終わらせたい彼の箱庭狂騒曲   作:マスカレード・マスタード

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 扉の開かれた先、二人を待ち受けていたのは見知った面々。

 

「…………アンタら、今度は何をやったんだ?」

 

 入室早々、空胡は眉根を寄せて二人へと訝しむような目を向けた。

 彼の視線の先に居たのは、十六夜と黒ウサギそしてジンの三人と白夜叉。

 更にその奥では、サンドラと彼女のお付きであろう一団も確認できた。

 

「ヤハハ、俺達が何かをやった前提なのか?」

「寧ろ、あそこまで派手に逃げ回って何も起きなかったってのか?」

「成る程な。ヤハハ!正解だ、祭りを少しばかり盛り上げてやったのさ!」

「胸を張って言わないでください!こんの、お馬鹿様ッ!!!」

 

 十六夜の頭に炸裂するハリセンの軽快な音。

 一撃かました黒ウサギの後ろでは、ジンが頭が痛いというように抱えていた。

 そんなコントのようなやり取りに、白夜叉は笑いをかみ殺しながら、どうにかこうにか真面目な表情を保つことに苦心している。

 この場には主賓のサンドラが居るのだ。流石にいつものようにセクハラ噛ましてドン引きの様な空気を作る訳にはいかないのだろう。

 

 いつも通りの緩い空気、だがこの場には身内だけではないのだ。

 

「フン!ノーネームの分際で我々のゲームに騒ぎを持ち込むとはな!相応の厳罰は覚悟しているのであろうな!?」

「これ、マンドラ。それを決めるのはおんしらの頭である、サンドラであろう?」

 

 軍服姿の男、マンドラが厳しい声を上げて、それを白夜叉が窘める。

 荒れ始めた場に、サンドラが声を掛けた。

 

「“箱庭の貴族”とその盟友の方々。此度は火龍生誕祭に足を運んでいただきありがとうございます。貴方達の破壊した建物に関しては、白夜叉様のご厚意で修繕してくださいました。負傷者も奇跡的にゼロですのでこの件に関して私からは不問とさせていただきます」

 

 彼女の言葉に、しかしマンドラは舌打ちを零した。

 彼の立場というか、北のフロアマスター擁するコミュニティとしてノーネームに舐められる訳にはいかないのだ。

 無論、ノーネームの存在そのものが箱庭では別称であり、見下される要因である事は事実なのだが。

 

「へえ、随分と太っ腹だな?」

「うむ。仮にもおんしらは私が直々に招いた客人であり、同時に協力要請を出したのだからな。何より、怪我人が出なかったことが幸いした。路銀と修繕費は報酬の前金とでも思っておけ」

 

 意外そうな表情の十六夜と、ホッと息を吐きだす黒ウサギ。

 対照的な二人だが、それが性格を表しているというもの。

 そんな中で蚊帳の外を保っている空胡は眉根を寄せていた。

 

「……面倒ごとか」

「ゲームだけじゃない?」

「十六夜と黒ウサギがゲームしたんだろ。あの二人、本気でやったらこの街倒壊してるしな」

「そんなに?」

「十六夜のパワーは山河を砕くし、黒ウサギも相当強い。街自体は石造りで、強度はあっても壊すのは簡単だしな」

「お咎め無しだから、面倒ごとかな?」

「そういうこった」

 

 ヤダヤダ、と首を振る彼だが目の前の状況は更に険悪な物へと変わっていた。

 

「そのように気安く呼ぶな!名無しの小僧!!!」

 

 元より知り合いのジンと、サンドラが旧交を温めているのが気に食わないのかマンドラが腰の剣を抜刀し、ジンへと振り落としてきた。

 だが、

 

「なッ!?」

 

 振るわれた剣は、柄と鍔元だけを残して刀身が無い。正確には、綺麗な断面を残して刀身が鞘の中へと置いてきぼりにされていたのだ。

 何が起きたのか分からないマンドラは、刀身の無くなった剣と鞘を何度も見るしかない。

 

「落ち着けよ。血の気が多いのは分かるんだが、アンタのソレはコミュニティの品位を落とすだけだぞ?」

 

