バカは死んでも治らない   作:さっさかっぱー

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四話 後半 ーたたかいー

一か八かの賭け。

それは能力頼りの自爆特攻である。

 

私の能力。

大まかに分ければ二つ。

細かく分ければ三つ。

一つは天界人の持つ天界力に根ざす"変える力"にいくつかの"神器"。

一つは右手のハンバーガーに根ざす"加える力"。

 

この分類も自称神の知識がなければ知りようはなかった。

てっきり神器の類も式神化の一種だと思っていたし、何より差に気が付けるほど能力を使ったことはない。自称神が言った研鑽も先鋭化も、暇つぶしのお遊び以外の何物でもなかった。

 

生物化の能力は便利だ。

掃除洗濯料理にゴミ出し。家事をお願いできる能力は日常生活では非常にありがたい。

右手から出るハンバーガーも最高。

生涯食事の不安がないってのは、将来的な安寧を約束されたようなものだ。

人より丈夫な体も、この体に巡る天界力ってのも便利だ。生物化させたモノが力持ちになるし、私の足も早くなる。

 

けれど神器は正直持て余していた。

拳銃より威力のある砲撃はどこで必要になる?

天井に大穴を開ける腕に使い道がある?

身の丈以上のサイズの刃物で何を切る?

大型トラックを潰せる万力で何を潰す?

 

護身用にしては過剰すぎる力。

軍隊に襲われても単純な火力だけなら圧倒してしまいかねない。

そもそも人と戦う必要があるなんてどうして考えられるんだ。

 

けれど、現実に。

心当たりもなく心臓を穿たれて絶命した。

目の前で友人が酷い目にあいそうだ。

 

戦うなんて想像もしなかった。

 

今戦わなければ、私を友達だと言った彼女が酷い目にあう。

人より丈夫な私の右腕を砕いた暴漢が、今度は彼女の頭を砕きかねない。

 

彼女の未来が砕かれる。

 

そんなことはあってはならない。

平穏は何より優先される。

日向で穏やかに過ごせる時間は何より尊い。

友人と笑える関係は何より重い。

 

覚悟は決めた。

 

細工は皆無。時間はない。

あとは賭けの結果次第。

 

"無生物"を"生物"に変える力。

名前だけ聞けば新興宗教の教祖通り越して神を名乗って信者を募れそうな能力だが、それほど万能というわけでもない。

正しく表現するなら私が触れている"無生物"を一つだけ"生物"に変える力。

一つだけというのも曖昧だ。

ロープを生物化することは可能。

けれどビル一棟は不可能。

細い糸と縒って合わせたロープ一本は一つ換算。

鉄骨だのコンクリだのを組み合わせた一棟は一つ換算できない。

イメージの問題か。それとも私の力の限界か。

 

とはいえ、今回はシンプルだ。

血みどろに染まった服。硬く右腕に巻きつく服に歯を食いしばってお願いする。

 

「しっかり狙って。お願いね」

 

服は砲撃の神器"鉄"に姿を変えて箒へと歩みを進める暴漢を狙う。

狙って撃つなんてしたこともない。その上、その口径は私の身の丈以上。私の視界いっぱいに広がるそれは、威力の大きさを物語っている。けれど、銃身の向こうが見えない私が狙いをつけられるはずもない。

 

そう私は狙いをつけられない。

けれど生物化した神器なら。

 

神器自身が狙いをつけられる。

 

"鉄"が勝手なタイミングで発砲する。

 

木製の時計の文字盤の模様が目立つ砲身から、黒い石が放たれる。

 

思わぬタイミングに踏ん張るどころか歯を食いしばることもできず吹っ飛び、回って右手がさらにひしゃげる。

 

花火を思わせる破裂音に、突如現れた視界いっぱいの石の砲弾。

それらは暴漢の意識をこちらに向けるのに十分すぎて。

 

回避のみに意識がいった隙に、砲弾で視野が覆われているその隙に。

 

「"威風堂々"」

 

腕を潰しかけている巨砲が姿を変える。

巨人の右腕。

そうとしか形容できないものがくしゃくしゃな右腕を覆うように、暴漢へと届くように巨砲から姿を変じる。

腕の神器"威風堂々"。

本来は防御に使うらしい神器。けれど戦いなんて経験のない私にとっては、巨大な足場程度にしか使い道のないもの。

 

"鉄"の砲弾が壁に穴を開けて飛んでいく。

私から暴漢の姿は見えない。

 

「ああ。これでいい。賭けは私の勝ちだっ!」

 

私からは見えない。つまりそれはこの"威風堂々"の向こうにいるということだ!

