バカは死んでも治らない   作:さっさかっぱー

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四話 中編 ーきゅうてんちょっかー

電撃戦になると思ったんだけれどなぁ。

 

ハンバーガーから尻を突き出して倒れている男を見ながら物思いに耽る。

神器を使った。暴漢も悲鳴をあげていた。

音はそれなりにたったはず。

間髪入れずに外にいるだろう見張りが飛び込んでくるだろうという予想は大外れ。

思い出したように机に駆け寄って、武器になりそうなものを探すことしばし。

以前と変わらない場所にしまってったナイフを見つけて、慌てて掴む。折りたたまれたナイフを広げるには慌てすぎていたのか、開くときに指をひどく切ってしまう。けれど、今はアドレナリンが大量に分泌されているのか痛みらしい痛みを感じない。

けれど、ナイフ開く程度でこれとは相当に切羽詰まっているようだ。

 

というか、ナイフよりよほど強力な力を持っているくせに、目に見える力に頼ろうとしているとは。

他人に力を振うことに思いの外動揺しているのか。

 

優に一週間分の食料になりそうなハンバーガーに挟まれている、窒息しているかもしれない男を見る。

伸された男が死んでいるのか生きているのかは不明。大きすぎるハンバーガーが思いの外不気味すぎて生存確認のために近づくのが怖い。この歳で前科一犯とは、我ながら平穏を目指すものの行いとは思えない。

 

一度目からずっと、争いとは縁遠い生活をしてきた。

二度目は槍で突き殺されたとはいえ、鮮やかすぎて暴力という感覚は覚えなかった。

それにそれまでは平穏そのものの人生だった。

 

その理由を知っている。

 

“平穏の才”

 

自称神様曰く、私にはその才能があったらしい。

人類史上類を見ないほどの強度を持つその才能は、使い方次第では世界平和すらたやすく実現出来るほどの強度を持つとか。

とは言え、私の三十余年の人生はその才能を内向きに特化させた。

つまり世界がどうあろうとも自分だけは平穏でいられるように特化させたらしい。

 

たとえ世界が戦火に染まろうと。

たとえ世界が貧困に喘いでも。

 

私だけはその色に沈まない、塗りつぶされない。

さながら沼に浮く蓮の葉のように。

私は何色にも染まらない。

 

自称神様は私の才能を欲しがった。

神様仲間と議論になったらしい世界平和の実現を手っ取り早く実現するツールとして私の才能を欲しがった。

だから“平穏の才”と引換えにいくつかの才とともに新しい人生を歩むことを了承した。

 

とは言え疑問ではあるのだ。

二度目でこそこういう出来事があるんじゃないのかと。

むしろ積極的に動いていた分この程度とは言わないまでももう少し騒動があっても良かったはずだ。

騒動らしい騒動が刺し殺されただけというのは納得がいかない。

 

 

「それは才能を剥ぎ取るのに思いの外時間が掛かったからだよ。」

 

 

ふと気が付けば、いつかの部屋にいて、私は松本そらでなく■■■■■だった。

 

「そして君が三度目の生を受けたこともそれに起因している。」

「つまり君が特化させた“才能”はこちらの想定以上に君に根付いていて、

「君はこちらの用意した“才能”を十全に受け取ってなどいなかったし、

「君の“平穏”もはぎ取れてなどいなかったんだ。」

「そしてこちらが苦心している間に君は○○○に刺し殺されて、

「君に死なれては困る僕としては、

「三度目という選択肢をとらせてもらったわけだ。」

「まあ、つまり。」

「ここから漸く僕たちに契約は始まるわけだ。」

 

つまりあなたは世界平和に邁進し、

 

「君は新たな生を送る。」

 

なるほど。

 

「君は一度分の得をしたとも言えるし、から回った分損をしているとも言えるけれど、

「ま、お互いの想定外だったし、仕方がない。」

 

たしかに。

契約外だ。

仕方がない。

 

