかましてやる事にするわ!

 みんな、首を洗って待ってなさい!!」

 

 満面の笑みでそう言い捨て、ハルヒがズカズカと扉を出ていく。

 

「恐らくは小道具だか衣装だかの準備に行ったんだろうが……、

 何するつもりだアイツ」

 

「分かりませんが、とりあえず待機するしかありませんね。

 涼宮さんが戻って来た時、ちゃんと見て差し上げないといけませんから」

 

 古泉と頷き合い、とりあえず着席する俺達一同。

 水を飲んだり談笑したりと、ハルヒが戻るまで時間を潰していく。

 

「なぁ、ハルヒが何をするか賭けないか?

 アイツの事だ、俺は爆破物があやしいと思うんだが」

 

「流石に校舎内で爆破はどうかと……。

 いくら鶴屋家にご協力頂いているとはいえ、器物破損は避けたいところです」

 

「あっ、わたしは可愛い着ぐるみなんかだと嬉しいですっ。

 ネコとかウサギとかっ。涼宮さんが着たら、きっと似合うだろうなぁ~」

 

「落ち武者的なカツラだと予想」

 

 和気あいあいと語り合う俺達。もし万がいち当たっちまって、それでネタ潰しになってしまったらスマンが、そん時はそん時だ。

 各々が自分の予想、そしてハルヒに来て欲しい服の希望なんかを言い合う。

 

 そんなこんなをしている内……やがて出入り口の扉が静かに開き、ハルヒが中に入ってくる気配を感じた。

 

「んふふ……んふふふ……」

 

 小さく聞こえる、ハルヒの含み笑い。これをアウトと取られないのは不思議だが、きっと現在ハルヒが“攻撃側の人間“だからという事で、鶴屋さんなりの判断の仕方からくる物なのかもしれない。

 

「んふふ……んふふ……」

 

 ゆっくりとこちらまで近づいてくる、ハルヒの気配。

 何やら足音とは違い、まるでピョンピョンと跳ねているような音に聞こえるが……唐笠お化けにでも扮しているのだろうかコイツは。

 

 俺はジロジロ見ないようにとずっと明後日の方を見ていたのだが、あまりにも嬉しそうな様子にしびれを切らし、意を決してハルヒをチラミしてみる事とする。

 

「――――ッ!!」

 

「んふ! んふふ!」

 

 ついに俺が見た事で、さらに嬉しそうな声を出すハルヒ。

 しかし俺は瞬時にしてハルヒから目を逸らし、また明後日の方を見るようにして顔を背ける。

 そしてそれは、他の面子も同様のようだった。

 

「キョン? キョーンー? こっち見て良いわよ~」

 

 今のハルヒは、下着姿だ(・・・・)

 世間一般で言う所のブラジャーと呼ばれる物と、一般常識で言われる所のパンツという衣類だけの姿となり、そこに荒縄的な紐を巻き付けている。

 有り体に言えば、おそらくアレは“亀甲縛り“というヤツなんだろう。

 下着姿で縛られている人……一言でいうなら、ハルヒの姿はそういう物だった。

 

 俺はただただ、必死でハルヒから目を逸らすだけだ(・・・・・・・・)

 

「みくるちゃーん? 有希~? 古泉く~ん?」

 

 ハルヒが嬉しそうにメンバー達に声を掛ける。だがその声には応えず、皆ただただ目を逸らすばかり。

 

「ほらっ。あたし帰ってきたわよ~。ただいまみんな~!」

 

 ハルヒは今、満面の笑みでいる事だろう。

 だが、それからすぐ……察しの良いコイツは気が付くハズだ。

 場の空気が、なにやらおかしい事に(・・・・・・・・・・)

 

「……ん? あれっ?」

 

 クスリともせず、ただただ顔を逸らすメンバー達。

 その様子を見て、ハルヒが異変に気付く。

 

「あれっ? えっと……どうしたのみんな?

 ちゃんと見なきゃ駄目じゃない……」

 

 恐らくは、キョロキョロと周りを見渡し、狼狽えているであろうハルヒの声。

 

 ――――もう静観している必要は無い。俺は即座に自分のジャケットを脱ぎ、勢いよくハルヒの方に振り向く。

 

「えっ? ……きゃっ!!

