終わらせたい彼の箱庭狂騒曲   作:マスカレード・マスタード

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 最早馴染みにもなりつつある和室に通され、お茶の入った湯呑と茶菓子を囲むようにして三人は向かい合っていた。

 

「…………」

「どしたよ、春日部。いつもなら、食い物には目が無いだろ?」

 

 茶菓子を摘まみながら、空胡は隣に正座する耀を見た。

 常の彼女ならば、空胡が一つ食べる間に三つは食べているであろう。だが、今の彼女は沈痛な表情で俯くばかりであり、どうにもいつもの調子には程遠かった。

 

「ふむ、空胡よ」

「あん?」

「おんしももう少し、女子の機微に聡くなければモテんぞ?」

「こちとら生まれながらの化物が約束されてんだよ。だったら、モテるとかそんなの考えてられねぇっての」

 

 窘める白夜叉に対して、空胡は肩を竦めた。

 時任の家に生まれた時点で、彼が次元刀を継承することは確定していたし。その為に片目が犠牲になる事も決まっていた。

 異次元の眼窩にあらゆる達人の凌駕したかのような剣の腕。そして斬れないモノが基本的に存在しない次元刀。他三人の問題児にも劣らない異常性。

 

 だからこそ、彼らは元の世界でもどこか浮いていた。

 

「黒ウサギ、怒ってたよね」

「まあ、だろうな」

「どうしたら、仲直りできる?」

「そりゃあ…………」

 

 謝ればいいだろ、とは続けられなかった。

 空胡自身、対人コミュニケーション能力には難があるタイプなのだ。そもそも経験自体が少ないし、謝るにしてもそれは表面上で何より芯が無い。

 

「どうするかね」

 

 胡坐のまま後ろへと上体を傾けて腕で支えながら、空胡は天井を見上げた。

 謝りたいという事は、関係を続けていきたいという事。そこに損得勘定が絡むか否かは関係が無く、あくまでも個人的な問題だろう。

 よろしくする気はない、とは当人の言い分であったのだが彼も存外お人好し。誰かの為に頭をひねる事にも躊躇いは無かった。

 

「ふふっ、存外おんしらも子供と言う事だな」

 

 どうしたものかと頭をひねる二人に、対面でニヤリと笑った白夜叉は助け船を出してくる。

 着物の袖より取り出したのは、一枚のチラシ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名 “造物主達の決闘”

 

 

 

 ・参加資格、および概要

 

  ・参加者は創作系のギフトを所持。  

 

  ・サポートとして1名までの同伴を許可。

 

  ・決闘内容はその都度変化。

 

  ・ギフト保持者は創作系のギフト以外の使用を一部禁ず。

 

 

 

 ・授与される恩恵に関して

 

  ・“階層支配者”火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

 

 

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

 

         “サウザンドアイズ”印

 

         “サラマンドラ”印』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チラシの内容を確認した耀は首を傾げた。

 

「創作系のギフト?」

「うむ、創作系というのは人造、霊造等々、造り手の種別を問わず制作者の存在するギフトの事だ。ここ北では、過酷な環境を耐え忍ぶために恒久的に使える創作系のギフトが重宝されておってな。時にそれらギフトの技術や美術的観点を競い合うゲームが開催されるのだ。おんしの父から譲り受けたと言っていた“生命の目録”は技術、美術どちらの面から言っても一級品。その木彫りに宿る恩恵ならば、十分にゲームでも勝ち抜けるだろう。それに、」

 

 そこで一度言葉を切り、白夜叉は耀の隣で関係ありません、といった雰囲気の空胡へと目を向ける。

 

「サポーター役として、空胡もおる。幸いなことにな。実力的にもルイオスを軽くあしらえるというならば、申し分ないだろう」

「えっ、俺も出るのか?」

「当然ではないか。それに、私への頼みを持ってきたのは、おんしであろう?ならば、対価が無くてはな」

「頼み?」

「さよう。それはそれは厄介な案件を持ちかけてきたものよ」

「ふーん…………」

「何だよ」

「……別に」

 

