終わらせたい彼の箱庭狂騒曲   作:マスカレード・マスタード

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「「「じゃあ、これからよろしく。メイドさん」」」

「え?」

「はぁ…………」

「え?」

「…………え?」

「え?じゃないわよ。だって今回のゲームで活躍したのって私達だけじゃない。貴方たちは本当についてきただけだもの」

「うん。私なんて思いっきり殴られたし。石にもされたし」

「というか、空胡。お前もこっち側だろ。2:2:3:3で所有権等分ってことで話はついたしな」

「…………いや、俺は放棄しなかったか?」

「何を言ってくれちゃってるんですかこの人たちは!?」

 

 

 黒ウサギは頭を抱えて天へと叫ぶ。その隣では、眼帯を新調して右目に付け左手に次元刀を持った空胡がため息をついていた。

 レティシアを石より元に戻した初っ端の発言が冒頭だ。一応、所有権の一つを付与されていた空胡も話は聞いていたのだが、こんな初っ端で言われるとは思っていなかった。

 

「んっ…………ふむ、確かに私は君たちに感謝している。こうしてコミュニティにも帰ってくることが出来たのは間違いなく君たちのお陰だからな。そんな君たちが望むのなら、この義理を果たすために女中となるのも吝かではない。この恩を返すために、喜んで家政婦となろうではないか」

「レティシア様!?」

「い、良いのか?何されるか分からないぞ?」

「そうは言うがな、君も私の所有権を有しているんじゃないのか?」

「…………いや、人を従えるとかはとことん苦手でな」

 

 何かを思い出したのか苦い顔をすると、空胡は頭を掻いた。

 

「まあ、俺の話はいいだろ?それよりもレティシアは、本当に家政婦になるのか?」

「む?まあ、君たちへの恩を返すためにな。いや、敬語を使うべきか?使うべき、でしょうか?」

「私、金髪の使用人に憧れていたのよね。ウチの人たちはみんな黒髪で可愛げが無かったもの。それから、無理な敬語は必要ないわよ、レティシア」

「ヤハハ、黒ウサギみたいな口調になりかねないぜ?」

「ちょ!それは私の口調がおかしいと言っているのですか!?」

「…………ちょっと、変わってる?」

「耀さんまで!?」

 

 うがーっ、と頭を抱えた黒ウサギを囲む問題児三人は実に楽しげだ。

 そんな彼らに離れて、空胡はその様子を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギフトゲームから、三日。ノーネームの一同は、揃って外に集まり食事会の様相を呈していた。

 空を流れる流星群含めた天幕の全てが舞台装置という衝撃の事実が齎され、そして皆が食事に舌鼓を打って暫く経った頃。

 

「…………ふぅ」

 

 空胡は一人その場を離れて座り込み、次元刀を傍らにおいて瓶に入った水を飲み干して一つ息を吐き出していた。

 どうにも、次元刀を抜いてから彼は周りに対して距離を置いている。それこそ、微妙に心理的な壁を築いているような距離感だ。

 原因は、明らか。

 

「君は、あそこに混ざらないのか?」

「んあ?…………まあ、な。水差さなくともいいだろ。あと、これを敷け」

 

 いつの間にやら隣に来て座ったレティシアにそっけなく返しながらも、空胡は上着を脱いで彼女へと突き出していた。

 

「私は、家政婦だぞ?主人がそんな態度でいいとは思えないが?」

「あの後、俺の所有権とやらを三人に振り分けて無しにしてもらったさ。だから、俺とアンタの立場は同格。場合によっては、先輩であるアンタの方が上だろうさ」

「…………」

「何だ?ジッと見て。何かついてるか?」

「いや、君は最初に会った時とは少し雰囲気が違うな、と思ってな」

「…………そうか?」

「その間が答えさ。原因は、その刀だろう?」

 

 レティシアが示した次元刀。

 星と月の輝きの中鈍く光を反射する漆黒のソレは、物言わずに鎮座するのみ。

 

「…………まあ、いずれ分かる事か」

 

 空胡はあきらめた様に、次元刀を手に取って少し距離を置きながらレティシアへと向き直った。

 

「この刀は、何でも斬れるんだ」

「ほう、余程の名刀―――――という訳ではなさそうだ」

「察しが良くて助かる。良いか?絶対に近寄るなよ?」

 

 言って、彼は次元刀の柄へと手を掛けた。

 そこからゆっくりとした動作で鯉口が斬られ、ほんの少しだけその刀身が露になる。

 

「なっ…………それは…………」

「見たとおりだ。この刀の刀身は、“在るようで、無い。無いようで、在る”それが答えなんだ」

 

 光っているような、透明なような。白のような、灰色のような、虹のような。

 形容する事の出来ない何かは、確かにその場に刃として在る。だが視覚的には無いようにも見えて不確かだ。

 刀身を鞘へと納めて、彼は口を開く。

 

「俺は、少なくともこれまでに斬れなかったモノには出会ったことが無い。少なくとも、俺自身が斬らないために刃を引いた相手は含まないけどな?」

「…………」

「で、だ。まあ、何だ…………抜きはしたけども、怖くなっちまったのさ。俺のご先祖には、少なからずそういう道に堕ちた奴も少なくないんでな」

「受け継いできたギフトという事だな?」

「かれこれ、千と十五年、だったか。俺は二十三代目の時任家の家長に当たるって訳よ」

 

