終わらせたい彼の箱庭狂騒曲 作:マスカレード・マスタード
『ギフトゲーム名 “FAIRYTALE in PERSEUS”
・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
時任 空胡
・“ノーネーム”ゲームマスター ジン=ラッセル
・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス
・クリア条件
ホスト側のゲームマスターの打倒。
・敗北条件
プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。
プレイヤー側のゲームマスターの失格。
プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・舞台詳細・ルール
*ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。
*ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。
*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く) 人間に姿を見られてはいけない。
*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、同時にゲームマスターへの挑戦資格を失う。
*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うが、ゲームを続行する事はできる。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。
“ペルセウス”印』
*
契約書類に承諾した直後、六人の姿は白亜の宮殿の前へと現れていた。
「姿を見られるな、か。つまりペルセウスを暗殺しろってことだな」
「やっぱり、あのレプリカをパクっといた方が良かったか?」
「いえ、仮に手に収めてしまえば禍根になったと思いますから、返して正解ですよ」
ゲーム内容を確認して悔いる様に呟く空胡だが、それをジンは否定した。
「それはそうと、伝説に則るならばルイオスもまた就寝中という事になります。もっとも、そう簡単に事が進むとは思えませんけど」
「YES。何より、ルイオスは最奥で待ち受けているはずです。何より、我々にはペルセウスの様に隠れ兜を持ち合わせてはいませんからね。綿密な作戦が必要となるはずデス」
「一人除いてな」
黒ウサギの言葉に十六夜が茶々を入れたところで五つの視線が一か所に集まった。
「…………え、なに?」
「いや、お前には不可視のギフトが要らねぇなと思ってさ」
「ズルいわね、時任君」
「…………ズル」
「なんで俺がここまで責められるんですかねぇ…………?」
これが分からない、というように彼はおどけるばかり。
弛緩した空気が流れる。しかし、そこを黒ウサギの硬い声が再び引き締めた。
「ルイオスと戦うのは、十六夜さんが適任でしょう。今回ばかりは、相手が油断している内に仕掛けて倒さねばなりません」
「あら、黒ウサギは相手の奥の手を知っているの?」
「ええ。伝説のとおりであるなら彼の奥の手は―――――」
「隷属させた元・魔王様」
「そう、元・魔王―――――え?」
「ああ、アルゴルの悪魔だろ」
「お、お二人とも知っておられたのですか?」
「俺は、十六夜にヒント貰わなきゃ分からなかったけどな」
「…………アルゴルの悪魔?」
戦慄する黒ウサギだが、残りの面々は分かっていないらしく首を傾げる。
「ま、まさかお二人は、箱庭の空の秘密に…………?」
「まあな。この前星を見上げた時に推測して、ルイオスを見たときに確信した。後は手が空いたときにアルゴルの星を観測して。答えを固めたってところだ。機材に関しては白夜叉が貸してくれたからな」
「俺は、十六夜にヒント出されるまで気づかなかったけどな。そもそも、それ系の知識に関しては俺は薄弱でな。あんまり当てにはしないでくれ」
自慢げに笑う十六夜と、肩をすくめた空胡。そんな二人に黒ウサギは、
「もしかして十六夜さんって、意外と知性派にございます?」
「失敬な。俺は元から知性派だぜ?」
「割と筋力振りなところは否めないと思うけどな」
「空胡さんも知性派です?」
「俺の場合は小狡いだけさ。その場その場の凌ぎが出来るだけだな」
二人の反応は対照的ともいえるものだが、そこに性格が出ているとも言えるだろう。
「…………それでは、このような取っ手の無い扉はどのように開けるのです?」
黒ウサギが後方を示しながらおずおずと問う。
巨大な扉だ。開けるには、押しても引いても苦労する事だろう。
だが、十六夜は不敵な笑みを浮かべると門扉の前へと立って見せた。
「んなもん決まってるだろ―――――こうやって開けるんだよ!」
轟音、衝撃。瓦礫となってと飛び散る門扉。
十六夜の蹴りが、見事なまでに粉砕してしまった。
*
アサシン。万夫不当、一騎当千の英雄であろうとも彼らに首を狙われてその覇道を断ち切られた者は少なくない。
「くそっ!姿が見えないってどういう事だよ!」
「おい!兜のレプリカを取られたって言うのか!?」
「とにかく応せ―――――!?」
胴を突き抜ける衝撃。脳天から股下にまで突き抜ける衝撃。衝撃、衝撃、衝撃、衝撃――――――――――衝撃の嵐が部隊を襲う。
呻き声を上げて、しかし誰一人として死んでいない。
(…………結構良い剣だな)
鞘に収まったブロードソードを片手に、打倒した部隊の真ん中で空胡は息を一つ吐く。
彼のギフトの副産物として、その実力は武人という一点に限るが達人の領域にある。あくまでも殺さずに、その上で無力化することは、そう難しくは無かった。
空胡の仕事は、一応露払い。十六夜、耀、飛鳥がジン護衛として更に彼らを守るようにして広範囲を動くのが空胡の仕事。
最初こそ、素手で倒していたのだが、やはり彼は
勿論、鞘入りの状態で振るっているのには理由があった。
「おい!ここもやられてるぞ!」
「名無し風情に討たれるとは…………!情けないにもほどがあるぞ!」
(お代わり入りましたー)
追加の人員も圏境状態の空胡には気が付かない。
彼のコレを見切るには、同等の気の使い手であるか、あるいは白夜叉の様に一体全てを余すことなく見通せる存在、若しくは直感に優れた存在位か。
白夜叉の場合、彼女は力を制限していても太陽の星霊だ。太陽とは天頂より全てを見通し、見守り、見下ろす存在。如何に、世界に同化しようとも“影”あるならば確認できる。
最後の直感に関しては更に理不尽だ。姿を消そうとも、においを消そうとも、気配を消そうとも、それこそ存在すらも希釈しようともその本能は、その場に何かが“在る”という事を暴いてしまうのだから。
少なくとも、この場にはそのような存在は居ない。
瞬く間に、打ち据えていきながらその過程で有用そうな物をチャッカリ懐へと収めていたり。
とはいえ、基本は無用の長物だ。今振るっている剣ですら、彼にしてみればこのゲームが終わるまでの間借り品。回収した物品も返せと言われれば素直に差し出す。
(二十七…………終わりか?)
