バカは死んでも治らない   作:さっさかっぱー

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三話 ーインターバルー

前略ごめんください。

布仏本音様

 

食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋…。どんな秋をお過ごしですか。

本音であれば、ぼんやりとしていながら全部楽しんでいるようにも思えます。

季節の変わり目は体調も崩しやすいでしょうし、お体にお気をつけください。夏と思えるほど暑い日もありますが、お腹出して寝ないように。

 

さて、転校してからはや一年半、細々と続くこのやり取りもかれこれ何通目でしょうか。とりあえず、取り溜めてあるファイルは二冊目になったので、それなりにの数になっているとは思いますが。

なんでこんな話をするかといえば、書くネタがないからです。

こちらは変わらず、お世話になっているひで爺さんの小屋で紅葉を見ながらハンバーガーを食べたり、篠崎さんの素振りを見ながらうたた寝たり、ちびっこたちの失せ物を探したり。あいも変わらず時間を食い潰す日々を送っております。

運動会や文化祭でもあればネタの一つにでもなるのでしょうが、生憎うちの学校では一学期と三学期ですし。

二学期の一大イベントである紅葉狩りについても、先週の手紙に書いてしまいましたし。便箋に向かう今でも、何を書けばいいのかわからぬままです。

 

ただ、いつも通り学校から帰って机の上にひで爺が置いてくれた本音の手紙を読んだら_______

 

 

無性に声を聞きたくなった。

そう書こうとして右手で便箋を握りつぶした。

 

 

「ん?どうした?」

「なんでもない。ちょっと暴走した手に喝を入れたところ」

「??まあ、なんでもないならいいが」

 

まさか乙女な自分に総毛立ったとは言えまい。

ひらひらと手を振る私を見ると、篠崎さんは、こう呼ぶと彼女は怒る、何が楽しいのか素振りを再開する。

 

規則正しく全身で。

上から下に、構えなおして。上から下に。

前に後ろに前に。

たったったった。とメトロノームのような彼女は、眠気を誘う誘蛾灯のよう。

けれど、その格好は奇天烈で、腰や背につけた何かしらがふらふら揺れてがしゃがしゃ鳴って、穏やかとは程遠い様相だ。

 

今でこそコレを前にして寝られているが、今でならコレが子守唄がわりになるが、彼女と慣れていない頃は、ましては初めての時は酷かった。

 

この昼寝に最適な場所を見つけて、一人で伸びやかに過ごしていたのは、ここに転校して来てから三日後。

日当たりが良くてほどほどに暖かくて、座り心地のいい木か岩があって雨宿りもできて、背もたれっぽい何かがありさえすればどこでだって寝られる私であっても昼寝ポイントに妥協は許されない。正直半年かかっても見つけられないと踏んでいたのに、たかだか三日で見つけられたことは拍子抜けだった。

とはいえ絶好のポイントすぎて信じてもいない神様に祈った上に、本音への手紙がいつもの五倍になるくらいには浮かれていた。

けれど、一人で過ごす穏やかな時間は長くは続かなかった。

 

目の前で素振りをする彼女。

木にもたれ平穏を体現していた私の前に竹刀やら何やら諸々背負って現れた彼女は、私の平穏をぶち壊した。

彼女のあまりに奇天烈な格好に目を丸くして木の根から転げ落ちた私は、同じく目を丸くして頬を染める彼女に助け起こされた。

 

「そんなに変か?」

 

それが彼女と私の最初の一歩。

友人ほど近くないが、それでもそれなりには近い距離。

以来彼女は微睡む私の目の前で、がしゃがしゃふらふら素振る毎日。

交わす言葉はこんにちはとさようなら。

 

何が気に入ったのか私の絶好昼寝ポイントの目の前でガッチャンバッチャン。耳障りだし格好が煩いし私史上、前世を含んでも、最高のポイントでなければ渡り鳥のごとく別ポイントを探しに出るところだ。

ただ、別ポイントを探しに出なかったのは彼女の目、全身で五月蝿さを体現している格好にも関わらずそれとは真逆の静けさを纏った両目、あの目が原因だ。

どこか、一度目に死別した先輩にも似た気配を、危ういものを感じた私は彼女をほったらかすこともそれに触れることもできず、その場でうたた寝ることにした。

 

とはいえ穏やかには程遠く、二日後にはどこから漏れたかクラスのちびっ子や先輩方もこの場所を嗅ぎつけて。

そこから先は平穏とは縁遠いものになった。

…………まあ、それもせいぜい三十分程度なもので、私たちが素振るかうたた寝ることしかしていないとわかれば、ここいらで遊んでいた皆さんも飽きて別の場所に向かうようになった。

私としては日暮れにかけての十分ほど。徐々に暗くなる木々の中ゆっくりと登る月を眺められればそれでいい。

もっとも、そんな光景が見られるのも月に一度くらいだが。

 

