終わらせたい彼の箱庭狂騒曲   作:マスカレード・マスタード

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 箱庭の世界の表面積は恒星にも匹敵する広大さを誇っている。

 無論、その全てが箱庭ではないのだが。

 

「何やってるんだ、アンタら」

 

 十六夜たち問題児三人と巻き込まれたジンがサウザンドアイズを訪れた際に、出迎えたのは呆れた眼をした空胡であった。

 

「お前こそ何やってるんだ、空胡?俺達結構早く出てきたと思うんだが?」

「野暮用さ。ちょっと白夜叉に用事があってな。そろそろ帰ろうと思ってたらアンタらが来たって訳だ」

「あら、帰るの?」

「まあ、長居するのも店員に悪いだろ?」

 

 飛鳥に答えるようにして空胡は親指で鋭い視線を向けてくる女性店員を指差した。

 

「んじゃ、悪だくみも程々にしとけよ?」

「ちょっと待て」

 

 これ以上睨まれちゃ敵わない、と手を振ってその場を去ろうとした空胡。だが、その逃走は十六夜に首根っこを掴まれることで止められた。

 思いのほか引かれた力が強く、首が閉まってしまうがそんな事に頓着することなく彼は店内へとズカズカ踏み込んでいく。その後ろを飛鳥と耀が続き、最後にお目付として無理矢理引っ張られてきたジンが続く。

 そうして戻ってきた白夜叉の部屋。

 

「えっふ、おっふ!うおい、十六夜!アンタ一体どういうつもりだ?!事と次第によっちゃあ―――――」

「やはは、そう怒るなよ。これでも読んでな」

「あぁ?」

 

 十六夜に食って掛かった空胡だったが、渡された手紙に怪訝な顔をすると目を通し始めた。

 内容は、北と東のフロアマスターによる共同祭典“火龍生誕祭”への招待状。

 

「火龍生誕祭?何だ、これ」

「ジンと黒ウサギが隠してたの」

「何でだ?」

「さあ」

「…………境界門の使用料が無いからですよ」

「境界門?」

「空胡さんは、この箱庭の表面積をご存知ですか?」

「あ?えっと………確か太陽と同程度じゃなかったか?んで、各壁までは980000キロとかそんなもんじゃなかったか?少し前に調べた時にそんな事が書いてあったはずだ。面白いよな、地球の一周が凡そ四万キロだろ?二十倍以上とか洒落にならねぇ」

「そうなんです。そして、各門を行き来するにはお金がかかります。残念ながら、今のコミュニティにはそんなお金は無いんです」

「あー、零細だからな…………まあ、金は天下の回り物。ンで、出来ない事を教えるわけにはいかなかった、と」

 

 ギフトゲームがあるとはいえ、箱庭にも貨幣が流通している。その貨幣の流通具合を勝負したゲームもあるのだが、零細コミュニティには縁のない話。

 本意ではなかったとはいえ、一家の当主を務めていた空胡だ。資金繰りの難しさに関してもある程度の知識はあった。

 

「まあ、ぬか喜びさせない為だろ。変に情報渡すと、こうなるって事も黒ウサギとジンは考えたんだろうし」

 

 火龍生誕祭という名前に惹かれないわけではない。ただ、空胡としては元々ギフトゲームに対する熱意が他の三人に比べれば遥かに欠けていた。

 だからこのままお暇しようと、圏境を発動しその場を立ち上がり、

 

「―――――ふむ、これで良し。お望み通りの北側に着いたぞ」

「「「「……………………は?」」」」

 

 白夜叉の柏手が響いたと思えば、人知を超えた現象を目の当たりにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東と北の境界壁。

 そこは四〇〇〇〇〇〇外門・三九九九九九九外門にあった、旧サウザンドアイズ支店。

 転移してきた店を飛び出すように出てくる三人と、その後ろから頭を掻きながら出てくる一人。

 彼らの頬を熱い風が撫でていく。

 

「赤壁と炎と…………ガラスの街…………!」

 

 見たことも無い光景に、飛鳥は感嘆の声を上げる。

 旧支店は、街を見下ろすことが出来る高台に存在しており、そこからは北の街を一望することが出来るのだ。

 

「へぇ…………!980000キロも離れてるだけはあるな。東とは随分と文化形式が違うらしい。歩くキャンドルスタンド何て奇抜なものを、この目で見る事になるとは思わなかったぞ」

「ふふ、それだけではないぞ。外門を外に出れば、一面銀世界でな。箱庭の内側は、大結界と灯火によって常秋の様相を保っておるのだ」

「そりゃ、随分と盛大なこったよ…………」

「厳しい環境あっての発展か。ハハッ、聞くからに東側よりも面白そうだ」

「むっ、それは心外というものだ。おんしらの居る外門が特別寂れておるだけで、東側も負けてはおらんわいっ」

 

