バカは死んでも治らない   作:さっさかっぱー

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十一話 ー違和ー

二つ返事で頷いたって生徒間だけで代表を交代できるわけもなく。

 

朝一。教員の出勤時間に合わせて森先生を訪ねる。

手短に用件をつたえれば目を丸くした。

 

「え、松本さん変わっていいの?」

 

自薦も他薦もされてないし、なりたかったわけでもない。

とは言え、ここまで驚かれる理由は何だろう。

 

「えっと。何でそんな驚かれるのかは疑問なんですけれど、私としては別に。こだわりもないですし」

「へー。意外。テキパキ仕事やってくれるし、あんまり社交的じゃないだろうにクラスの子達に満遍なく絡んでたから、代表の仕事割と好きだと思ってた」

 

よく見てらっしゃる。

 

「まあ、当人同士納得してるなら私から言うことはないかな」

 

問題なく変われそうで何よ「ただ」おや?

 

「理由が聞きたいな。交代する理由。ね。鳳さん」

 

ふと、気がつく。

昨日彼女がまっすぐ放った恋心。

随分世間を騒がせたらしい彼らのうちの1人、世界を動かした三人のうちの最初の1人。

まだ彼には届いてないらしいが、それでも私にはまっすぐ届いた恋心。

果たしてそれは代表を変わるに相応しい理由になるだろうか。

 

思わず隣を見ると鳳さんと目があった。

逡巡ののち、彼女が言う。

 

「お願いしたんです。私から。あー。えっと」

 

しどろもどろに指示語を発する彼女に森先生はポカンとしている。

頬を染めている鳳さんは可愛らしさを全開にしているが、ここではあまりプラスには転じない気しかしない。

 

「私がお願いしたんです」

 

仕方なしに口を開いて、そっと鳳さんに目配せする。

 

「さも、彼女からお願いしたみたいなのは、きっと鳳さんが優しい人なんだからだと思います。ありがとう」

「松本さんから?んー」

 

おや?とあまり信じていない様子の森先生。

さて、どう表現すればそれほど事実と乖離しないか。

 

「そんなに代表やだった?仕事は率先してやってくれてたように思ってたけど」

 

……事実との乖離は仕方ない。

ややノープラン気味だけど、多分大丈夫。……かなぁ。

今は何より事実っぽさを演出のため返事をすべき。

 

「あ。いえ。別に嫌だったとかじゃないです。クラスのみんなも協力的でしたし、私自身前に立つのは好きじゃないなりに嫌いではないですから」

「……じゃあ。何で?」

「代表選。ってあるらしいじゃないですか。代表同士の模擬戦でトーナメントを行うイベント。噂だと今月末に開催されるんだとか。代表として、事務仕事押し付けられるのも諸々仕事が増えるのは別に構わないんですが、わざわざ剣闘士のごとく衆人環視のもとで戦わさせるのは嫌だなと。……たぶん、だからこそ森先生も代表の選出の際言わなかったんだと思うんですが」

「…………?」

 

個人感情による好き嫌いに根ざした、担任の説明不備の指摘。

純日本人な森先生をであれば、戦いたくないなんて感情はひっくり返せないはず。……一組担任の織村先生は噂を聞く限りバッサリ切り捨てそうだが。

 

「だから代表候補生のふぁ「ああ!そっか。まだアナウンスしてないんだっけ」おねが、え?」

「最初の実習授業でアナウンスするつもりだったの忘れてた。ごめんごめん。対抗戦は代表が出なきゃいけないわけじゃないの。いろんな人が来る学校だから代表が必ずしも模擬戦をできる人かどうかもわからないし、そもそも宗教的な理由で出られない人もいるしね。……まあ、逆に出なきゃいけないって人もいるんだけど」

「ん?」

「つまり、理由がそれだけなら、別に代表変わる理由はないし、まあ今朝のHRでアナウンスでも「鳳さんが片思いの彼にいいところ見せたいそうなんで、出させてあげてくだ「ちょっとぉ!?」んふふ。なるほど。ほんとはそういう理由だったんだ」

 

こら右手を引っ張るな。いたい。君はサポーター見てるだろう。

根回しは精度と速さが命なんだから。

 

「私は異論ないよ。自薦か他薦で出場者を決めるつもりでいたし、代表を決める時の様子を見る限り、自薦も他薦も起きそうにないし。……その場合は、松本代表にお願いせざるを得なかったんだけど」

「鳳さんがいる以上。私が出ることなんてありませんよ。真面目に仕事こそすれ、荒事になんて出たくないですし。出たくないとはいえ、出ざるを得ないなら出たでしょうから。鳳さんに感謝の一つでもしときます」

「あ。出たくないのは本当なんだ」

「整備科志望ですよ?私。風に聞いたモンドグロッソがオリンピックみたいな大会ならともかく完全に代理戦「松本さん?ここ職員室」まあ、そんな感じです。朝からありがとうございました」

「いえいえー。ではこの後HRで」

「ありがとうございました!」

 

鳳さんが元気よく礼をして、私は控えめに会釈をして。

職員室を出たところで袖を引かれる。

 

「大丈夫?」

「ん?」

「あれ。モンドグロッソがどうのって。先生方そこ出身の人多いし」

「え。そうなの?…………まあ。思春期によくあるハシカみたいなもんだって思われるように祈るよ」

「ハシカって。…………。ありがと。助かったわ」

「いえいえ。"納得"すること。まっすぐ主張すること。こちらこそありがとう。鳳さん」

「んー何言ってるかわかんないけど、まあありがたく受け取っとくわ」

「ぜひ受け取って。私も今日から始めるから」

 