ガスリ、と最後の一人を叩いて沈め空胡は先へと進んでいく。
挑発したがルイオス自身の油断によって本拠地である白亜の宮殿内には華美な美術品などがいまだに残されても居た。
それだけではない。
(うっわ、趣味悪いな。生首の絵、か?)
リアリティを間違った意味で追求してしまったような絵がその壁には掛けられていた。
恐怖に歪んだ表情だ。血走った眼や、口の端に溢れる涎。涙を流したような痕。何より、首の切り口に金具とボルトによって構成された器具が取り付けられており――――――――――
「……………………は?」
思わず、空胡は圏境が解けた事すらも気づかずに絵へと駆け寄っていた。
「動いて…………いや、生きてるのか?嘘だろ?」
絵の中の生首は、本当に僅かながら口が動いていた。しかし、その表面を触れば硬質なアクリルの様な手触りで、中が波打つこともない。
「映像なのか?いや、でもな…………こんな状態で生き物が生きていられるのか?脳が無事でも血流を発生させる心臓が無ければ、血が滞って直ぐに脳死だろ?とすると、この器具に繋がったチューブが体に?」
顎に手を当てて、ガチの考察だ。
だがしかし、それだけ目の前の光景は衝撃的であったという事でもある。
とはいえ、今はギフトゲームの最中。どれだけ気になろうとも、長々とその場に留まり続ける事など出来ないし、いつ増援が来て姿を見られるかも分からない。
すぐさま圏境によって姿を消し―――――その前に絵を回収すると己のギフトカードへと突っ込んだ。
頭で考えていると、不意に摩耗した記憶の底の方に引っかかりを覚えたため。こんな絵に関する情報をどこかで見た気がしたため、思わず手に取ってしまっていた。
剣を片手に駆けていけばやがて巨大な闘技場のような空間へと辿り着く。
「ん?よぉ、十六夜」
「あん?空胡か。同じタイミングだったか」
「みたいだな」
「あの、空胡さん。その剣は?」
「借りものさ。もっとも、勇者の剣とかじゃないから魔王様には効くとは思えないけどな」
言って、空胡は剣を放り捨てる。
カラン、と儚い音がしたものの事実役に立たない事は確定しているのだから致し方ない。彼が想定している魔王というのは、白夜叉クラスの化物であったから。恒星に対して、ちんけな剣が一振り有ったところで表面を傷つける事すらも不可能というもの。
むしろ斬りつける前に、その星そのものが持ち合わせたエネルギーによって消し飛ばされるだろう。
「十六夜さん、空胡さん、ジン坊ちゃん…………!」
先に来ていた黒ウサギが安堵の声を漏らす。
そして、闘技場の空に彼は居た。
「―――――ふん、ホントに使えない奴ら。今回の件できっちりと粛清しとかなきゃな」
ルイオスは確かに空へと立っていた。その足を包むブーツより、翼が出現しており空を踏みしめているのだ。
「何はともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう…………あれ?このセリフ行ったの初めてかも?」
首を傾げるルイオスだが、その原因と言うべきか、要因は彼の部下たちが有能であったから。ゲームを挑むと言われていたのに、ノーネームを侮り準備を疎かにしたせいだ。
仮に準備万端に待ち構えられていたならば、もっと状況は変わっていただろう。
そして、ルイオスは壁の方にまで飛ぶと己のギフトカードより、炎の弓を取り出し更に首に付けたチョーカーを外した。
「メインで戦う愚は侵さない。僕は高みの見物でも十分すぎるからね。だが、お前たちは僕を愚弄した。なら、相応の罰を受けるのは当然だろう?」
言うなり、チョーカーは星の光のような輝きを放ち始める。それは、徐々に徐々に大きくなっていきある形を象っていく。
「目覚めろ――――――――――アルゴールの魔王!!!」
そして、ソレは現れた。
世界を照らすような褐色の光が空へと走り、現れたるは拘束具が施された灰色の髪を持つ女。
「ra…………Ra…GYAAAAAAAAAaaaaaaaaa!!!!!」
絶叫が世界に木霊する。
「な、なんて絶叫を…………!」
「避けろ、黒ウサギ!」
あまりの光景に硬直していた黒ウサギだが、そこをジンを小脇に抱えた十六夜が掻っ攫っていく。
直後、空に巨大な影が差した。
「なっ―――――」
それは、巨大な岩の雨。あまりの光景に惚けた様に口を開いた黒ウサギだったが、次の瞬間悲鳴を上げる事になる。
「ッ!十六夜さん!空胡さんが!」
人の腕は二本しかない。如何に十六夜と言えども、黒ウサギとジンを掴めばそれで定員オーバーだ。
降ってくる巨岩の下、空胡は空を見上げていた。
「―――――仕方ねぇよな」
おもむろに、右手で眼帯へと触れる。
影がより濃くなり、やがてその姿は岩の下へとた。大きな粉塵が舞い上がり、それが幾つも続く。
「空胡さん…………?」
舞い上がる粉塵の中、黒ウサギの声がむなしく響いた。
直後、
「―――――抜剣」
弾ける。