 大げさにため息をつく白夜叉と、ジト目を向けてくる耀。

 二人の反応に、空胡は居心地の悪さを覚えていた。面倒ごとを持ち込んだことは事実である為反論の余地は欠片も無いのだが。ついでに、耀の前で語れることでもない。

 とはいえ、空胡もこのまま矛先を突き付けられたような居心地の悪さを体感し続けたいと思うようなマゾではない。

 

「分かった。出るよ、出ますよ、出させてくださいお願いします」

 

 両手を上げてそう宣言し、この場の打開を図った。古来より、複数の女性を相手にした時の男性というのは立場的に弱くなるものなのだ。

 

「ふっ、後はおんし次第だぞ、耀」

「…………このゲームで勝てば、黒ウサギと仲直りできる?」

 

 耀もまた、この箱庭に来るまでは動物たちが友達で、こうして友人との喧嘩というか、諍いは経験が無かった。

 そんな彼女の内心に気づいてかいないのか、白夜叉は微笑んだ。

 

「無論、出来るとも。黒ウサギとて、謝罪を無下に断るような狭量ではあるまい」

「…………そっか……うん、それなら頑張ってみようかな」

「まあ、最善を尽くすさ」

 

 二人の返答を聞き終え、白夜叉はパンッと一度手を合わせた。

 

「そうと決まれば早速舞台会場へと向かおうではないか。ゲーム開始までそれほど時がある訳でもないしの」

「了解」

 

 白夜叉が立ち上がり、その後に空胡も続くように立ち上がった。

 だが、肝心の耀はと言うと。

 

「待って」

 

 キリッとした顔で制止をかけた。

 出鼻をくじかれた二人は首を傾げて彼女を見る。

 

「ん?どうしたのだ?まだ何か質問があるのか?」

「受付があるなら、急ごうぜ?」

「……その前に、このお菓子の残り、食べても良いですか」

「おいおい…………」

「ふふっ、構わんよ。その程度の時間ならばある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サラマンドラとサウザンドアイズの共同主催と言う事になるギフトゲーム。

 本日行われるのは、明日の決勝に向けての予選。

 集客としても上々であるし、参加しているコミュニティも結構な量に上っている。

 

『そこやー!お嬢ー!ブッ飛ばしたれー!』

「おっと、あんまり暴れるなよ。巻き込んじまったら、俺が春日部に怒られるんだからな」

 

 次元刀を提げ緒で腰の左側に吊るした空胡は、空中に猫パンチをかましまくる三毛猫を両手で抱いて、目の前の戦況を眺めていた。

 決勝は未だしも、予選は自分だけで勝ちあがると耀は彼に宣言したのだ。そして、見事に有言実行しており今も石垣の巨人と呼称された自動人形(オートマタ)を翻弄しながら立ち回っている。

 

「これで、終わり…………!」

 

 グリフォンとの友誼によって得た旋風によって宙をかけ、巨人の真上をとった耀。

 そこから、自身の内包する能力の中でも最も重い“象”の体重となると、重力による加速を乗せてストンピングを敢行する。

 石垣というだけあって、巨人の頑強さはかなりの物。だが、巨体と石材という重量のある材料が組み合わさってしまうと自然と機動力を損なってしまうというもの。

 耀の落下攻撃を躱す事など出来るはずもなく、その巨体は舞台へと沈んだ。

 

「おーおー、スゲェなあの機動力。相手したくねぇや」

『お嬢ぉおおおおお!うおおおぉおおぉぉぉぉおおおおお!』

「興奮してんのは分かるから、ちったぁ落ち着け。落ちるぞ」

 

 三毛猫の言葉は分からずとも態度は雄弁。雄叫びを上げる彼が落ちないように上手く抑えながら、空胡は舞台の上へと視線を戻した。

 そこでは丁度、耀が小さくガッツポーズを決めている所。割と表情の変わらない彼女にしては、珍しいが実に可愛らしい。

 

