バカは死んでも治らない   作:さっさかっぱー

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七.五話 インターバル

「……そらさん。私の生活が一般的でなかったのは重々承知しております。けれど、あなたのその寝放題な生活は間違いなくおかしいです」

 

朝、布団を抱く私は貴族様に叩き起こされて授業を受けて、寮室に戻り次第まどろむ私は貴族様に連行されて夕食を食べ、寝支度を整え復習をして寝る。

というか、なんなら暇を見つけては微睡もうとする私をみかねてあまり言いたくなさそうに貴族様がいっている。

 

「……貴族様。あまり普通、とか一般的とか。普遍性とか世間とか。プライベートにまで一般化をさせ始めるとストレスでハゲちゃうよ。せっかく綺麗な長髪なんだから。もっと「誤魔化さないでくださいまし」……」

 

少し頬を染めながら遮る。コミュニケーションを取り始めてまだ二日ながら彼女のチョロさの部分はわかりつつある。

……変な男にコロリと行きそうで不安である。ダメな男だろうが養える自立した精神性と貴族たる経済力、つまりは非常に高い甲斐性を持っているところにも余計不安を感じさせる。

 

「寝放題というけどね。授業にはまだ遅刻したことないし、予習復習も追いついてるし、誰にも迷惑かけて「朝起こしてるのは私ですし、予習復習って教科書ノートにまとめてるだけじゃないですの」……」

 

ノートにまとめるだけ、とは言ってくれる。

とはいえ彼女の勉強風景を見ている私としてはぐうの音も出ない。

 

「教科書では補いきれていない部分もあります。そらさん、そこわかった上で教科書しか見てないでしょう」

「予習してもわからないところを授業で補完するものじゃない?」

「参考資料は調べました?論文は?タブレットもあるのですから調べるのは苦でもないでしょうに。最低限自分で調べられるところまでは調べるべきです」

「最低限が高すぎる……」

「それにそらさん。操縦の方はいいんですか?そっちに関してはノートにすらまとめていないようですけれど」

「私、整備科志望してるから。そっちは最低限でいいかなって」

「……クラス代表でしたわよね?」

「遺憾ながら」

「対抗戦どうするんですの?」

 

聞き覚えのない単語に首をひねる。代表になって二日目。先生から雑用を押し付けられつつ話を聞いたが、そんなことを聞いた覚えはない。

ポカンとした私を見てひたいに手をあてため息をつく貴族様。

まるで私が無知であるかのような態度にはカチンとくる。ため息をつく仕草が絵になるのも相まってとても不愉快であるが、多分彼女に他意はない。多分。高貴な生まれで才能もあって努力家な彼女には、調べもしない私の態度はまるで子供のように見えるのだろう。多分。きっと。たかだか二日の付き合いで彼女の何がわかるわけでもないが。

というかそもそも代表の仕事であるなら私が知らないというのは森先生の連絡不備である。私は悪くない。

 

「五月の半ばにある模擬戦ですの。クラスの代表が行うトーナメントマッチ。優勝クラスには学食の無料券が与えられるとか」

「模擬戦って?レースか何か?」

「有り体に言えば銃火器を使ったの落とし合いですわ」

「…………。軍事利用しないって標榜されてる割に随分なイベントだ……」

「まあ、建前ですわよ。その辺りは。"双騎士事件"以降不安定だった国家間のバランスがバラまかれたISコアのせいで余計不安定になって。形だけのそんな建前に頼るほかなかったというのはとても恐ろしい話ですけど」

 

…………一度目でそれなりに真面目なサラリーマンをやって言っとはいえ、ここまで実感を持って国際政治に感想を言ったことはなかった気がする。

 

「で。私はそれに出なきゃいけないわけか。なるほど。……貴族様変わってくんない?」

「それを私に言いますの?」

「ははは」

 

美女は怒っていても美人なもんだ。

結局、勝ちはしたものの代表は男子の譲ったらしい貴族様はジト目でこちらを見つめる。

 

「それに、その貴族様ってやめてくださらない?どうにもバカにされてる気がするんですけれど」

「土人よりはマイルドだと思うけど」

「くっ。実は根に持ってましたのね。というか否定しませんのね」

「そう思われてるってことは、つまり私がどういう意図で言っていようが言い訳にしかならないし。……まあ、バカにしてるつもりはないよ。名前より先に呼び名が口に馴染んじゃっただけ」

