バカは死んでも治らない   作:さっさかっぱー

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第八話ー再会ー

衝撃の事実を知った。

イマドキの女子高生は携帯電話を持っているものらしい。

因みに、私は携帯電話あるいはスマートフォンなるものを持っていない。

なんだかんだ一度目の感性が強い私にとって、その手の機械を思春期の少年少女が持つことにはどうも違和感がある。

 

ルームメイトと円滑な生活をおこなうには小さなことでもホウレンソウ。

ということで入学初週の授業を終えて休日の予定の擦り合わせをしている中、貴族様とのお話の中で携帯電話を持っていない旨を話したら、これだから転生者は、と謎の蔑みをいただいた。別に前世でも前前世でもバリバリ使ってたから。一日中電話鳴りっぱなしになってたこともあったから。繁忙期はアポイントより電話してる時間の方が長かったから。メールも電話も使いこなして、忙殺されてたから。

と、慌てて否定するもニヤついてカケラも信じちゃいない。

というか、なんだかんだ説明していなかったけれど、私の前世が男性だと知ったら彼女はどんな反応をするのか。好奇心が刺激されるが、どちらかといえば恐怖の方が大きい。

 

「別に。携帯くらい不要じゃない?ビジネスマンでやっているわけでもないし。近況報告も手紙で十分」

「待ち合わせが不便ではなくて?」

「事前に共有すれば十分じゃない?どうせ約束するのにコンタクトしてるタイミングはあるんだし。それに寮生活じゃ待ち合わせの難易度も低い」

 

外出許可の申請に一週間かかるため土日は校内で過ごさなければならないのだが、どうもお嬢様には不満らしい。

IS学園が設立してすぐにできた複合商業施設。世情に疎い私は耳にしたことがなかったけれど、かなり話題になったらしい。英国貴族の耳に入るレベルで話題になるのだから相当なものなんだろう。

そこに行きたかったらしい貴族様は、光栄なことに私を誘ってくれたのだが、その手の施設には興味のない私は外出許可を理由にそれを断った。対してあっさりと引き下がった彼女は同じく代表候補生の先輩にそこで食べたクレープを自慢されたのだという話をしてくれた上で、外出許可が出れば一緒に行くのだと約束をさせられた。

 

わざわざ休日を使って人の群れに突撃する意味を見出せない私としてはなんのかんの理由をつけて行かないつもりだったわけで、貴族様はどうやらこの一週間である程度私のタチを理解してくれたようである。さすが四日目で迫ってきただけある。それを理解せず突っ込んできたのはちびっこくらいなものだったので理解した上で突っ込んでくる彼女はやや新鮮ではあった。意外と不愉快にならないものである。いや、彼女の詰め方が上手いのかな?

 

土人に文明開化をもたらしたいのか、携帯の利便性をあーでもないこーでもないとプレゼンしてくれる彼女。この一週間で彼女に生活習慣をかなり頼っている私としては彼女に流されるまま携帯電話の導入を考えてもいいけれど。

なんというか。

一度社会人を経験した上で義務教育を受けると、とても人としてダメになった気がする。保護者と学校に管理されているこの状況は最高だ。

もちろん全員が全員そうじゃないだろうけれど。社会人を経て学びたいが故に大学に通い直していた後輩もいたし。あのバイタリティは尊敬するが真似はできない。

 

ダメになった私はこう感じている。

 

携帯を持ったら友人関係から連絡がよくあるだろう。それこそ休日、木陰で微睡んでいるときに。ハンバーガー片手に一人ハイキングを楽しんでいるときに。休日の朝今日は何をしようかと二度寝しながら布団とデートしているとき。

 

正直耐えられる気がしない。

営業としてそれなりに働いてきた経験故に仕事を想起させるのもいけない。利便性はこの上ないが、交友関係の狭い私にとって携帯ははっきり言って不要である。

 

「利便性はよく知ってるよ。使ったこともあるしね。そしてそれを知った上で持っていないんだから」

「便利なのを知っているなら持っていない今なおさら不便そうですが……。あら?これまで持ったことがないのでは?」

「あーっと。……持ったことがないのは今世の話。前世では、一度目ではなおのこと……あー。ごめん。あんまり聞きたい話じゃないでよね。とにかく!文通の方が性に合うし!必要になったら買うから!そのとき相談する!いいよね!」

 

前世の下りで崩れた表情を見て慌てて言い切る。

これだから転生者は。なんて自分で言っておきながら私からその手の話をすればそんな顔するのだからなんというか打たれ弱い子である。

 

「……その。ごめんなさい」

「あー。こちらこそ申し訳ない。とりあえず、明日は学内で日当たりのいいとこでも探そうかなって。昼寝ポイントをね」

「……はぁ」

 

あれ?なんか別方向に崩れた。

 

「別に人の趣味に文句は言わないですけれど、せめて私が理解できる趣味はないですの?」

 

肘をついて流し目でこちらを見る金髪美少女の姿にときめいている自分を見つけて苦笑い。

この調子なら三年間の生活で内に潜む男性は消えそうにないなぁ。

 

「んー。………………。ハン、バーガー?作り?」

「…………」

 

そんな目で見られても。

食事が趣味って割と一般的だと思うんだけど。

 

それに地元じゃ受けたよ!パーティーにまで発展したよ!

