バカは死んでも治らない   作:さっさかっぱー

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二十話 波乱

「なんで携帯持ってないのよ!」

「必要性を感じなかったからね!今はひしひしと感じてる!」

 

第二アリーナへと急ぎながら事情を聞く。

なんでも件の結なる人物は箒の兄だったらしい。

それを耳にした貴族様は暴走一歩手前。

血の異能を使わないにしてもIS"ブルー・ティアーズ"を纏って箒に喧嘩を売ったらしい。

場所が第二アリーナだったことは不幸中の幸いか。

 

「私が話したあの男も、多分」

 

いつか聞いたりんちゃんの昔話にも登場する黒幕とやらもどうやら同一人物らしい。だから貴族様が食いついてたのか。

 

「織斑先生は?」

「一護が呼びに行った。一夏は二人を止めようとしてる」

 

既に織村先生が呼ばれるのなら、私が着く頃には拳骨か何かで場は収まっているだろう。

血相変えて急ぐ意味も見えないが、なぜか妙に嫌な予感がする。まるで何か嫌なものが混ざっているような感覚。

 

あの男の話題だからだろうか。

りんちゃんから聞いた得体の知れない男の話。

貴族様の仇だという男の話。

箒の兄だという男の話。

 

黒幕じみた、男の話。

 

 

 

あの夜。

りんちゃんの話してくれた修学旅行での一幕を聞いた日。

バスのタイヤがパンクしたことになっているという事故の話。

幸運にも死傷者は誰も出なかった事故の話。

一夏くんが弾丸で、一護くんが刀で、それぞれ化け物からクラスメイトを守ったらしいその話に出てくる黒幕。

 

バスの天井を引き裂いて現れた化け物がクラスメイトを襲わんと二人と戦っている中、その黒幕は終始笑っていたらしい。

人質として黒幕のそばにいたらしいりんちゃんは、終始その笑い声を聞いていた。

 

「すたんど、ざんぱくとう。あのクソ野郎はそう言ってた。結局姿も顔も見てない。覚えてるのはあの右手と声」

「すたんど?」

「悪いけど名前しか知らない。どっちも。あとは化け物のことほろうって呼んでた」

「ほろうねぇ……」

「……すたんど」

「貴族様?」

 

すたんどに聞き覚えがあったのか考え込んでいる貴族様。声をかけても反応もなし。

 

「キーワードがあるなら、調べてたり?」

「思い出したの昨日よ?1日じゃまださっぱり。とりあえずネットじゃ出てこなかったわ。当て字とかなら最悪ね。当てられる気がしない。けど読みでも引っかからないとなると手が出ないのよね。だから同じ事情を抱えてるかもしれないそらに話聞きに来たんだけど……」

「ごめんね。話した通りひとりぼっちの天界人じゃ心当たりはないよ」

「みたいね。けど、わかったことはある。4人いて4人とも違う異能なんだから、多分把握してるのはそれを持ってる本人だけよ。あるいは、あのクソ野郎も知ってるんだろうけど」

「あー。りんちゃん?花の乙女がクソ野郎を連呼「そうね。クソ野郎に失礼よね」……貴族様」

 

普段から女性たるものと大変ありがたい説法を下さる貴族様に助けを求めるも、しかめっ面に腕を組んでこちらの話など聞いている様子ですらない。悩む姿も大変お美しい。

 

「腹括ったわ」

 

助けを求めている間に腹をくくったらしいりんちゃん。こちらはいくらしかめっ面しても可愛い域から凛々しい域へは抜け切らない。

どんな方向に腹をくくったのか皆目見当もつかない私は恐る恐る聞いてみた。

 

「直接聞く」

 

聞いてどうするんだろう、と思わないでもないけれど、馬に蹴られたくはなかったから、そりゃあいいと返しておいた。

 

翌日件の彼と告白がどうのと喧嘩別れして不愉快げに枕にあたり散らす彼女を見て止めた方が良かったと思ったが、結果論である。無力な私にはどうしようもない。

 

 

