終わらせたい彼の箱庭狂騒曲   作:マスカレード・マスタード

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 夜も更ける箱庭の空。

 

「…………」

 

 ノーネーム一同も世話になているサウザンドアイズの支店前。展望台となっているその縁近くで、肩に次元刀を立てかけて胡坐を組んで座り込んだ空胡は、ぼんやりと北の街並みを眺めていた。流石に浴衣では寒かったのか、今はいつものジャージにスニーカーという格好だ。

 問題は、山積み。主に魔王関連ではあったが。

 それだけではない。自身で依頼を出したことではあったが、もしかすると彼の先祖に関する情報のアレコレを得られるかもしれないのだから。

 空胡自身は戦う事が好きではない。むしろ、戦わずとも良いのならばそれに越したことではないのだから。

 だがしかし、それと同時に戦わなければならない事もまた自覚している。

 問題は、

 

「ッ…………」

 

 グッと握られた次元刀だ。

 文字通り、何でも斬れる刀。射程も無く、刃毀れもしなければ、防ぐ手立ても基本的に在りはしない。空胡としては、この箱庭ならば或いは、と考えていないわけでもないのだが、今のところは何でも斬れる。

 その事実が、あまりにも空胡には重かった。これは、ルイオス戦で次元刀を抜き放った時から彼の中にあった懸念事項でもある。

 

 命を奪えるか、否か

 

 それをゲームと理解しながらも、その刃を相手の命に向ける事を躊躇ってしまう甘さが彼には有ったのだ。

 自分の力がコミュニティの為になる事は理解している。しかし、それとこれとはやはり話は別であり、度胸の無い彼には重い物であった。

 

「―――――寝ないの?」

「ッ!……よぉ、春日部か」

 

 深く沈みそうになっていた空胡を呼び戻したのは、いつの間にか出てきたのか眠りそうになっている三毛猫を抱いた耀であった。

 振り返った空胡は、その目を見開くとすぐさま閉じていた上着のジッパーを下げる。

 ささっと上着を脱いだ彼は、それを耀へと差し出した。

 

「?なに?」

「その格好じゃ寒いだろ?風邪ひいちまうぞ」

「でも…………」

「俺は気にするな。一応、着替えちゃいたんだがそこまでなかったからな」

 

 肩を竦めて上着を差し出してくる彼の顔と差し出された上着を何度か見比べて、耀はそれを受け取った。

 流石に三毛猫を抱いているため袖は通せないが、肩にかけるだけでも十分。浴衣で表に出たことを後悔していた彼女には十分だった。

 そして彼女は、空後の隣に腰を下ろす。これに眉を上げたのは彼の方だ。

 

「寝なくていいのか?明日本番だろ?」

「…………空胡こそ寝なくていいの?」

「俺は……アレだ。遠足前にわくわくして眠れない小学生みたいなやつさ」

「…………」

「お、おいおい、ジト目は無しにしようぜ。そんな目でこっち見るなよ」

 

 ヘラヘラといつもの調子でおどける空胡。

 ポーカーフェイスという言葉があるが、彼の笑みもまたその一つである。そもそも、ポーカーフェイスは無表情の代名詞のようになっているが、アレは結局のところ内心を読み取られないように顔の表情を内心から切り離すことなのだ。

 悩もうと、何だろうと空胡は内心を悟らせない――――――――のだが、

 

「うそ」

「あ?」

「眠れないの、ここに来る前からだよね?」

「…………さてな」

「悩み?」

「おいおい、本当にどうした?春日部ってそういうところは無頓着だと思ったんだが?」

「白夜叉からの条件が、原因?」

「突っ込んでくるな…………まあ、中らずと雖も遠からずってところか」

 

 ごまかしも出来ないならば、と彼はあっさりと折れる。

 

「俺のこの右目含めて先祖代々のモノなんだが、その一つに切裂き魔がいてな」

「切裂き魔?」

「そうそう。イギリスのジャック・ザ・リッパーは知ってるか?」

「うん。有名だよね」

「そいつに近いんだが、次元刀の切れ味に飲まれて斬り続けた奴がいて、それ関連の事を白夜叉に調査依頼してたのさ。今回のギフトゲーム参加はその対価の一つ。春日部がいてくれて助かったぜ」