 まあ、家は捨てたけども、と彼は笑った。

 

「それでな?もしもがあったら、嫌だなぁ…………と」

「…………つまり、君自身が人斬りになる可能性を恐れている、と?」

「まあ、そうなる。その時は、最悪殺してでも止めてもらえればとは思うんだが…………如何せん次元刀は文字通り何でも斬れる。もしもの時は、手段を選ばない程度には関係が希薄なら…………うん」

 

 弱弱しく笑った空胡は、再度次元刀を傍らに置くとレティシアより視線を外して、空を見上げた。

 彼は、どうしようもなく甘かったのだ。甘すぎるほどに、敵であってもその刃で傷つける事を躊躇ってしまうほどに。

 それは何も、次元刀だけではない。殺したくないからこそ、彼は奪った剣も鞘入りのまま気絶させるための鈍器として使うに限っていた。

 

「ヤハハ、面白い話してるじゃねぇか」

 

 暗くなった空気を払う、軽快な声。

 見れば十六夜と、黒ウサギが二人の元へとやって来ていた。その後ろにはジンや、飛鳥、耀の姿もある。

 

「何だ、聞いてたのか?」

「まあな。良い雰囲気で邪魔するのもどうかと思ったが、ちょっとお前の考えを訂正してやろうと思ってな?」

「俺の?」

 

 ああ。と頷いて、十六夜は空胡の前に胡坐で座った。他の面々も各々座る。子供たちは、先に休ませたらしい。

 

「お前、あの時言ったよな?“ジャック”でも“ヨハン”でも“浅右衛門”でもないってな?」

「…………言ったな」

「なら、それが答えだろ?お前が、殺人鬼になる事はねぇよ」

「それは言葉の綾だろ?俺が、殺しに悦楽見出さないとは思えないけどな」

「ちょ、ちょっと待ってちょうだい」

 

 話がこんがらがる前に、飛鳥が割って入る。

 

「さっきから、人の名前?が出ているようだけどいったい誰の事を言っているの?」

「あん?お嬢様は分からないか?」

「今さっき聞いたばかりで、何の情報もないなら無理でしょう?」

「…………んじゃ、黒ウサギと御チビはどうだ?」

 

 十六夜が問えば、帰ってきたのは首を振る動き。

 どうやら、彼ら二人の間でしかこの言葉の意味は通じていなかったらしい。

 

「はぁ…………空胡、説明してやれよ」

「えっ、何で俺?」

「元凶だろ?」

「…………まあ、そうだけども…………自分で言ったことを説明するって複雑だな」

 

 ガリガリと頭を掻き、空胡は再度口を開いた。

 

「んじゃ、簡単に。まず“ジャック”は“切り裂きジャック”の事だ。霧の都ロンドンの殺人鬼。最初の劇場型殺人とか言われてたっけな。で、次の“ヨハン”は“ヨハン・ライヒハート”。ドイツ最後の死刑執行人。3165人の死刑執行は世界最多らしい。最後の“浅右衛門”は江戸時代の“山田浅右衛門”。刀の試し切りと死刑執行をやってたお侍だな」

「…………物知りなのね?それで、それがどう繋がるの?」

「まあ、何だ。仕事でも、私欲でも極力人は殺さねぇよ、的なニュアンスだったんだ。少なくとも、十六夜には通じたからそれで良いかと思ってたんだが…………」

 

 ダメだったか、と空胡は頭を掻いた。

 だが、ここまで言われれば分かる。

 

「…………つまり、時任君はその何でも斬れる刀で人を斬れないって事よね?」

「まあ…………スプラッタは苦手なんだ。いや、自衛の為に最低限度は慣らして…………みたんだがな。まあ、無理だ」

 

 飛鳥の言葉に肯定を返して、空胡は眉根を寄せた。

 ごくごく普通の高校生が、人殺しの覚悟など持ち合わせているはずもない。戦国時代などならば未だしも、平和な現代日本。そんな覚悟を持つのは、裁判官か軍人、あるいは感覚そのものが破壊された殺人鬼など位か。

 

「―――――ふふっ、空胡君(・・・)も悩むのね」

「…………おいおい、俺が能天気みたいなこと言うなよ」

「能天気よ。それに心の底からお人好しね。十六夜君の言う通り、貴方が殺人鬼になるとは私も思えないわ」

「いや、でも―――――」

「私も、そう思う」

「春日部?」

「空胡は優しい目、してるから」

 

 真っ直ぐな好意程、反応に困るものは無い。

 

「~~~~~ッ!」

 

 口元を隠して、空胡はそっぽを向くしかない。羞恥ではないが、耳まで真っ赤に照れているその様子は年相応の幼さがあった。

 

「―――――………………………………はぁ…………物好き共め」

 

 手で覆った口の中でぼそりと呟く空胡の言葉は、しかし聞こえても誰も言葉を返さない。

 空には、星が瞬き箱庭を照らしていく。

 全てを捨てた彼らの旅は始まったばかりだ。

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