 態と音を立てて納刀をアピールした空胡は、肩を竦めてそんな声を掛けた。

 何をしたのか。何の事は無い。単に斬った、ただそれだけ。

 次元刀は大抵のモノを斬る事が出来る。故に名刀や伝説の剣であろうとも斬る事が可能なのだから、マンドラの剣を斬った事もおかしくはない。

 異常なのは、実力者の揃うこの場で誰も彼の抜刀する姿を視認できていない点。

 それはつまり、やろうと思えば気づかれる前にこの場の全員の首を刎ねることが出来るという事

 

 割り込もうとした十六夜は、剣の刀身が抜かれた瞬間に折れた事だけは確認していた。拍子抜けしたように肩を竦め、軽薄な笑みをマンドラに向ける。

 

「オイオイ、知り合いの挨拶にしちゃ随分と物騒じゃないか?止める気なかっただろ、オマエ」

「あ、当たり前だ!サンドラは既に北のフロアマスターになったのだぞ!それが生誕祭で名無し風情に恩情をかけたどころか、剰え対等の口を利かれるなどサラマンドラの威厳に関わるわ!この、名無しのクズ共が!」

「出来もしねぇこと言うなよ…………」

 

 吠えるマンドラに対して、空胡は呆れたように肩を竦めた。

 火に油を注ぐような物言いだが、ここまで言われて何とも思わない程彼も冷血漢ではないのだ。

 

 一触即発のこの状況、サンドラがあわてて割って入る。

 

「マンドラ兄さま!彼らはかつてのサラマンドラの盟友!こちらから一方的に盟約を絶っておきながらそのような態度を取られては、我らの礼節に反する!」

「礼節よりも誇りだ!そのような事を口にするから見下されるのだぞ!」

「これ、マンドラ。いい加減に下がらぬか」

 

 白夜叉が呆れた口調で諫めにかかる。

 だが、熱くなったマンドラはその程度では止まらない。怒りの矛先を彼女にも向けた。

 

「フン!サウザンドアイズも余計な事をしてくれたものだ。同じフロアマスターとはいえ、此度の一件は越権行為にも程がある。『南の幻獣、北の精霊、東の落ち目』とはよく言ったもの。此度の一件も、東が北を妬んで仕組んだことではないのか?」

「マンドラ兄さま!!」

 

 流石に、これは失言が過ぎるというもの。サンドラも叱るが、だがマンドラには欠片も反省の色は見えない。

 だが、ここまで言われようとも白夜叉は揺らがない。そしてそれは、十六夜や空胡なども同様で、むしろ新たな疑問が浮かんだのか二人は白夜叉へと目を向けていた。

 

「白夜叉、今回の件ってなんだ?俺達を呼んだことにも関係してるんだろ?」

 

 十六夜が代表して問う。

 彼の言葉に、白夜叉は一度全員の顔を見たのち、一通の封書を着物の袖より取り出した。

 

「この封書に、おんしらを呼び寄せた理由が書かれてある。内容は…………己の目で確かめるがいい」

 

 促され受け取った封書。開かれた中身へと彼らの視線が集まった。

 そこにあるのは、ただ一文。

 

『火龍生誕祭にて“魔王襲来”の兆しあり』

 

「…………なっ……!」

 

 黒ウサギとジンは絶句し、耀は目を見開く。

 十六夜は冷静な面持ちで、空胡はため息を一つ吐きだした。

 

「…………はぁ……やっぱり面倒ごとか」

「俺としては、少し意外だがな。てっきりフロアマスターの跡目争いとかそんな話題だと思ってたんだがな」

「何だと!」

 

 十六夜の言葉に、マンドラが牙を剥く。

 だが、再びいがみ合いが始まってしまえば話が進まない為、白夜叉は無視して口を開いた。

 

「謝りはせんぞ。内容を聞かずに引き受けたのはおんしらだからな」

「違いねぇ………それで?俺達に何をさせたいんだ?魔王の首を取れって言うなら喜んでやるぜ?」

「待て待て、十六夜。それよりも、この情報の信憑性からだろ」

「うむ、ではそこから説明をしようか」

 

 そう言うと、白夜叉は神妙な表情を作り再び口を開いた。

 