 歓声の上がる会場。ざわめきが波のように広がり、ぶつかり飽和していく――――――――のだが、そのはざまに投げ込まれた二度の手拍子により凪となる。

 

「これにて、明日の決勝に出場する最後の一枠が決まった!ノーネーム所属の春日部耀だ!決勝のゲームの日取りは明日以降となっており、ルールに関しては…………詳しくは、此度のゲームもう一人の主催者にして、祭典の主賓よりお聞かせ願おうか」

 

 白夜叉が立つバルコニーの中心が空けられ、そこに立つのは真紅の髪を結いあげたノーネームのリーダーであるジンと同い年と思われる荘厳な衣装をまとった少女であった。

 

「ご紹介に与りました、北のフロアマスターを務めるサンドラ=ドルトレイクです。東と北の共同祭典である火龍生誕祭の日程も中日を迎えることが出来ました。さしたる事故もなく、進行にご協力してくださった北と東、それぞれのコミュニティの皆様には感謝の念しかありません。以降のゲームにつきましては、お手元の招待状をご覧くださいませ」

 

 サンドラに促され、招待客たちが手元へと目を落とす。

 すると、招待状に書かれていた文字などが直線と曲線へと分解され、再び纏まると別の文章を紡ぎ始めるではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名“造物主達の決闘”

 

 

 

 ・決勝戦参加コミュニティ

 

  ・ゲームマスター “サラマンドラ”

 

  ・プレイヤー “ウィル・オ・ウィスプ”

 

  ・プレイヤー “ラッテンフェンガー”

 

  ・プレイヤー “ノーネーム”

 

 

 

 ・決勝ゲームルール

 

  ・お互いのコミュニティが創造したギフトを比べ合う。

 

  ・ギフトを十全に扱うため、1人まで補佐が許される。

 

  ・ゲームのクリアは、登録されたギフト保持者の手で行うこと。

 

  ・総当たり戦を行い、勝ち星が多いコミュニティが優勝。

 

  ・優勝者はゲームマスターと対峙。

 

 

 ・授与される恩恵に関して

 

  ・“階層支配者”の火龍に対して、プレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

 

 

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

 

         “サウザンドアイズ”印

 

           “サラマンドラ”印 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総当たり戦か。ちょっと、厄介か?」

「?何で?」

「トーナメントなら、二戦で済むところを総当たりなら四戦する事になる。決勝に来るって事は、それ相応の実力者だろうし、春日部みたいに身に着けて地力を上げるようなタイプもあるだろ。それに、戦えばその分疲弊する」

「疲れるから、厄介?」

「それに、相手には対策取られるだろ?」

「空胡も?」

「あくまで俺は、サブだからな?簡単に見切られるつもりはないけども、確実じゃない。流石に、十六夜クラスの奴はいないと思うけども、念には念を入れとかねぇと」

 

 カツカツと石の廊下に二人分の足音が響く。

 提げ緒から左手へと次元とを移した空胡と、三毛猫を抱いた耀だ。

 明日の決勝に向けて色々と調整がありそうなものだが、主催でもあり借りもある白夜叉に呼ばれてしまえば行かないわけにもいかない。

 

「それより、呼び出しって何かな?」

「んー……まあ、十中八九面倒ごとじゃないか?よくよく考えれば、白夜叉も俺達に頼みがあってこうして北に連れてきたんだろうし。この祭りで何かがあるのか……若しくは、もっと別の何か」

「そっか………やっぱり、空胡って頭良いの?」

「急にどうしたよ…………まあ、程々じゃないか?俺は弱っちい人間だからな、頭回してないと生き残れないのさ」

 

 そんな会話を交わしながら、二人は大きな石扉の前に立った。

 重苦しい音を立てて観音開きに開かれる。

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