「…………私の名前。言えます?松本そらさん」

「…………」

 

子供がささやかな悪戯を企むような満開の笑顔で私の名前を呼ぶ彼女。その笑顔に思わず息を飲んで。私の中のおっさんのハートを打ち抜いたその笑顔に思わず言葉を失い、茶化すことすらできなくて。

 

「……そ・ら・さ・ん?」

 

すでに答える機を逃した私に取れる選択肢はただ一つ。

ちょっとした動揺に重ねて聞く彼女の様子に自らの失態を悟り撤退を図る。

 

「おやすみ!」

「あ、こら!」

 

後ろのベッドにダイブして布団にくるまり丸まって。

 

「ちょっとそらさん!本当に名前わかりませんの!?というか。また着替えもせずに飛び込んで!夕飯も食べてないじゃないですの!そらさん!?」

 

ふふふ。鉄壁の布団シールドを破れるものなら破ってみたまえ。

なんだかんだまだ私のパーソナルスペースに入り込めていない程度には私を警戒か恐怖している君には破れまい。

 

けれど、

 

私の陳腐な策略を彼女はたやすく蹴破った。

 

「そらさん!」

 

私のなとともに剥ぎ取られて布団の向こうに、怒りに頬を染め眦を釣り上げた彼女の顔が。剥ぎ取った布団は重力に従い床に落ちて、私は無様に丸まっていた。

 

するりと頬に手を添えられて目の前で。

 

「いいですか?私の名はセシリア・オルコット。由緒正しきオルコット家の当主にして英国が誇る第三世代機のテストパイロット。松本そらさん。あなたが私の名を覚えるまで、何度でも言いましょう」

 

目と鼻の先には彼女の顔が、誇り高い彼女の力ある眼が私を見据えている。

 

「松本そらさん。私の名前はセシリア・オルコット。どうぞ、よしなに」

 

頬に添えられた手は微かに震えている。力ある眼は動揺に揺れて、けれど、しかと私を見つめている。

 

「もっと。距離を取ってくると思ってた。それにこんなに手が震えてる」

 

頬に添えられた手に私の手を重ねる。

思わず引こうと動いた彼女は結局それをすることはなかった。

 

「結局距離を置いたまま。なんだかんだ三年間すぎていくものだと思ってたよ。一つ聞きたいな。君が距離を置く、忌避か嫌悪か憎悪すらしているかもしれない転生者とやらに、一歩踏み込めたのはなぜだい?たかだか二日で私に何を見つけたの?」

 

揺れる眼に震える手。けれどその眼の力は陰ることなく私を見ている。

 

「バカバカしくなりました。あなたを、自堕落なあなたを怖がる私が。籠るだけではあの女の思う壺です。あの男の二の舞です。私は前に進まなければならない。セシリア・オルコットでなくてはいけない」

「……素敵だね。応援してるよ。貴族様。貴方が貴方であるために」

 

パッと。手を離して立ち上がる。

 

「ただ穏やかに過ごしたいだけの私からすれば眩いばかりで、自己嫌悪で溶けそうだ。貴方自身でありたいなんて、そりゃとっても素晴らしい」

 

貴族様の教えに従いとりあえずは着替えようかな。

 

「だから一つ譲歩する。とりあえず制服では寝ないようにします」

 

制服を脱ぎ捨ててくるりと回って貴族様に向き直る。

ポカンとこちを開けて一つ大きくため息をついて、じとりと脱ぎ捨てられた制服を睨みつけてから貴族様は口を開く。

 

「……はぁ。できれば夕飯をハンバーガーで済まさないというのも加えて欲しいんですが」

「好物を取り上げられるのは辛いなぁ。そこは、まあおいおい。善処したくはないけど今後前向きに検討するよ」

「ぶくぶく太っても知りませんわよ」

「そりゃ怖い。じゃあ、学食でサラダでも食べに行こうかな。貴族様も行く?」

「ええ、是非。健康的な食生活が何たるかを教えて差し上げますわ」

「うん。英国貴族が言う健康的な"食生活"が如何なるものか聞いてあげよう」

「……信用してませんわね?」

「……よし!着替え終わり!さ、行こう行こう!」

「これでも栄養学収めてますのよ?チェルシーに任せきりにしないように一から学んで「はいはい。わかってるわかってる。いいもの食ってるもんね」そ・ら・さ・ん〜!!」

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