 ちょっとキョン! 何するのよアンタ!!」

 

「――――良いから来い。この馬鹿野郎が」

 

 勢い良く、ジャケットをハルヒに被せる。

 完全とは程遠いがハルヒの身体を見えなくしてやってから、俺は無理やり手を引いて、コイツを部屋の外へと連れ出す。

 

「えっ? ちょっと……。キョン?」

 

「――――着替えろ。終わるまで戻って来るな」

 

 真っすぐハルヒの目を見つめ、そう言い捨てて強く扉を閉ざす。ガンという大きな音が、静まり返った部室に響いた。

 それを気にする事無く、俺は乱暴に椅子に座り、黙り込む。

 しばらくの間、ただそうしていた。

 

「お疲れ様です。……正直、貴方には感謝している」

 

「……」

 

 小さな声で、古泉が俺を労う。こっちにはそれに返事をする余裕も無いが。

 

「危惧していた事態ではあるのですが……。

 なんと言うか、涼宮さんの純粋さが“悪い方“に出たように思います」

 

「……」

 

 同感だ。俺も同じ事を考えていたよ、古泉。

 ちなみにこいつはハルヒが復活する前には、すでに元の制服に着替えている。真面目な話が出来る、いつものコイツの状態だ。

 

「もしこれで閉鎖空間が発生しようとも、何が起ころうとも……。

 僕は決して貴方を責めようなどとは思いません。

 正否の問題では無い。もし立場が逆であれば、きっと僕も同じ事をしましたから」

 

 それだけを言い、古泉が静かに目を閉じる。きっとまたハルヒが部屋に戻って来る時まで、こうして心を静めているつもりなのだろう。

 他の面子も同じように、ただ静かにハルヒが戻ってくるのを待っている。

 

「……」

 

 もう「やれやれ」の言葉も出ない。

 ある意味、俺が今日一番見たくなかった物が、実際にやられてしまったのだから。

 

 もう仲間たちがどう思っているか、そしてハルヒが俺の行為をどう思うのか。そんな事はもう知った事じゃない。

 

 これは、俺の純粋な我が儘。俺の身勝手だ――――

 

 企画を潰したと言われれば、受け入れよう。どんな罵詈雑言を受けても良い。

 だが、次また同じ事があっても、俺はまったく同じ事をするだろう。

 だから俺は、皆に謝罪するつもりは、無い。

 

「……あの……キョン?」

 

 やがていつもの制服に着替え終わり、すごすごとこの部屋に戻って来たハルヒが、俺に声を掛ける。

 

「えっと……あたし、面白くなかった? だから……キョン怒ったのかな……?」

 

 目も当てられない位に、シュンとしているハルヒ。

 こんなコイツらしくない顔、見たいなんて思わないのに。

 

「あの……キョン? あたし……」

 

「……」

 

 俺の前に立ち、下を向いて項垂れているハルヒの気配。

 コイツを直視する事が出来ず……俺は思わず席から立ち上がった。

 

「悪いハルヒ、頭を冷やしてくる。

 だから5分だけくれるか? ……ちゃんと戻ってくるから、俺」

 

 出来るだけ心配させないよう、優しい声が出せるよう。

 凄く努力して話しかけた。こんなに気合入れて声出したのなんか、生まれて初めてだ。

 ……俺は今、きっと酷い顔をしてる事だろう。だがなんとか、コイツを怖がらせないようにしたかった。

 

「…………うん、わかった。

 いってらっしゃい、キョン」

 

 泣きそうな、でも精一杯の笑顔で、ハルヒが見送ってくれる。

 

 それになんとか頷きを返してから、俺はひとり、部屋の外に出ていった。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 男に比べて、女芸人にはハンデがある――――

 そんな事を昔、どこかで松本さんが言ってた。……それをふと思い出していた。

 

「確かアレは、どうしても“不純物が混ざるから“……だったか?」

 

 独り言を言ったとて、気が晴れるハズも無い。だがそうせずにはいられない。

 心を落ち着かせる為に。アイツを怖がらせてしまわない為に。俺はただなんとなしに呟き、窓の外を見つめ続ける。

 

「男なら、裸になれば良い。

 笑えるか笑えないかはともかくとして、それで成立しはするだろう。

 だが女芸人はそうはいかない。たとえ“芸人だから“と裸になった所で、

 どうしても笑いに不純物が混ざる。笑えなくなる……だったか」

 

 例えば、退かれてしまったり、哀れみの感情を向けられてしまったり。

 失礼な言い方かもしれんが……例えどんなに“芸人向きな“面白い見た目の女性だったとしても、それを観るのが男の場合、どうしてもその裸芸という笑いに不純物が混ざる。

 

