バカは死んでも治らない   作:さっさかっぱー

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二十三.五話 インターバル

「で?二人は仲良くなりました。って?」

 

鞄に着替えを放り込む私に、りんちゃんは首を傾げる。

 

「……たぶん」

「不安そうなのが気になるけど。ま、いいわ。そらと箒のことだし。なんとかなるでしょ。それに一組は今後合同授業も多そうだし不和は解消しとかないとね」

 

退院の荷造りの手を止める。

 

「え。合同授業あるの?一組と?」

「そりゃあるでしょ。実技を各クラスでやってたらIS足りないし」

「……」

「何その顔。箒との仲直りやっぱできてない?」

「箒、というか。繰越代表へというか」

「……一応私の幼馴染なんだけど」

 

嫌な顔を隠そうとしない私にりんちゃんが苦言を呈する。

 

「生まれは選べないもんね」

「怒るわよ」

「人と人とのことなんで。まあ仕方ない」

「まさか箒にも似たような話したんじゃないでしょうね」

 

図星を突かれてふへへと笑う。

笑うしかない。

 

今度とも仲良くね。なんて話からあの男の話になるのだ。

彼への苦言を呈すれば以前同様の喧嘩が勃発。

 

朝一様子を見にきた貴族様に状況を報告すれば呆れ顔でデコピンをもらった。

 

「協力はともかくとして、喧嘩、はまあ別にいいか。けど仲良くしてね友達同士で仲悪いのも気分よくないし」

 

友達。

一組代表と同列に並べられるのことに思うところはあるが、そう評されることに悪い気はしない。

 

「まあおいおいね。善処したくはないけど今後前向きに検討するかも」

「ええ。ぜひ検討して一夏は私がオとすんだから。将来的にはセットよ、セット。仲人はお願いね」

「あん……。そうなれば腹括る。応援しかねるけど、頑張って」

 

あんな男のどこが。

口をついて出かけて、あんまりな物言いに言葉を変える。

 

そもそも失礼だし、あんな男の惚気話なんて聞きたくない。

何より昨日の焼き直しをするつもりはない。

 

対話の梯子を外して、武力行使してくる男である。

事情はあるのだろうが、いい印象はない。

とはいえ、あの織斑先生の弟だ。暗い過去とか転生者のいざこざとかそんなところだろう。一緒くたのされるのは心外である。

 

なにせ三十三人の転生者との闘争があったのだ。

そりゃ人格も歪む。

なにせ竜と猿ごちゃ混ぜにして魔法を使いたいと曰う人間である。その人格も推して知るべし。絶対特殊性癖持ってそう。

 

「はい。この話おしまい。何が悲しくて惚気話聞かなくちゃいけないのか」

「あら華の女子高生よ。恋バナの一つや二つして当然じゃない」

 

それは私にとって鬼門です。

 

「はいはい。また今度ね」

「え?今度聞かせてもらえるの?」

「そういう話があれば、するかもね」

 

一生するつもりはないが。

 

荷造りを再開しながら、りんちゃんの話を聞く。

 

座学もだいぶ完了に近づき、来たるISの実習に向けてだいぶ盛り上がっているらしい。

 

転入当初、妙な雰囲気になりはしたが、もうかれこれ半月。

物怖じしないりんちゃんの性格と、問題になりかけた私と仲良くしていることも相まってクラスの中心、とまでは行かないにしろ、だいぶ馴染んでいるようだ。

名ばかり代表とはいえ、クラスでの不和は解消したい。

 

というか、授業でまだ動かし方すら習ってないのに模擬戦させるとか頭のネジが外れているとしか思えない。直感的に操作できるISならではかもしれないが、それにしたってどうかと思う。

 

「あ、よかった。まだいた。りーん。委員長も。退院おめでとう。荷物大丈夫?」

 

人手ならいっぱいあるよ。とクラスメイトの面々が保健室に顔を出した。

 

「お。まってたわよ。さ。そら。行きましょうか」

「退院程度で大袈裟な。みんな来てくれてありがとう。けど鞄ひとつだし、別に人手は「はいはい。とりあえず持つからけが人はついてきなさい」ちょっと」

 

りんちゃんに鞄を奪われ、そのままクラスの面々に放り投げられる。

 

「了解!先に向かっております!」

 

受け取った咲さん、清澄咲、はビシッと敬礼を決めると、いつも仲良くしいているクラリスさん、クラリス・R・カリオス、と一緒に廊下の向こうに走り出す。

 

「……あっち、寮と逆だと思うんだけど」

「いいからいいから。サ、イインチョもいこっ!」

 