 拗ねた様に口を尖らせた白夜叉。発展の度合いに関しては、やはり地域によっては差があるしフロアマスターが一から十まで完全に目を通すには箱庭は広すぎた。

 そんな彼らを尻目に期待に胸を膨らませている飛鳥は興奮が抑えきれないらしい。

 

「ねえねえ皆、今すぐに降りましょう!あのガラスの歩廊に行ってみたいわ!良いでしょう白夜叉?」

「ああ、構わんよ。詳しい話は夜にでもすればいいのでな。ああ、ついでに。暇があるようならば、このギフトゲームにでも―――――」

 

 チラシを着物の袖より取り出そうとした白夜叉だが、それより先に空に影が差した。

 

「見ィつけたのですよぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 ドップラー効果の利いた絶叫と同時に凄まじい衝撃と音が彼らの背後に炸裂する。

 思わず、といった様子で問題児たちの視線も舞い上がった粉塵へと向けられた。

 その中で、ゆらりと動くのは邪悪に笑う色々と振りきれてしまった感じの、黒ウサギ。

 

「フ、フフフ…………ウフフフフ…………漸く、よぉぉぉぉやく、見つけたのですよォ…………!この、問題児様方ァ…………!」

 

 黒ウサギというか、緋ウサギというか、修羅ウサギ。全身から凄まじいまでの怒りのオーラを立ち昇らせた黒ウサギは、かくかくと口角を痙攣させながらその一歩を踏み出してくる。

 その姿は帝釈天の眷属である箱庭の貴族というよりも、箱庭の明王とでも称すべき恐ろしさ。

 いち早く、この場で動いたのは十六夜だった。彼にしては珍しく不敵な笑みが引き攣っており、ヤバさが伝わってくる。

 

「逃げるぞッ!」

「逃がすかッ!」

「え、ちょ―――――」

 

 咄嗟に隣にいた飛鳥を抱きかかえ、十六夜は展望台から飛び降りていく。

 ワンアクション遅れたが、耀もまた旋風によって空へと飛び上がるが、その直後にガクリと体が止められる。

 見れば、彼女のブーツの足首を黒ウサギの細指が絡め捕っているではないか。どこからその力が出ているのか振り解けない。

 

「わ、わわ…………」

「フフフ、捕まえたのですよ、耀さん。もう逃がしません。絶対に逃がしませんからねェ…………!」

 

 主に大事な頭のねじが吹っ飛んでしまったのか、壊れた様に笑う黒ウサギ。

 彼女の様子を下から確認した空胡は、頬をひきつらせた。

 

「怖っ」

 

 プルリと背筋を震わせて自分は怒らせないようにしようと心に決めた。

 連れの一人の内心など知った事ではない黒ウサギは、耀を胸に抱きしめると展望台へと降りてくる。

 

「後デタップリト御説教タイムナノデスヨ。フフフ、御覚悟シテオイテクダサイネ?」

「りょ、了解」

 

 一切の反論を許さない片言の黒ウサギに、さしもの耀も怯えながら頷くしかない。

 そして、着地した直後に黒ウサギは、耀を状況に置いてけぼりである空胡と白夜叉へと投げつけた。

 三回転半して吹っ飛んでくる彼女、

 

「え、ちょま、へぶしっ!?」

「きゃ!」

「グボハァ!?お、おいコラ黒ウサギ!最近のおんしは些か礼儀が欠けてはおらんか!?コレでも私は東側のフロアマスターだぞ!?」

「そ、その前にアンタら。俺の上から退きやがれ…………!」

 

 耀にフッ飛ばされ、空胡を下敷きにした状態で倒れた三人。しかし、黒ウサギは、

 

「耀さんを確保しておいてください!空胡さんは、当然ながら黒ウサギの味方デスヨネ?」

「は、はい!も、もちろんでございますよ!?」

 

 欠片も気にも留めず、空胡へと耀を押し付けてくる。あまりの恐ろしさに彼の口調がおかしなことになっているが、気にも留めない。

 

「白夜叉様は、お二人をお願いいたします!黒ウサギは、他の問題児様たちを捕まえに参りますので!」

「お、おお?うむ、何が何だか分からぬが心得たぞ、黒ウサギ。頑張るんだぞ」

「はい!」

 

 白夜叉もあまりの剣幕にどうしようもない。

 彼女の返答を聞くやいなや、黒ウサギは展望台の下へと飛び降りてしまう。

 

「ふむ、とりあえずおんしら、中に入ろうではないか。どうせ宿も無い事だしの」

「おう」

「…………」

 

 背中の汚れを払った空胡は、先を白夜叉の後を追って店の中へ。

 その後に続く耀は、一瞬だけ後ろを振り返り、同じく店へと入っていくのだった。

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