今日も先ほどまでちびっこたちがいたのだが、彼女とのかけっこで勝てないことに文句を言って私が汚れを払った服をパッととるとその足でどこかへ行ってしまった。

どこか寂しげに彼らを見送った彼女はそのままいつものように素振りを始めた。

がしゃがしゃ鳴る不思議な格好を眺めながら便箋と筆記具を出して、何にもない中から何を書こうかと頭をひねっていたのだ。

 

彼女と私の話か。

ソレを書くのはどうだろうか。

けれど、特に語るところはない。

挨拶を交わしたり、たまに課題の相談をしあうようなよく言ってもクラスメイトがせいぜいの関係だ。

悪く表現すればベストプレイスを侵略する彼女と、みみっちくそこから離れない私。侵略者と防衛者とも言える。

 

たまに混じる小学生も、奇天烈な格好で一定のリズムで踊るような彼女の真似をしてそれに飽きたらどこかに消える。火曜か木曜、週一程度でくるあの子たちは、多分きっと私たちが爪弾きにならないように、というお姉さんの配慮なんだろう。

 

ああ、そうだ。

お姉さんのことを書こう。

今年で中学校を卒業して、ここを離れ全寮制の私立高校に向かう彼女のこと。

笑顔で後輩と遊ぶ彼女のこと。穏やかにちびっこの世話を焼く彼女のこと。余所者も暖かく招き入れた彼女のこと。冷めた目で鏡を見つめる彼女のこと。

 

書くことが決まれば、あとは容易い。

思うままにつらつらと。

先ほどまでは煩わしかったがしゃがしゃも、筆が進み始めればなんて事はない。

彼女の素振りが終わる頃には私は手紙を書き終えて、どの封筒を使おうかと夢現で考えていた。

 

コツンと頭をつっつかれて、目を向けると目の前の篠崎さんが。

竹刀で空を示してそっちを見ろと言いたげに目を向ける。

何だ何だと目を向ければ、木々の隙間から登る大きな満月。

月に一度の大スペクタクル。

 

ほぅ。と。

息が漏れたのは多分私。

だって篠崎さんは忌々しげに月を一瞥して竹刀を袋に入れて帰り支度をしているから。

 

「ありがとう」

 

私がこの光景を楽しみにしているのを知っているのは驚きだったが。というか、彼女が私の様子を気にしているなんて思っても見なかった。

 

「…………月好きなのか」

「……。目で追うくらいには?」

「なぜだ?」

「変わらないから」

「ん?」

「どこで見ようが誰と見ようが。月は」

「…………変わらないものなら、月より太陽だろう。不実な月など……」

「……シャイクスピア?意外と文学少女。ほら。太陽は見るのが、「面倒か」……うん。よくわかってるね。さては私のファンだね?」

「ファンじゃない。友達だ」

「え?」

 

ムスッとしながら返す彼女に思わずとぼける形になってしまった。

ムスッとからムッとに変わって、踵を返す彼女に慌てて声をかける。

 

「ありがとう。篠崎改めて箒ちゃん。体育会系な遊びは好きじゃない私だけれど、そう言ってくれるのは嬉しいな」

 

一本筋の通った彼女。

裏切りに怯える彼女。

だからこそ、彼女の言葉に嘘はない。きっと。

 

もうちょっと街中の、学年ごとにクラスができる学校なら多分縁も所縁も無かっただろう彼女。

 

多分、同年代が二人だけだからこそそういうことになったんだろう。とはいえ、私が好ましく思っているのだから私としては諸手を上げたい。進学で別れて縁が露と消えたって、別になんてことはない。未来の私が悲しむだけさ。

 

ムスッとした彼女に慌てて荷物をまとめて追いつくと、やや頬を染めているのに触れないように一緒に帰ろうよ。と声をかける。

 

ああ、こんなことになるなら手紙、もうちょっと悩んでもよかったな。本音に友達を紹介したかったなぁ。

 

 

一筆申し上げます。

松本そら様

 

こたつがほしい季節になりました。こたつで食べるアイスを心待ちにしています。山の方では雪が降ったところもあるみたいですね。そららのところも降ったのかな?こちらはあんまり降らないので、少し羨ましいです。そららと雪だるま作りたいなぁ。

 

IS学びに都内の学校に行くってすごいお姉さんですね。空飛べたら楽しいだろうけど、私は別にいいかなー。

けど、飛べたらそららのとこまでパッといけて良さそう。

そういえば、ISを学ぶ専門学校ができるんだって。もうちょっと先のことになるらしいけど。お父さんがそんなこと言ってた。

空飛ぶ練習なんて素敵だなぁ。ISに乗れば私も空を飛べるかな?

どうせ飛ぶならそららと一緒に飛びたいです。

友達と空飛ぶなんて、それはとっても素敵だなって。

 

山の方は寒暖の差が激しいって聞きました。

体調崩されませんよう、ご自愛ください。

 

かしこ

布仏本音

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