終わらせたい彼の箱庭狂騒曲   作:マスカレード・マスタード

13 / 21
12

 次元刀。この世のものではないナニかを刀身としたその刀は、斬れないモノが基本的に存在しない。

 

「―――――フッ」

 

 一呼吸、一動作。瞬きの間であったが、右腕は霞んだようにブレると次の瞬間には、鍔鳴りの音と右腕が確かにそこにあった。

 

「…………まあ、ご先祖もこんなことに次元刀使うとかは思わなかったろうな」

 

 言って、空胡は先程の斬撃で斬った物へと歩を進めた。

 それは、木。人の胴体ほどもある丸太であり、高さは一メートルあるかないかといったところか。それが今、刃物の網が横向きに通り過ぎた様にバラバラと崩れ落ちていく。

 やろうと思えば、崩すことなく斬り刻むこともできるだろう。しかしそれではダメなのだ。

 というのも、一度やった時斬った丸太は、斬ったはずであるのに切り口が綺麗すぎて再びピタリと張り付いて元に戻ってしまったのだから。仮に生物へとこの精度を発揮すれば死んだことすらも気づかせずに斬れるかもしれない。

 彼が今やっているのは、薪割り。水汲みが水樹によって改善されたとはいえ、ノーネームは零細コミュニティである事には変わりがない。節約できるところは節約していかなければならないし、使えるモノは使っていかなければ。

 

「さて、次を―――――」

「空胡」

「お?よぉ、レティシア。どうした?」

 

 次の木材を薪にしようと台座代わりの切り株に乗せていた空胡に、声を掛けるのは金髪メイドのレティシア。

 

「いや、なに。同じ従者の枠として、君にも声を掛けておこうと思ってな」

「まあ、あの面々に忠誠誓っちゃいないけどな。第一、野郎侍らせて喜ぶタイプじゃないだろ」

「そうだろうか?…………いや、この議論は後にしよう。実は、空胡に頼みたい事があるんだ」

「頼みたい事?ギフトゲームなら、十六夜たちも連れて行った方が良いんじゃないか?」

「いや、今回は違う。私の個人的な事だからな。あまり主様の手を煩わせるのはメイドとしても失格だろう?」

「そういうもんか?…………まあいいや。俺で手を貸せるなら良いぜ?」

「そうか!では、ついてきてくれ。これは、私の今後を左右するかもしれない重要な事だからな」

「…………なんかいきなり難易度が跳ね上がりやがったぞ、おい」

「ふふっ、そう硬くなるな。実はな―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 箱庭でカフェといえば、六本傷の旗を掲げた店が有名だろう。本拠を南に構え、東にも支店を出したこの店は多くの客が訪れる名店であるのだが、それでも更なる発展を目指した上昇志向を持ち合わせていた。

 

「―――――オイ」

「む?どうした空胡。早く着替えねば、業務に支障を来すぞ?」

「いや、何で俺はこんな執事紛いの格好をさせられてんだよ!?需要なんぞ欠片も無いぞ!?」

「それは、お客様の決める事だ。ほら、衣装に合わせた眼帯もあるぞ?」

「いや、準備が良すぎるだろ!?アレか?!嵌めやがったのか!?」

 

 頬を引くつかせて唾を飛ばす空胡は、渡されたそれを床へと叩きつけた。

 レティシアに連れられ、開店前の六本傷のカフェへと連れてこられた彼は何故か裏へと引っ張られてその手に執事服一式と目に当てる円形のパッチにデフォルメされたウサギが描かれた黒い眼帯を渡されていたのだ。

 そして、件の彼女は既に目の前でメイド服に身を包んでいる。

 

「嵌めてはいない。ただ、メイドの心得を教えてくれると言っていたんだ―――――十六夜が」

「アンタが嵌められてるじゃねぇか!?あの問題児筆頭の快楽主義者が平時で親切心オンリーの行動すると思うなよ!?」

「ふむ、そうか…………だが、存外動きやすいぞ?スカートが短いお陰かもしれないな」

「うおおおおお!?裾を摘まむんじゃねぇよ!女らしさとかは言わねぇから、せめて恥じらいを持ってくれ!」

「君になら、見られても構わないと私は思っているが?助けてくれたからな。恩を返せるなら―――――」

「そこでYESとか言ったら俺変態まっしぐらだろうが!?分かった!着替える!着替えるから、スカートの裾を摘まんで近寄ってくるな!」

 

 純情少年のような反応で部屋からレティシアを追い出した空後は、扉を背にしてズルズルと下がって床に尻餅をついた。

 眼帯まで用意しているという事は、完全に彼がここに来ること前提の事だろう。

 意を決して立ち上がった彼は、上着を脱いだ。

 

「…………意外に、動きやすいのが腹立つ…………!」

 

