バカは死んでも治らない   作:さっさかっぱー

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十六話 呼び出し

「賭け?」

「そ。一夏と私どっちが勝つか」

「……織斑くんが勝てるとは思えないんだけど」

「ところがどっこい。意外とオッズは拮抗してるのよねぇ」

 

昼休み。

対抗戦に向けて、一組代表の織斑くんの指導にかかりっきりな貴族様ではなく、件の彼と絶賛喧嘩中なりんちゃんと食堂でランチ。

初恋の彼と喧嘩している彼女は苛立ちを隠そうともしないが、食事中くらいもう少し穏やかになってほしいものである。

とはいえ、私もどんぶりをひっくり返さんばかりに驚いたばかりなのでおあいこだけど。

一組の代表が貴族様でないどころか、代表になったらしい織斑くんにむしろ協力的な貴族様に仰天したのは先ほどの話。

賭けの内容を話す彼女はトレイの側に置いてある新聞をこちらに寄せる。

 

「校内新聞?」

「そ。バカに能力を持たせるとろくなことにならない典型例よ」

 

記事をまとめたであろう先輩に対してすごい言いようである。

記事に目を落とすと、織斑くんの来歴がかなり詳細に書かれている。

 

「……え。これほんと?」

「忌々しいことにね」

 

記事の内容はシンプル。

対抗戦に向けてそれぞれの出場者のプロフィールが載っている。中でも特に取り上げられているのは織斑くん。特に、というか記事の6割は彼のことだ。

賞罰から来歴。健康診断結果。交際歴などなど。出るところでたら手が後ろに回りそうな詳しさである。

 

「……これ。証言してるのりんちゃん?」

「そんなわけないでしょ!!」

 

バタン!と机を叩きながら立ち上がる彼女は、静まる食堂を気にする様子もなくドタンと椅子に座る。

 

「……次ふざけたこと言ったらぶっ飛ばすわ」

「心に留めとく」

 

運動神経の良さ、かのブリュンヒルデと同じ剣道道場で修練の経験があり、先の模擬戦ではイギリス代表候補生に善戦した。それなりに結果を残すのではなかろうか、というのが記事の締めくくりになっている。

 

「多分この情報源はあのクソ野郎よ」

「……一応食事中なんだけど」

「今日。夜。空けといて」

「寮監にバレても知らないよ」

「放課後。模擬戦付き合ってくれる?」

「サンドバックになる趣味はないけど……まあいいや。いいよ。空けとく」

 

怒り冷めやらぬ彼女は、食堂で愚痴るよりは生産的なことでストレス発散をしようと目論んでいるらしい。付き合わされる身としては迷惑な限りだが、事情を知っている身としてはできるだけガス抜きに付き合いたいとも思う。とはいえ、いくら回避に集中したところで、雨粒を避けることは不可能である。ましてやそれが見もできないのなら尚更。

 

放課後サンドバックにな上に睡眠時間が削られることを宿命づけられた私は午後の授業の合間に、ぼんやりとりんちゃんの言葉を思い出していた。

 

あの記事。詳細な来歴が書かれていても、不思議なことに全く織斑くんの為人は見えてこなかった。

まるで聞いたことのない国の年表を流し見たような無味乾燥な印象。少し前に聞いたりんちゃんの話の方がよほど彼の為人につながりそうだ。

 

ハサミ片手に狂乱する多腕な金髪女。三流ホラーを生で見てりんちゃんが気絶したあの夜。

幼馴染への恋心を再度吐露した上で、一線を超えたいのだと伝えられた。

頬を染めて身を乗り出した貴族様も勘違いしたようだが、べつに肉体的接触的な意味ではなかったらしい。精神的な、というかいわゆる個人的事情家庭の事情的なものに突っ込むための準備らしい。

 

「転生者ってのが関わってるのは知ってる。あとは特典ってのが関わってるってこととか」

 

かつて起きたらしい事件を語りながら、そこで得た知識を基にずっと考えていたらしい。

 

「一夏と一護がいなかったら私どころかクラス中が死んでた。あの仮面の化け物に喰われてね」

 

トカゲとゴリラを仮面でくっつけたような造形の化け物が修学旅行のバスを襲ったらしい。

ゴジラだのガメラだののごとくビームすら口から出したらしいそれを、幼馴染たちは斬り払うは、打ち消すは人間技とは思えない方法で撃退したらしい。

けれど、その一連の出来事は今の今まで、正確には私と貴族様の一幕を見るまでは忘れていたらしい。

黒幕の高笑いも、幼馴染たちの会話も、庇われた傷も。一切を。

私。怒ってるのよ。と呟く彼女の目に熱を感じて、気がつけば頷いていた。

 

けれど、私が話せることは少ない。

 

かつて神を名乗る人物からの甘言に乗ったこと。

才能と引き換えに別の才能をもらったこと。

 

精々がこのくらいなものだ。

寝不足も相まって知る情報を箇条書き的に言い放っただけになってしまったのは申し訳ないが、仕方がない。眠たかったのだ。

寝落ちした私をよそにまた後日話し合う約束を取り付けたらしい貴族様とりんちゃんはたまに食堂で話している様子を見かける。

 

……あれ?

