バカは死んでも治らない   作:さっさかっぱー

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プロローグ

人間は考える葦である。

 

昔の哲学者だか神秘学者が残した言葉の通りである。

今にして思えば、この言葉はそうあるべきという戒めなのだ。

人は葦でしかない。だからこそ考えるべきなのだと。

考えることから逃げるべきではないと。

そういうことなのだなと、ふと実感した。

 

なぜかといえば、考えを放棄した結果がこれであるから。

 

腹に突き刺さった槍に、こちらを見下すニヤニヤ笑顔。

バカは死んでも治らなかったらしい。

二度目の生も生来の、いや生前の癖で台無しだ。

 

くそったれ

 

暗転

 

一度目。

夢も野望もなく学業を修了した私は特に考えもなく就職活動して、なんとなく入社して働いて。気づけば30も過ぎ、これまでの人生になんの意味も感じられないことに思い至った。

仕事は順風満帆。成績は上々。営業成績は五指に入る。けれどやりがいはない。無味乾燥。仕事が恋人とまで入れ込めればよかったかもしれないが、金を稼ぐための手段以上の意味は感じられない。そもそも何のために金を稼ぐ?何か生涯をかけるような趣味があればよかったんだろうか。

かけらも興味を覚えなかったが、ある後輩のように人生全てをオタク趣味に捧げているのですら楽しそうで意義深く思える。……こんな論調だとオタク趣味の後輩に怒られそうだが。

無趣味を二乗したような生活を送り、それをダメかも思いながらも、ただ何も行動を改めることはしなかった。

 

何もなさぬまま朽ちるだけの人生。

そんな人生でもいいではないか。

やりがいは感じられずとも、仕事はそれなりに楽しくはあった。結婚して子育てをするだけが人生ではないはずだ。

趣味の溢れる人生の中、趣味を求める必要もない。自由ってのはそういうものさ。

…………なんて。

 

そんな不真面目に悟ったように自己正当化しながら生活している時のこと。

 

気づけば真白な部屋に立っていた。

 

そこで佇む少女だか少年だかわからない神を名乗る存在はただ一言こう言った。

 

「人生をやり直したくはありませんか?」

 

これまで不満をぶちまけていたけれど、それでも私は満足して生きていた。そうでなければ、同じ職場で働き続けていないし、満足していないのならいないなりの行動をしていただろう。

我が人生に不満こそあれ、それなりに満足していた私は、けれどその誘いに乗った。

 

魔がさした。

冗談だと思ったわけじゃない。

なぜか、目の前に立つ年若い人にしか見えない自称神さまは、神であると静かな確信と納得があったし、ドッキリ企画だとか、妙なセミナーの勧誘だとは全く思わなかった。

 

そして二、三のお願いを受けて封筒を一封もらった。

封筒の中のお札は一言だけずつ書いてあって、白い部屋で目を通したら消えていた。

 

消えた封筒を不思議に思い、顔を上げて。

 

神様を名乗る人が消えていて。

 

無味乾燥な人生の最後には上出来なファンタジーだと笑って。

 

"やり直し"をはじめた。

 

二度目。

"やり直し"はそれなりに楽しかった。

営業職で叩き込まれた対人スキルでそれなりの関係は築けたし性別不明な神様にもらった封筒もそれはそれは便利だった。

 

お札の内容はお願いした丈夫な体に、無限ハンバーグ、ちょっとした式神操作。堅実なボーナスにちょっとしたファンタジー。実に素晴らしい。

風向きが怪しくなったのは小学校の高学年ごろ。

二分の一成人式なんてイベントで将来の夢を真面目に考えてみようと思ってしまったタイミング。

 

望むべき夢も、臨む野望も。

かけらも見えず途方にくれた。

 

私は何も変わっていなかった。

人生を上手くやったところで、充ち満ちた人生にはならないらしい。

 

そうして終えた初等教育。

何も変わらず迎えた高等教育で出会ったのは、私とは正反対の少年。

話に聞く限り、充ち満ちるとは真逆の状況を振りまいてなお、野望に恋い焦がれたような人間だった。

彼はまるでこの世の主人公が自分であるように振る舞い、全ては自分のものであると言って憚らなかった。

そんな彼は周りから距離を置かれ、嫌われていたけれど、僕は彼をどこか羨ましく思っていたように思う。

 

そして、なんの因果かその彼に腹部を貫かれ、このまま二度目の生を終えようとしている。

 

二度目の生を受けたとはいえ一度目の生を死で終えたわけではないから、死ぬのは初めてなのだけど、正直今覚えている感情は我ながら殺される人間の心情ではない気がする。

 

「人から恨まれるような覚えはないんだけどなぁ」

 

恨みが残るだけ一度目よりはマシかもな。と自嘲する私を彼が嗤う。

ニヤニヤ笑顔で何か言っているが、すでに私には聞き取れるほどの感覚は残っていない。

夕暮れのせいか、はたまた失血のせいか。彼の顔がぼやけてきて、消える。

 

また何も残せないまま、私の二度目は終わった。

 

明転

 

三度目。

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