「知っての通り、我々サウザンドアイズは特殊な瞳を持つギフトの保持者が多い。これは即ち、様々な視点での観測者が多いという事だな。そして、その中には未来の情報をギフトとして与えている者も居るのだ。この封書はその中でも幹部を務める者がよこした代物でな」

「へぇ、予言という名のギフトか。その信憑性はどんなものなんだ?」

「上に投げれば下に落ちる、という程度だな」

「はあ?そりゃ、当然じゃないのか?」

 

 空胡の疑問も無理はない。

 重力云々抜きにしても、それは基本事項であるのだから。

 十六夜は怪訝な目を白夜叉へと向ける。

 

「空胡の言うとおりだぜ?上に投げれば、下に落ちるのは当然だろ」

「だが、そやつの予言はそういうものなのだ。『誰が投げた』『どうやって投げた』『なぜ投げた』が分かる奴であるのだ。そうなれば必然的に、『どこに落ちてくるのか』を予想する事も出来るだろう?これはそういう類の予言なのだ」

「それは…………予言というか、未来観測とかじゃないのか?」

 

 空胡の絞り出す声。

 未来とは、“未だに来ない”ものであるから未来だ。その可能性は無数に枝分かれしており、そこから一本の道を選び取る事は難しい。

 

 そして、これに怒りの声を上げるのは、マンドラだった。

 

「ふ、ふざけるな!それだけのことが分かっていながら魔王の襲来しか教えぬだと!?戯言で我々を翻弄しようとしている狂言同然ではないか!今すぐにでも住処に帰れ!」

「に、兄さま、落ち着いてください……!これには、訳があるのです…………!」

 

 犯人も、動機も、犯行内容も全て分かっていながら、それを未然に防ぐことが出来ないのだから、この怒りも無理はないというもの。

 しかし、視点を変えればそれだけ分かっていても明かせない理由があると考える事も出来る。

 

「…………成る程、有りがちな話だな。十六夜の揶揄いも的外れじゃなかったらしい」

「だな。確認だが、白夜叉。主犯の名前は明かせないんだな?」

「うむ…………」

「じゃあ、確定じゃねぇか」

 

 嫌だ、と空胡は天井を見上げてうなじを撫でた。

 二人だけで成立してしまった会話に、しかし周りはいまいちピンと来ていない。

 耀が彼の上着の裾を摘まんで引く。

 

「つまり、どういう事?」

「今回の魔王襲来には、身内が関わってるって事だろ。立場が高いってのもあるだろうが、それ以上に無駄な不和を嫌ったってところじゃないか。それに、多分もう入り込んでる」

「えっと…………じゃあ―――――――」

 

 空胡の投げやりな説明で、耀は前を正確にはサンドラを見た。

 実力はどうあれ、彼女は幼い。そんな相手に頭を下げたくない者たちも少なくは無いだろう。

 

「まあ、珍しい話じゃないさ。知性と権力って材料があれば、その結果に謀が来るのも当然。政治家も神も仏も欲に濡れればもっと欲しくなる」

「…………なんか、嫌だな」

「政治や利権が絡めばこんなもんだろ。それより問題なのは、魔王だろうな」

「どうして?」

「元凶が分からないんじゃ、後手にしか回れない。とっくに入り込んでると考えるなら、相手の先手は確実だし、罠も考えられるだろ」

「何で入り込んでるって思うの?いつ来るか、書いてないのに」

「勘」

「…………」

「うっ……悪い悪い。ちょっとした予想でしかないんでな」

「どんな内容?」

「他のゲームマスターが主犯なら、通達とかでサウザンドアイズが一枚噛んでくるのは分かるだろうし、騙し討ちだけでどうにかなるとは考えないだろ。俺なら予め仕込んで、一番緩んだところでズドンと一発かます」

「…………」

「まあ、あくまでもそんな考えがあるって話だ。俺の考えすぎで横から殴り込んでくるかもしれないし、その時にならねぇと分からねぇよ」

 

 肩を竦める彼だが、最悪の想定は常に必要となる。

 

 魔王を相手にするのは白夜叉。だが、ノーネームにもまた、首を取れるならばとっていいとお達しも出た。

 

 だからか、彼らは知らない。もう一人の仲間が、事件の核心に迫る事態に巻き込まれている事に。

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