 ご丁寧にも白手袋までついており、それまできっちりと嵌めた空胡は二、三度屈伸して一度伸びをする。

 彼の腰には、ベルトで作られた刀を下げる、提げ緒が設けられていた。そこに次元刀を差しているのだが、見た目筋ものに見えなくもない。

 部屋を出れば、金糸が映った。

 

「ほう、似合っているぞ空胡」

「嬉しかねぇよ」

「刀はそのままで良いのか?」

「右目に収められない事も無いんだが、そうするともう一回抜く覚悟を決めるところに戻りそうだからな。勝手に抜ける事もないし、良いだろ」

 

 後ろに流すように撫でつけた黒髪を撫でながら、空胡はそう嘯く。

 事実、彼の右目は異次元だ。次元刀をその中へと収める事は可能である。しかし、収めた場合は有事の際に出遅れる。如何に箱庭がギフトゲームによってある程度の治安が維持されているとはいえ、魔王と呼ばれる存在も居る。一秒先すら予想付かないこの世界で直ぐに動ける事は何にも況して優先された。

 

「で、俺達は何すればいいんだ?」

「ああ、それは―――――」

「お二方!お着替えは済みましたか?」

 

 二人の元に来たのは、猫人の従業員。彼女も、レティシアの様にメイド服に身を包んでいた。

 

「…………メイド喫茶だよな?」

「はい、そうですよ?」

「それなら、俺は厨房に籠ってて良いのか?」

「着替えた意味がないじゃないですか!メイド兼執事喫茶の可能性を模索しての今回の試運転なんですから!前に出てください!」

「なんてこった…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時だって美人が愛嬌を振り撒くというのは、絵になるというもの。

 その日の六本傷のカフェは、多くの来客で賑わっており特に男性客が多かった。だが、

 

「お待たせいたしました、お嬢様。ご注文をお受けいたします」

「…………」

「お嬢様?」

「…………ハッ!え、えっと、あの…………それじゃあ、これを…………」

「畏まりました。他にはございますか?」

 

 一角には、女性専用のような席が作られており、対応するのは右目に眼帯を付けた帯刀執事。低めの丁寧な物腰と、若干微笑む程度の笑みを口元に湛えたその様子は実に様になっている。

 しかし、

 

(くそったれが…………!)

 

 内心は荒れ模様。主に、この企画を考え付いた金髪問題児とそれに加担した元・魔王の着物少女の二人に関してキレていた。それでも表に出さないのは、どうにかこうにか切り離して考えることが出来ていたから。流石に、自分の感情だけで店に不利益になる様なことはしない。

 だがしかし、そんな楽しそうなことを企画して当人が来ないわけもなく。

 

「く、空胡さん、でございますか?」

「…………よぉ」

「ヤハハ!顔が死んでるぞ、空胡。良い格好じゃねえか?」

 

 厨房にオーダーを通して、次に向かったテーブルにて元凶と出会う。

 

「なんで俺まで、こんな執事紛いの事をしなきゃならない?白夜叉と、何を企んでる?」

「それは、だな―――――」

「もったいぶらないでください!聞いてください空胡さん!十六夜さんは、この黒ウサギにメイド服を着せようとするんです!」

「メイド服?…………今の服と大差ないだろ?」

「なっ!こ、この服は審判家業の…………!」

「分かってねぇな、空胡。確かにスカートの丈は変えるつもりはないぜ?けど、あのフリルたっぷりの衣装を着れば印象も変わるだろ?」

「…………まあ、それはな」

「だろ?白夜叉も準備してくれてるだろうさ」

「…………なら、何で俺まで執事なんだ?アンタでもいいだろ、十六夜」

「俺が接客業何て詰まらねぇことやると思うか?」

「いや、まったく思わねぇけど」

「つまりそう言う事だ。それより、執事なら俺達の事を何て呼ぶんだ?」

「ぐっ…………レティシアがやったなら良いだろ?」

「空胡、違うぞ。今の私はレティシアシアだ」

「れ、レティシアシア?何だそれ」

「メイドとしての私の名だ。発案は、主様だな」

「…………まさか」

「お前もだぜ、クウネル」

「クウネル!?何だその、カー〇ルのパチモンみたいな名前は!」

「KFCならぬCFCだな」

「フライドチキンのレシピなんぞ知らんわ!」

 

 せっかく取り繕った仮面が剥がれてしまっているが、そんな事気にしている暇はない。誰が好き好んでパチモンネームなどをいただくものか。

 しかし彼の抵抗など、風の前の塵に等しい。

 

「行くぞ、クウネル。これから同僚が増えるからな」

「ちょ、レティシア!?」

「お嬢様お一人、ご帰宅ー」

「レ、レティシア様!?は、放してください!レティシア様!?」

「あだ名は黒ウサギサギでしょうかね?」

「語尾は、だぴょん、でいこう」

「「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

 

 二人の絶叫が空へと木霊していくのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。