 笑う前にどうしてもその感情が真っ先に頭をよぎるから、“笑い“になってはくれないのだと、松本さんは言っていたように思う。

 裸だけじゃなく、面白い事という物をする時、それがものすごく大きなハンデになってくるんだと語っていたのを憶えている。

 

「気合は分かる。ハルヒの意気込みも、根性も分かる。

 だが、そうであればある程……」

 

 だがそれを感じれば感じる程……俺はさっき、居たたまれない気持ちになってしまった。

 面白いとかつまらないの前に……、俺はただ強く「やめてくれ」と願ってしまったんだ。

 

 分かんねえ。分かんねえよ俺には。

 大の大人の、プロの芸人が、もう雁首揃えて長年もの間考え続けているような、なんとか打破しようとチャレンジしてるくらいのでかいテーマなのだろう。

 俺みたいなテレビもろくに観ないようなガキが、いくら考えた所で分かるはずもない。

 

 ただ分かるのは、繊細なんだな(・・・・・・)って事。

 

 人を笑わせるって、ただそれだけの事が……、こんなにも複雑な要素が絡まり合って出来、そして繊細に成り立っている。

 レールの上に置かれた小石のように、なにかひとつ些細な事があっただけで成立しなくなるような、そんな繊細で壊れやすい物なんだろう。きっと。

 

「とりあえず、これ以上ハルヒの顔に泥は濡れない。

 何があろうとも、この企画を壊しちまうのだけは駄目だ」

 

 またハルヒは似たような事をするかもしれない。その時に俺がどうするのかは……今はちょっと分からない。

 そして、もしハルヒがそれをしないのなら……、それは理不尽に怒りをぶつけちまった俺のせいに他ならない。

 

 正直もう帰ってしまいたいという、弱い感情が顔を出す。

 だがそれをしてしまわないようにと、俺はあの時ハルヒに「すぐ戻ってくる」と約束して出てきたんだ。

 

「アイツを放って帰んのだけは、ぜったい駄目だ。

 ……とりあえず、皆に頭下げに戻るか」

 

 戻ろう、そして許されるのならば、アイツに最後まで付き合おう。

 そう決めて、俺は背後の扉に向けて歩き出す。

 

 ……アイツの下着姿を目にした時……、何を考えるよりも先に「これを誰かに見られる」と思い、その瞬間気が狂いそうになった。

 

 そんな事をふと思い出しそうになるも、目を背けて、蓋をして――――

 俺は再びSOS団の部室、ハルヒの待つあの部屋へと戻った。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

「あ、あの……キョン? ……あのね?」

 

 扉をくぐり、一度だけ皆の顔を見渡した後……俺は元の席、ハルヒの隣に座る。

 ホッとした顔の朝比奈さん、俺にだけ分かるような優しい顔で迎えてくれた長門。心底二人に感謝したいって、そう思えた。

 

「その……あのね?」

 

 下を向き、手をこすり合わせてモジモジ。

 俺の方もハルヒを直視出来ずモジモジ。

 

「お、おう……おう……」

 

「あのね……? あの……あたし……」

 

 なんかもう歯がゆいばかりのキッツイ時間だったが……、俺が思い切ってハルヒに向き直り、そして一発土下座でもかまそうとした、その時……。

 

「失礼、お二人とも。

 実は僕に、ひとつご提案したい事があるのです」

 

 鶴屋さんにギリギリ怒られない程度の絶妙さ、そんな爽やかな笑顔を浮かべつつ、古泉が発言の許可を求める。

 

「実は僕、今日はこのような物を持ってきていまして。

 これは以前TVで観た、ちょっとした遊びの為の道具なのですが」

 

 目をぱちくりさせる俺達を余所に、古泉がトランプのようなカードを懐から取り出す。

 

「これは少しだけ下世話な類のゲームかもしれないのですが、

 今日はせっかくの機会ですし、ひとつやってみてはどうかと思いまして。

 ……実はこれ、その男性の“女性の好みを調べる“という内容のゲームなのです」

 

 長机の三か所くらいから〈ガタッ!!〉という音が同時に聞こえたが、古泉はそれを気にする事も無く話を続けていく。

 