そういえば、あの時自称神様はなんて言った?

 

二番煎じどころか、ブームに乗っかっただけ……?

2度目の失敗を繰り返したくなければ、差異を探せ?

 

素直に取るなら、転生者は他にもいるということなんだろうか。

差異って何だ。……思い当たる節はある。貴族様が箒に言っていた。

 

一度死を経験したとは思えないほどの魂。と。

 

つまり、転生者とそれ以外には観測可能な差異があるんだろうか。それを見分けられる貴族様の異能が鍵?しかし時系列がおかしい。あの時点で、私は貴族様の異能どころかその存在すら知らない。それとも自称神様には時系列は関係ないのだろうか。あるいはその差異を見つけられる人物を探せということ?たまたま貴族様がそれを持っていただけ?……異能を持つ人間はそれなりにいる。箒を始め、あの暴漢、貴族様そして話に聞く織斑くんに一護くん。騎士の召喚、怪力無双、血液操作、射撃系に特殊な刀術。そして私の各種異能。……私だけ毛色が違う気がしてならない。やはり私だけが転生者なのだろうか。一組の貴族様が暴れることなく学校生活に勤しめているということは見ただけそれとわかる人は一組にいないということだろう。

けれど、りんちゃんの幼馴染たちは知っていた?転生者、特典。その言葉は他ならぬ彼らの口から出たそうだし。貴族様と同じ系列なんだろうか。

 

「わからん。堂々巡りだ」

「ほう。松本。どこが堂々巡りだ。さぞ難しい事を考えているんだろうな」

「え?」

 

ふと顔をあげれば、ISの飛行理論について講義する織斑先生と目があった。カツカツとこちらに歩く様になぜかゴジラのテーマが頭の中になり始める。

 

「黒板も目に入らないほど、何に悩む。模擬戦で自在の飛んで見せたその腕ならこの程度の理論わからないはずはないと思うが?」

 

腕を組んで仁王立ちで私を見下ろす先生。

さすが女の園IS学園。お婆ちゃん以上に仁王立ちが似合う女性が存在するとは思わなかった。

 

「すいません。集中できてなかったです」

「授業は真面目に受けろ。授業後職員室まで来るように。異論は」

「ありません」

「次はない。いいな」

「はい」

「では授業に戻る。松本103ページの3段落目から読め」

「はい」

 

授業後、貴族様から一片通り説明を受けていた私は今更質問などあるわけもなく、貴族様の説明で分かり辛かったところでも聞こうかなと職員室を訪ねると涙目の先生に生徒指導室に連行された。

 

「ありがとう。山田先生。そこに座らせてください」

「織斑先生。あの書類の方は……「……すまないがお願いできますか?」ですよね。分かりました。メール送っときます」

「助かります」

「では。頑張ってね……!」

 

去り際に励まされて涙目の先生、山田先生?は出ていった。

多分純粋な善意での励ましなんだろうけれど、不安を煽られたような気しかしない。

 

「突然の呼び出しで悪かったな。さて、この後鈴、鳳とアリーナでの約束もあるようだから早めに済ませる。一点。ただそれを確認するだけだ」

 

授業でいつも見ているような、テキパキとした進め方。

けれど、目は輝いているし、なぜか立って話している。

……尋問?

 

「ISのコア。その秘密に気がついているな?」

「え?」

「……」

 

予想外とは言え先生に対しての受け答えとしては礼節を欠いた返答だ。慌てて頭を下げてみても、先生は音沙汰もなく仁王立ち。

 

「……ISの意識に触れたな?」

 

逡巡の後、口を開いた先生は不思議なことを言う。

 

「はい。触れたというか、一方的に。ですが秘密、ですか?意識なんて今更な話だと思いますけど。ISの意識の話なんて教科書でも触れられてますし」

「……なるほど。今夜。空けておけ。補習だ。またISの意識に関しては他言無用とする。いいな」

 

確認の意思を聞いてはいても、その言葉に込められた意味はまさか断るまいな。と言う圧がある。だからこその仁王立ちで、だからこその生徒指導室。

夜時間にダブルブッキングなんてモテモテだなぁと現実逃避しかけたが、こちらを見据える、むしろ睨むと言っていい先生の眼の前で断る選択肢などない。

翌日にずれたりんちゃんのアポでまた寝不足になるんじゃなかろうかと嫌な気持ちになりながら、とりあえずは頷いた。

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