食堂から階段を登って降りて。

校舎を出れば、第一アリーナの向こうが第二アリーナだ。

天界人の鋭い嗅覚でも血の匂いは感知できない。

貴族様はまだ一線を超えてはいないらしい。

 

ホッと一息ついてまた走り出そうとすれば、向こうから走ってくる集団が目に入った。

 

「先生は!?」

「一護が呼びにいってます!今どうなってます!?」

 

集団の先頭の少女、おそらく先輩、の必死の呼び声に、凛ちゃんが返す。その返答に顔を歪めた少女は、思い返すのも嫌そうに顔を歪める。

 

「わかんないわよ!イギリスの子がっ!あの子のっ、血がっ!」

 

そのままボロボロと涙を流し始める先輩を筆頭に、後続の子たちも涙を流したりその場に崩れ落ちたりと阿鼻叫喚の様相に。

 

先輩が恥も外聞もなく泣き始める様子にワタワタし始めたりんちゃんには申し訳ないが、あっちはもう猶予がなさそうだ。

 

「りんちゃん。ごめんこっちは任せた」

 

ギョッとこちらを向いたりんちゃんが何かを言う前に、

 

五ツ星神器

"電光石火"

 

車輪の神器を使い、目にも留まらぬ速さでその場を離れる。

 

寮室の一件の、あの貴族様が周りも気にせず表に出ているのならもはや一刻の猶予もない。

 

 

回す。

回す。

車輪を回す。

 

車輪についたスパイクが回転を推進力へと変える。

牛を模した靴に岩のような車輪。

スパイクというより、杭と呼ぶにふさわしいそれが車輪の周りについている。

天界力を燃やして回す。

杭が地面に食い込んで一層加速する。

 

早く。はやく。はやく!

 

頭をよぎった最悪のケース。

"先読み"の免許皆伝が恨めしい。

嫌な予感が実現しない根拠が何一つ思い当たらない。

 

 

がちん。と。

アリーナのドアを蹴破る。

 

はじめに感じたのはうっすらとした血の匂い。

次は空気が焦げたような熱。

 

そんな場所で。

 

上半身と下半身が両断されている男子生徒に、回避に徹している箒。

哄笑しながらレーザーをばら撒いている貴族様。

 

「さあ!さあ!篠ノ之さん!教えてくださいまし!」

「お前こそ!何を知っている!!」

 

半分になった男が、セシリアを指差す。

 

嗚呼。

まずい。

 

既に詰めろだ。

 

「セシリアっ!!受け止めろっ!!」

 

一ツ星神器

砲撃の神器"鉄"

 

寸分たがわず、貴族様に向けて。

天界力を込めて思いっきり。

 

バカン。

と大きな音を立てて、砲弾が貴族様に向かう。

 

当然貴族様は思いもよらぬ攻撃に防御も回避も間に合わず、アリーナを覆うシールドまで吹っ飛ぶ。

 

そして鬼気迫る表情でわたしを睨みつけた。

 

そう。睨みつけた。

私と貴族様を遮るはずの砲弾はどこにいった?

 

「織斑君かな?ソレは流石に人に向けるものだとは思えないんだけど。ISのシールド越しでも無事じゃ済まないんじゃない?それ」

 

上半身と下半身が分断されている彼は。顔を上げこちらを見つめる。

 

「俺は殺されかけた。箒も攻撃を受けてる。攻撃しない理由がない」

 

上半身は地面に飲み込まれ、下半身が起き上がる。

右手の砲身を睨みつけながら左手の薬指をこちらに向け言葉を切った。

 

まるで奇術だ。

起き上がった彼は五体満足でどこもかけちゃいない。

 

「じゃ、私は攻撃をされるいわれはないはずだ。で。貴族様落ち着いた?法治国家じゃ、理由はどうあれ大抵手を出したほうが悪くなる」

 

神器を解除して両手をあげる。

貴族様に目を向けながら、それでも織斑君を視野から外さない。

 

"鉄"の砲弾は、何かに飲み込まれた。

あれが貴族様に当たっていたらと思うとゾッとする。

 

"先読み"は大当たり。

しかも悪いほうに補正がある。

こんな異能もあるのか。

 