「仮にもSOS団の副団長として言わせて頂けるならですが……。

 先ほどの彼の行為……これは“相手のやろうとしている事は全力で受け止める“

 という我々の取り決めに抵触していた恐れがあると具申します。

 いくら涼宮さんのネタに、吹き出しそうだったからと言って……、

 さっきの彼の回避の仕方は、少しばかり強引だったと言わざるを得ません」

 

 俺が無理やりハルヒを止めたのは、自分が笑いそうだったから(・・・・・・・・・・・・)

 そうハッキリと古泉に言い切られ、ハルヒの雰囲気がどことなくホッとした物に変わるのが分かった。

 そんなハルヒには気づかれない角度で、古泉が上手い事、俺にだけ見えるようウインクをする。

 

「よって、彼への軽い罰ゲームという事で、このゲームをしてもらう事を提案します。

 男同士とはいえ、今まで女性の好みなど話す機会はありませんでしたし、

 きっと彼は、そういう事を誰かに話す方でも無いのでしょう。

 ですがここは罰ゲームとして、このゲームを受けては頂けませんか?

 普段寡黙な貴方の秘密を知る事が出来るのです。

 皆さんも、大変喜ばれるのではないかと」

 

「……分かった、俺の負けだ。もうカードでも何でもさせてもらう。

 改めて、変な空気にしてすまなかった。……ハルヒも許してくれるか?」

 

「――――う、うん! うんっ!!」

 

 まるで花が咲いたように、ハルヒがとびっきりの笑顔を見せてくれる。

 これをアウトにしなかった鶴屋さんの優しさに心から感謝したい。見事に空気を読んでくれた審判様には、後でめちゃめちゃお礼を言おうと心に決める。

 

「了解も得られた所で、早速始めさせていただきましょう。

 ではルールを説明しますね。まずはこちらのカードをご覧下さい」

 

「わぁー! なんだろう?」

 

「……」

 

 古泉が一枚のカードを机に置き、それを朝比奈さんと長門が覗き込む。

 そこにあったのは、カードに印刷された一枚の女性の写真だった。

 

「これは、某アイドルの方のお写真ですね。

 世間一般的に、この方は大変お綺麗だと言われている。

 よってこのゲームにおいて、このカードは“いける“のカードだと定義します」

 

「いける? なんだそりゃ?」

 

「まぁまぁ、最後まで聞いてみて下さい。

 では続きまして、このカードになります」

 

 再び小泉が、机の上に一枚カードを置く。

 それは俺でも知っているが、味のある演技をする名女優として有名な、凄く太ったおばあさんの写真だった。

 

「この方は女優として大変実力のあるお人ですが……、

 残念ながらかなりお年を召しており、しかも既婚者です。

 ゆえに対象となる女性のハズもなく……。

 このカードはこのゲームにおいて“いけない“のカードである、そう定義されます」

 

 分かって来た。古泉が言っている“いける“とは、すなわち自分が魅力的だと思う女性。

 逆に“いけない“というのは、自分にとってその逆の女性の事だ。

 ……言葉のニュアンスというのは難しいし、まぁ正直若干の違いはあるやもしれんが……、恐らくはそんな所だろう。

 

「これから順番に、全部で20枚ほどのカードを彼に提示していきます。

 涼宮さん達には今からそれをあらかじめ確認してもらい、

 その上で、彼が何枚のカードを“いける“と言うか?

 それを予想をして頂きましょう。その数字に一番近かった人が優勝、という事で」

 

「ふむ! 分かったわ!

 ようは何人キョンが抱け……ゲフンゲフン!

 ……好みの女の子がいるか、その数を当てればいいのね!」

 

「ほぇ~! キョンくんの……女の子。分かるかなぁ?」

 

「了解した。カード確認の許可を」

 

 元気よく返事をするハルヒ達女性陣。古泉からカードの束を受け取り、それをこちらから少し離れた場所で「あーだこーだ」言いながら眺めている。

 

「無し! 無し! 無し! 無し! 無しッ! はい無しッ!!

 ……何これ? キョンは全員“いけない“ヤツばっかりじゃない?」

 

「いえ……あの、そのカードの3分の2ほどは、

 現役アイドルの方やタレントの方なのですが……」

 

「いけない……かな? ……ごめんなさい、この人もいけないで。

 あ、この人は…………でもやっぱりキョンくんならいけない……よね?」

 

「いけない、いけない、いけない。

 いけないいけないいけないいけない……」

 

 怒涛のように“いけない“の声が向こうから聞こえて来てる気がする。

 どれだけ意識を集中しようが、一度も“いける“の声が聞こえてこないのは何故なんだろう?

