終わらせたい彼の箱庭狂騒曲   作:マスカレード・マスタード

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YES!ウサギが呼びました!
プロローグ


「…………はぁ」

 

 少年、時任空胡(ときとうくうご)は右半分が塞がれた視界で空を見上げため息を吐き出していた。

 ジメジメとした六月の中で、珍しくもカラリと晴れた五月晴れ。多くの家庭では、溜まった洗濯物などを一気に洗っている事だろう。

 

「どうするか…………」

 

 空胡は潰れている右目に触れながら思考をクルクルと回していた。

 彼の右目には、医療用の眼帯がつけられておりその下を見ることは叶わない。日常生活でも彼は、眼帯を取る事が無いからだ。

 そして同時に、その右目が彼にとっての悩みの種であるとも言えた。

 この問題を解決するために、彼は今までの十五年間全てを注ぎ込んできたと言っても過言ではない。しかし、それも最早限界。

 自宅でもある先祖代々の邸宅にある資料はすべて読み返し、隠し倉庫や金庫などがあるかもしれないと屋敷の土地そのものをひっくり返しかねない程に探して調べて―――――何も得られなかった。

 最早八方塞がり。何をどうしたらいいのかも分からないし、どうすれば良いのかも、どう進めばいいのかも分からない。

 詰んでいた。もう苛立ちもしない。

 

「もっと何か、ある筈なんだ…………何か…………何かないのか?」

 

 考える、考える、考える。それでも、良い考えは浮かばない。

 そもそも、彼の悩みは人知でどうにかなるような領域には無かったりするのだ。であるならば、アプローチの方法を考えねばならない。

 逃げる事の出来ない一生の命題。空胡自身も分かっているし、投げ出すつもりはない。つもりはないが、ここまで手掛かりが無いとそれはそれで萎えるというもの。

 何かないか、と彼はこうして空を見上げている。

 

「はぁ……………………あ?」

 

 右目から手を外して空を再び見始めた空胡はそこであるモノに気が付いた。

 青空には白い雲がまばらに浮いており、僅かな気流の中でゆっくりと流されている中で不自然な軌道を描く白いナニか。

 それは真っ直ぐに、しかし曲線と不規則な左右への揺れも行いながら空胡の元へと降りてきた。

 反射的に手を伸ばして摘まんでみれば、それが紙。それも簡素な封筒であることが確認できる。

 

「手紙、か?あて先は…………俺?」

 

 真っ白な手紙をひっくり返し、空胡は首を傾げた。

 

『時任空胡殿へ』

 

 こう書かれていたから。

 だが、それはおかしい。何せここは、空胡の家が所有する五階建ての廃ビルの屋上。家の人間ですらも、彼がここに来ることは知らない。

 そこに、自分の名前が書かれた封筒が落ちてくるなど不審物の何物でもない。

 しかし、空胡本人の反応は違った。彼は、全く警戒する事も無くその封を開けたのだから。

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 

 その才能(ギフト)を試すことを望むならば、

 

 己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて、

 

 我らの“箱庭”に来られたし』

 

 中身のカードにはこれだけが書かれていた。

 内容を確認した空胡は、目を見開き、同時に口角を吊り上げる。

 

「これだ…………!来たぞ、手がかり!」

 

 喜色に富んだ声で、空胡は大声を上げて起き上がった。

 明らかな異常が、彼にとっては救いの手に見えていた。それこそ、今すぐにでもすべて捨てても良いと思えるほどに。

 

 瞬間、彼の視界が大きく弾けた。

 

 ゴウゴウと鼓膜を叩く風の音。遠のいていく空。

 高度四千メートル。背中からの自由落下。

 無理矢理空中で反転すれば、視界の先には大きな湖と森が広がっている事が確認できるだろう。

 

 完全無欠の異世界が広がっていた。

 

 

 

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