個人的なことなので詳細は言いませんけど。

もしかして何年も交友が続くなら酒の席ので話題にはなるか「あ」

 

「あ?」

 

突然。ふとこちらを見て鳳さんは立ち止まる。

 

「鈴音、鈴でいいわ。よろしくそら」

「……ああ。よろしく。りんちゃん」

 

快活な笑顔で手を伸ばす彼女に握手を返し、多分この子とも友達でいられないんだろうなと小さく思った。

 

 

ざわざわ。と。

朝から女子高生たちは大変元気だ。

授業時間などそっちのけでざわざわざわざわ。

真っ二つに割れた教室の中ざわざわざわざわざわざわ。

私を心配げにざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ。

恋する乙女を応援しざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ。

 

ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ。

 

うるさい。

 

森先生もりんもここまでざわつくとは考えていなかったのか少し動揺しているように見える。私もこうなるとは露ほども思わなかった。

 

HRでの対抗戦の案内。

りんちゃんは自己紹介を終え、拍手で迎えられ席に着く。

ふふん。と自信ありげに小さな体を目一杯、漢字よりひらがなでめいっぱいと書いた方が似合う彼女が、めいっぱい大きく見せて自己紹介する様に胸をキュンキュンさせている自分を見ないふりをしていると、りんはない胸張って言い放った。

 

「対抗戦は任せなさい!私が来たからには対抗戦の優勝は確実よ!」

 

キョトンとする一同。ぼんやりと傍観する私。私に集中する視線。

おや?と首を傾げていれば、あれよあれよと言う間にクラスは真っ二つ。対抗戦に向けてりんを歓迎する陣営に、何故かなぜ私が対抗戦に出るべきだと声高々に主張する陣営。

多数派はりんの派閥。ちなみに私もこちら。少数派ながら対抗戦の選手選定を巻き返しかねない勢いを持っているのはあちら。

私がりんの派閥にいるにもかかわらず全く勢いが衰えない。

 

「松本さんはこれまでずっと頑張って来たじゃ「なんでぽっと出「義務じゃないだから別に出なくても「そもそも代表以外がクラスの「なんで代表が鳳さんを「ざわ「根本的にルールが「ざわ「だから民主主義「宗教的にそもそも「ざわ「私から言わせれば「他薦されたんでしょ?ならみんな「ざわ「でもさこういうのって代表が「ルールどうなって「でもだからって「おかしく「ざわざわざ」

 

既にクラスは煽られた闘牛のように、誰かが発した言葉に向かっていく。そしてその先でも新たな火種が生まれて。

 

りんの失言から起きたとは思えないほどの混乱。

いや失言ですらなかったはずだ。

それなりに優秀なはずの少女たちがまるで力技しか知らないガキ大将のような意見の押し付け合いをしている。

 

集団となると頭のない怪物である。

三度目では歴史に名を残していない彼の発言は、なかなか持って的を射ている。

 

困惑した森先生に動揺を露わにしているりん。

正直私も訳がわからない。

私を推薦する一派がいることもわからないし、彼女たちがここまでの熱量で言い争っていることも理解できない。

 

意見の押し付け合いははやがて議論のテイすらなさなくなり、もはや言葉が声になりそれが音になった頃。

 

「何を騒いでいる」

 

ふと。我に帰る。

音を発する畜生に成り果てたクラスメイト達も我に返ったようで、疑問符を浮かべながら入口に立つ年若い女性に視線を向ける。

そこに立つのは寮監の先生。

 

「織斑先生……」

 

後ろから聞こえてきた声に、そこに立つ女性こそがかのブリュンヒルデだと知る。

 

世界最強。

刀一つでそこまで上り詰めた戦乙女。

言葉一つで混乱を鎮めた彼女を見れば、ネットで見たガッツポーズだけで対戦相手を沈めたなんて噂も頷ける。

 

結局。織斑先生の独断で、模擬戦にて決まる運びとなった。

そりゃ貴族様に土人と言われても仕方ない。愛すべき祖国が誇る偉人がこんな脳筋なんだもの。

 

 

その日。混乱は落ち着いたものの妙に空回る空気は戻らないまま、特筆することも起きず授業が終わった。

放課後に教室で談笑する面々も今日はそんな気にはならないらしく、ホームルームが終わるとすぐに人気がなくなった。

人のいなくなった教室でりんと軽く打ち合わせた後、アリーナで練習をして、いつもより早い消灯の一時間前に部屋に戻る。

 

今朝を思えば、幸先の悪い一日であることは疑いようもないが、それでも先延ばしにはできない。

意を決して貴族様に声をかけようとキョロキョロしても、件の彼女は影すら見えない。おおかたシャワーでも浴びているの、ん?こんなにこの部屋って暗かったかな?

違和感を覚えて窓に近寄る。

陽も落ちたのだと思ったら違う。

黒い膜が窓を覆っている。

ああ。この膜を知っている。

かすかな匂い。これは血か。ああ。知っている。これは。

 

いつか風呂場に満ちていた匂い

 

異常事態を察して慌てて振り返って、満面の笑みの貴族様と目があって、私は意識を失った。

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