 どんだけ理想高いと思われてるんだ、俺は。

 

「終了よ! かんぺき! これは楽勝ねっ!」

 

「かくにん終わりましたぁ……。えっと、これで合ってるハズ……。きっと」

 

「回答を決定した。この紙に書いておく事とする」

 

 そしてそれぞれが、渡された紙に自分の答えの数字を書いていく。

 終わったらそれを大事そうに胸に抱き、ニコニコと期待を込めた目で俺の方を見やがる。いったい何だっていうんだ。

 

「では早速、答え合わせタイムと参りましょう。

 彼の“いける“女性は、この中に何人いらっしゃるのでしょうか?

 それでは一枚目です」

 

 古泉が、机の上にカードを提示する。

 それは以前TVで観た事のある、トレンディードラマに出てるような若い女優さんだった。

 

「ふん! 年が違うのよ年が!!

 この人きっと25かそこらでしょう!? キョンとは離れ過ぎてるわ!!」

 

「同意。わたし達の年齢を鑑みれば、10近く年齢に差のある相手など、

 もうモンスターと言っても過言ではない」

 

「……いや、綺麗な人じゃないか。すごい良い人そうに思えるし、

 俺なんぞがどうこう言うのは失礼に思える程だぞ?」

 

「「「!?!?」」」

 

 なにやら興奮している女性陣。そんな中で俺は、提示されたカードを“いける“と書かれた箱の中へ投入する。

 

「……はっ? はぁぁーーーーーっ!?!?

 ちょっとキョン!! アンタこんな年増が好みだったのっ!?」

 

「ちょ……! おい馬鹿はなせ!! ネクタイを掴むんじゃない!!」

 

「どっ……どういう事ですかキョンくん!!

 お姉さんが好きなのは良いけどっ……でも10才近く年上なんてっ……!!」

 

「訂正を要求する。それは貴方の本心では無い。私には分かる」

 

 三人娘に一斉に掴みかかられるも、なんとか自分を曲げず、カードの女性に失礼の無いように意見を曲げずに済む。

 なにやらプンスコしているハルヒ、黙って下を向いている朝比奈さん、そしてじぃ~っとこちらを見ている長門の方を出来るだけ見ないようにしつつ、ゲームの続きを古泉に促す。

 

「了解しました。では二枚目のカードになります」

 

 次に提示されたのは、とてもショートカットが似合う、11才くらいの女の子だ。

 恐らく子役の女優さんか、アイドル候補生か何かなんだろう。背丈は長門とどっこいどっこいなんじゃないか?

 

「お、すごく良い子そうじゃないか、この子。

 うむ、大変好感が持てるぞ。……“いける“っと」

 

「 はぁっ?! はぁぁぁーーーーーーーっっ!?!?!? 」

 

 天地に木霊するハルヒの怒声。それがビリビリと窓ガラスを揺らし、パラパラと天井から埃が落ちてくる。

 

「 あんたペドフィリアだったのッ?!?!

  こん……こんなちっちゃい子にアンタッ! アンタはぁーーッッ!!!! 」

 

「ち゛ょ……!! おまっ……おい放せ!!

 絞まってる絞まってるハルヒ!! ギブギブギブ!!!!」

 

「キョンくん! キョンくんちょっとここに座って!!

 地べたですっ! 椅子じゃなくて地べたですっ!!」

 

「ダメ、彼を許して欲しい。

 父性の強い彼にとって、これは仕方の無い事」

 

 ハルヒと朝比奈さんにボッコボコにされそうになるが……何故が妙に肩を持ってくれる長門のお陰で、俺は一命を取り留める。

 

「とりあえず、続けていってみたいと思います。

 次3枚目のカードは、こちらです」

 

 次に机に置かれたのは、ヤンジャンとかヤンマガのグラビアで見た事のあるグラビアアイドルの子だ。

 もう見るからに「特盛ッ!」みたいな胸は、確かトランジスタグラマーというんだったか?

 その愛らしい童顔に似合わず、大変眼福なお姿である。ツインテにした栗色の髪も、とても可愛らしいと思う。

 

「む、これは誰もが同意する所だろう。……“いける“っと」

 

「 アンタいい加減にしなさいよっ?!?!