当たったものを消す。なんて異能、想像だにしなかった。

 

そんなものを望む人がいるなんて。

 

「ああ。よかった。生きてましたのね、一夏さん。それに異能持ちだったなんて。素敵。あ。お礼は言いませんわよ。そらさん」

「礼じゃなくて謝罪が欲しいね。こんな状況じゃ。今夜の予定はぱぁだ」

「あら。セッティングといえばセッティングじゃありませんの。そらさん今ですよ。今こそ箒さんに言うべきじゃありませんか」

「この状況で?よくて嵌めようとしたなんて思われるのがオチじゃないか。何言ったって後の祭り」

 

まあ、とはいえ。

行動あるのみ。

言いたいことは言うべきか。

 

「箒。仲直りをしよう。私は、君と仲良くしたい」

「……お前、頭大丈夫か」

「ごもっとも。が。まあ、そりゃそうか。状況が最悪。けどそれはそれとして、口がきけるときに言わないとね。絶交とか嫌だし。今、このままなぁなぁで解散したらラブロマンばりのすれ違——」

 

腕の神器

二ツ星神器

"威風堂々"

 

右腕の包帯が一人でに解け、飛び上がり、巨大な腕に変じて姿を消す。

 

「……織斑君。攻撃をされるいわれはないと思うんだけど」

「これは箒とセシリアの問題だ。口を出すな」

「おや君も口を出せないね」

 

だらんと垂れた右腕に少し重心がぶれる。

織斑君の指は、そのブレと同じように揺れる。

 

「私は二人の友人だ。当然、私の問題であると声高に主張しようか?」

「セシリアの味方だな?なら俺の敵だ」

「どっちの味方でもあるし、君と敵対した覚えはないね」

「俺は「はっきり言えよ。転生者は敵だ。ここで殺す。つまり、そういうことだろう?」……」

 

はっきりと、織斑一夏と目を合わせる。

ああ。こんな目ばっかりだ。

 

身に覚えのない恨みを向けられても困る。

 

「そんな攻撃に特化した異能を迷わず人に向けて使うくらいだ。君の中で結論は出たんだろう。私は、君の敵かい?」

 

迷いなく、明るく光る瞳。

覚悟を決めている目だ。

 

真っ直ぐ私を見つめている。

 

「けどいい加減うんざりだ。負い目のあるところをネチネチ言われるのはもう限界。面倒極まりない。転生したことについてとやかく言われるのは仕方ない。あれは唾棄すべき選択だった。だがね。生まれ直してからこれまでのことで私には何も恥ずべきことはない」

 

貴族様にも、箒にも、君も理由があるだろうが、

 

「私にだって理由がある。一纏めにされるのは心外だ」

 

横に飛ぶ。小さな風切り音が過ぎて後ろから破砕音が聞こえる。

 

「3度目。爪を飛ばす。当たったらズドン。渦、かな?何かに巻き込まれて消える。さすがにもうわかる。織斑君。我慢できるうちにやめてくれ。可能なら、攻撃したくない」

 

今度は小指。

それが最後か?右手は?リロードは?

考えろ。考えろ。

 

「はっ。信じられるかよ」

「だったら箒に聞いてみてくれ。私は信用に足るか否か。なんせ小学校を同じくした幼馴染だ。喧嘩中とは言え——

 

右に後ろに飛んで跳ねて計3発。右手は現在薬指がこっちに向いている。

 

「お前はずっと騙してたのか!幼馴染の信頼を!友情を!」

 

箒を庇うように前に立つ男。

その、背後の箒は、

 

「……ああ」

 

見覚えの、ある顔だ。

 

「絶対にお前はここで「もういい。聞きたくない」っく!」

 

思わず飛び出して反撃に構わず蹴りつける。

既に生物化させていた服が、私から離れて消える。

 

これで小指の爪(弾)まで打ち切らせた。

 

肌着一枚になって私に目を白黒させる織斑一夏は鍛えているのか、私の蹴り程度ではこゆるぎもしない。

 

踏ん張りは強い。

服の上からわかる程度には筋肉質。

天界人(多少丈夫なだけ)の蹴りでは不足。

動揺も少し。視線は揺れるが外れることはない。

それなりに場数はこなしてそう。

 