「どうして?」

「そりゃ、一人で戦うよりも二人で戦う方が心強いだろ?」

 

 当然だろ、と彼は笑った。

 だが、その言葉は耀にとっては馴染みがないと言わざるを得ないもの。

 

「心強い…………」

「まあ、一人で何でもしてきた奴には分からないだろうがな。人の強みはやっぱりその数だと俺は思ってる。アリだって個体は小さくとも群れになれば自分の何倍もある甲虫を仕留めたりするだろ?それと一緒さ」

「私達は、アリかな?」

「少なくとも、白夜叉とかと比べればな」

「……次は負けないから」

「アンタらは、本当に強いな。俺ァ、御免だがな」

「空胡は、ギフトゲームしたくないの?」

「あんまり、乗り気じゃないって話だ。俺の目的は、右目の解呪。それが終われば…………まあ、箱庭に長居する理由も無いしな」

「…………」

 

 アッサリと言い切った彼の表情は、前を向いていて耀からはハッキリとは窺えなかった。

 だが、事実彼は最初の顔合わせから言っていた。『宜しくしない』と。

 時任空胡は自覚している。自分がそれほど良い人間ではない事を。少なくとも、右目の解呪と引き換えに誰かを差し出せと言われれば迷ってしまう程度には。

 そんな雰囲気を感じ取ったのか、耀はほんの少しだけ眉を顰める。

 

「…………ダメ」

「あ?」

 

 気づけばそんな言葉が口をついていた。

 

「空胡は、私に借りがあるから」

「はあ?仮なんて――――――――」

「私が、サポーターを断れば空胡は困るよね?」

「ぐぬっ…………それは、そうだが…………」

「だから、私に借りを返して?」

「…………はぁ……了解」

 

 こんな奴だったか?と内心で首を傾げながら空胡はそう言うしかなかった。

 一方、耀としても自分がなぜそんな事を言ったのかは分かっていなかったりする。

 少しの間考え込み、そして彼女は初めての友人が一人減ってしまうのは嫌だから、という発想で落ち着いた。

 

 男女間の友情は成立するのか否か。

 少なくとも、二人の間にあるのは友情である事は確か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夜明け、その日はやってくる。

 溢れんばかりの観客で埋め尽くされた会場。その舞台袖では今まさに出番を待つ二人がスタンバイしている所だ。

 

「――――――――一応、これで僕の持っているウィル・オ・ウィスプに関する情報は以上です。お役に立てればいいんですが…………」

「ありがとう、大丈夫。ケースバイケースで臨機応変に対応するから」

「まあ、相手さんも俺たちの情報は大して無いだろ」

 

 緊迫した面持ちのジンに対して、実際にゲームに参加する二人は自然体そのものだ。

 三毛猫を耀から預かったレティシアは、そんな二人に笑みを浮かべると口を開く。

 

「しかし、相手は曲がりなりにも格上だ。くれぐれも油断だけはしないように。私達も舞台袖からだが応援しているからな」

「うん。大丈夫」

「自分の力量位把握してるし、問題ねぇよ」

 

 過分な緊張も気の緩みも無い臨戦態勢とでも言うべきか、程よい感じ。

 必要以上に気負わないのは良い事だ。

 ジンとレティシアに送り出され、二人は入口間際に立った。

 

「盛り上がってるな」

「うん」

「まあ、気負わず行こうぜ。作戦は“いのちだいじに”だ」

「それは二人とも?」

「勿論。無駄に傷作ってみろ、黒ウサギに泣きつかれるぜ?」

「ふふっ、確かにそうだね」

 

 今も審判として、ゲームを盛り上げている大切な仲間の姿を思い浮かべ、二人は揃って笑みを浮かべる。

 まずは勝つことから始める、そう決めたのだ。

 そうして二人は光の先へと歩を進めていく。

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