そっと左手をナターシャ、ナターシャ・ウィドウに取られ、背をアラナさん、アラナ・ベロに押される。

北欧と南米出身の彼女たちに挟まれると、ガタイで負けている私としては抵抗のしようもなく、彼女たちの思うままに連行される。

 

「りんちゃん。謀ったね」

「嵌められる方が悪いのよ」

 

せめて自由に動く口だけでも、とりんちゃんに向けるが、明るく笑うりんちゃんは気にした様子もない。

 

「さ!時間もないし、行くわよ!」

「どこに」

 

小さく笑うクラスメイトたちは、華やかに笑う。

 

「祭りよ!」

 

……お嬢ちゃんたち元気そうでおじさんは何よりですよ。

 

 

 

連れて行かれたのは貸切状態の学食。

見慣れないコックさんたちがささっと大テーブルに料理を並べている。

 

「バイキング?」

「イインチョ。おっさん臭いよ。ビュッフェよ。ビュッフェ」

 

……バイキングはおっさんなのか。

 

ナターシャの心ない言葉にショックを受けていると、バタついたまま慌ただしく食堂を走っている集団が目に入った。

 

「あ。キタキタ。クラリス!そっち持って!」

「サキ!ちょっと待って!」

 

ばたついてる高崎さんとクラリスさんの様子に目を向ければ背後のアラナさんに目を塞がれる。

 

「もう少し、まってて。ここ椅子ね。座って」

 

ゆっくりと幼子に言い聞かせるように噛み締めて話すアラナさんは、そっと手を添えて私を優しく座らせる。自分で座るより楽に座れて驚く。右手の怪我に配慮した動きから察するにずいぶん慣れているらしい。

 

シュルル。と布擦れの音にさらりと目隠しをされる。

 

「耳は、まあ、いいわ。もう少し待ってね」

 

咲さんとクラリスさんが用意していた「祝・退 なんとか」と書かれていた段幕はすでに見えてしまっているので、今更目隠しをされても意味ないと思うが。まあこちらを思ってのことだろう。

 

サプライズを企画されるなんてこれまでを含めても初めてだし、素直に嬉しい。

 

楽しげに話すクラスメイトたちに、恭しく準備の完了を告げる男性の声。見慣れないコックだろうか。

 

「そら。目。開けていいわよ」

「じっとしててね」

 

りんちゃんの声に応じて、耳元で艶やかに囁くアナラさん。

ちょっと女子高生が発していい色気じゃない。

 

さっきからおっさんがビンビンなんだけど。

息遣いからしてもうなんか年齢詐称してる疑惑ある。

 

はらり。と。

布を外される。ずいぶん物々しい柄のハンカチだ。

サラリとたたんでポケットにしまうアナラさんの指差す方を見る。

 

「祝え!我らが長の復活の宴である!」

「松本そら復活!松本そら復活!」

 

長いマフラーを巻いたアーニャ、アーニャ・ウォズニック、の掛け声に、りんちゃんの喝采が重なる。サプライズには詳しくないが、単純にうるさい。

 

復活!復活!と騒ぐクラスメイトを見ていると二週間前の狂騒は貴族様の影響なんてなかったんじゃないかと思えてくる。

 

果たして卵が先か、鶏が先か。

考えるのが怖くなったので考えを止める。

 

声を受け、立ち上がり両手を天に突き上げてみれば、一層声高に復活!復活!との声が大きくなる。

舞台の中心はこんな気分なんだろうか。皆から喝采を受けるのはこれほど気分がいいとは。

 

そのまま喝采をその身に受けながら中央へと歩きまわりへと笑いかける。もはや何がどこに受けているのかわからないが、黄色い歓声が止む気配はない。望まれるがまま、笑みを作りポーズを決め中央でクルクルと回る。

 

目を点にしたコックさんが目に入って我に帰る。

顔に血が集まるのを感じる。めっちゃ暑い。

赤くなっているであろう私を見てクラスメイトが囃立てるが、咳払いをして落ち着け、手で示す。

 

「あー。うん。失礼。はしゃぎすぎた」

「えー、もっとはしゃいでもよかったのに」

「咲さん?その手の携帯まさか写メとかしてないよね」

「写メ?あ、うん。写真は撮ってないよ。動画。委員長の勇姿をね。みんなに知ってほしいし」

 

うんうんと一様にうなずくクラスメイトたちの手には同じく携帯が。

というか勇姿。勇姿ときたか。ずいぶんとイイ言い回しである。

 

「……あー。勘弁してくれる?」

「いいじゃん。結構委員長のこと知りたいって人いるよ?動画あれば一発だし」

 