「っっ」

「服を剥ぐとは随分素敵な異能だね」

 

"無生物"を"生物"に変える力

織斑一夏の服を生物に変える。

 

「ぐっ」

「当たれば必殺なのは君だけじゃないぞ」

 

ISを使用する際に着用するスーツ。

操縦者とISの接地面積を広げるために、水着に比べ多少露出はマシ程度のそれは、けれど丈夫で伸縮性の高い素材で編まれている。

 

全身を覆うレオタードであれば、生物化すれば拘束技に早変わり。とはいえ強度には不安がある、ISスーツでは焼け石に水程度の効果しか期待はできないかもしれない。胸部と二の腕までしか布のない織斑一夏のものでは、せいぜい息苦しくなる程度の拘束にしかならないだろう。

 

だが、そもそも。

拘束で終わらせるつもりはない。

 

血塗れのまま、幼い箒ににじり寄る暴漢を思い出す。

この男は、私の、敵だ。

 

四ツ星神器

断頭台の神器

"唯我独尊"

 

生物化してISスーツを神器に変える。

 

渾身の怒りを込めて。

ありったけの力を込めて。

 

ISスーツが姿を変える。

それは牙を持った魚。

禍々しき魔物たる仮面。

大口を開けた魔物の、その名を——

 

「"銀の戦車"ッッ!!」

「ブルーティアーズッ!!」

 

示すことなく、閃光と共に四散した。

 

「箒はともかく、貴族様が邪魔するとは思わなかったな」

「あら。私は箒さんはともかく、一夏さんとはお友達以上になりますわよ?」

「趣味の悪いことで、私は友達じゃないって?」

「あら。だから止めたんじゃないですの」

「やだなぁ。私が怒りにわれを忘れるって?さすが貴族様ユーモア抜群じゃないか。"威風堂々"」

 

千切れてバラバラの布切れが、赤黒い巨腕に変わり。渦とともに消える。

 

「織斑一夏。君がまだ親指に弾(爪)を残していることは知っているし、なんなら足からも攻撃可能なんじゃないかって思ってる。そもそも弾になりうるのは爪だけじゃないかもしれないのに、警戒解くわけないじゃないか」

 

忌々しげにこちらを見る織斑一夏に目を合わせることなく、彼のそばに立つ箒を見つめる。

 

「さて。箒。……いや、ごめんね。篠崎さん。迷惑をかけた。これで、さよならだ。事情は、歯抜けでしか知らないけれど、もし機会があれば、貴族様やりんちゃんとは話してあげて、話聞きたがってたから」

「まっ「私も謝って欲しいのですが」っ」

「身から出た錆でしょ。篠崎さんも話せばわかってくれるだろうし、後日日を改めれば?……まあ、調整してくれたのには礼を言う」

「そうですね。調整の礼に休日携帯電話でも買いに行きましょうか。明後日は空いてますわよね」

「どうだったかな」

 

そう言って歩き出す。

 

「あ。貴族様ジャージか何か、かしてよ。洗濯して返すからさ」

「ええ。231のロッカーに入ってますわ」

「ありがと。助かるよ。流石に下着で歩けるほど人目を無視はできないや」

 

じゃあね。と手を振って彼女たちに背を向けて歩き出す。

ロッカールームへ入る前、アリーナへ駆け込んできたりんちゃんたちとすれ違う。

 

彼女とその背を追う男子生徒がギョッとこちらに目を向けるが、気にせずロッカールームへ入って貴族様のジャージを借りる。

 

手の中でクシャクシャにしたジャージにため息をついて、一つ大きく深呼吸。借り物に八つ当たりはまずい。若さを理由にするにもあんまりだ。

ジャージを着て静かにアリーナから出る。

天界人の聴力は、まだアリーナの中が落ち着いていないことを知られるけれど、もうどうでもいい。

 

みんなしたいようにするんだろう。

 

私だってそうする。

 

誰かがアリーナの出口に近づいてくる音を聞いて、急いでそこから立ち去った。

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