  なんなのよさっきから!! アバラ全砕きされたいのっ!?!? 」

 

 ハルヒにボディを抉られた後、今まで見た事も無いような目を見開いた顔(・・・・・・・)の長門にじっと見つめられる。

 半面、なぜか朝比奈さんだけは「ダメですぅ~!」とか言って一生懸命俺を庇ってくれる。なんなんだ一体。

 

「リボン! リボンしてる子は居なかった?!

 好奇心旺盛で行動力に溢れてそうな、カチューシャの子は?!」

 

「残念ながら、今回は該当者無しかと……。

 続いてのお写真です」

 

 その後、アイドル、子役、女優、タレントという様々な女性のカードが提示されていった。

 その全てを見て、それぞれの魅力を感じた俺は、ためらう事なくそれらを“いける“の箱に投入していく。

 

「ちょ……ちょいキョン!! ちょい!! ……ちょちょいキョン!!!!」

 

 なにやらもう叫びすぎて、若干過呼吸みたいな状態になっているハルヒ。

 朝比奈さんは滝のように汗を流し、長門の瞳からはハイライトさんが消えている。

 

「正直、もうゲームの結果としては確定済みなのですが……。

 一応は最後まで行きましょう。続いてはこちらです」

 

 そして10枚目に提示されたのは、恐らく八百屋さんの店員さんなのであろう、ご年配の女性。

 手を叩いてお客さんを呼び、愛嬌のある笑顔を見せているとても元気なおばあちゃんだ。

 お年寄りというのは、やはりこうでなくてはいけない。若い人達に元気をくれる感じの人だった。

 

「おばあちゃん! これ商店街のおばあちゃんじゃないの!

 ……あぁ、ようやく一息つけるわ。もう喉が渇いて仕方ないのよ、あたし」

 

「元気そうなおばあちゃんです……。

 わたし、将来こんなおばあちゃんになりたいなぁ……」

 

「ハツラツとした笑顔に好感が持てる。

 この店の売り上げはきっと上々のハズ。町内でも愛される店に違いない」

 

「だな、長門のいう通りだ。

 よってこのカードも……“いける“っと」

 

「 ――――なんでよッッ!!!! 」

 

 飲んでいたミネラルウォーターを噴出し、椅子ごと俺をドロップキックで吹き飛ばすハルヒ。俺の身体がゴロゴロと床を転がり、ダンボールにツッコんで停止する。

 

「 ――――アンタどんだけ見境ないのよッッ!!!!

  なによっ! 分かったわよ! 抱いてみなさいよっ!!

  あたし見ててやるわよここで!! 早くあのおばあちゃん連れて来なさいよッ!!

  アンタのマイリトルラバーなんでしょうが!!!!

  メン&ウーマン♪ ……とか言ったら良いじゃない!!!! 」

 

「 お゛ま゛……ハルヒお゛いっ! おげっ!! 」

 

 ハルヒに馬乗りになられ、ガンガン頭を打ち付けられる。

 たまたまそこにあったオモチャの人形が、ぶつかる度に〈プピィ♪ プピィ♪〉と可愛らしい音をたてる。

 

 それを見て三人が、ほぼ同時にプッと噴き出した(・・・・・・・・)

 

 

『はぁぁーーーい!! 有希っこ! 古泉くん! みくるッ!!

 みんなペナルティカードォォーーーッ!!!

 これにより、みくると古泉くんは退場っさ!!!!

 そんじゃあ待ってるから、荷物をまとめてこっちの部屋においで~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………………………………

 

 

 鶴屋さんのナレーションが止み、辺りにはハルヒが俺をガンガン揺らす音だけが響く。

 

 段々と遠のいていく、意識の中……。

 俺は最後に、三人が小さく呟く声を、聞いたような気がした――――

 

 

 

 

「本当に、見境いという物が無い……。

 流石は彼だと、言わざるを得ない……」

 

「えっと……わたしよく知らないんですけど……、

 ラノベの主人公って、こんな感じの人なんですかぁ……?」

 

「恐らく2歳から96才までという記録は、彼が史上初と思われる。

 ハーレム系主人公の鏡」

 

 

 

 言っている意味はよく分からんかったが、とりあえず褒められていない事だけは分かった。

 

 

 

 






 キョン     オレンジカード(注意)
 涼宮ハルヒ   イエローカード(警告)
 長門有希    オレンジカード(注意)
 朝比奈みくる  レッドカード(失格)
 古泉一樹    レッドカード(失格)


 残り時間    01:54:32
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。