「おっと、

「なんだい?」

「仕方がないなんて言いながらこの好戦的さは。」

「“唯我独尊”なんて今君が出せる最大火力じゃないか。」

 

神器を容易く止めるとはさすがだね。

 

仕込みがあったはずだ。

都合のいい異能の開拓なんてあり得ない。

これまで研究を重ねてきた結果ならわからないでもないが、能力らしい能力の行使は毎日のハンバーガーぐらいだ。

 

「研究は重ねてたろうに。四つ星天界人さん。」

「マッチポンプだとでも言いたいのかい?」

「無関係、とまではいえないが、

「仕組んでたわけじゃないよ。」

 

信じるとでも?

 

「そもそも職能力に関しては毎日使ってたんだろう?」

「飽きもせずハンバーガー漬けの毎日。」

「内心の変化もあったんだろう。」

「職能力なんてそんなものさ。」

「■■君はたやすく人に殴りかかるような人じゃあなかったからね。」

「内心の変化、自分の捉え方が変われば、たやすく獲得できる。」

「というか。予備知識もなしに四ツ星を開拓した人間が、

「職能力を開拓した程度で驚くのは不思議だね。」

 

四ツ星?

 

「ああ、その辺の知識は与えよう。」

「こちらに得があった分、

「君にもお返しをしないといけない。」

 

得?

 

「君の“平穏”は君すら殺してみせた。」

 

は?

 

「いやはや、流石に因果律に影響のあるものだという仮説が、まさか手に入る前に判明するとは。」

「幸運だった。」

「君が○○○に殺されていなかったら平穏とは程遠い生活になっただろうからね。」

「○○○を見ている限り。」

 

…………。

程遠い?

 

「ああ、表現として“平穏”がと言ってみたけれど、

「君を殺したのは間違いなく○○○だ。」

「表現には気を付けないとな。」

「ん?そう。良く君の元を訪れていた竜、或いは近所に住む神社の幼馴染。」

「父からの血筋、悪魔との契約。」

 

……竜?血統に悪魔?父さん?

 

「幼馴染の姫島朱乃、君に懐いていた少女オーフィス、そして天界人の血筋、

「混血児に竜、君の資質。」

「それは間違いなく君を平穏から遠ざける。」

「どうあがいても平穏にたどり着けなくなった瞬間、

「平穏にたどり着く可能性が潰えた瞬間、

「君はあっさりと、苦しむことなく○○○に殺された。」

 

…………。

彼もあなたが?

 

「ああ。バッティングしたのは想定外だった。」

「彼からは“可能性”を貰ったよ。」

「その代わりに望んだのはなんだったっけな……、

「たしか“槍”とそれを扱う“技能”それに“経歴”とかそんなだったかな?」

 

もしかして、この世界にも?

 

「前回に関しては不運なバッティングだった。」

「私の取引相手が偶然同じ世界に落ちるには稀なことでね。」

「勘違いさせたら悪いが、

「君の今世において私が第二の、第三以降の生を与えたのは、

「君くらいなものだ。」

「だが同じようなことを考えている奴は大勢居てね、

「いる可能性は否めない。」

「と、言うわけで、“平穏”を剥ぎ取った報告に来たわけだ。」

「だからこその君の状況であるとは言えるかもしれないけれどね。」

「"才"の反転。君の"平穏"を剥ぎ取って、そこに三つほど混ぜ込んだわけだけれど、

「どうもそれじゃあ釣り合いが取れなかったのかな?」

「"異能"だとか"才能"だとか、等価に交換するのは難しいんだ。」

「だから足りなかった分の"反転"が起きたのかもね。」

「"平穏"の"反転"が。」

 

…………。

 

「まあ反転に関しては契約外だ。」

「これから新たな生を楽しむといい。」

 

…………。

貴方が仕組んでないのならいい。

そうさせていただきます。

 