勇姿(痴態)を見せられても困る。

というか私のことを知りたいなんて嫌な予感しかしない。

 

「誰かな、そんな物好き。私なんかやらかした?」

「部活の先輩。ね?」

 

クラリスさんは咲さんの声を受けてうなずく。

 

「Yes. ボードゲーム部は少数ですので、まだ部活動してない有望な人間は、と。聞かれました」

「我らが長ともなれば、引く手数多。数多くの誘いがあるでしょう。かくいう私もその一人」

 

ヌッとカットインするアーニャに思わずのけぞる。

 

「アーニャさん演劇部だっけ?」

「私としてはレトロ機部の方へ加入いただきたい」

 

曰くアナログな腕時計とか一昔前の機械をいじる部らしい。

ちょっと面白そう。

 

「はいはい。そこまでよそこまで。今部活の勧誘なんてしたらそれだけで終わっちゃうじゃない。まずは乾杯から。そうでしょ?」

 

歯車の装飾のある本を片手にアナログの良さを語り始めるアーニャさんに心揺り動かされていると、りんちゃんがアーニャさんを剥がす。

そして、私の前に背を向けて、クラスメイトに向かってない胸張って仁王立つ。

 

「さ!せっかくトニーさんが作ってくれた料理が冷めちゃうわ!料理屋の娘としてそんなの許せないから、さっさと乾杯して食べちゃいましょ!」

 

そう言って。私に緑色の液体の入ったコップを渡して、中央へと誘導する。

 

「さ、主役の挨拶。冷めちゃう前に」

 

こういうのは幹事が音頭を取るものじゃないだろうか。というかこの緑の液体はなんだ。

 

「ほら」

 

目での訴えは通じなかったらしい。皆に観られると先ほどの痴態を思い出すので、嫌なんだけど。

 

「……」

 

じっ。とこちらを見つめる八十の目。

関係ないのに面白そうに笑っているコックさんに腹が立つ。

しばらく黙って立っているが、八十の目に変化はない。

何か言わなければ終わらないらしい。

 

「あー。えっと。松本そらです。いきなりこんなとこ放り出されて困惑してます。が、まあ。……見ての通り、完全復活しました!」

 

そう言って先ほど同様両手を上げるが、皆の目は右手の包帯と頭の包帯、後は脇腹から溢れている包帯の切れ端に目が向いている。

 

「……咲さん。とりあえずその携帯閉じて。録画はやめて。この空気感を記録に残すというなら私にも考えがあるぞ」

 

ニコニコしたまま携帯を微動だにさせない咲さんは、カメラ目線いいよ!なんてのたまう。

意地でも残すつもりらしい。

 

小さく息を吐いて、さっさと終われせる方向へ思考を切り替える。

宴会の最初。ならそれなりに盛り上げればいいだろう。どうせならアーニャさんとりんちゃんがカマした時に始めればよかったんだ。あれ以上は流石に無理だろう。

 

「ごほん。まずは、この場を開いてくれたりんちゃんに感謝を。ただ、挨拶押し付けたのは忘れないからな。次の模擬戦で目にもの見せてやる」

 

待ってるわよー。との返しに小さな笑いが広がる。

つかみは悪くない。

 

「集まってくれたみんなにも感謝を。1ヶ月とちょっと、委員長としてやってこれたのはみんなのおかげだ。林間学校、学祭、対抗戦。イベントは目白押しだ。厳しい指導もあるだろうけれど、私はみんなが楽しめるように頑張るから、よろしくお願いしたい。あー。ただ操縦とかその辺はりんちゃんに聞いて。なにせ代表候補生。素人よりはよほど詳しい。私は一生徒でしかないからね」

 

演説をしたことはない。

せいぜいが客へのプレゼン程度だ。

 

前々世の経験を思い出す。

プレゼンの肝は要点を抑えているかどうかだ。

 

面白さは、まあ勘弁。

私に期待されても困る。

 

いかに無駄を抑えてポイントを伝えられるか。

プレゼンの肝はそこだ。

 

けれど、考えながら話したせいかすでに短くない。むしろ長い。

 

「次は学年総出のトーナメントかな?是非このクラスから優勝者を出して、またみんなで集まれればと思う。その時は私が幹事をさせてもらおうとも!さ!長くなったが乾杯にしよう。冷めていく料理を見るりんちゃんの目が怖い」

 

手に持ったコップを掲げる。

そういえばこの緑の液体はなんだろうか。

 

「みんなの思いやりと、2組の未来を祝して、乾杯!」

 

乾杯!と重なる声に緑の液体を飲み干す。

 

得体のしれない割に普通に美味しいのが逆に不気味だった。

 


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