巨大な腕がなにかに触った感触がある。

生物化した"威風堂々"はその何かを掴んで握りしめる。

もがく暴漢が右腕から抜け出せないことを確認して、ホッとしそうになるのに歯をくいしばる。

 

「賭けは一つ。あなたに能力が通じるか。そこが肝だった」

 

薄くなる意識。

歩み寄る睡魔。

 

「ここの壁を蹴破ったように"鉄"を破壊されていたら勝ち目はなかった。避けるなら方向はわかる。箒とは逆側。そっちに避けるに決まってる。だから、避けた時点で詰んでいた。三手詰めだ」

 

喋ってなければ意識が落ちる。

意識が落ちれば"威風堂々"は、男の拘束は消えてしまう。

意識を保つように懸命に勝ち誇る。

 

「"鉄"を迎撃、できないのなら、"威風堂々"の拘束を、破ることはできない。二ツ星神器だ強度は、"鉄"よりは、……強い」

 

男の表情が読めない。

視界がぼやけてきた。

 

「だから。……あとは。……。…………」

 

 

 

 

「"銀の戦車"ッ!!」

 

懐かしい声。

誰の声だっけ?

 

「胸元のナイフをはじきとばせッ!!」

 

うるさいなぁ。

まだ寝かせてよ。

鍛錬したりないんじゃないの?箒?

……箒?

 

「っ!!」

 

目を開ける。右手はくしゃくしゃの血まみれ。

巻き付いていた服も力を失い滲むように血が流れている。

 

「あ!」

 

暴漢に目を向ける。すでに"威風堂々"の拘束を外れていた男は神経質そうな顔を痛みに歪めて膝をついている。

先ほどまでの圧力はなく弱々しく視線が右往左往している。

 

「"鐚"はすでに破壊した。……あとはお前だけだ。友達に手を出した報い!その身に刻み込めっ!!"銀の戦車"!!」

 

あえて表現するならドシャリとでも形容すべき音が響く。

箒が暴漢に何かしたらしいが、私をかばうように前に立つ箒の背中が、何が起きたのかを隠していた。

 

しばし身じろぎすらしなかった箒はやがてゆっくりと息を吐くとこちらを振り返る。

頬にかすり傷、袖は破れ血が滲んでいて痛みに顔をしかめている。

けれど、その瞳の輝きは何も変わっていない。

初めてあった時から変わらない淡い影とともに、何も変わっていない。

 

ああ良かった。そう思ったところで、壊れた壁の向こうに黒塗りの姿が見えて。

何かが割れるパリンという音を聞いて。

箒が私に覆いかぶさって。

耳をつんざくような破裂音と、目を焼くかのような閃光が私の五感を塗りつぶし、私は気絶した。

 

ここまで。

ここまでが私の知る一連の出来事。

誰も事情を説明してくれず。

何もわからぬまま彼女は転校して行った。

事態だけが進行して、終ぞ私は蚊帳の外。

 

別れ際、彼女が言いよどんだ言葉を、私は結局聞くことはなかった。

見舞いに来た彼女は、何も言うことなく転校した。

 

面倒ごとに関わるのは御免だけれど、それでも、彼女の力になれないにしても、相談に乗るくらいはできたのかもしれないなぁと、ベッドから見える青葉を見ながら、ぼんやりと考えた。

 

 

私が退院できたのは、それから1ヶ月後。

不思議なことに右手に関する質問も、ヒデ爺の小屋にあったはずの奇天烈ハンバーガーについても何か聞かれることはなかった。

ただ怪我が治って日常生活を問題なく遅れるまで回復すると、松葉杖片手に退院の許可が出た。

 

ヒデ爺は一番に駆けつけてくれて、なんどもなんども頭を下げた。

患った膝を無理やり曲げて土下座までするヒデ爺には泣きそうになった。そんなヒデ爺を殴り飛ばしながら現れたおばあちゃんの姿を見て本当に泣いた。毅然として、いつものように凛と立つおばあちゃんは、けれど両目を赤く染めて。痛いか。とそれだけ聞いて、私が答える間も無くさめざめと涙を流した。

おいおいと泣くヒデ爺に静かに涙を流すおばあちゃん。

2人とも静かに私を撫でて涙を流した。

 