「まあ、よくよく見たら一度目の過少な渡し具合が、いい方向の傾けてるみたいだね。」

「小さな力だったからこそ、上手くコントロールできた。」

「挙句レベル2とはね。」

「それでトントンとする案もあったんだけれど、

「渡した方が研究に役立ちそうだ。」

「君の持つ異能の予備知識。」

「その基礎にある力の知識と、

「その果てにあるもののこと。」

「まあ、後者はすでに持ってるみたいで、

「必要なさそうだけれど。」

「あとは助言、というか神託かな?」

 

…………。

はぁ。

 

「予備知識もなしに四ツ星で、さらには職能力に至った君には素直に賞賛を送るよ。」

「僕と一緒に研究でもするかい?」

「まあ"平穏"の例もある、

「君はそういう自己進化とか、技術、異能、才能の先鋭化が得意なのかもね。」

「"才"というより、そういう特性なのかな?」

「私も君を真似て、こいつをこねくり回すとするよ。」

「最後に一つ神託を。」

「二度目と同じ結末を辿りたくないのなら、

「三度目は差異を学ぶといい。」

「さっきは否めないなんて言ったけど、

「そうである可能性は意外と高い。」

「僕はどうも二番煎じどころかブームに乗っかっただけっぽい。」

「それじゃ、いい生を。■■君。」

 

ええ。私も渇望できる夢を叶えられるよう頑張りますよ。

 

 

ふと、気がつけば。

あいも変わらず奇天烈なハンバーガーでに向かい合う状態に戻っていた。

時間感覚が揺らぎ一瞬だったのかそれなりに長い時間だったのかわからないまま、けれどそれを確認するまもなくひどい頭痛にうずくまる。

天界人。神器。繁華界。三界。職能力。天界力。地上に落ちた天界人の少年達の記録。世界の融合に伴う異変の記録。

ファンタジーの塊みたいな知識が頭をよぎり、そのままヨジ切れそうになる。

声もなく頭を抱えてうずくまっていると、後ろからドタバタと音が聞こえ、何かがこちらに駆け寄ってくる音が聞こえる。

 

「大丈夫か!!」

 

ああ。君かい。箒。

大丈夫大丈夫。ちょっと声出せないほど頭が痛いだけ。

 

「なっ。これは……!」

 

声から察するに彼女はひどく動揺しているようだが、頭痛でそれどころでない私としては、そちらに気を回せない。

 

バタバタと何かをしている様子が聞こえ始めてから一分ほど。

捩じ切れそうな痛みがジクジクという疼痛に変わって、周りを見られる程度に余裕が出てきた頃。落ち着いて手のひらの痛みが戻ってきた頃。

 

分厚いカーペットを引きづろうとしている彼女の姿を見つけた。

頭をさすりながら起き上がりなんの目的があるのか、明らかに彼女の力では引きづれていないカーペットの移動を手助けしようと近づき、カーペットに手を伸ばす。

 

けれど、カーペットに右手が届くことなく。

箒に跳ね除けられた手が、乾いた音を立てた。

右手に滴る血液がはねた絵の具のように壁を塗る。

子供がしてはいけないような鋭い目が私を見据えて、縫い付けた。

 

自分が思っている以上に傷ついた顔をしていたのかもしれない。

私の手を弾いたのだと気付いた彼女は慌てた様子で私に駆け寄ると右手をとってカーペットに引き倒された。

痛む頭に響いてか、顔が酷く歪む。

 

「すまない。男が来たのかと……。大丈夫?」

 

手をひらひらと振り、なんでもないと伝えたつもりだが、相変わらず歪んでいる顔がそれの信憑性を損なっている気がしてならない。それどころかひらひら降ったのは右手だ。赤く染まった右手から垂れたものが肘まで濡らす。

 

「…………」

「…………」

 

こんなことをしている場合ではないのだが、何か言いたげにこちらとハンバーガーを見て、口を開いては閉じてを繰り返している彼女を見るとそれを無視するのも憚られる。

 