困った。同級生と遊んだ経験なんて箒としかないし、あれは遊ぶと言うか修行とか見学とかそんなだったし。あとはちびっことおままごと?…………困った。

 

「逆に貴族様はどうなのさ。明日の予定。外出できないことがわかった今。一体どうするつもりなの?」

「どう、と言われましても。演習場も枠一杯すでに抑えておりますので、空き時間でそらさんに合わせられるかしら、くらいのものですわ」

「ん?外出る予定じゃなかったの?」

「出られないって管理課の方に言われた時点でおさえられるだけ抑えましたとも」

「ああ。そういう。んー。……。ちなみに空き時間っていつ?」

「お昼頃ですわね。正午から二時頃まで。まあ、個人練習ですので多少前後するくらいなら構いませんわ」

「それなら昼飯でも食べない?貴族様のお口に合うかわからないけれど、美味しいもの準備しとくよ」

「……はん「うん」はぁ。そらさんのハンバーガー美味しいのですけれど、カロリーが」

「そんなあなたにレタスサンドの美味しさを伝授します。明日の昼はお楽しみにね」

「……ええ。楽しみにしておりますわ」

 

あと、と続ける彼女に合わせて口を開く。

 

「「貴族様なん」てお呼びになるのはお辞めになって。と言う」

 

にこりと笑う私を半眼で見る彼女。

 

「もう口に馴染んじゃった。あんまり人をあだ名呼びする習慣なかったから気に入ってるんだ。この呼び方」

 

この五日間恒例となりつつあるやりとり。

本当に嫌ならもう少し語気荒く言うだろうし、好きでないにしても許容しているのかなとは思う。多分。だといいな。

 

はぁとため息をついてシャワーを浴びに行く彼女に手を振って布団をかぶる。

金曜の夜ほど穏やかに眠れる日もあるまい。

 

あゝ。このために一週間頑張った。偉いぞ!私!

おやすみなさい!

 

 

はたんと頭を叩かれて起きる。微睡みかけで起こされるのは非常に腹がたつ。

キッと睨めば、腰に手を当て仁王立ちする彼女。

 

「私のことをなんと呼ぼうと勝手ですが、私とルームメイトになった以上。寝る前には少なくともシャワーを浴びていただきます」

「私は湯船派。更に朝に入りたい派。明日は休みで朝時間あるんだから別に朝はいってもいいじゃない。おやすみなさい」

「せめて髪だけでもまとめてください。せっかく綺麗な黒髪なんですから。私が許容しかねます」

「私は気にしない」

「私が気にします」

「……平穏を乱すなら実力行「それにお風呂に入ってからの方がよりリラックスして眠れますわよ?」…………大浴場行ってくる」

「ええ。是非そうなさって」

 

一糸纏わぬ姿で仁王立つ彼女はさながら裸婦像のごとく芸術じみた輝きを帯びていたが、私の中のおっさんは反応しなかった。

まあ、女の裸は自分のでみなれてるもんね。スタイルは似ても似つかないけれど。

 

「あ。金曜日は混むそうなので、タオル類持って行った方がよろしいかと」

「そうなの?ありがと。それじゃ行ってきます」

 

裸の女性に反応しない女はいたって普通なので問題がないけれど、裸の女性に反応しない男というのは完全に終わっている気がする。というか、さっきの流し目に反応して裸に反応しないってもう自分が男女どちらに寄っているのか自分でもわかりゃしない。

 

自分について考えるなんて思春期相応なことに手を出しながら大浴場の扉を開ける。ピークは過ぎたようでロッカールームには疎らに人が見えるくらい。

……あ。タオルは持ってきたけど着替え忘れちゃったな。……まあいいや。今着てるのを着て戻ろう。

籠に着替えを放り込み、右肩に手を伸ばしたところで懐かしい気配を感じた。

 

「そら、か?」

「ん?あら?」

 

扉の前で凛々しく立つ彼女は、姿も声も私の記憶とはかけ離れていたけれど、多分間違いなく転校して行方知れずになった彼女。

 

「そう言う君は篠崎さん」

「だから、篠崎と呼ぶなと……」

 

懐かしい恒例のやりとり。思わず笑みを浮かべて彼女に近寄り左手を伸ばす。

 

「久しぶり。箒」

「……。ああ。久しぶり」

 

がっしりと硬い掌と握手をする。

おそらくまだ剣道は続けているんだろう。

 

厄介な事情を持っているらしい彼女。

私と友達である彼女。

こんなことがあるのなら、"反動"とやらに感謝してもいい。

 

「ほんとう。元気そうでよかった」

 

まだ夢にも野望にもなっていないささやかな種火だけれど。

この火をくれた彼女との再会は、きっと吉兆に違いない。

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