三人とも落ち着いたのはしばらくしてから。

どうしたものかとオロオロしていた看護師さんが呼んできた担当の間先生がなだめるまで続いた。

 

静かに落ち着くよう何度も諭して部屋を出ていった先生はちらっと私を見て優しげに笑うと部屋のドアを閉めた。

笑みの意味がわからず首をひねっていると、おばあちゃんが小さく呟いた。

 

「そら。何か言うことはあるかい」

「姉さん。まだ、倒れて間もないんだ。まだ「ひでは黙ってな」うっ」

 

たぶん。昔っから目の前の姉弟の力関係はこうだったんだろう。

思わず笑ってしまって、こわいこわいおばあちゃんに睨まれた。

 

「ごめん。つい。……何から話せばいいのかなぁ」

 

ヒデ爺が謝ったように私も言わなければならない。私のこと。奇天烈極まる境遇を。

けれど、話す前に確認したほうがいいんだろか。……意味のないことか。

 

「友達を庇って戦った。その結果がこれ。端折ったらこんなものだけど……。……うん。最初から話す」

 

相手が既に知っていようがいまいが、これは私から話すべきことだ。そうでなければ"納得"できない。

 

「私の名前は松本そら。そして■■■■で、◯◯◯◯。おばあちゃんが聞きたいのはこう言うこと?それとも私の力のことかな?」

 

そういってハンバーガーを出して手の上で踊らせてみればおばあちゃんからゲンコツをもらう。

 

「食べもんで遊ぶんじゃない。この罰当たりもんが」

 

病人が食うもんじゃないといって取られて、意外といけるじゃないかと美味しそうに食べるおばあちゃん。

ヒデ爺がゲンコツされた私を気遣うように痛くはないかいと聞いてくるが痛いより驚きが優っている。

 

「知ってたよ。雅子も恭二君も。あんたのこと」

「は?」

「は?ってなんだい。口に聞き方には気をつけなさい」

「いや、え、で「口答えするんじゃない。大事な話してんだ。相応の態度で聞きなさい」はい」

「あんたは天からの授かり子。雅子と恭二さんはそう言っとった。そして一番に私に報告に来た。この子を育てたい。ツテを紹介してくれって」

「……」

「紆余曲折はあったが、まあ結局あの子らが育てることになった。だから知ってたよ。私含め、ひでも。あんたが普通じゃないって。もっと早くいえばよかったんだ。こんなうまいもん出せるならね」

「姉ちゃん。もうちょっといい方ってもんが「ひでは黙ってな」……」

 

相変わらずの掛け合いも。私の頭には入ってこない。

 

「……なんだ。気付いとらんかったんか。もうちょっと聡い子だと思ってたがね。……まあ聡ければこんな大怪我はしないか。……そら。よくお聞き。あんたが所謂"転生者"ってことも。普通じゃないことも。雅子も恭二も承知しとった。その上で我が子だと、いつか家族になるんだと笑っとったよ。これも縁と言ってね」

「どうして……」

 

この問いかけも意味をなさない。ただとっさに出た問いかけ。

 

「私の……。雅子は子供ができん身体だったからね。養子の話は前々から出てた。だから特に意味なんてないよ。ただの縁。あの子らはそらと出会い、そうしようと思った。それだけさ」

 

まあ、悪い縁にも出会ったようだがね。

そう寂しそうに呟くおばあちゃんの目に映っていたのは果たしてなんだったんだろうか。

 

「……あ「また来るよ。今はのんびり寝てなさい」え?」

「姉ちゃん、もうちっと「ほら。ひで。行くよ。ついでに間先生呼んで来な。そらの今後を詰めなきゃならん」……はぁ」

 

ため息をついたヒデ爺に眉を釣り上げるおばあちゃんがあまりにいつもと変わらなくて。思わず笑ってしまう。

笑ったのに気がつくとこっちをちらと見て、ニヤリと口角を上げると元気そうにドアの向こうに歩いていった。

ヒデ爺が心配げにこちらを見て何か言おうとしたけれど、廊下から聞こえて来るおばちゃんの声に肩をすくめて一礼して出ていった。

 

「……言いたいだけ言って出てくなんて。引越しの時と一緒だ」

 

思わず呟いた頬はなぜか緩んで。

 

「全く。酷いばあちゃんだ」

 

鏡がないのは幸いだ。

今の自分は見たくない。

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