意を決したようにこちらを見て、口を開いた彼女の言葉は結局私には届かなかった。

 

彼女が喉を震わす前に、胸から紫電が迸る筋骨隆々な男がケチャップに濡れた拳で私を殴り飛ばした。

壁にぶつかって前後不覚になる私はもんどりうちつつも顔をあげ、殴り飛ばした男を見る。

ケチャップとマヨネーズさらにひき肉っぽいものでぐちゃぐちゃになった髪を振り乱しながら目は虚ろ。胸元には腰にぶら下げていたナイフが刺さっている。

 

「っ。なっんだっていうん「"銀のっ……!!」っ箒!!」

 

後ろから飛びかかる箒を頭から掴む。

ギシギシと嫌な音が響き、箒の悲鳴が耳に入る。

 

「っ。ロープを"生物"にっ……っ!!きゃっ!」

 

思い切り。箒を投げつけられる。

彼女を腹で受け止められたのは不幸中の幸いだ。

頭同士でぶつかるよりマシ。

天界人は人並み以上に丈夫。

腹部を強く打ち付けられたって歯を食いしばれば……っ。それよりも。箒は。

 

「胸元のっ……鐚っ。あれは……」

「むっ?うぇっ。び「 !!!!!!!」っ!!」

 

箒は何か言っていた。けれどそれを確認するより早く。私が吐き気を抑えている間に間髪入れずに暴漢に思いっきり蹴りつけられる。

 

ヒデ爺の小屋は木造だ。

素人仕事だが、いい出来だろう?一からおいらが作ったんだ。

なんて自慢された。

私がきてから趣味の煙管をやらなくなったおじさん。

いつも柔らかく笑い、怪我した足を引きずって、眠る私を迎えに来てくれる人。

実際いい仕事だ。

私じゃ、言われなきゃ素人仕事だなんてわからない。

それほどしっかりしたつくりだし、雨漏りも隙間風もない良物件。

 

自称神様に恵んでもらった特典は、天界人と呼ばれる異世界の人としての力だそうだ。人とは異なる力を持って人以上に丈夫な体を持っている。

けれど、そうであっても、人が壁をぶち破るなんてことがあるものか。

 

小屋の壁をぶち破り、右手に焼け付くような感覚を覚えながら地面を転がる。何かにぶつかり呼吸が止まり、まるで酔っ払ったみたいに視界が回る。

 

視野の確保も儘ならぬまま、なんとか顔を上げて、周囲の状況を探ろうとて、目の前に男が立っているのが見えた。

グイと足を掴まれて、ズリズリと引きずられていく。右手の熱がどんどん冷めて、視界の回転が徐々に収まっていく。

視界が回る不快感が治ると全身から軋むような痛みがじくじくと迫ってくる。

乱暴に投げられて巨大なハンバーガーにぶつけられる。

うっすらと目を開けるとあらぬ方向に曲がった右腕に、ひきづられていた時についたのであろう血の跡。

ちらと右腕を見れば、まだだくだくと流れ出ている血が見える。

とめどなく溢れる赤はケチャップに比べれば随分と生臭い。

 

失血とともに薄れる意識の中、右腕の向こうに箒がうつ伏せになっているのが見えた。

そして彼女に向かう暴漢の姿も。

 

目がさめる。

 

失血するわけにはいかない。

 

服を"生物"に変えた。腕の根元を縛り付けてこれ以上血を流さないように。

 

意識を失うわけにはいかない。

 

服に傷口の刺激をお願いする。痛みで意識が一瞬戻る。

 

友人を助けなければならない。

 

どうする?

 

平穏を望まなければならない。

 

どうする?

 

考えろ。考えろ。考えろ。

 

今の最善の一手は。

 

服にお願いした。

飛び散る鮮血が箒を赤く染め、こちらを向いた暴漢と目があった。

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